2 / 59
第三部「凛廻」(連載中)
1 はばたき
しおりを挟む
歌仙の大地は、光がしたたる春に包まれていた。
冬の間に勢いを無くしていた草木が徐々に目覚め、新しい緑が枯れ草を席巻し始める季節。
風も湿り気を帯びて、肌に優しく触れてくる。
山の奥に身を潜めていた動物たちも、少しずつ里へ姿を見せる。
玲凛にとっては、狩りの季節の到来である。
畑に種を撒き、今年の仕事を始める領民たちの間を、馬の轡をとって、彼女は今、意気揚々、家に向かっていた。
玲凛のたくましい愛馬の鞍には、太い縄がかけられ、縄の先は、車輪のついた大きな箱に結ばれていた。玲凛が自ら作ったその箱の中には、若い雄の猪が一頭、手足をきちんと畳んで収められていた。
首のあたりに、一つ、小さな傷がある。運び出す前に、血を抜いた痕だ。すっかり手慣れたものである。
獲物の箱を馬に引かせ、領内の道をゆく。
すれ違う誰もが、玲凛を知っている。
玲家息女。兄と妹の間に生まれた忌まわしき娘。
侮蔑も含まれる視線を、玲凛は鉄壁の微笑で跳ね返した。
齢十六。化粧気のない健康的な素肌、豊かな漆黒の長髪。意志の強い眼差しは、昨年他界した父によく似ていた。
女の身ながら、犀家の前当主・犀遠に武芸を仕込まれ、いまや歌仙随一の剣豪として、近隣にまで名が届く。
噂を聞きつけ、手合わせを願う者も多いが、大抵は玲凛の姿を見ると、顔を引き攣らせ、戦わずして退散した。
その理由は様々だ。
女など相手にできるか。倒したところで名がすたる。
万が一、敗れたときの言い訳がない。
それでも挑もうという者には、彼女も全力で相手をした。体格差では、玲凛に勝ち目はない。遠慮をする必要はなかった。
そうして、豪傑としての地位を駆け上っていく玲凛を、玲家の家人たちはひやひやしながら見守っていた。
やむをえぬ理由があったとはいえ、彼女は自分の家人に刃を向け、斬って捨てた前歴がある。
それも、暮らし慣れた屋敷の敷地での惨劇だった。
実力を認めつつ、しかし、一方で軽蔑する者も少なからずいる。
玲凛は一才の言い訳をせず、自分の罪は罪として背負いながら、悔いることもまた、なかった。
その強靭な精神力は、強者としての彼女の真骨頂である。
「ただ今戻りました」
まさに凛とする声で、玲仲咲は呼びかけた。
門にいた玲家の私兵が、またかと言う顔をして、玲凛に近づいてくる。
玲凛は馬の紐を解いてやりながら、箱の中を示した。
「肝は母上にあげて。あと、皮は私。それ以外はみんなで食べてちょうだい」
私兵たちは、顔を見合わせて、苦笑した。
玲凛の獲物は、毎日変わる。狐や兎ならば五匹は下らない。雄鹿を丸ごと引きずってきた日には、道中の領民たちが腰を抜かした。中には、玲凛ならば、熊も素手で仕留めるだろう、と面白がる者もいる。
玲凛が持ち込む獲物は、兵たちの馳走となる。嬉しい反面、気性の荒いこの玲家の娘に、皆、少し手を焼いている。
狩りに出るのは、いつも一人だ。供をする、と言っても足手まといだ、と断られる。実際その通りで、山の中を身軽に駆け回る玲凛についていくことは誰にもできなかった。
せめて、危ないから大きな獣は狙わないように、と注意しても、偶然狩れた、という顔をして連れてくる。
狩人としての玲凛の腕前は、一流だった。
犀家の老獪が仲咲様を変えてしまった、と嘆く優しい家人もいる。確かに犀遠と出会う前の玲凛は、周囲に気後れして覇気のない、おとなしい娘であった。それがすっかり、誰もが手こずる一騎当千の強者になったのは、犀遠の指導の賜物だ。
余計なことをしてくれた。
玲家の古参の者たちは、常々恨めしく思っている。玲凛本人はけろっとして、いつも涼しい顔で出かけて行く。
同じ年頃の友を持つこともない。唯一、燕家の娘、燕花景との交友はあるものの、特別趣向が合うというわけでもない。外見を気にして着飾ることもしない。興味の対象は、兵法書と武術の稽古、そして狩猟だ。
女は家の中にいるのが正しいとされる時代に、玲凛の存在はあまりにも異質だった。
特に玲家は、厳格な格式に縛られている。血を守るため、女は子供を産むことが第一の考えである。そこにあって玲凛は一向に馴染まない。
しかも、さらに良くないことに、母親の玲芳も、玲凛の意思を止めはしない。玲芳自身が玲家の戒めのために自由にならない生涯を送ってきたこともあってか、娘には家に縛られない生き方を許している。
そのため、玲凛はいつも、馬と一緒に方々を飛び回っていた。
馬具を外し、丁寧に体を拭いて、玲凛は手のひらから蜜と塩を与えた。
今年五歳になる玲凛の馬は、犀遠が彼女のために選んで与えた一頭だった。この牝馬は、主人の気性を恐れなかった。誰よりもよく心得ています、という顔をして、多少の荒事には動じない。
体は大きく、丈夫だった。特に関節が強く、険しい道でも、玲凛を乗せて軽快に跳ねた。
「今日もありがとう」
玲凛は馬に顔をすり寄せて、礼を言った。
玲家の家人たちは玲凛のことを大切にしてくれるが、心はどこか一人だ。玲凛にとって、本音を打ち明けられる相手はいない。唯一慕った兄の玲陽も、今は遠く都の人である。
馬の世話を済ませて、玲凛は井戸にまわった。勢いよく縄を引き、桶いっぱいの水を頭からかぶる。簪も髪もびしょ濡れになっても気にしない。川に入った犬のように首を振って、玲凛は雫を払った。その様子を眺めていた侍女たちが、呆れて立て続けにため息をついた。
「すぐに湯に行くのだから」
玲凛は笑って手を降った。凛々しい目元が、生き生きと輝いていた。玲凛が男であったら逃さない、と、懸想する侍女もいるほど、その力強い美しさは花開いていた。
この人は歌仙で収まる人ではない。ましてや、屋敷の中で一生を終わるなんてありえない。
誰もが玲凛の姿を見て、そう確信した。
若くしなやかな駿馬を思わせる玲凛の体躯は、日々力を持て余しているようだった。
湯殿で身を清め、洗いざらした淡い黄色の襦袢に、薄い桜色の袍をまとい、足袋は両手に一枚ずつぶら下げて、玲凛は裸足で回廊を歩いた。玲家の屋敷は、増築に増築を重ね、迷路のようである。幼い頃から育った玲凛が、道に迷うという事はない。それでも複雑な造りは、短気な彼女には少々まどろっこしい。
庭を突っ切ったほうが早いのに。
余計なことをして咎められても、時間がもったいない、と、早足で回廊をいく。厨房のあたりから、猪を解体する騒がしい声が聞こえてきた。
玲凛は横目でそちらを見た。
建物の陰で人の姿は見えないが、なんとなく、やりとりする様子が想像できた。
昔、犀家の屋敷に住み込んでいた時、獣をさばくのは玲凛の仕事だった。それは、生き物の体の作りを知ること、それによって、次の狩に備えることが目的だった。だが、今になって思えば、自分が仕留めた命を最後まで見届ける責任を、犀遠は教えたかったのかもしれない。
昨年の秋、逆らい難い運命に翻弄されて、自分たちは大きな転機を迎えた。
父である玲格が死に、犀遠も凄惨な最期を遂げた。
あの時期の自分は、夢の中を歩いていたような気がする。思い出すと、現実とは信じられない心地がした。
玲凛は足袋の紐をつまんで軽く振り回しながら、屋敷の奥の玲芳の部屋へ向かった。
母との心の距離は、一冬の間に、すっかり縮まっていた。
それは玲凛の努力というよりも、玲芳の歩み寄りによるところが大きかった。
玲芳の部屋の前で、彼女は足裏を払って、足袋を履いた。
「母上、失礼します」
御簾をあげ、中に入る。
今年の冬から、玲芳はこの奥の間を使うようにしている。
人の出入りが少なく、静かに過ごせるこの場所は、玲芳が心を休めるには丁度良い。
玲凛は、濡れた髪のまま。玲芳の前に足を軽く崩して座った。
玲家当主・玲芳は、娘の天真爛漫な笑顔を眺め、苦笑いする。
少し、自由にさせすぎているかしら。
玲凛の足袋の紐が雑に結ばれているのを見て、玲芳は首を振った。
「凛、きつくいうつもりはありませんけどね。もう少ししっかりしないと……」
と、少し、考えて、
「陽に嫌われますよ」
玲凛は、しゃんとした。彼女には、これが一番効く。
今更ながら、玲凛は気取った顔で、髪に手をやった。濡れた髪はどうにもならないが、繊細な手つきを装って耳の後ろに撫でつける。
玲凛は玲陽が好きだった。一緒に暮らした時期もなく、格段に親しかったわけでもない。だが、玲凛にとっては、たった一人の身内のような気がしていた。無条件で自分を受け入れてくれるのが、玲陽だった。もちろん、今は玲芳もいるが、やはり兄は特別なのだ。
玲芳も、玲凛の気持ちをよく察していた。
それが決して、兄と妹の道を踏み外さないものであるという、確信もあった。それゆえに、玲凛を手懐けるときには、決まって玲陽を引き合いに出した。
都にいる玲陽は、母が自分を利用しているなど、思いもしない。
「今日の成果はいかがでしたか?」
玲芳は明かり取りから、春霞に煙る空を見上げた。
「昨日は狸、その前は雉に兎……」
「今日は、猪です」
子供らしいあどけなさの残る笑顔で、玲凛は嬉しそうに、
「たぶん、二歳くらいだと思います。まだ肉も柔らかいし、油も少ないから、母上のお体にもいいですよ。肝は母上に、って頼んであります。酒と生姜で煮て……棗に山椒……」
嬉しそうに話す玲凛を遮ることはできず、玲芳は口元をわずかに引きつらせて聞いていた。
百歩譲って狩りは良いとしても、狙う獲物は考えて欲しかった。玲凛は母の心配に気づいた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと、罠を使ってます。もう、崖に追い込んだりしませんから」
「そ、そう……偉いわね」
玲芳は、曖昧に褒めた。
「母上、ちゃんと召し上がってくださいね。滋養をつけないと」
滋養がつく前に、心配で倒れそうよ。
玲芳は笑って誤魔化した。
こうして、何気ない話をするとき、玲凛は無垢な笑顔を向けてくる。
かつて、玲芳はこの笑顔を見るのが辛かった。実の兄との間に生まれた玲凛に、本能的な拒絶を感じていた。愛しくないわけではなかったが、どこか恐ろしいものであるような気がしていた。そのせいで、玲凛を無意識に遠ざけ、玲陽ばかりに構った。
それでも、玲凛は母を嫌わなかった。逆に自分の血を呪い、自分の存在を蔑んだ。母親に愛されないのは、自分のせいだと幼心を傷つけた。そうしてしまったのは、玲芳の責任なのだと、彼女は自らの過去を悔やんだ。
兄・玲格の支配は、彼女には逃れ難い暴力であった。体を蝕む薬は、少しずつ心も侵していった。玲凛を産んだのも、その一端である。
それでも、娘に罪はない。
去年の秋、玲格の死という形で、ひとつのけじめがついた。
たとえ、それが人の道に反していようとも、玲凛が笑っていてくれるのだから、それでいいと、玲芳は腹をくくっている。
玲凛の笑顔を、いつまでも見ていたかった。
だが、家人たちが思っているように、玲芳もまた、娘がこの屋敷で一生を終わらない事は、よくわかっていた。
玲凛を歌仙にとじこめること。それはあまりにも惜しかった。玲凛の幸せのためだけではない。彼女の力を必要とする、多くの人々のためにも、送り出さねばならないのだ。
玲芳は、傍の朱塗りの箱から、束になった木簡を取り出した。色の薄い、美しい木目である。
「それは?」
玲凛が身を乗り出す。
ふわり、と甘い香りがした。
「この匂いは?」
「沈香ね」
玲芳は、木簡を束ねている絹糸を撫でた。糸は、淡梅に染められていた。
「わかった! 陽兄様からの文でしょう?」
玲凛が目を輝かせた。
「わざわざ、糸を染めて香りを添えるなんてこと、陽兄様しか思いつかないわよ」
玲凛はまるで、恋文でも受け取ったようにうっとりとしている。ついさっき、猪を引きずって帰還した猛者とは思えなかった。
玲芳は、木簡を広げ、玲凛の前に押してやった。玲凛は手をついて、それを覗き込んだ。乾ききらない髪から、雫がぽたり、と床板に落ちる。
「陽兄様の字だ」
嬉しそうな声が弾む。
玲陽からは、最近、よく文が届く。
玲芳だけではなく、犀家の家人に宛てて、多くやりとりをしているようだった。遠く離れていても、『犀陽』として、その責務を忠実に全うしていた。領地を統べる手腕など学んだことはないはずだが、そこは、勤勉な玲陽のことである。都ですでに師を得たに違いなかった。
長い間、犀家と玲家との間には確執があったが、玲陽の存在がそれを薄めつつある。
やがては、皆が忘れていくだろう。小さな出来事が積み重なり、時代は景色を変えてゆく。
玲凛は木簡に指を添えた。
ここに玲陽も触れたのだろうか、などと考えながら、丁寧に綴られた文字を読んでいく。
そこには、都での生活が落ち着いたこと、いつでも玲凛を迎える準備ができていることが示されていた。
「母上!」
玲凛が、目を輝かせた。
「わかっています」
安心させるように玲芳はうなずいた。
「あなたは、自分が生きたいように生きなさい。玲家に縛られる事はありません。あなた自身の、大切にしたいもののために、自由に……ただ、体にだけは気をつけて」
玲芳は優しく語る。
玲凛は、母の顔に、寂しさを見つけていた。
かつて、自分がいない方が、母は幸せなのではないかとさえ思っていた。今、自分がいなくなることを、母が悲しむ。それが少し、嬉しくもあった。
「都に行く前に一つ、あなたに話しておきたいことがあります」
玲芳は立ち上がると、部屋の奥へと向かう。
壁ぎわに、台座に乗せられた一振りの刀が飾られていた。
玲凛は膝をそろえた。
その一振りは、玲家に代々伝わる、宝刀である。
玲芳は、刀を手に戻ってくると、自分と玲凛との間に置いた。
玲凛は手を出さずにじっと見た。触れて良いのは当主だけである。
「これを、持っていきなさい」
「……え!」
玲凛は目を見開いた。ただでさえ大きな瞳が、くるん、とまるくなる。
「でも、これは……持ち出してはいけないはずじゃ……」
「いいのよ」
玲芳は、首を振った。
「ここにあっても何の役にも立たない。あなたが持っていたほうがいいの」
玲凛は改めて刀を見た。
戦いの中で失ってしまったが、彼女が以前に愛用していたのは、犀遠から譲り受けた大太刀だった。重量があり、一撃の威力がある。湾曲し、美しい波紋が特徴的な刀だった。
それに対し、今目の前にあるのは、彼女には少し物足りない長さで、しかも相当に古いものだ。
これ、錆びついてるんじゃないの?
怪しむ顔をした玲凛を見て、思わず、玲芳が笑った。
「あなた、まさかこれで戦うつもり?」
その言い方は、まるで少女のようだった。
玲凛が、難しい顔のまま、
「だって、刀でしょう?」
「刀だけど、人を斬るものじゃないのよ」
玲芳は柄に手をかけ、そっと引き抜いた。わずかに曇った刀身が現れた。
玲凛は顔をよせて、刀身を見た。眉間にしわが寄る。
「あれ? これ、刃がない?」
「ええ」
刀であれば、本来、鋭く磨がれている。だが、宝刀の端はわずかに丸く、実戦で使えるものではなかった。
「これじゃあ、殴ることくらいしかできないけど」
「お願いだから、そんな使い方、しないでちょうだいね……」
武器、としての価値しか考えていない娘に、玲芳は少し呆れた。
「これはね、寿魔刀。傀儡を斬るための刀」
「傀儡……」
玲凛の顔に、さっと緊張が走った。
「残念だけれど、あなたにはきっと、必要になるものだわ」
「撲殺……」
「……その時になれば、使い方は自然にわかるでしょう」
頭痛を抑えるように、玲芳は額に指を当てた。
「それから、もう一つ。あなたは決して、宮中に入ってはいけません。いいですね?」
「…………」
「凛?」
「……その時になったら考えます」
玲芳の嘆きは、深かった。だがその深淵はこれからの期待に胸躍る玲凛には、到底、覗きえないものであった。
「魚は好きか」
誰に問うともなく、犀星がつぶやいた。
その手には、先ほど皇帝から届けられた木簡が握られている。
「魚、ですか?」
生真面目に、玲陽が首をかしげる。
「水の中で鱗が光るのを見るのは好きです」
「焼きます? 茹でます? 生って……食べたことないんですけど」
いつもより熱心に、緑権が意見を出した。
「鯉などは、薬用として重宝するな」
慈圓が、別のことを言う。
犀星は三人を順繰りに見た。
今や、函の政治の一翼を担う五亨庵の、本気の議案はいつも唐突に始まる。
それぞれの席に座ったまま、まるで茶飲み話でもするかのように、国の大事が決まっていく。
幸いにして、頭の硬い中央の官僚たちがこの事実を知ることはない。
「兄様、どうして急にそんなことを……?」
玲陽は手にした小筆を揺らしながら、優しい目で犀星を見た。
春を迎えるあたりから、玲陽の体調は急速に回復していた。最近は剣術の稽古を再開するまでになっている。
犀星は手の中の木簡を、ひらひらと動かした。
「兄上からの命令」
「陛下が? 魚料理を作れ、って?」
小心者の緑権が、すっかりと堂々とした態度で言った。
「もう何が来ても驚きませんよ。この前は、宮中の気象記録所の計測係、その前は皇帝陛下を讃える百遍の詩、その前は……」
「思い出させるな、頭が痛くなる」
慈圓が遮った。
「私もめまいが……」
玲陽は額を抑えた。
冬の初め、五亨庵総出で宝順をやり込めたことを根に持ったのだろう。実用性のない命令が下されることが増えていた。宝順からの無理難題に、彼らはもう、動じない。
犀星はいつもの、感情の宿らない整った表情で、もう一度、丁寧に木簡の表面の文字を確認した。
「今回は、存外、面白い」
三人は、青ざめて一斉に親王へ顔を向けた。
犀星が、面白い、と判断したことが、まともだった試しがないのだ。
「都の食糧事情の改善に寄与することだ」
「それは……まっとうかもしれません」
玲陽は、意見を求めるように慈圓を見た。
「確かに、此度の冬は厳しかったゆえ、次に備えて対策は必要と思うが……」
「それで、何をしろと?」
緑権は並べた茶碗から、碧螺春と白毫銀針を飲み比べながら、穏やかに尋ねた。
犀星は端的に、
「紅蘭の近辺に養殖用の池を作って欲しいと。一言で言えば、魚を育てろ」
「まともですね」
緑権は碧螺春の方が好みと見えて、にんまりした。
「魚が釣り放題、食べ放題ってことでしょう?」
「完成すれば、の話だ」
慈圓が、やれやれと首を振る。
「前にも、そんな計画があったな。結局断念したが。ほら、北にある亀池、あれがその時の失敗作だ」
「私が子供の頃の話です。確か、高く売れる鼈を大量に育てようとして、他の魚が食い尽くされたんでしたっけ?」
緑権が、惜しいことをした、と苦い顔をする。
「亀池自体、正しく設計されたものではなかった。養殖の管理も流通経路も中途半端でな」
慈圓の記憶の中では、昨日の出来事のようである。
「食糧確保の目的としてはまともだが、とんでもない知識と労力……金がかかる」
しかめっ面の慈圓に、犀星は真顔で、絶望的な一言を付け足した。
「それを、五亨庵に『一任』してくれるそうだ」
突然降ってわいた魚の養殖池の話に、五亨庵はしばし水底のような沈黙に包まれた。
「一任、って……」
玲陽の頭の中で、途方もない予算がくるくる回る。
また、生活費、切り詰めなきゃ……
すでに、今夜の夕食は一品減らすことが決まっていた。琥珀の目を彷徨わせながら、
「事情はわかりました。政治的、経済的にも効果がありそうですし、人道的にも賛同できます。でも……どうして兄様の仕事になるんですか?」
「単に、陛下の嫌がらせなんじゃないですか?」
緑権は、茶請けに菜の花の胡麻和えをつまみ、食みながら、
「面倒なことは、とりあえず、五亨庵に押しつけておこうって。いかにも陛下が考えそうなことですよ」
思わず、慈圓も玲陽も苦笑した。
最近の緑権は、随分とたくましくなった。宝順の名を口にすることさえ、怯えていたのが嘘のように、不満を平気で口にする。こう見えて、したたかさもある男だから、五亨庵の外ではへりくだっているのだろうが、仲間内では遠慮がない。
「確かに、面倒ごとには違いない」
慈圓は腕を組んで、
「成功すれば、伯華様の名は高まるが、そんな好機を、あやつがわざわざ与えるとは思えんな」
「だとすると、失敗すると踏んで?」
玲陽がスッと目を細めた。口角が少し下がる。
「おそらく、な」
慈圓も不満そうに腕を組んだ。
「伯華様を、笑うつもりか、貶めるつもりか……」
「うまくいく」
犀星が、さらりと言った。皆が振り返る。
それは、強がりでも負け惜しみでもなかった。
犀星が真顔でこう言うとき、すでに、彼の中には確固とした勝算がある。
五亨庵の誰もが、それをよく知っている。
そして、その勝算を現実にするために、どれだけの無理と無茶が押し通され、自分たちの睡眠時間と体力と精神力が削られるのか、ということも、身に沁みていた。
「まぁ、兄様がそうおっしゃるなら」
玲陽はあまり気乗りがしない様子で、さらに目を細めた。犀星は穏やかに玲陽を微笑んだ。
「陽、頼りにしている」
無表情から微笑へ。それだけで、玲陽の心は溶かされてしまう。
「わかりました」
一瞬で、玲陽は陥落した。
「光理様が一緒なら、どうにかなりますね」
頼ることに抵抗のない緑権は、安心しきった顔だ。
反して、慈圓は犀星を盗み見ながら、唸って黙り込んだ。誰もが犀星の魅力に目が曇る。しかし、彼もまた、先帝の血を受けた魔性であることに違いない。毒にも薬にもなる。それを導くのが、自分の役目であると、慈圓は心得ていた。
玲陽は早速、都周辺の地図を広げた。花街の治水工事にも関わるため、地図は常に手元に置いている。
玲陽に寄ろうと立ち上がって、犀星は一瞬、動きを止めた。鋭い頭痛が額から後ろへ突き抜ける。
またか。
眉ひとつ動かさず、犀星は呼吸を整えた。
都に来た頃から、原因のわからぬ頭痛と耳鳴りに悩まされるようになっていた。てっきり、孤独感がもたらす気の病かと思ったが、玲陽と再会を果たしてもなお、それは続いていた。
玲陽の横顔を見つめ、心を鎮める。幸い、玲陽は地図を追うことに夢中で、犀星の異変には気づいていない。
余計な心配をかけたくない。
犀星はゆっくりと時間をかけて、玲陽のそばに歩んだ。
玲陽は真剣な顔で考え込みながら、
「歌仙は川も湖も多くありましたから、新鮮な淡水魚が出回っていました。でも、都は、そうはいかない……市場で見かける魚は、みんな干物ばかりです」
玲陽は地図を辿った。
紅蘭の北側に、山脈を水源とする大河・太久江がある。途中で二本に分かれ、紅蘭の西側と東側を通る。東南で、南側の別の川へとともに再び合流し東の海へと繋がっている。
あまりにも広範囲にわたるため意識されることはないが、紅蘭は川に囲まれた中州の地形だった。
犀星が花街の治水に利用していたのは、太久江から別れた西へと下る支流だった。
水量が安定しており、勾配も緩やかで手を入れやすい条件が揃っていた。
過去に失敗した亀池は、東の支流に水源を頼っていた。
このあたりは流れが早く、水量はあるものの、扱いが難しい。岩盤も硬く、一度建設すれば強固だが、掘削は難しい。
玲陽はじっと地図を見つめていた。いつしか、犀星がその隣に立っている。片手はさりげなく玲陽の脇腹を引き寄せ、当然のような顔をして地図を覗く。いや、地図を見ているようで、玲陽を見ている。
慈圓の咳払いが聞こえた。
「もし、養殖池を作るとしたら、どのあたりが良いか」
わざとらしく、犀星はつぶやいた。自分の体勢は地図をよく見るために必要であり、決して玲陽に寄り添うことが目的ではない、と、全身で見え透いた嘘をつく。
慈圓の咳払いが、再び響いた。
「うまく地形を変えることができるなら、亀池を再利用するのが良いと思います」
言いながら、玲陽は犀星の手をはずし、下へよけた。犀星と違い、玲陽は触れられていると、どうしてもそちらにばかり気持ちが向いてしまう。仕事にならない。
「母上に送ってもらった資料の中に、養殖池の建設についても記載があったはずです。屋敷に戻ったら、調べてみます」
「うん」
うなずくふりをして、犀星が玲陽の髪に鼻を寄せる。
「兄様」
「うん」
「近いです」
「うん」
ばん、と大きな音がして、慈圓の机の上から、竹簡が床に落ちた。
「失礼」
慈圓は、いかにも偶然、という顔だが、叩きつけでもしないかぎり、そのような音は立たない。
犀星は背を伸ばし、少し横を向いた。
「玄草様」
玲陽は何事もなかったかのように、慈圓を見た。
「亀池が失敗した時の情報は、残っていますか? 原因は鼈だけではないと思うので……」
「そうだな。当時の工事日誌が秘府にあるはずだ」
「直接、作業に関わった方と、お話はできますか?」
「残念ながら、失策の責任とやらで左遷されてな」
緑権が苦い顔をした。
「やっぱり、亀池の時も、嫌がらせだったんですかね」
「それはなかろう」
慈圓は口元を撫でながら、
「当時、命じたのは蕭白であったから……ちょうど、宝順の即位との境目だった。宝順はとにかく、蕭白のすることが気に入らなかった。それで、亀池に関わったものも追放したのだろう」
とんだとばっちりだ、と慈圓は言った。玲陽は、横目で犀星を見上げた。わずかだか、苦しそうに眉が歪んでいる。
犀星にとっては、実の父と兄の話である。
玲陽は慈圓の目を盗んで、犀星の袖を引き、指先でそっと手を撫でた。ひんやりとした犀星の指が、待っていたように玲陽に絡む。ぎゅっと握られ、玲陽の胸の奥が締め付けられる。
子供のような犀星の仕草が、玲陽にはたまらなく愛おしい。
自分だけに見せるその危うげな表情に、どうしようもなく惹かれてしまう。
結局、私はこの人に弱い……
いつもこうして、最後には甘えを受け入れる自分がいた。
「ただいま戻りました!」
元気の良い声がして内扉を開かれる。
慈圓の言いつけで、秘府に木簡の返却に行っていた祥雲が、笑顔で戻ってきた。
利発そうな大きな目が、ぐるりと広間を見回す。自分が留守にしていた間に何があったか、まるでその出来事を読み取るように、勘の良い表情が動いた。
犀星は申し訳なさそうに、近侍の青年を見た。
その表情から、祥雲こと東雨は察した。
「あぁ、もしかして、すぐにまたお使いですか?」
にっこりと笑う。嫌な顔はしない。
「どんな御用で?」
「養殖池を作るために、必要な資料が欲しい」
犀星の短い要求に、東雨は合点して頷いた。
「また、面白そうなこと、始めるんですね」
「面白いって……」
慈圓は少々呆れ顔だ。
「おまえ、最近、伯華様に似てきたな」
「嬉しい! もっと褒めてください!」
東雨は以前と変わらぬ笑顔を見せた。
侍童であった東雨は、死んだ。
今の彼は、犀家の養子・犀祥雲であり、犀星の近侍である。もっとも、周囲の彼に対する態度が変わったようには見えなかった。
「秘府で、必要な資料を集めてみます。俺の判断でいいですか?」
犀星は頷いた。その顔には、安心と信頼が浮かんでいる。
「陽と行け。承親悌ならば貸し出し数も増える」
「わかりました」
東雨は、大量の資料を持ち運べるよう、大きめの籠を用意した。
玲陽は嬉しそうに筆を洗い、出かける支度をしながら、
「私、あそこ、大好きですよ」
「気持ちはわかるが、今日は資料の収集に……」
と、言いかけて、犀星は思わず口をつぐむ。玲陽のねだる眼差しに負ける。
「まぁ、ついでだから、何か見てくるといい」
慈圓は少し肩をすくめた。
やはり、伯華様は侶香の息子か……
かつて、盟友だった犀遠が、妻の話になると惚気がとまらなかったことを思い出す。
情が深いのも、考えものよ。
「玄草」
慈圓の心を知るはずもなく、犀星は仕事の話を切り出した。
「亀池周辺の土地の所有と管理者を洗い出してもらえるか。直接話を聞いてみたい」
「お任せください」
慈圓は微笑してうなずいた。
玲陽に対する感情がどうであれ、犀星の政治手腕に曇りはない。それはむしろ、慈圓の犀星に対する信頼を高めた。
緑権が、そわそわして、犀星を見た。
「私はどうしたら?」
全員が振り返り、気まずい沈黙が流れる。
誰からともなく、目を逸らした。
全員が、どんな仕事を与えるべきか、必死に考えていた。
「……とりあえず、机の周りを片付けたらどうです?」
うわずった声で東雨が言った。
緑権は自分の周囲を見回した。
「特に、散らかってはいません。いつも通りです」
「だからです」
「市場で売られている魚の調査、なんていかがでしょうか?」
子供でもできそうな使いを、玲陽が提案した。
「予算書の作成以外なら、どうにかなるかもしれん」
算術が苦手な緑権の弱みをついて、慈圓が言う。
悲しげな目で、緑権は犀星を見つめた。
犀星は表情こそ変えなかったが、指先が迷うように揺れていた。
「……魚を使った料理の献立を、できるだけ多く揃えてもらえるか」
どうにか、ひとつ、案をひねり出す。
犀星の命令の必要性は低い。だが、緑権には得意分野だ。
「わかりました。早速集めます」
パッと笑顔になる緑権に、みなが小さくため息をついた。
適材適所という言葉があるが、場合によってはどこにも当てはまらない者もいる。
東雨と玲陽が出かけていくと、五亨庵はしんと静かになった。
皆、黙々と自分の仕事をしている。
時折、料理の味を思い出して、緑権がくすくすと笑う声がする。そのほかは至って静かだ。
春のあたたかさが、日毎に強くなる。
欄間にかけてあった防寒の布は、数日前に取りはずし、風通しを良くした。
日差しはまだ弱いが、羽織る肩掛けは薄手のものにかわった。
過ごしやすい季節が訪れようとしていた。
犀星は、養殖池に関わる予算や期間、治水技術との連携、魚についての見識など、考えうるかぎりのことを書き出した。詳細は、玲陽たちが持ち帰る資料を確認してからだ。
犀星の手元には、他にも目を通さねばならない文が集まっている。
犀星は一番上の竹簡を手に取った。
端に透かし細工のある、手の込んだそれは、花街からのものだった
まもなく、年に一度の紅花祭が開かれる。犀星は近年、賓客として招待されるようになっていた。
長年の治水工事の成果で、花街の信頼を得ている犀星は、とかく歓迎された。
雪解けを祝う祭。前夜祭から本祭、後夜祭に至るまで、二日間の日程で行われる花街随一の賑わいを誇る催しだ。
犀星に届けられた招待状には、前夜祭からの出席が求められていた。
自警団が周囲の安全を確保してくれるため、街の中では近衛の同伴は必要なかった。
祭りの中心となる、花街中央の大十字路、そこに面した遊郭の二階に、犀星の席が用意されていた。部屋の中から、中央の舞台を一望することができる。
十字路に設けられる舞台では、遊郭の流派ごとに音楽と舞が披露される。
より優れた芸は、店の評判を高める宣伝効果がある。
普段、金を払わなければ眼にすることができない優雅な技が、誰しもに公開される。花街だけではなく、都中から見物客が押し寄せた。
通りは華やかに飾り付けられ、いつもは女郎が顔を覗かせる香窓には、甘味や惣菜が並び、布を張った長榻も道に用意されて、酒と料理を楽しみながら、いっときの花街の風情を楽しむ趣向となっている。
犀星が整えた水路脇の柳並木は、この祭りの装いに更なる華やかさを加えた。
初春の新緑が涼風になびき、水路の水に映えるさまは、いかにも情緒に長けた花街らしく人々を魅了する。
犀星は特に芸事に造詣が深いわけではないが、そこに参加することには意義がある。花街に生きる人々が年に一度だけ、日常をはなれ、自分たちの意思で思う存分にその技術を競い合う。それは、人が人としてあるための、大切ないとなみだ。
それに……陽に見せたい。見てほしい。
犀星は木簡を見つめながら、ひとつ、瞬きをした。
「玄草」
犀星は静かに呼びかけた。
「今年の紅花祭だが……」
「光理どのと一緒に、おでかけですな」
犀星が言うより早く、慈圓が先を読んだ。
「無論、予定は組んでありますゆえ、ご安心を」
犀星はほっと、息をついた。
「てっきり、止められるかと思っていた」
一国の親王たるもの、仲を噂される側近と花街で一夜とは恥を知れ、と。
慈圓は事務的に続けた。
「ちょうど良い時期です。光理どのにも水路の状況を視察していただきたい」
「そういうことか」
視察を兼ねることが、祭りに参加する慈圓の条件だった。犀星は目線を揺らした。
春の終わり、紅蘭には長雨の季節が来る。その時期、水の事故はどうしてもついて回る。
街を水路で区切り、治水の環境を良くしてきたとはいえ、それは主に上水道が中心であった。
生活用水であれば下水道の現状も問題ないが、雨や台風が続くと、やはり排水機能の限界を迎える。
水量の調整ばかりではなく、土砂の堆積も課題だった。
玲陽の治水に関する知識は、犀星を超える。今年は具体的な対応策が取れそうだ。
「確認していただきたい項目は、事前にお渡しいたします。お忘れなきよう。招待に応じる返事は、伯華様がお書きになりますか?」
犀星は素直に頷いた。
仕事もほかも、玲陽と共にならば望むところ。
犀星は黙々と、花街への返答を書き始めた。
静けさが、再び五亨庵を包み込む。
風が、天井近くの欄間から吹き込み、庵の中をぐるりと巡る。そして、壁と床の隙間から抜けていく。
目には見えない風の道が、かすかにきらめいているようだった。
不意に、犀星の筆が止まった。毛先が、細かく震える。
かすかに、犀星いは眉を寄せた。
ちょうど、茶を運んできた緑権が、犀星の思いつめたような表情に、目を留めた。
「伯華さま、もしかして、また頭痛と耳鳴りが?」
犀星は上目遣いに緑権を見上げた。
「謀児、このこと、陽には黙っていてくれ」
「え?」
緑権は目を見開いた。
「他意はない。ただ、心配させたくないだけだ」
「は、はい!」
緑権はどこか嬉しそうに、碧螺春の器を差し出した。
冬の間に勢いを無くしていた草木が徐々に目覚め、新しい緑が枯れ草を席巻し始める季節。
風も湿り気を帯びて、肌に優しく触れてくる。
山の奥に身を潜めていた動物たちも、少しずつ里へ姿を見せる。
玲凛にとっては、狩りの季節の到来である。
畑に種を撒き、今年の仕事を始める領民たちの間を、馬の轡をとって、彼女は今、意気揚々、家に向かっていた。
玲凛のたくましい愛馬の鞍には、太い縄がかけられ、縄の先は、車輪のついた大きな箱に結ばれていた。玲凛が自ら作ったその箱の中には、若い雄の猪が一頭、手足をきちんと畳んで収められていた。
首のあたりに、一つ、小さな傷がある。運び出す前に、血を抜いた痕だ。すっかり手慣れたものである。
獲物の箱を馬に引かせ、領内の道をゆく。
すれ違う誰もが、玲凛を知っている。
玲家息女。兄と妹の間に生まれた忌まわしき娘。
侮蔑も含まれる視線を、玲凛は鉄壁の微笑で跳ね返した。
齢十六。化粧気のない健康的な素肌、豊かな漆黒の長髪。意志の強い眼差しは、昨年他界した父によく似ていた。
女の身ながら、犀家の前当主・犀遠に武芸を仕込まれ、いまや歌仙随一の剣豪として、近隣にまで名が届く。
噂を聞きつけ、手合わせを願う者も多いが、大抵は玲凛の姿を見ると、顔を引き攣らせ、戦わずして退散した。
その理由は様々だ。
女など相手にできるか。倒したところで名がすたる。
万が一、敗れたときの言い訳がない。
それでも挑もうという者には、彼女も全力で相手をした。体格差では、玲凛に勝ち目はない。遠慮をする必要はなかった。
そうして、豪傑としての地位を駆け上っていく玲凛を、玲家の家人たちはひやひやしながら見守っていた。
やむをえぬ理由があったとはいえ、彼女は自分の家人に刃を向け、斬って捨てた前歴がある。
それも、暮らし慣れた屋敷の敷地での惨劇だった。
実力を認めつつ、しかし、一方で軽蔑する者も少なからずいる。
玲凛は一才の言い訳をせず、自分の罪は罪として背負いながら、悔いることもまた、なかった。
その強靭な精神力は、強者としての彼女の真骨頂である。
「ただ今戻りました」
まさに凛とする声で、玲仲咲は呼びかけた。
門にいた玲家の私兵が、またかと言う顔をして、玲凛に近づいてくる。
玲凛は馬の紐を解いてやりながら、箱の中を示した。
「肝は母上にあげて。あと、皮は私。それ以外はみんなで食べてちょうだい」
私兵たちは、顔を見合わせて、苦笑した。
玲凛の獲物は、毎日変わる。狐や兎ならば五匹は下らない。雄鹿を丸ごと引きずってきた日には、道中の領民たちが腰を抜かした。中には、玲凛ならば、熊も素手で仕留めるだろう、と面白がる者もいる。
玲凛が持ち込む獲物は、兵たちの馳走となる。嬉しい反面、気性の荒いこの玲家の娘に、皆、少し手を焼いている。
狩りに出るのは、いつも一人だ。供をする、と言っても足手まといだ、と断られる。実際その通りで、山の中を身軽に駆け回る玲凛についていくことは誰にもできなかった。
せめて、危ないから大きな獣は狙わないように、と注意しても、偶然狩れた、という顔をして連れてくる。
狩人としての玲凛の腕前は、一流だった。
犀家の老獪が仲咲様を変えてしまった、と嘆く優しい家人もいる。確かに犀遠と出会う前の玲凛は、周囲に気後れして覇気のない、おとなしい娘であった。それがすっかり、誰もが手こずる一騎当千の強者になったのは、犀遠の指導の賜物だ。
余計なことをしてくれた。
玲家の古参の者たちは、常々恨めしく思っている。玲凛本人はけろっとして、いつも涼しい顔で出かけて行く。
同じ年頃の友を持つこともない。唯一、燕家の娘、燕花景との交友はあるものの、特別趣向が合うというわけでもない。外見を気にして着飾ることもしない。興味の対象は、兵法書と武術の稽古、そして狩猟だ。
女は家の中にいるのが正しいとされる時代に、玲凛の存在はあまりにも異質だった。
特に玲家は、厳格な格式に縛られている。血を守るため、女は子供を産むことが第一の考えである。そこにあって玲凛は一向に馴染まない。
しかも、さらに良くないことに、母親の玲芳も、玲凛の意思を止めはしない。玲芳自身が玲家の戒めのために自由にならない生涯を送ってきたこともあってか、娘には家に縛られない生き方を許している。
そのため、玲凛はいつも、馬と一緒に方々を飛び回っていた。
馬具を外し、丁寧に体を拭いて、玲凛は手のひらから蜜と塩を与えた。
今年五歳になる玲凛の馬は、犀遠が彼女のために選んで与えた一頭だった。この牝馬は、主人の気性を恐れなかった。誰よりもよく心得ています、という顔をして、多少の荒事には動じない。
体は大きく、丈夫だった。特に関節が強く、険しい道でも、玲凛を乗せて軽快に跳ねた。
「今日もありがとう」
玲凛は馬に顔をすり寄せて、礼を言った。
玲家の家人たちは玲凛のことを大切にしてくれるが、心はどこか一人だ。玲凛にとって、本音を打ち明けられる相手はいない。唯一慕った兄の玲陽も、今は遠く都の人である。
馬の世話を済ませて、玲凛は井戸にまわった。勢いよく縄を引き、桶いっぱいの水を頭からかぶる。簪も髪もびしょ濡れになっても気にしない。川に入った犬のように首を振って、玲凛は雫を払った。その様子を眺めていた侍女たちが、呆れて立て続けにため息をついた。
「すぐに湯に行くのだから」
玲凛は笑って手を降った。凛々しい目元が、生き生きと輝いていた。玲凛が男であったら逃さない、と、懸想する侍女もいるほど、その力強い美しさは花開いていた。
この人は歌仙で収まる人ではない。ましてや、屋敷の中で一生を終わるなんてありえない。
誰もが玲凛の姿を見て、そう確信した。
若くしなやかな駿馬を思わせる玲凛の体躯は、日々力を持て余しているようだった。
湯殿で身を清め、洗いざらした淡い黄色の襦袢に、薄い桜色の袍をまとい、足袋は両手に一枚ずつぶら下げて、玲凛は裸足で回廊を歩いた。玲家の屋敷は、増築に増築を重ね、迷路のようである。幼い頃から育った玲凛が、道に迷うという事はない。それでも複雑な造りは、短気な彼女には少々まどろっこしい。
庭を突っ切ったほうが早いのに。
余計なことをして咎められても、時間がもったいない、と、早足で回廊をいく。厨房のあたりから、猪を解体する騒がしい声が聞こえてきた。
玲凛は横目でそちらを見た。
建物の陰で人の姿は見えないが、なんとなく、やりとりする様子が想像できた。
昔、犀家の屋敷に住み込んでいた時、獣をさばくのは玲凛の仕事だった。それは、生き物の体の作りを知ること、それによって、次の狩に備えることが目的だった。だが、今になって思えば、自分が仕留めた命を最後まで見届ける責任を、犀遠は教えたかったのかもしれない。
昨年の秋、逆らい難い運命に翻弄されて、自分たちは大きな転機を迎えた。
父である玲格が死に、犀遠も凄惨な最期を遂げた。
あの時期の自分は、夢の中を歩いていたような気がする。思い出すと、現実とは信じられない心地がした。
玲凛は足袋の紐をつまんで軽く振り回しながら、屋敷の奥の玲芳の部屋へ向かった。
母との心の距離は、一冬の間に、すっかり縮まっていた。
それは玲凛の努力というよりも、玲芳の歩み寄りによるところが大きかった。
玲芳の部屋の前で、彼女は足裏を払って、足袋を履いた。
「母上、失礼します」
御簾をあげ、中に入る。
今年の冬から、玲芳はこの奥の間を使うようにしている。
人の出入りが少なく、静かに過ごせるこの場所は、玲芳が心を休めるには丁度良い。
玲凛は、濡れた髪のまま。玲芳の前に足を軽く崩して座った。
玲家当主・玲芳は、娘の天真爛漫な笑顔を眺め、苦笑いする。
少し、自由にさせすぎているかしら。
玲凛の足袋の紐が雑に結ばれているのを見て、玲芳は首を振った。
「凛、きつくいうつもりはありませんけどね。もう少ししっかりしないと……」
と、少し、考えて、
「陽に嫌われますよ」
玲凛は、しゃんとした。彼女には、これが一番効く。
今更ながら、玲凛は気取った顔で、髪に手をやった。濡れた髪はどうにもならないが、繊細な手つきを装って耳の後ろに撫でつける。
玲凛は玲陽が好きだった。一緒に暮らした時期もなく、格段に親しかったわけでもない。だが、玲凛にとっては、たった一人の身内のような気がしていた。無条件で自分を受け入れてくれるのが、玲陽だった。もちろん、今は玲芳もいるが、やはり兄は特別なのだ。
玲芳も、玲凛の気持ちをよく察していた。
それが決して、兄と妹の道を踏み外さないものであるという、確信もあった。それゆえに、玲凛を手懐けるときには、決まって玲陽を引き合いに出した。
都にいる玲陽は、母が自分を利用しているなど、思いもしない。
「今日の成果はいかがでしたか?」
玲芳は明かり取りから、春霞に煙る空を見上げた。
「昨日は狸、その前は雉に兎……」
「今日は、猪です」
子供らしいあどけなさの残る笑顔で、玲凛は嬉しそうに、
「たぶん、二歳くらいだと思います。まだ肉も柔らかいし、油も少ないから、母上のお体にもいいですよ。肝は母上に、って頼んであります。酒と生姜で煮て……棗に山椒……」
嬉しそうに話す玲凛を遮ることはできず、玲芳は口元をわずかに引きつらせて聞いていた。
百歩譲って狩りは良いとしても、狙う獲物は考えて欲しかった。玲凛は母の心配に気づいた。
「大丈夫ですよ。ちゃんと、罠を使ってます。もう、崖に追い込んだりしませんから」
「そ、そう……偉いわね」
玲芳は、曖昧に褒めた。
「母上、ちゃんと召し上がってくださいね。滋養をつけないと」
滋養がつく前に、心配で倒れそうよ。
玲芳は笑って誤魔化した。
こうして、何気ない話をするとき、玲凛は無垢な笑顔を向けてくる。
かつて、玲芳はこの笑顔を見るのが辛かった。実の兄との間に生まれた玲凛に、本能的な拒絶を感じていた。愛しくないわけではなかったが、どこか恐ろしいものであるような気がしていた。そのせいで、玲凛を無意識に遠ざけ、玲陽ばかりに構った。
それでも、玲凛は母を嫌わなかった。逆に自分の血を呪い、自分の存在を蔑んだ。母親に愛されないのは、自分のせいだと幼心を傷つけた。そうしてしまったのは、玲芳の責任なのだと、彼女は自らの過去を悔やんだ。
兄・玲格の支配は、彼女には逃れ難い暴力であった。体を蝕む薬は、少しずつ心も侵していった。玲凛を産んだのも、その一端である。
それでも、娘に罪はない。
去年の秋、玲格の死という形で、ひとつのけじめがついた。
たとえ、それが人の道に反していようとも、玲凛が笑っていてくれるのだから、それでいいと、玲芳は腹をくくっている。
玲凛の笑顔を、いつまでも見ていたかった。
だが、家人たちが思っているように、玲芳もまた、娘がこの屋敷で一生を終わらない事は、よくわかっていた。
玲凛を歌仙にとじこめること。それはあまりにも惜しかった。玲凛の幸せのためだけではない。彼女の力を必要とする、多くの人々のためにも、送り出さねばならないのだ。
玲芳は、傍の朱塗りの箱から、束になった木簡を取り出した。色の薄い、美しい木目である。
「それは?」
玲凛が身を乗り出す。
ふわり、と甘い香りがした。
「この匂いは?」
「沈香ね」
玲芳は、木簡を束ねている絹糸を撫でた。糸は、淡梅に染められていた。
「わかった! 陽兄様からの文でしょう?」
玲凛が目を輝かせた。
「わざわざ、糸を染めて香りを添えるなんてこと、陽兄様しか思いつかないわよ」
玲凛はまるで、恋文でも受け取ったようにうっとりとしている。ついさっき、猪を引きずって帰還した猛者とは思えなかった。
玲芳は、木簡を広げ、玲凛の前に押してやった。玲凛は手をついて、それを覗き込んだ。乾ききらない髪から、雫がぽたり、と床板に落ちる。
「陽兄様の字だ」
嬉しそうな声が弾む。
玲陽からは、最近、よく文が届く。
玲芳だけではなく、犀家の家人に宛てて、多くやりとりをしているようだった。遠く離れていても、『犀陽』として、その責務を忠実に全うしていた。領地を統べる手腕など学んだことはないはずだが、そこは、勤勉な玲陽のことである。都ですでに師を得たに違いなかった。
長い間、犀家と玲家との間には確執があったが、玲陽の存在がそれを薄めつつある。
やがては、皆が忘れていくだろう。小さな出来事が積み重なり、時代は景色を変えてゆく。
玲凛は木簡に指を添えた。
ここに玲陽も触れたのだろうか、などと考えながら、丁寧に綴られた文字を読んでいく。
そこには、都での生活が落ち着いたこと、いつでも玲凛を迎える準備ができていることが示されていた。
「母上!」
玲凛が、目を輝かせた。
「わかっています」
安心させるように玲芳はうなずいた。
「あなたは、自分が生きたいように生きなさい。玲家に縛られる事はありません。あなた自身の、大切にしたいもののために、自由に……ただ、体にだけは気をつけて」
玲芳は優しく語る。
玲凛は、母の顔に、寂しさを見つけていた。
かつて、自分がいない方が、母は幸せなのではないかとさえ思っていた。今、自分がいなくなることを、母が悲しむ。それが少し、嬉しくもあった。
「都に行く前に一つ、あなたに話しておきたいことがあります」
玲芳は立ち上がると、部屋の奥へと向かう。
壁ぎわに、台座に乗せられた一振りの刀が飾られていた。
玲凛は膝をそろえた。
その一振りは、玲家に代々伝わる、宝刀である。
玲芳は、刀を手に戻ってくると、自分と玲凛との間に置いた。
玲凛は手を出さずにじっと見た。触れて良いのは当主だけである。
「これを、持っていきなさい」
「……え!」
玲凛は目を見開いた。ただでさえ大きな瞳が、くるん、とまるくなる。
「でも、これは……持ち出してはいけないはずじゃ……」
「いいのよ」
玲芳は、首を振った。
「ここにあっても何の役にも立たない。あなたが持っていたほうがいいの」
玲凛は改めて刀を見た。
戦いの中で失ってしまったが、彼女が以前に愛用していたのは、犀遠から譲り受けた大太刀だった。重量があり、一撃の威力がある。湾曲し、美しい波紋が特徴的な刀だった。
それに対し、今目の前にあるのは、彼女には少し物足りない長さで、しかも相当に古いものだ。
これ、錆びついてるんじゃないの?
怪しむ顔をした玲凛を見て、思わず、玲芳が笑った。
「あなた、まさかこれで戦うつもり?」
その言い方は、まるで少女のようだった。
玲凛が、難しい顔のまま、
「だって、刀でしょう?」
「刀だけど、人を斬るものじゃないのよ」
玲芳は柄に手をかけ、そっと引き抜いた。わずかに曇った刀身が現れた。
玲凛は顔をよせて、刀身を見た。眉間にしわが寄る。
「あれ? これ、刃がない?」
「ええ」
刀であれば、本来、鋭く磨がれている。だが、宝刀の端はわずかに丸く、実戦で使えるものではなかった。
「これじゃあ、殴ることくらいしかできないけど」
「お願いだから、そんな使い方、しないでちょうだいね……」
武器、としての価値しか考えていない娘に、玲芳は少し呆れた。
「これはね、寿魔刀。傀儡を斬るための刀」
「傀儡……」
玲凛の顔に、さっと緊張が走った。
「残念だけれど、あなたにはきっと、必要になるものだわ」
「撲殺……」
「……その時になれば、使い方は自然にわかるでしょう」
頭痛を抑えるように、玲芳は額に指を当てた。
「それから、もう一つ。あなたは決して、宮中に入ってはいけません。いいですね?」
「…………」
「凛?」
「……その時になったら考えます」
玲芳の嘆きは、深かった。だがその深淵はこれからの期待に胸躍る玲凛には、到底、覗きえないものであった。
「魚は好きか」
誰に問うともなく、犀星がつぶやいた。
その手には、先ほど皇帝から届けられた木簡が握られている。
「魚、ですか?」
生真面目に、玲陽が首をかしげる。
「水の中で鱗が光るのを見るのは好きです」
「焼きます? 茹でます? 生って……食べたことないんですけど」
いつもより熱心に、緑権が意見を出した。
「鯉などは、薬用として重宝するな」
慈圓が、別のことを言う。
犀星は三人を順繰りに見た。
今や、函の政治の一翼を担う五亨庵の、本気の議案はいつも唐突に始まる。
それぞれの席に座ったまま、まるで茶飲み話でもするかのように、国の大事が決まっていく。
幸いにして、頭の硬い中央の官僚たちがこの事実を知ることはない。
「兄様、どうして急にそんなことを……?」
玲陽は手にした小筆を揺らしながら、優しい目で犀星を見た。
春を迎えるあたりから、玲陽の体調は急速に回復していた。最近は剣術の稽古を再開するまでになっている。
犀星は手の中の木簡を、ひらひらと動かした。
「兄上からの命令」
「陛下が? 魚料理を作れ、って?」
小心者の緑権が、すっかりと堂々とした態度で言った。
「もう何が来ても驚きませんよ。この前は、宮中の気象記録所の計測係、その前は皇帝陛下を讃える百遍の詩、その前は……」
「思い出させるな、頭が痛くなる」
慈圓が遮った。
「私もめまいが……」
玲陽は額を抑えた。
冬の初め、五亨庵総出で宝順をやり込めたことを根に持ったのだろう。実用性のない命令が下されることが増えていた。宝順からの無理難題に、彼らはもう、動じない。
犀星はいつもの、感情の宿らない整った表情で、もう一度、丁寧に木簡の表面の文字を確認した。
「今回は、存外、面白い」
三人は、青ざめて一斉に親王へ顔を向けた。
犀星が、面白い、と判断したことが、まともだった試しがないのだ。
「都の食糧事情の改善に寄与することだ」
「それは……まっとうかもしれません」
玲陽は、意見を求めるように慈圓を見た。
「確かに、此度の冬は厳しかったゆえ、次に備えて対策は必要と思うが……」
「それで、何をしろと?」
緑権は並べた茶碗から、碧螺春と白毫銀針を飲み比べながら、穏やかに尋ねた。
犀星は端的に、
「紅蘭の近辺に養殖用の池を作って欲しいと。一言で言えば、魚を育てろ」
「まともですね」
緑権は碧螺春の方が好みと見えて、にんまりした。
「魚が釣り放題、食べ放題ってことでしょう?」
「完成すれば、の話だ」
慈圓が、やれやれと首を振る。
「前にも、そんな計画があったな。結局断念したが。ほら、北にある亀池、あれがその時の失敗作だ」
「私が子供の頃の話です。確か、高く売れる鼈を大量に育てようとして、他の魚が食い尽くされたんでしたっけ?」
緑権が、惜しいことをした、と苦い顔をする。
「亀池自体、正しく設計されたものではなかった。養殖の管理も流通経路も中途半端でな」
慈圓の記憶の中では、昨日の出来事のようである。
「食糧確保の目的としてはまともだが、とんでもない知識と労力……金がかかる」
しかめっ面の慈圓に、犀星は真顔で、絶望的な一言を付け足した。
「それを、五亨庵に『一任』してくれるそうだ」
突然降ってわいた魚の養殖池の話に、五亨庵はしばし水底のような沈黙に包まれた。
「一任、って……」
玲陽の頭の中で、途方もない予算がくるくる回る。
また、生活費、切り詰めなきゃ……
すでに、今夜の夕食は一品減らすことが決まっていた。琥珀の目を彷徨わせながら、
「事情はわかりました。政治的、経済的にも効果がありそうですし、人道的にも賛同できます。でも……どうして兄様の仕事になるんですか?」
「単に、陛下の嫌がらせなんじゃないですか?」
緑権は、茶請けに菜の花の胡麻和えをつまみ、食みながら、
「面倒なことは、とりあえず、五亨庵に押しつけておこうって。いかにも陛下が考えそうなことですよ」
思わず、慈圓も玲陽も苦笑した。
最近の緑権は、随分とたくましくなった。宝順の名を口にすることさえ、怯えていたのが嘘のように、不満を平気で口にする。こう見えて、したたかさもある男だから、五亨庵の外ではへりくだっているのだろうが、仲間内では遠慮がない。
「確かに、面倒ごとには違いない」
慈圓は腕を組んで、
「成功すれば、伯華様の名は高まるが、そんな好機を、あやつがわざわざ与えるとは思えんな」
「だとすると、失敗すると踏んで?」
玲陽がスッと目を細めた。口角が少し下がる。
「おそらく、な」
慈圓も不満そうに腕を組んだ。
「伯華様を、笑うつもりか、貶めるつもりか……」
「うまくいく」
犀星が、さらりと言った。皆が振り返る。
それは、強がりでも負け惜しみでもなかった。
犀星が真顔でこう言うとき、すでに、彼の中には確固とした勝算がある。
五亨庵の誰もが、それをよく知っている。
そして、その勝算を現実にするために、どれだけの無理と無茶が押し通され、自分たちの睡眠時間と体力と精神力が削られるのか、ということも、身に沁みていた。
「まぁ、兄様がそうおっしゃるなら」
玲陽はあまり気乗りがしない様子で、さらに目を細めた。犀星は穏やかに玲陽を微笑んだ。
「陽、頼りにしている」
無表情から微笑へ。それだけで、玲陽の心は溶かされてしまう。
「わかりました」
一瞬で、玲陽は陥落した。
「光理様が一緒なら、どうにかなりますね」
頼ることに抵抗のない緑権は、安心しきった顔だ。
反して、慈圓は犀星を盗み見ながら、唸って黙り込んだ。誰もが犀星の魅力に目が曇る。しかし、彼もまた、先帝の血を受けた魔性であることに違いない。毒にも薬にもなる。それを導くのが、自分の役目であると、慈圓は心得ていた。
玲陽は早速、都周辺の地図を広げた。花街の治水工事にも関わるため、地図は常に手元に置いている。
玲陽に寄ろうと立ち上がって、犀星は一瞬、動きを止めた。鋭い頭痛が額から後ろへ突き抜ける。
またか。
眉ひとつ動かさず、犀星は呼吸を整えた。
都に来た頃から、原因のわからぬ頭痛と耳鳴りに悩まされるようになっていた。てっきり、孤独感がもたらす気の病かと思ったが、玲陽と再会を果たしてもなお、それは続いていた。
玲陽の横顔を見つめ、心を鎮める。幸い、玲陽は地図を追うことに夢中で、犀星の異変には気づいていない。
余計な心配をかけたくない。
犀星はゆっくりと時間をかけて、玲陽のそばに歩んだ。
玲陽は真剣な顔で考え込みながら、
「歌仙は川も湖も多くありましたから、新鮮な淡水魚が出回っていました。でも、都は、そうはいかない……市場で見かける魚は、みんな干物ばかりです」
玲陽は地図を辿った。
紅蘭の北側に、山脈を水源とする大河・太久江がある。途中で二本に分かれ、紅蘭の西側と東側を通る。東南で、南側の別の川へとともに再び合流し東の海へと繋がっている。
あまりにも広範囲にわたるため意識されることはないが、紅蘭は川に囲まれた中州の地形だった。
犀星が花街の治水に利用していたのは、太久江から別れた西へと下る支流だった。
水量が安定しており、勾配も緩やかで手を入れやすい条件が揃っていた。
過去に失敗した亀池は、東の支流に水源を頼っていた。
このあたりは流れが早く、水量はあるものの、扱いが難しい。岩盤も硬く、一度建設すれば強固だが、掘削は難しい。
玲陽はじっと地図を見つめていた。いつしか、犀星がその隣に立っている。片手はさりげなく玲陽の脇腹を引き寄せ、当然のような顔をして地図を覗く。いや、地図を見ているようで、玲陽を見ている。
慈圓の咳払いが聞こえた。
「もし、養殖池を作るとしたら、どのあたりが良いか」
わざとらしく、犀星はつぶやいた。自分の体勢は地図をよく見るために必要であり、決して玲陽に寄り添うことが目的ではない、と、全身で見え透いた嘘をつく。
慈圓の咳払いが、再び響いた。
「うまく地形を変えることができるなら、亀池を再利用するのが良いと思います」
言いながら、玲陽は犀星の手をはずし、下へよけた。犀星と違い、玲陽は触れられていると、どうしてもそちらにばかり気持ちが向いてしまう。仕事にならない。
「母上に送ってもらった資料の中に、養殖池の建設についても記載があったはずです。屋敷に戻ったら、調べてみます」
「うん」
うなずくふりをして、犀星が玲陽の髪に鼻を寄せる。
「兄様」
「うん」
「近いです」
「うん」
ばん、と大きな音がして、慈圓の机の上から、竹簡が床に落ちた。
「失礼」
慈圓は、いかにも偶然、という顔だが、叩きつけでもしないかぎり、そのような音は立たない。
犀星は背を伸ばし、少し横を向いた。
「玄草様」
玲陽は何事もなかったかのように、慈圓を見た。
「亀池が失敗した時の情報は、残っていますか? 原因は鼈だけではないと思うので……」
「そうだな。当時の工事日誌が秘府にあるはずだ」
「直接、作業に関わった方と、お話はできますか?」
「残念ながら、失策の責任とやらで左遷されてな」
緑権が苦い顔をした。
「やっぱり、亀池の時も、嫌がらせだったんですかね」
「それはなかろう」
慈圓は口元を撫でながら、
「当時、命じたのは蕭白であったから……ちょうど、宝順の即位との境目だった。宝順はとにかく、蕭白のすることが気に入らなかった。それで、亀池に関わったものも追放したのだろう」
とんだとばっちりだ、と慈圓は言った。玲陽は、横目で犀星を見上げた。わずかだか、苦しそうに眉が歪んでいる。
犀星にとっては、実の父と兄の話である。
玲陽は慈圓の目を盗んで、犀星の袖を引き、指先でそっと手を撫でた。ひんやりとした犀星の指が、待っていたように玲陽に絡む。ぎゅっと握られ、玲陽の胸の奥が締め付けられる。
子供のような犀星の仕草が、玲陽にはたまらなく愛おしい。
自分だけに見せるその危うげな表情に、どうしようもなく惹かれてしまう。
結局、私はこの人に弱い……
いつもこうして、最後には甘えを受け入れる自分がいた。
「ただいま戻りました!」
元気の良い声がして内扉を開かれる。
慈圓の言いつけで、秘府に木簡の返却に行っていた祥雲が、笑顔で戻ってきた。
利発そうな大きな目が、ぐるりと広間を見回す。自分が留守にしていた間に何があったか、まるでその出来事を読み取るように、勘の良い表情が動いた。
犀星は申し訳なさそうに、近侍の青年を見た。
その表情から、祥雲こと東雨は察した。
「あぁ、もしかして、すぐにまたお使いですか?」
にっこりと笑う。嫌な顔はしない。
「どんな御用で?」
「養殖池を作るために、必要な資料が欲しい」
犀星の短い要求に、東雨は合点して頷いた。
「また、面白そうなこと、始めるんですね」
「面白いって……」
慈圓は少々呆れ顔だ。
「おまえ、最近、伯華様に似てきたな」
「嬉しい! もっと褒めてください!」
東雨は以前と変わらぬ笑顔を見せた。
侍童であった東雨は、死んだ。
今の彼は、犀家の養子・犀祥雲であり、犀星の近侍である。もっとも、周囲の彼に対する態度が変わったようには見えなかった。
「秘府で、必要な資料を集めてみます。俺の判断でいいですか?」
犀星は頷いた。その顔には、安心と信頼が浮かんでいる。
「陽と行け。承親悌ならば貸し出し数も増える」
「わかりました」
東雨は、大量の資料を持ち運べるよう、大きめの籠を用意した。
玲陽は嬉しそうに筆を洗い、出かける支度をしながら、
「私、あそこ、大好きですよ」
「気持ちはわかるが、今日は資料の収集に……」
と、言いかけて、犀星は思わず口をつぐむ。玲陽のねだる眼差しに負ける。
「まぁ、ついでだから、何か見てくるといい」
慈圓は少し肩をすくめた。
やはり、伯華様は侶香の息子か……
かつて、盟友だった犀遠が、妻の話になると惚気がとまらなかったことを思い出す。
情が深いのも、考えものよ。
「玄草」
慈圓の心を知るはずもなく、犀星は仕事の話を切り出した。
「亀池周辺の土地の所有と管理者を洗い出してもらえるか。直接話を聞いてみたい」
「お任せください」
慈圓は微笑してうなずいた。
玲陽に対する感情がどうであれ、犀星の政治手腕に曇りはない。それはむしろ、慈圓の犀星に対する信頼を高めた。
緑権が、そわそわして、犀星を見た。
「私はどうしたら?」
全員が振り返り、気まずい沈黙が流れる。
誰からともなく、目を逸らした。
全員が、どんな仕事を与えるべきか、必死に考えていた。
「……とりあえず、机の周りを片付けたらどうです?」
うわずった声で東雨が言った。
緑権は自分の周囲を見回した。
「特に、散らかってはいません。いつも通りです」
「だからです」
「市場で売られている魚の調査、なんていかがでしょうか?」
子供でもできそうな使いを、玲陽が提案した。
「予算書の作成以外なら、どうにかなるかもしれん」
算術が苦手な緑権の弱みをついて、慈圓が言う。
悲しげな目で、緑権は犀星を見つめた。
犀星は表情こそ変えなかったが、指先が迷うように揺れていた。
「……魚を使った料理の献立を、できるだけ多く揃えてもらえるか」
どうにか、ひとつ、案をひねり出す。
犀星の命令の必要性は低い。だが、緑権には得意分野だ。
「わかりました。早速集めます」
パッと笑顔になる緑権に、みなが小さくため息をついた。
適材適所という言葉があるが、場合によってはどこにも当てはまらない者もいる。
東雨と玲陽が出かけていくと、五亨庵はしんと静かになった。
皆、黙々と自分の仕事をしている。
時折、料理の味を思い出して、緑権がくすくすと笑う声がする。そのほかは至って静かだ。
春のあたたかさが、日毎に強くなる。
欄間にかけてあった防寒の布は、数日前に取りはずし、風通しを良くした。
日差しはまだ弱いが、羽織る肩掛けは薄手のものにかわった。
過ごしやすい季節が訪れようとしていた。
犀星は、養殖池に関わる予算や期間、治水技術との連携、魚についての見識など、考えうるかぎりのことを書き出した。詳細は、玲陽たちが持ち帰る資料を確認してからだ。
犀星の手元には、他にも目を通さねばならない文が集まっている。
犀星は一番上の竹簡を手に取った。
端に透かし細工のある、手の込んだそれは、花街からのものだった
まもなく、年に一度の紅花祭が開かれる。犀星は近年、賓客として招待されるようになっていた。
長年の治水工事の成果で、花街の信頼を得ている犀星は、とかく歓迎された。
雪解けを祝う祭。前夜祭から本祭、後夜祭に至るまで、二日間の日程で行われる花街随一の賑わいを誇る催しだ。
犀星に届けられた招待状には、前夜祭からの出席が求められていた。
自警団が周囲の安全を確保してくれるため、街の中では近衛の同伴は必要なかった。
祭りの中心となる、花街中央の大十字路、そこに面した遊郭の二階に、犀星の席が用意されていた。部屋の中から、中央の舞台を一望することができる。
十字路に設けられる舞台では、遊郭の流派ごとに音楽と舞が披露される。
より優れた芸は、店の評判を高める宣伝効果がある。
普段、金を払わなければ眼にすることができない優雅な技が、誰しもに公開される。花街だけではなく、都中から見物客が押し寄せた。
通りは華やかに飾り付けられ、いつもは女郎が顔を覗かせる香窓には、甘味や惣菜が並び、布を張った長榻も道に用意されて、酒と料理を楽しみながら、いっときの花街の風情を楽しむ趣向となっている。
犀星が整えた水路脇の柳並木は、この祭りの装いに更なる華やかさを加えた。
初春の新緑が涼風になびき、水路の水に映えるさまは、いかにも情緒に長けた花街らしく人々を魅了する。
犀星は特に芸事に造詣が深いわけではないが、そこに参加することには意義がある。花街に生きる人々が年に一度だけ、日常をはなれ、自分たちの意思で思う存分にその技術を競い合う。それは、人が人としてあるための、大切ないとなみだ。
それに……陽に見せたい。見てほしい。
犀星は木簡を見つめながら、ひとつ、瞬きをした。
「玄草」
犀星は静かに呼びかけた。
「今年の紅花祭だが……」
「光理どのと一緒に、おでかけですな」
犀星が言うより早く、慈圓が先を読んだ。
「無論、予定は組んでありますゆえ、ご安心を」
犀星はほっと、息をついた。
「てっきり、止められるかと思っていた」
一国の親王たるもの、仲を噂される側近と花街で一夜とは恥を知れ、と。
慈圓は事務的に続けた。
「ちょうど良い時期です。光理どのにも水路の状況を視察していただきたい」
「そういうことか」
視察を兼ねることが、祭りに参加する慈圓の条件だった。犀星は目線を揺らした。
春の終わり、紅蘭には長雨の季節が来る。その時期、水の事故はどうしてもついて回る。
街を水路で区切り、治水の環境を良くしてきたとはいえ、それは主に上水道が中心であった。
生活用水であれば下水道の現状も問題ないが、雨や台風が続くと、やはり排水機能の限界を迎える。
水量の調整ばかりではなく、土砂の堆積も課題だった。
玲陽の治水に関する知識は、犀星を超える。今年は具体的な対応策が取れそうだ。
「確認していただきたい項目は、事前にお渡しいたします。お忘れなきよう。招待に応じる返事は、伯華様がお書きになりますか?」
犀星は素直に頷いた。
仕事もほかも、玲陽と共にならば望むところ。
犀星は黙々と、花街への返答を書き始めた。
静けさが、再び五亨庵を包み込む。
風が、天井近くの欄間から吹き込み、庵の中をぐるりと巡る。そして、壁と床の隙間から抜けていく。
目には見えない風の道が、かすかにきらめいているようだった。
不意に、犀星の筆が止まった。毛先が、細かく震える。
かすかに、犀星いは眉を寄せた。
ちょうど、茶を運んできた緑権が、犀星の思いつめたような表情に、目を留めた。
「伯華さま、もしかして、また頭痛と耳鳴りが?」
犀星は上目遣いに緑権を見上げた。
「謀児、このこと、陽には黙っていてくれ」
「え?」
緑権は目を見開いた。
「他意はない。ただ、心配させたくないだけだ」
「は、はい!」
緑権はどこか嬉しそうに、碧螺春の器を差し出した。
0
あなたにおすすめの小説
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
神典日月神示 真実の物語
蔵屋
歴史・時代
私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。
この方たちのお名前は
大本開祖•出口なお(でぐちなお)、
神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。
この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。
昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。
その書物を纏めた書類です。
この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。
私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。
日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。
殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。
本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。
日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。
そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。
なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。
縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。
日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。
この小説は真実の物語です。
「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」
どうぞ、お楽しみ下さい。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる