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第三部「凛廻」(連載中)
2 春来たりなば
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秘府までの道は、陽だまりの中を歩くような楽しさがあった。
玲陽と東雨にとって、忘れられない一冬が過ぎ、春の暖かさは例年になく二人を温めてくれた。日差しばかりではない。隣を歩く人の存在が、何よりも大きかった。
偶然と必然の結末。
まるで、辛い季節に耐えた二人への贈り物であるかのように、彼らは兄と弟になった。
東雨は時々、そのことを思い出してはこっそりと微笑む。
「東雨どの?」
玲陽は、自分を見上げてにっこりと笑う東雨を、不思議そうに見た。
「なんでもありません、光理様」
東雨は明らかに、何かあるという顔である。
玲陽はなんとなくその意図がわかって、同じように笑みを浮かべた。
東雨どのは、私の弟なんですよね……
ただ並んで歩くだけでも、気恥ずかしい気がする。
どちらからも、その話題に深く触れるのを避けて、春を迎えてしまった。
「どんな資料が必要でしょうか?」
東雨は早くなる胸を抑えて、何気ないふうを装って尋ねた。
「東雨どのは、どんなものが必要だと思いますか」
玲陽が、自分に意見を求めるのは、自分で考えることを促すためだ。
意図が透けて見えて、東雨は嬉しかった。
「そうですね……まず、正確な地図が必要だと思います。それから、玄草様がおっしゃっていた過去の亀池の記録。これは絶対に大事です」
「はい。年数が経っていますから、変化している条件もあるでしょうが、学ぶところは多いと思います」
玲陽の言葉に、東雨は少し安心して、気持ちが楽になった。思いついたことを、どんどん口にする。
「それから、他の養殖池についての記載があれば、それも参考にできると思います。もちろんよその国のものでもいいですが、俺には想像もつきません」
玲陽はうなずいた。
「私もです。一度に全て集めようとすると膨大になるでしょうから、少しずつにしましょう。まずは亀池の記録と、この近隣の前例、可能であれば、似た気候の地域のものを探しましょう」
「はい、光理様」
東雨の素直さは相変わらずだ。歳はもう十八を超えたというのに、少年のようである。本人は、大人扱いしてもらえない、と憤慨するが、玲陽には、その初々しさが嬉しかった。
「堤防の作り方とか、技術的な資料は、探さなくても大丈夫ですか?」
東雨は、首を傾げた。
「一応、探してみましょう。一通りの資料は玲家から取り寄せてありますが、広く知識を得るのはよいことですし」
「でも、光理様の頭の中に、もう、全部入ってる気がします」
玲陽は少し照れた。
「私のは、ほんの少しだけです。子供の頃、兄様と一緒に山の中に池を作ってみたり、水の流れを変えて水路を走らせたりしていて」
「ずいぶん、変わった遊び方をしてたんですね」
東雨は面白がった。
「私たちにとっては、山が遊び場でしたから」
玲陽は何気なく、
「東雨どのはどんな……」
と言いかけ、慌てて黙った。東雨は、子供らしい時間を過ごしたことがない。野山はおろか、道端で遊ぶこと、子ども同士で関わることさえなかったはずだ。
玲陽の心を読んだように、東雨は首を振った。
「気を使わなくて大丈夫です。俺だって、色々楽しみはありましたよ」
その言い方は、玲陽を安心させる優しさに溢れていた。
「俺は、きれいなものを見るのが好きでした」
「きれいなもの?」
「はい。花や鳥や、空に月に……星……」
一瞬、声が小さくなる。それから続けて、
「あと、きれいな布が好きです」
「布、ですか? 着物ではなくて?」
玲陽は少し、首を傾げた。それは、東雨が大好きな仕草だった。
「着物もいいですけど、布の方が」
「なぜです?」
「布はいろんな使い方ができます。毛氈にしたり、何かを包んだり、どこかに掛けたり、自分で気に入るように好きにいろいろ。着物より布のままの方がいろいろなことが想像できて……それで」
玲陽は、嬉しそうに目を細めた。
東雨は気づいていなかったが、玲陽には彼の変化がよくわかった。
東雨が、自分が好きなものを堂々と語るのは、初めてだ。それは、東雨が一人の人間として、自分自身と向き合ったことの証だった。
自分の気持ちよりも優先すべきことが、幼い頃から東雨を縛り付けてきた。そこから解放され、彼はやっと自分らしくあることを許されたのだ。
玲陽には、それが心から嬉しい。
できるならば、このままのびのびと、今までの分まで幸せになって欲しいと願う。
五亨庵から秘府までの道は、明るく朗らかだ。
南を過ぎて中央との境の緑地、八穣園に入ると、芽吹き始めた草花がそこかしこに見える。殺風景だった冬の庭は、少しずつ春の装いに変わっていた。枯れ草の間から覗く黄緑の芝生が、目に鮮やかだ。
花の季節はまだ先だが、すでにあたりの空気は柔らかく、ほのかに甘い。
八穣園の西側に、池の水面が光って見えた。
「そうだ、少し見ていきませんか」
東雨が、明るい声で玲陽を誘った。
「でも、秘府へのお遣いが……」
「少しくらい、大丈夫ですよ。それに、実物を見るのも、大事です」
東雨は、楽しそうに笑いかけた。玲陽は、あっさりとその笑顔に負けた。姿はまるで違うのに、東雨の雰囲気はどこか、犀星に似ている気がした。
冬の間は閉鎖されていた池も、周囲の縄が解かれている。水はまだ冷たい。
玲陽は、丸石が並べられた池の淵にしゃがみ込んだ。
五亨庵の敷地より広い水面は、うっすらと緑に輝いていた。
ここを訪れる者たちは、水面に浮かぶ蓮の花や、その隙間を鱗を光らせて泳ぐ鯉、木陰が水に美しく揺れる様子などを楽しみにする。だが、玲陽が見ているのは、まるで違う。池そのものである。
東雨は、玲陽の隣にぴったりと寄り添って膝をついた。
こうして並んでいると、本当に兄弟みたいですね。
体温が伝わってくるようで、玲陽は目を細めた。
玲陽の視線に気づかずに、東雨は難しい顔をして、水の中を覗き込んでいた。
「この池も、造り方は亀池と同じなんですよね」
今まで見ようともしなかった池の構造に、東雨は興味を持った。五亨庵で玲陽が説明してくれたことを思い出す。
手を水に差し入れて、へりを触りながら確かめる。ただの石のように思っていたが、それは竹や木の板を合わせ、隙間を粘土で埋めたものだという。
底を覗いたが、水草が揺れるばかりである。玲陽によると、水が染み込まないよう、石や粘土で覆われているとのことだった。
東雨はふっと目線を上げて、池の向こう岸までを見渡した。
八穣園の池は十分に大きい。だが、話に出ている亀池は、この五倍以上ある。しかも今回彼らが作ろうとしているのは、さらにその倍だ。
「大きければ大きいほど、良いのでしょうか」
東雨は眉を寄せて言った。
「そうとも言い切れません」
玲陽は言葉を選んで答えた。
「大きければ効率は良いでしょうが、管理するのが大変です。池を広げるのは、管理方法を確立してからの方が良さそうですね」
「確かに。お金だって……」
東雨は、途中で口をつぐんだ。玲陽は消えた語尾の行方を想像して苦笑した。
池の周囲では、多くの女性たちが色とりどりの大きな傘の下で笑い声を立て、くつろいでいる。彼らのうちのひとりが、玲陽に気づいた。瞬く間に、話が広がったようで、揃ってこちらを見ながら、しきりに何か言い合っている。
玲陽は、気まずそうにうつむいた。
玲陽の存在は、宮中の者たちにも知れ渡っている。噂を立てらるのはやむないとしても、彼らのうちの何人かは、なぜか、自分に対して仇でも見るような目を向ける。
その理由に、一つ、心当たりがあった。
犀星だ。
犀星の元には、頻繁に恋文が届く。身分も年齢も男女も問わない。そのたびに犀星は断りの文言に苦労していた。特に、権力を持つ官僚の親族への返答には、気を遣った。最近では、返事はすべて玲陽が書いている。
「あの、東雨どの?」
玲陽は、恐る恐る訊ねた。
「兄様は、宮中の方に、特別人気があるのでしょうか?」
「え? ないですよ」
東雨はあっさりと否定した。
「みんな、若様のこと軽く見てますから。だいたい、人気があったら、こんなに予算で苦しんだりしません。援助してくれる人が現れるはずで……」
「ああ、いえ、そういう意味じゃなくて」
玲陽は言いにくそうに、
「その、ですね……恋文が……」
「ああ!」
東雨は、途端に明るい顔になった。
「そういう意味ですか」
「そういう意味で……」
玲陽の語尾が消沈する。
東雨は、しっかりと膝を抱えて座りなおした。
「人気、あります。もう、容赦ないくらい。何かの策略か攻撃なんじゃないかってくらい」
「やっぱり……」
玲陽は、息ができない、というように胸を押さえた。
「理由はいろいろだと思います」
東雨は、指折り、心当たりを並べ始めた。
「まず、外見が綺麗ですし、血筋が親王ですから申し分ない。しかも、最近は政治的な実績も上げてきていて、将来性もあります。誰もが不可能だって投げ出す仕事を、奇抜な方法で次々に解決していくところなんて、文句無しに格好いいです。まぁ、得になることはないので、誰も味方にはなってくれませんけど……立ち居振る舞いも美しくて、媚びたり下手に出ることもなく毅然としていらっしゃる。剣術の腕前も一流ですし、学問にも秀でています。芸事が不得手なのも可愛さの内ですし、若くて健康で、浮気性でもない上に、まだ妾すらいない」
これでもか、というくらいに、東雨の口から犀星への賛辞があふれてくる。玲陽の目が丸くなる。それでも東雨は止まらない。
「感情が薄いとか言われますけど、本当は誰よりも気持ちが動く人で、その優しさがあまりに深くて暖かくて、それなのに押し付けがましくなくて、包み込むみたいで安心させてくれて。不器用なくせに、ずるいくらいに甘えさせてくれて。飾らず、気取らず、素直でまっすぐで、涙もろくて傷つきやすくて。辛くても、誰かに頼るより、自分で自分を抱きしめて涙ぐんで、体を丸めて眠るような人で……もう、守って差し上げたくなっちゃって……」
途中から、玲陽の顔に呆れが浮かんでいた。
「あの、それは……宮中の皆さんの評価ではなく、東雨どのの個人的なものなのでは……」
「でも!」
東雨は頬を上気させ、玲陽を見つめた。
「光理様なら、わかってくださいますよね! 若様の魅力!」
「それは……」
ふっと、顔が赤くなるのを感じて、玲陽も膝を抱え、少し背中を丸めた。
犀星の魅力。
語り始めたら、きっと日が暮れてしまうだろう。
玲陽は胸に浮かぶ様々な面影に揺れながら、水面を見つめた。
二人並んで、奇妙な沈黙の時間が流れた。
五亨庵の二人を遠巻きに眺め、あれこれと話の種にする貴人たちを、玲陽はぼんやりと見た。
芝生に伸びる影が、少し、角度を変えて短くなった。
「東雨どの」
玲陽は、そろそろ秘府に行かねば、と思いながら、まだゆっくりしたい心持ちで、話しかけた。
「最近、体の具合はいかがですか?」
それは、一歩、心に踏み込んだ問いかけだった。
東雨は無意識に身を縮めた。
東雨の体には決して消えることのない深い傷が残されている。傷は痛みを伴うばかりか、東雨の人生そのものを変えてしまった。一命は取りとめたが、心の傷は生涯残る。それは、玲陽にも身に沁みてわかっている。
「東雨どのは我慢強いので、心配です」
その声は優しく、東雨の柔らかいところを、じんわりと温める。
玲陽はじっと東雨を見つめ、思いをはせた。
命と引き換えに身体に刻まれた、消えない傷。
触れたら痛むのに、目を背けることもできない。誰もが気遣い、言葉にしない。見なかったことにして、そのまま顔を背けて済ませてしまいたい。
しかし、傷に触れられることよりも、それを恐れて腫れ物に触るように、顔を背けられる方が辛い。
玲陽は自分の経験から、そう感じていた。
誰かが問わねばならないなら、自分がするべきだ。
東雨にも、玲陽の深い思いが伝わっていた。
「もしかして、傷が痛むのではありませんか」
玲陽の声は優しく、東雨の心を包み込んだ。
東雨は、明るくも暗くもない表情で、じっと水面を見つめていた。
「どうしてですか?」
まるで、答えを当ててみてください、と言わんばかりの、甘えた声で聞き返す。
玲陽が自分のことをしっかりと見て、寄り添おうとすることが、東雨には嬉しかった。
玲陽は静かに、
「お薬が苦手なのに、安珠様から出されたものをちゃんと欠かさずに飲んでらっしゃいます。飲みたいのではなくて、飲まずにはいられないのではないかと」
「……俺、光理様のそういうところ、好きです」
東雨は素直に、
「あまり自分のことを言うの、得意じゃないので……わかってもらえてるって思ったら、すごく安心します」
その言葉は、あまりにもいじらしく、玲陽には聞こえた。
自分を知られること。それは、間者であった東雨にとって、あってはならないことだった。だが、それを受け入れ、自分を知って欲しいと堂々と言える今の東雨は、明らかに変わりつつある。
「正直、傷は痛みます」
東雨は、水面の輝きを見ながら、
「安珠様に言われました。痛みや違和感は、ずっと残るだろうって。慣れるまで、薬は飲んでいいけれど、続けるのは体によくないから、少しずつ減らすように、って」
「そう、でしたか」
玲陽は、自分の背中の火傷を意識した。引き攣る痛みが、朝と夕に強く出る。左手の指も、天候や疲労でよく痛む。
いつしか、痛みのない体を、忘れてしまった。それは、慣れではなく、諦めに近い。
「私が仰向けに眠らないの、ご存知でしょう?」
唐突に、玲陽は言った。
「そういえば、いつも横かうつ伏せですね」
一緒に暮らす中で、東雨はごく自然に玲陽の寝姿を目にしている。
「私の背中には火傷があって、触れると痛むんです。もう、十年になります」
「…………」
「他にも、身体中に傷が残っている。私は、これが嫌で……」
東雨は、玲陽の肌の深いところを見たことはない。だが、いつも肌の透けない濃い色の着物を選び、水仕事の時も袖をまくらないのは、傷を隠すためだと察していた。
「でも、兄様が言ってくれたんです」
玲陽は、まっすぐに対岸の木々を見つめた。
「この傷は、私がその痛みを乗り越えて、打ち勝って、生きることを手に入れた証なんだ、って。だから、誇っていい、と」
東雨の目元が、泣きそうに歪んだ。しかし、唇はゆるやかに笑っていた。
「本当、若様って、そういうこと、さらっと言うの、ずるい」
「ええ、私もそう思います」
二人は顔を見合わせた。どちらにも、同じ微笑が浮かんでいた。
「東雨どの」
玲陽の声は、暖かい。
「私にできることなら、なんでも言ってください。私が苦しいとき、あなたにどれだけ助けられたかわからない。私も、あなたの力になりたいんです」
東雨は、優しく目を細めた。誰かの好意を、こんなにも素直に受け止めることができる自分が、不思議ですらあった。
「俺は、光理様を助けたなんて思っていませんけれど、遠慮なく甘えたいです」
その言葉に、玲陽は少し驚いた。それから、意味ありげな笑みを浮かべる。
「東雨どの、兄様に似てきました。そういうところ、ずるいです」
可愛らしく笑う東雨は、まだ、少年の面影だ。
「光理様は……」
東雨は、距離を測るように言葉を続けた。その頬は、羞恥と緊張でかすかに紅潮していた。
「俺の……なんですよね」
口にできない、本当は何よりも伝えたい一語が、可愛らしかった。玲陽はほころぶように笑った。
「そうですよ。だから、いくらでも甘えてください」
あっさりと認める。それがあまりにも自然で、東雨は照れた。
「……なんてお呼びしたらいいのかって」
東雨は真剣だった。
大人なのだから、兄上、と呼ぶべきか。
少し甘えて、兄様と呼んでも許されるか。
それとも、格式をもって、兄君が良いのか。
玲陽本人に相談もできず、東雨はずっと決めあぐねていた。結局、以前の通り、光理様、で通している。
実のところ、玲陽は東雨のその葛藤を察していた。そして、あえて自分からは触れなかった。
東雨が手探りしながら、自身の気持ちと向き合う時間。しかも、決して辛い選択を迫るのではなく、どこか甘くて愛おしい難問。
それは、かつて、玲陽もまた、犀星に対して抱いた迷いに似ていた。
口を結んで考えている東雨に、玲陽の透き通る声がささやく。
「東雨どののお好きなように」
玲陽の微笑みに、東雨の目が戸惑う。
「なんと呼ばれようと、私は私です」
東雨は、はっとした。
今の言葉は、そのまま自分に返ってきたものだ。
なんと呼ばれようと、自分は自分。
東雨と呼ばれようと、祥雲と呼ばれようと。
体を向けて、東雨は玲陽を見つめた。少しだけ首を伸ばして顔を近づける。玲陽は逃げもせず、逆に問いかけけるように首を傾けた。
「それじゃ……」
東雨は、ずっと考えていた呼び名に決めた。
「陽様」
一瞬、玲陽は、当てが外れた顔をした。
てっきり、兄弟の関係で呼ばれるものと思っていた。
東雨も、玲陽の不思議そうな表情の意味を理解して、ぎこちなく、
「なんだか、ずっと、悔しかったんです。若様も、涼景も、凛も、みんな、お名前を呼ぶのに、俺だけ……距離があるみたいで、さみしく……」
玲陽の顔が、やわらかくほどけた。
「ぜひ、それで」
ふわり、と東雨の前髪が春風に揺れた。
「はい! ……陽様!」
目が大きく開き、黒々とした瞳に光が宿る。
ああ、私、この笑顔にやっぱり弱い。
玲陽は、心の中で負けを認めた。
木簡の上から順に目を通し、犀星はそれぞれに応じて政策の案や返答を作成した。
政策案は一度、慈圓に預けられる。経験豊富な慈圓の意見を受け、確認を経てから五亨庵での合議に備えて、専用の箱に蓄える。同時に、補足の資料を作成し、順序立てて一束に綴ることもある。
決着がつくものは、すぐに緑権が手続きを行う。
三人の間を木簡や竹簡が行き来し、時に行方不明となったものは大抵、緑権の几案のどこかから見つかる。
それは、五亨庵で繰り返されてきた日常の風景だった。
玲陽が加わり、犀星と慈圓の仕事は格段に楽になった。玲陽は、ゆっくりだが結果が正確で、最終確認に向いていた。特に算術に強く、算木を用いなくても大抵の計算は暗算で揃えることができた。
五亨庵が担う仕事量は、決して多くはない。
だが、扱う案件の特殊性は際立っていた。
とにかく、目立たない。
他の官僚たちがやりたがらない、労力ばかりを必要とされて、名声や金に直結しないものである。
それらは大抵、犀星が自分で見つけて請け負ってくる。御前会議などで、皆が沈黙し、仕事の押し付け合いの雰囲気が生まれたとき、よろしけれこちらで、と犀星が手を挙げるのがならいになっていた。最近では、五亨庵が引き受けてくれるのではないか、と期待して黙り込む気配すらある。
犀星の選択の基準は明確で、理屈が通っているか否か、である。実現不可能な事柄を引き受けることはない。しかし、他の者がしりごみする難題であっても、勝算があると判断すれば、即決した。
最初は躊躇した慈圓も、今ではその決断力に全幅の信頼を寄せている。
こうして、他者から見れば不可能と思われるような政策を、実績としていくつも積み上げてきた。残念ながら、地味であるがゆえに話題にのぼることは少ないが、その功績は実力となって、確実に犀星の政治能力を伸ばしている。
官僚たちは、犀星を若輩者とあざ笑ってきた。しかし、その不寛容な官僚たちの行動が、結果として犀星を実力者へと育ててしまった。
慈圓には、その構図が面白くてたまらない。
そんな慈圓の胸中を知ることもなく、犀星は黙々と書面と向き合っていた。だが、今日は文字を追う速さが遅い。ときどき、目元が歪むように震えた。
まただ……
犀星は、つとめて表には出さず、息を整えた。
頭痛と耳鳴りが続いていた。
しかも、最近は頻度が増し、さらに、耳鳴りと思っていたものが様子を変えた。
それは、あきらかに、声になった。
壁板の隙間を風が吹き抜けるような微かな音で、確かに言葉となって犀星に届いた。
それはひたすらに、恨み言を呟いた。
誰かがいるわけではない。
ただ、声だけが聞こえる不気味さに、最近はよく眠れなかった。
安珠に相談してみるか。
そうも思ったが、ことを大きくして、玲陽に心配をかけたくはない。
犀星が次の木簡を手に取ったとき、内扉の軋む音がした。玲陽たちが戻るには早すぎる。
「星、いるか?」
力強い声が五亨庵の高い天井に響く。慈圓がぐっと眉間にしわを寄せる。緑権が、ついでに自分の分も、と茶の用意を始める。
言わずもがな、涼景の登場である。慈圓に向かって軽く一礼すると、そのまま中央の几案の前に座る。彼が犀星の席まで行くことはない。そっちが降りて来い、という態度だ。
犀星は黙って中央に降り、涼景の正面に腰掛けた。
涼景は、五亨庵の中を見回した。
「あいつは?」
落ち着かない様子に、犀星は微笑した。
「今、出かけている」
「そうか……」
「そんなに気になるか?」
「……少し、な」
安心したのかがっかりしたのか、わからない微妙な顔だ。涼景が気にしているのは、東雨である。
「あいつ、体調はどうなんだ?」
犀星は静かに首を横に振った。
「あの性格だから、辛くても言わないだろう。薬嫌いのくせに、安珠様からの処方薬は欠かさず飲んでいる」
「そうか……」
涼景は眉を寄せた。
東雨への私情がこぼれる涼景を見て、犀星は自然と口元が緩んだ。
何かと緊張することが多かった涼景と東雨の関係は、『東雨の死』によって確実に変化した。
五亨庵に勤めているのは、十八歳になった、祥雲という字の近侍である。
死亡届が受理された以上、すでに東雨はこの世にいない。それは、長い冬の果てに、運命に立ち向かった少年が勝ち得た未来だった。
その新たな人生を、誰よりも願っていたのは、涼景だった。
それがわかるからこそ、犀星は、心が和んだ。
「……なんだよ?」
涼景は、何か言いたげにこちらを見ている犀星に気づいて、ばつが悪そうにする。
犀星は微笑し、そっと視線をはずした。
涼景は小さく息をつくと、気を取り直し、抱えていた資料を机の上に広げた。文字を記した木簡や、薄布に書かれた図面もある。
犀星も表情を引き締めて、資料に向かった。
昔から、涼景は公私の切り替えが早く、仕事の話は唐突に始まる。
「まもなく夕泉親王が都に戻る」
ふっと、犀星が顔を上げた。頬がわずかに緩み、懐かしむ表情になる。
それを見て、涼景は面白くないと唇を歪めた。
もともと犀星は人嫌いだ。都に来てすぐの頃も、自分や東雨には比較的なついたが、他の者たちとは距離を置いた。
そんな中で、珍しく犀星が気に入ったのが、夕泉親王である。
「おまえは、相変わらず夕泉様に甘いな」
涼景の口調には、どこかすねたような色があった。
犀星はそれを見逃さない。にやりと笑う。
「焼きもちか、将軍」
「誰が焼くか。ただ、警戒しろと言っているだけだ」
十年間、涼景は、宮中で人を信じる危うさを説き続けてきた。それは、夕泉親王に対しても同じだった。
夕泉は、犀星の腹違いの兄であり、宝順の弟である。
温厚な性格で、政治にも権力にも固執せず、ひっそりと息を潜めるようにして宮中のすみで生きてきた。その密やかさは周囲に敵を作らず、同時に興味を持たれることもなかった。
犀星は、そんな夕泉に惹かれたらしく、兄弟として信頼を寄せている。
気が緩んだ顔の犀星を、涼景は苦々しく見た。
陽に勘ぐられるぞ、と言いかけて、涼景は黙った。今はからかっている時ではない。資料に目を落とす。国の西部の地図と、連絡や指令の木簡を順に示して、
「夕泉様が冬の間、寒さを避けて紅蘭を離れていたことは知っているな?」
「ああ。西苑に滞在していたのだろう?」
「そうだ。それが、こたび、戻ってくることになった」
「少し、時期が早くないか?」
犀星は首を傾げた。
「兄上の新邸宅が完成してから、お戻りになる予定だったろう?」
「そうなんだが、少し、事情があってな」
犀星が視線を動かし、思い当たったように、再び涼景を見る。
「もしかして、胡断の影響か?」
涼景は小さく頷いた。
「おまえは、本当に耳が早いな」
犀星の情報源は、市場だ。民の噂は、時として宮中の知らせより早い。
胡断は神出鬼没の盗賊集団である。根城は持たず、追跡と根絶は難しかった。もともとは、三年前の北方の国・千義との戦いのおり、本隊に見捨てられた騎馬民族の残党である。少数の精鋭部隊がいくつも存在し、機動力がある。停戦後も本国に戻らず国内にとどまり、火付け、強盗、人さらい、と、荒っぽく暴れ回っていた。各地の警備隊が捉えようと躍起になったが、短時間で荒らして風のように逃げ去ってしまう。旅人にとっては、大きな脅威だった。
「最近、胡断が、西苑近郊で動いていると聞いた。旅の商団も被害にあったとか。兄上は大丈夫なのか」
「今のところは」
涼景は、木簡をいくつか動かした。夕泉から送られてきた西苑近郊の状況と、帰還に向けての護衛の要請が記されている。地図の道を示して、
「街道沿いに、賊が頻出していてな。このままでは、どうしたところで衝突する。しかも、連中、ご丁寧に夕泉様を狙っての犯行声明まで出してくれた」
「兄上を人質にして、揺する気か?」
「おそらく。陛下も夕泉様を握られては、無視もできまい」
涼景の言葉には、苛立ちが混じっている。それは胡断の行いに対するものではない。宝順帝が夕泉と兄弟の繋がりを超えていることは、宮中の誰もが知るところである。それは愛情とは程遠い支配に過ぎない。そうではあっても、一度自分が手に入れたものを奪われることを、宝順が許すとは思われなかった。
「万が一、夕泉様が胡断に囚われれば、よくて隣国への売却、悪ければ殺される可能性もある」
涼景は、蛮族に関わる資料を差し出した。
「それで、夕泉様の私兵の他に、紅蘭からも援軍を送るよう、要請がきたわけだ」
「兄上の護衛ならば、左近衛の担当だろう? どうしておまえが俺にそんな話をする?」
涼景は上目遣いに犀星を見た。
面倒が起きた。
その顔は無言で告げていた。
やはりな、と犀星は腹の中で納得した。
涼景が五亨庵の扉を叩くたび、東雨が『面倒ごとを持ち込む』とぼやくのは正論だった。また、頭痛が悪化しそうだ。
「胡断は実戦慣れしている。宮中任務が主要で野戦経験のない左近衛には、荷が重い案件だ」
「正規軍を、出すのか?」
「そうなる」
涼景は、気乗りのしない顔だ。犀星は思い出しながら、
「左近衛隊長の備拓は、かつて正規軍の指揮官だったと聞く。彼が率いるのが筋だと思うが?」
「ああ。誰もが、そうなると踏んでいたのだが……」
涼景は、少々投げやりな語気で、
「夕泉様ご自身が俺を指名してきた。それに、左近衛の副長、夏史も俺を推薦した」
犀星はおし黙った。
これは、犀星なりの不服のあらわれだ。
表情はさほど変わらなくても、涼景には少しの変化でそれがわかる。長年の勘は鋭かった。
「いくら兄上のためとはいえ……」
犀星は言い淀んだが、心は決まっていた。
「おまえは俺の近衛だ。手放す気はない」
涼景の口元に、満足そうな笑みが浮かんだ。
「それが聞けただけで十分だ」
胸がすく。
涼景は目を細め、緑権が置いて行った茶を飲んだ。
「すでに宝順から、俺に幕環将軍としての直任が下りている。おまえには済まないが、しばらくは備拓様の警護下に入ってくれ」
「…………」
「なんだ? 寂しいのか?」
涼景はにやにやしながら、身を乗り出した。
「いや……」
犀星は、まったく別のことを考えていた。
「納得できないことが多すぎる」
「気になるなら言え。抱えるのは良くない」
涼景は腕を組んで、腰を据えた。犀星は西方の地図を見ながら、
「胡断はなぜ、わざわざ宣戦布告を?」
「それがあいつらのやり方だから」
涼景の返答は早い。
「そうやって警備隊を引っ張り出し、失敗させて名を落とす。単なる自己顕示欲とも取れるが、いつもの手だな」
「それにしても、親王誘拐とは、ずいぶん吹いたものだ」
「本国にも落伍者として帰るあてもない連中だ。追い詰められているのかもな」
「万が一、兄上が胡断の手に落ちれば、千義との関係もまた、悪化するな」
「そういうことだ。何がなんでも、止めねばならない」
犀星は頷いた。
「国家規模で、失敗が許されないことはわかった。だが、次に疑問なのは、兄上がなぜ、おまえを指名したか。左近衛の経験不足は否めないとして、やはり、備拓か禁軍対象の然韋を抜擢するのが自然だと」
涼景は少し声を低めた。
「俺が、おまえのものだと知っているから、か」
ぴくっと犀星の眉が動いた。
「涼景、その言い方は……」
「冗談だ。単純に、備拓や然韋が嫌いか、実戦慣れしている俺を選んだだけだろう。まぁ、夕泉殿下にはそのあたりのこと、直接伺ってみるさ。俺たちの知らない何かがあるのかもしれない」
犀星は頷き、さらに考えながら、
「夏史もそれに賛同したと言ったな?」
「ああ。心にもない世辞を並べて、俺しかいない、と」
「確か以前、夏史と備拓がうまくいっていない、と言っていなかったか? もし今も改善されていないなら、わざと、備拓に恥をかかせるための言動とも取れるな」
涼景は、ばつが悪そうに横を向いた。
「それもあるかもな。夏史の場合、俺に対する嫌がらせの可能性も捨てきれないし。まぁ、純粋に、夕泉様にとって最も良い選択をした、とも考えられる。知っての通り、あの親王は『他の兄弟』に似ず、敵をつくる性格ではないから、夏史とて親身になる」
「……悪かったな」
「敵もいないが、同時に、真の味方もいない」
一瞬、犀星は言葉に詰まった。
涼景の目が、まっすぐに犀星を見る。
惚れているのか、とさえ思わせる涼景の忠誠は、犀星を複雑な気持ちにさせる。真意を問うたことはないが、触れてはならない気もした。
「真実がどうであれ、するべきことは一つ」
涼景は声を高めて、遮った。
「宝順の命令だ。従うしかない」
犀星は黙った。
「まったく……」
涼景はやれやれと首を振った。
「おかげで、然韋には、また、嫌味を言われた」
犀星も、細く長く息をはいた。
現在の禁軍大将・然韋は、涼景を毛嫌いしている。
然韋は武人としての威厳も、経験も備え、彼以外に務まる者はないであろうと言われる軍部の逸材だった。家柄も良く、学識もある。皇帝からの信用も得ている。
しかし、その一方で、ことあるごとに涼景を敵視する。
夕泉親王の護衛に伴う幕環将軍への着任。皇帝から下されたこの命令は、確実に然韋の不満を招く。その矛先は、宝順ではなく、涼景に向く。
然韋が涼景を疎む原因は、はっきりしていた。
公然の秘密、とされる、涼景と宝順との関係性である。
歌仙で暮らす妹・燕春の身に危険が及ばないよう、涼景は自らを贄とすることを選んだ。その姿勢は、然韋にとっては見苦しく、浅ましいものと見えるのだろう。
色に漬け込んで、皇帝にすがる恥知らず。
涼景にまつわる陰口は単なる噂ではなく、不幸な事実だった。
「事情はわかった」
犀星は声を抑えた。
「兄上の警護、すまないがよろしく頼む……」
「おまえが詫びることじゃない」
涼景はあえて明るく声を張った。
「久しぶりに夕泉様に会いたいだろ? すぐに会わせてやるから、大人しく待っていろ」
それでも、犀星の顔色は冴えない。まだ何かを思い詰めているようだ。
「涼景」
いつもより、丁寧に名を呼ばれて、涼景は一瞬、息を止めた。
「西苑には、慣れた者を伴え。湖馬がいい」
「俺は、一人でも……」
「連れて行ってくれ」
あまりにまっすぐな犀星の目に、涼景は口を閉ざした。
「軍事上の理由じゃない。それくらい、わかるだろう?」
おまえが心配だ。
犀星の目は、友の目だ。
「必要なら、王旨を出すぞ」
「おいおい、そこまでしなくても」
涼景は何度か頷き、表情を緩めた。
「わかった。おまえの安心のために、連れて行く」
犀星は頷いた。
五亨庵の中に秘密は無い。
涼景と犀星の会話は、全て、慈圓の耳にも筒抜けであった。
慈圓はいつも通り、良い姿勢を保っていたが、手にした筆の先は乾いていた。
涼景を、親代わりとして育ててきた慈圓である。彼が今置かれている状況は、決して看過できるものではなかった。
あまりにも敵を作りすぎた。
それは、ひとえに自身の導き方が良くなかったのではないかと、口には出さないが、思うところであった。
涼景は、早くに親を亡くし、家名と妹の命を負った。人一倍、物事に熱心で、陰で労苦を重ねてきた。周囲からは天才だともてはやされたが、その裏に血のにじむ努力があったことを、慈圓は知っている。
それゆえに、今もなお、必死に走り続けようとする愛弟子の姿が、慈圓には危うくてならない。すでに国家の重積を担う涼景にしてやれることは、その背後を守ることだけだった。
慈圓は席を立つと、中央へと階段を降りた。振り返って慈圓と顔が合うと、涼景は少し気が休まった。いつまでも慈圓は自分の師であり、父に変わる存在だ。
「留守のことは心配するな」
慈圓は笑みを浮かべた。涼景はただの警護だという言い方をしたが、事実上は戦と同じで、犀星が不安を抱くのも、慈圓が苦痛を感じるのも、至極自然なことであった。
「ご安心ください」
涼景は、まるで自分に言い聞かせるように、
「胡断討伐の命が出たわけではありません。あくまでも、夕泉様を無事に都まで護衛するのが役目ですから」
慈圓はそこに言及せず、ただじっと涼景の顔を見た。すっかりたくましくなったが、慈圓の目には幼い頃の面影が焼き付いている。
黙って見つめ合う慈圓と涼景を、犀星は静かに眺めていた。その目には、戦いへの不安とはまた違う、彼にしかわかりえない何かが潜んでいた。
夜の天輝殿には魔物が蠢く。
いつの頃からかそんな話がまことしやかに宮中に広がっていた。警備にあたる禁軍と近衛のほかに近づくものはいない。
新月の夜。
月光届かぬその日だけは、宝順の心は安らいだ。
側近を遠ざけ、石の間に座る。
灯りを求めず、闇の中にただ一人。
どれほど洗い清めても拭い去れない血と嘆きの声が染み付いた床や壁から、闇より濃い黒がにじみ出て、自分を取り殺す感覚に埋もれていく。
死ぬに死ねず、終わらせることもできない時間はひたすら、幼い心を締め上げた。
「伯華……」
時折、つぶやく、名。
その響きは、幼子が母を呼ぶのに似ていた。
玲陽と東雨にとって、忘れられない一冬が過ぎ、春の暖かさは例年になく二人を温めてくれた。日差しばかりではない。隣を歩く人の存在が、何よりも大きかった。
偶然と必然の結末。
まるで、辛い季節に耐えた二人への贈り物であるかのように、彼らは兄と弟になった。
東雨は時々、そのことを思い出してはこっそりと微笑む。
「東雨どの?」
玲陽は、自分を見上げてにっこりと笑う東雨を、不思議そうに見た。
「なんでもありません、光理様」
東雨は明らかに、何かあるという顔である。
玲陽はなんとなくその意図がわかって、同じように笑みを浮かべた。
東雨どのは、私の弟なんですよね……
ただ並んで歩くだけでも、気恥ずかしい気がする。
どちらからも、その話題に深く触れるのを避けて、春を迎えてしまった。
「どんな資料が必要でしょうか?」
東雨は早くなる胸を抑えて、何気ないふうを装って尋ねた。
「東雨どのは、どんなものが必要だと思いますか」
玲陽が、自分に意見を求めるのは、自分で考えることを促すためだ。
意図が透けて見えて、東雨は嬉しかった。
「そうですね……まず、正確な地図が必要だと思います。それから、玄草様がおっしゃっていた過去の亀池の記録。これは絶対に大事です」
「はい。年数が経っていますから、変化している条件もあるでしょうが、学ぶところは多いと思います」
玲陽の言葉に、東雨は少し安心して、気持ちが楽になった。思いついたことを、どんどん口にする。
「それから、他の養殖池についての記載があれば、それも参考にできると思います。もちろんよその国のものでもいいですが、俺には想像もつきません」
玲陽はうなずいた。
「私もです。一度に全て集めようとすると膨大になるでしょうから、少しずつにしましょう。まずは亀池の記録と、この近隣の前例、可能であれば、似た気候の地域のものを探しましょう」
「はい、光理様」
東雨の素直さは相変わらずだ。歳はもう十八を超えたというのに、少年のようである。本人は、大人扱いしてもらえない、と憤慨するが、玲陽には、その初々しさが嬉しかった。
「堤防の作り方とか、技術的な資料は、探さなくても大丈夫ですか?」
東雨は、首を傾げた。
「一応、探してみましょう。一通りの資料は玲家から取り寄せてありますが、広く知識を得るのはよいことですし」
「でも、光理様の頭の中に、もう、全部入ってる気がします」
玲陽は少し照れた。
「私のは、ほんの少しだけです。子供の頃、兄様と一緒に山の中に池を作ってみたり、水の流れを変えて水路を走らせたりしていて」
「ずいぶん、変わった遊び方をしてたんですね」
東雨は面白がった。
「私たちにとっては、山が遊び場でしたから」
玲陽は何気なく、
「東雨どのはどんな……」
と言いかけ、慌てて黙った。東雨は、子供らしい時間を過ごしたことがない。野山はおろか、道端で遊ぶこと、子ども同士で関わることさえなかったはずだ。
玲陽の心を読んだように、東雨は首を振った。
「気を使わなくて大丈夫です。俺だって、色々楽しみはありましたよ」
その言い方は、玲陽を安心させる優しさに溢れていた。
「俺は、きれいなものを見るのが好きでした」
「きれいなもの?」
「はい。花や鳥や、空に月に……星……」
一瞬、声が小さくなる。それから続けて、
「あと、きれいな布が好きです」
「布、ですか? 着物ではなくて?」
玲陽は少し、首を傾げた。それは、東雨が大好きな仕草だった。
「着物もいいですけど、布の方が」
「なぜです?」
「布はいろんな使い方ができます。毛氈にしたり、何かを包んだり、どこかに掛けたり、自分で気に入るように好きにいろいろ。着物より布のままの方がいろいろなことが想像できて……それで」
玲陽は、嬉しそうに目を細めた。
東雨は気づいていなかったが、玲陽には彼の変化がよくわかった。
東雨が、自分が好きなものを堂々と語るのは、初めてだ。それは、東雨が一人の人間として、自分自身と向き合ったことの証だった。
自分の気持ちよりも優先すべきことが、幼い頃から東雨を縛り付けてきた。そこから解放され、彼はやっと自分らしくあることを許されたのだ。
玲陽には、それが心から嬉しい。
できるならば、このままのびのびと、今までの分まで幸せになって欲しいと願う。
五亨庵から秘府までの道は、明るく朗らかだ。
南を過ぎて中央との境の緑地、八穣園に入ると、芽吹き始めた草花がそこかしこに見える。殺風景だった冬の庭は、少しずつ春の装いに変わっていた。枯れ草の間から覗く黄緑の芝生が、目に鮮やかだ。
花の季節はまだ先だが、すでにあたりの空気は柔らかく、ほのかに甘い。
八穣園の西側に、池の水面が光って見えた。
「そうだ、少し見ていきませんか」
東雨が、明るい声で玲陽を誘った。
「でも、秘府へのお遣いが……」
「少しくらい、大丈夫ですよ。それに、実物を見るのも、大事です」
東雨は、楽しそうに笑いかけた。玲陽は、あっさりとその笑顔に負けた。姿はまるで違うのに、東雨の雰囲気はどこか、犀星に似ている気がした。
冬の間は閉鎖されていた池も、周囲の縄が解かれている。水はまだ冷たい。
玲陽は、丸石が並べられた池の淵にしゃがみ込んだ。
五亨庵の敷地より広い水面は、うっすらと緑に輝いていた。
ここを訪れる者たちは、水面に浮かぶ蓮の花や、その隙間を鱗を光らせて泳ぐ鯉、木陰が水に美しく揺れる様子などを楽しみにする。だが、玲陽が見ているのは、まるで違う。池そのものである。
東雨は、玲陽の隣にぴったりと寄り添って膝をついた。
こうして並んでいると、本当に兄弟みたいですね。
体温が伝わってくるようで、玲陽は目を細めた。
玲陽の視線に気づかずに、東雨は難しい顔をして、水の中を覗き込んでいた。
「この池も、造り方は亀池と同じなんですよね」
今まで見ようともしなかった池の構造に、東雨は興味を持った。五亨庵で玲陽が説明してくれたことを思い出す。
手を水に差し入れて、へりを触りながら確かめる。ただの石のように思っていたが、それは竹や木の板を合わせ、隙間を粘土で埋めたものだという。
底を覗いたが、水草が揺れるばかりである。玲陽によると、水が染み込まないよう、石や粘土で覆われているとのことだった。
東雨はふっと目線を上げて、池の向こう岸までを見渡した。
八穣園の池は十分に大きい。だが、話に出ている亀池は、この五倍以上ある。しかも今回彼らが作ろうとしているのは、さらにその倍だ。
「大きければ大きいほど、良いのでしょうか」
東雨は眉を寄せて言った。
「そうとも言い切れません」
玲陽は言葉を選んで答えた。
「大きければ効率は良いでしょうが、管理するのが大変です。池を広げるのは、管理方法を確立してからの方が良さそうですね」
「確かに。お金だって……」
東雨は、途中で口をつぐんだ。玲陽は消えた語尾の行方を想像して苦笑した。
池の周囲では、多くの女性たちが色とりどりの大きな傘の下で笑い声を立て、くつろいでいる。彼らのうちのひとりが、玲陽に気づいた。瞬く間に、話が広がったようで、揃ってこちらを見ながら、しきりに何か言い合っている。
玲陽は、気まずそうにうつむいた。
玲陽の存在は、宮中の者たちにも知れ渡っている。噂を立てらるのはやむないとしても、彼らのうちの何人かは、なぜか、自分に対して仇でも見るような目を向ける。
その理由に、一つ、心当たりがあった。
犀星だ。
犀星の元には、頻繁に恋文が届く。身分も年齢も男女も問わない。そのたびに犀星は断りの文言に苦労していた。特に、権力を持つ官僚の親族への返答には、気を遣った。最近では、返事はすべて玲陽が書いている。
「あの、東雨どの?」
玲陽は、恐る恐る訊ねた。
「兄様は、宮中の方に、特別人気があるのでしょうか?」
「え? ないですよ」
東雨はあっさりと否定した。
「みんな、若様のこと軽く見てますから。だいたい、人気があったら、こんなに予算で苦しんだりしません。援助してくれる人が現れるはずで……」
「ああ、いえ、そういう意味じゃなくて」
玲陽は言いにくそうに、
「その、ですね……恋文が……」
「ああ!」
東雨は、途端に明るい顔になった。
「そういう意味ですか」
「そういう意味で……」
玲陽の語尾が消沈する。
東雨は、しっかりと膝を抱えて座りなおした。
「人気、あります。もう、容赦ないくらい。何かの策略か攻撃なんじゃないかってくらい」
「やっぱり……」
玲陽は、息ができない、というように胸を押さえた。
「理由はいろいろだと思います」
東雨は、指折り、心当たりを並べ始めた。
「まず、外見が綺麗ですし、血筋が親王ですから申し分ない。しかも、最近は政治的な実績も上げてきていて、将来性もあります。誰もが不可能だって投げ出す仕事を、奇抜な方法で次々に解決していくところなんて、文句無しに格好いいです。まぁ、得になることはないので、誰も味方にはなってくれませんけど……立ち居振る舞いも美しくて、媚びたり下手に出ることもなく毅然としていらっしゃる。剣術の腕前も一流ですし、学問にも秀でています。芸事が不得手なのも可愛さの内ですし、若くて健康で、浮気性でもない上に、まだ妾すらいない」
これでもか、というくらいに、東雨の口から犀星への賛辞があふれてくる。玲陽の目が丸くなる。それでも東雨は止まらない。
「感情が薄いとか言われますけど、本当は誰よりも気持ちが動く人で、その優しさがあまりに深くて暖かくて、それなのに押し付けがましくなくて、包み込むみたいで安心させてくれて。不器用なくせに、ずるいくらいに甘えさせてくれて。飾らず、気取らず、素直でまっすぐで、涙もろくて傷つきやすくて。辛くても、誰かに頼るより、自分で自分を抱きしめて涙ぐんで、体を丸めて眠るような人で……もう、守って差し上げたくなっちゃって……」
途中から、玲陽の顔に呆れが浮かんでいた。
「あの、それは……宮中の皆さんの評価ではなく、東雨どのの個人的なものなのでは……」
「でも!」
東雨は頬を上気させ、玲陽を見つめた。
「光理様なら、わかってくださいますよね! 若様の魅力!」
「それは……」
ふっと、顔が赤くなるのを感じて、玲陽も膝を抱え、少し背中を丸めた。
犀星の魅力。
語り始めたら、きっと日が暮れてしまうだろう。
玲陽は胸に浮かぶ様々な面影に揺れながら、水面を見つめた。
二人並んで、奇妙な沈黙の時間が流れた。
五亨庵の二人を遠巻きに眺め、あれこれと話の種にする貴人たちを、玲陽はぼんやりと見た。
芝生に伸びる影が、少し、角度を変えて短くなった。
「東雨どの」
玲陽は、そろそろ秘府に行かねば、と思いながら、まだゆっくりしたい心持ちで、話しかけた。
「最近、体の具合はいかがですか?」
それは、一歩、心に踏み込んだ問いかけだった。
東雨は無意識に身を縮めた。
東雨の体には決して消えることのない深い傷が残されている。傷は痛みを伴うばかりか、東雨の人生そのものを変えてしまった。一命は取りとめたが、心の傷は生涯残る。それは、玲陽にも身に沁みてわかっている。
「東雨どのは我慢強いので、心配です」
その声は優しく、東雨の柔らかいところを、じんわりと温める。
玲陽はじっと東雨を見つめ、思いをはせた。
命と引き換えに身体に刻まれた、消えない傷。
触れたら痛むのに、目を背けることもできない。誰もが気遣い、言葉にしない。見なかったことにして、そのまま顔を背けて済ませてしまいたい。
しかし、傷に触れられることよりも、それを恐れて腫れ物に触るように、顔を背けられる方が辛い。
玲陽は自分の経験から、そう感じていた。
誰かが問わねばならないなら、自分がするべきだ。
東雨にも、玲陽の深い思いが伝わっていた。
「もしかして、傷が痛むのではありませんか」
玲陽の声は優しく、東雨の心を包み込んだ。
東雨は、明るくも暗くもない表情で、じっと水面を見つめていた。
「どうしてですか?」
まるで、答えを当ててみてください、と言わんばかりの、甘えた声で聞き返す。
玲陽が自分のことをしっかりと見て、寄り添おうとすることが、東雨には嬉しかった。
玲陽は静かに、
「お薬が苦手なのに、安珠様から出されたものをちゃんと欠かさずに飲んでらっしゃいます。飲みたいのではなくて、飲まずにはいられないのではないかと」
「……俺、光理様のそういうところ、好きです」
東雨は素直に、
「あまり自分のことを言うの、得意じゃないので……わかってもらえてるって思ったら、すごく安心します」
その言葉は、あまりにもいじらしく、玲陽には聞こえた。
自分を知られること。それは、間者であった東雨にとって、あってはならないことだった。だが、それを受け入れ、自分を知って欲しいと堂々と言える今の東雨は、明らかに変わりつつある。
「正直、傷は痛みます」
東雨は、水面の輝きを見ながら、
「安珠様に言われました。痛みや違和感は、ずっと残るだろうって。慣れるまで、薬は飲んでいいけれど、続けるのは体によくないから、少しずつ減らすように、って」
「そう、でしたか」
玲陽は、自分の背中の火傷を意識した。引き攣る痛みが、朝と夕に強く出る。左手の指も、天候や疲労でよく痛む。
いつしか、痛みのない体を、忘れてしまった。それは、慣れではなく、諦めに近い。
「私が仰向けに眠らないの、ご存知でしょう?」
唐突に、玲陽は言った。
「そういえば、いつも横かうつ伏せですね」
一緒に暮らす中で、東雨はごく自然に玲陽の寝姿を目にしている。
「私の背中には火傷があって、触れると痛むんです。もう、十年になります」
「…………」
「他にも、身体中に傷が残っている。私は、これが嫌で……」
東雨は、玲陽の肌の深いところを見たことはない。だが、いつも肌の透けない濃い色の着物を選び、水仕事の時も袖をまくらないのは、傷を隠すためだと察していた。
「でも、兄様が言ってくれたんです」
玲陽は、まっすぐに対岸の木々を見つめた。
「この傷は、私がその痛みを乗り越えて、打ち勝って、生きることを手に入れた証なんだ、って。だから、誇っていい、と」
東雨の目元が、泣きそうに歪んだ。しかし、唇はゆるやかに笑っていた。
「本当、若様って、そういうこと、さらっと言うの、ずるい」
「ええ、私もそう思います」
二人は顔を見合わせた。どちらにも、同じ微笑が浮かんでいた。
「東雨どの」
玲陽の声は、暖かい。
「私にできることなら、なんでも言ってください。私が苦しいとき、あなたにどれだけ助けられたかわからない。私も、あなたの力になりたいんです」
東雨は、優しく目を細めた。誰かの好意を、こんなにも素直に受け止めることができる自分が、不思議ですらあった。
「俺は、光理様を助けたなんて思っていませんけれど、遠慮なく甘えたいです」
その言葉に、玲陽は少し驚いた。それから、意味ありげな笑みを浮かべる。
「東雨どの、兄様に似てきました。そういうところ、ずるいです」
可愛らしく笑う東雨は、まだ、少年の面影だ。
「光理様は……」
東雨は、距離を測るように言葉を続けた。その頬は、羞恥と緊張でかすかに紅潮していた。
「俺の……なんですよね」
口にできない、本当は何よりも伝えたい一語が、可愛らしかった。玲陽はほころぶように笑った。
「そうですよ。だから、いくらでも甘えてください」
あっさりと認める。それがあまりにも自然で、東雨は照れた。
「……なんてお呼びしたらいいのかって」
東雨は真剣だった。
大人なのだから、兄上、と呼ぶべきか。
少し甘えて、兄様と呼んでも許されるか。
それとも、格式をもって、兄君が良いのか。
玲陽本人に相談もできず、東雨はずっと決めあぐねていた。結局、以前の通り、光理様、で通している。
実のところ、玲陽は東雨のその葛藤を察していた。そして、あえて自分からは触れなかった。
東雨が手探りしながら、自身の気持ちと向き合う時間。しかも、決して辛い選択を迫るのではなく、どこか甘くて愛おしい難問。
それは、かつて、玲陽もまた、犀星に対して抱いた迷いに似ていた。
口を結んで考えている東雨に、玲陽の透き通る声がささやく。
「東雨どののお好きなように」
玲陽の微笑みに、東雨の目が戸惑う。
「なんと呼ばれようと、私は私です」
東雨は、はっとした。
今の言葉は、そのまま自分に返ってきたものだ。
なんと呼ばれようと、自分は自分。
東雨と呼ばれようと、祥雲と呼ばれようと。
体を向けて、東雨は玲陽を見つめた。少しだけ首を伸ばして顔を近づける。玲陽は逃げもせず、逆に問いかけけるように首を傾けた。
「それじゃ……」
東雨は、ずっと考えていた呼び名に決めた。
「陽様」
一瞬、玲陽は、当てが外れた顔をした。
てっきり、兄弟の関係で呼ばれるものと思っていた。
東雨も、玲陽の不思議そうな表情の意味を理解して、ぎこちなく、
「なんだか、ずっと、悔しかったんです。若様も、涼景も、凛も、みんな、お名前を呼ぶのに、俺だけ……距離があるみたいで、さみしく……」
玲陽の顔が、やわらかくほどけた。
「ぜひ、それで」
ふわり、と東雨の前髪が春風に揺れた。
「はい! ……陽様!」
目が大きく開き、黒々とした瞳に光が宿る。
ああ、私、この笑顔にやっぱり弱い。
玲陽は、心の中で負けを認めた。
木簡の上から順に目を通し、犀星はそれぞれに応じて政策の案や返答を作成した。
政策案は一度、慈圓に預けられる。経験豊富な慈圓の意見を受け、確認を経てから五亨庵での合議に備えて、専用の箱に蓄える。同時に、補足の資料を作成し、順序立てて一束に綴ることもある。
決着がつくものは、すぐに緑権が手続きを行う。
三人の間を木簡や竹簡が行き来し、時に行方不明となったものは大抵、緑権の几案のどこかから見つかる。
それは、五亨庵で繰り返されてきた日常の風景だった。
玲陽が加わり、犀星と慈圓の仕事は格段に楽になった。玲陽は、ゆっくりだが結果が正確で、最終確認に向いていた。特に算術に強く、算木を用いなくても大抵の計算は暗算で揃えることができた。
五亨庵が担う仕事量は、決して多くはない。
だが、扱う案件の特殊性は際立っていた。
とにかく、目立たない。
他の官僚たちがやりたがらない、労力ばかりを必要とされて、名声や金に直結しないものである。
それらは大抵、犀星が自分で見つけて請け負ってくる。御前会議などで、皆が沈黙し、仕事の押し付け合いの雰囲気が生まれたとき、よろしけれこちらで、と犀星が手を挙げるのがならいになっていた。最近では、五亨庵が引き受けてくれるのではないか、と期待して黙り込む気配すらある。
犀星の選択の基準は明確で、理屈が通っているか否か、である。実現不可能な事柄を引き受けることはない。しかし、他の者がしりごみする難題であっても、勝算があると判断すれば、即決した。
最初は躊躇した慈圓も、今ではその決断力に全幅の信頼を寄せている。
こうして、他者から見れば不可能と思われるような政策を、実績としていくつも積み上げてきた。残念ながら、地味であるがゆえに話題にのぼることは少ないが、その功績は実力となって、確実に犀星の政治能力を伸ばしている。
官僚たちは、犀星を若輩者とあざ笑ってきた。しかし、その不寛容な官僚たちの行動が、結果として犀星を実力者へと育ててしまった。
慈圓には、その構図が面白くてたまらない。
そんな慈圓の胸中を知ることもなく、犀星は黙々と書面と向き合っていた。だが、今日は文字を追う速さが遅い。ときどき、目元が歪むように震えた。
まただ……
犀星は、つとめて表には出さず、息を整えた。
頭痛と耳鳴りが続いていた。
しかも、最近は頻度が増し、さらに、耳鳴りと思っていたものが様子を変えた。
それは、あきらかに、声になった。
壁板の隙間を風が吹き抜けるような微かな音で、確かに言葉となって犀星に届いた。
それはひたすらに、恨み言を呟いた。
誰かがいるわけではない。
ただ、声だけが聞こえる不気味さに、最近はよく眠れなかった。
安珠に相談してみるか。
そうも思ったが、ことを大きくして、玲陽に心配をかけたくはない。
犀星が次の木簡を手に取ったとき、内扉の軋む音がした。玲陽たちが戻るには早すぎる。
「星、いるか?」
力強い声が五亨庵の高い天井に響く。慈圓がぐっと眉間にしわを寄せる。緑権が、ついでに自分の分も、と茶の用意を始める。
言わずもがな、涼景の登場である。慈圓に向かって軽く一礼すると、そのまま中央の几案の前に座る。彼が犀星の席まで行くことはない。そっちが降りて来い、という態度だ。
犀星は黙って中央に降り、涼景の正面に腰掛けた。
涼景は、五亨庵の中を見回した。
「あいつは?」
落ち着かない様子に、犀星は微笑した。
「今、出かけている」
「そうか……」
「そんなに気になるか?」
「……少し、な」
安心したのかがっかりしたのか、わからない微妙な顔だ。涼景が気にしているのは、東雨である。
「あいつ、体調はどうなんだ?」
犀星は静かに首を横に振った。
「あの性格だから、辛くても言わないだろう。薬嫌いのくせに、安珠様からの処方薬は欠かさず飲んでいる」
「そうか……」
涼景は眉を寄せた。
東雨への私情がこぼれる涼景を見て、犀星は自然と口元が緩んだ。
何かと緊張することが多かった涼景と東雨の関係は、『東雨の死』によって確実に変化した。
五亨庵に勤めているのは、十八歳になった、祥雲という字の近侍である。
死亡届が受理された以上、すでに東雨はこの世にいない。それは、長い冬の果てに、運命に立ち向かった少年が勝ち得た未来だった。
その新たな人生を、誰よりも願っていたのは、涼景だった。
それがわかるからこそ、犀星は、心が和んだ。
「……なんだよ?」
涼景は、何か言いたげにこちらを見ている犀星に気づいて、ばつが悪そうにする。
犀星は微笑し、そっと視線をはずした。
涼景は小さく息をつくと、気を取り直し、抱えていた資料を机の上に広げた。文字を記した木簡や、薄布に書かれた図面もある。
犀星も表情を引き締めて、資料に向かった。
昔から、涼景は公私の切り替えが早く、仕事の話は唐突に始まる。
「まもなく夕泉親王が都に戻る」
ふっと、犀星が顔を上げた。頬がわずかに緩み、懐かしむ表情になる。
それを見て、涼景は面白くないと唇を歪めた。
もともと犀星は人嫌いだ。都に来てすぐの頃も、自分や東雨には比較的なついたが、他の者たちとは距離を置いた。
そんな中で、珍しく犀星が気に入ったのが、夕泉親王である。
「おまえは、相変わらず夕泉様に甘いな」
涼景の口調には、どこかすねたような色があった。
犀星はそれを見逃さない。にやりと笑う。
「焼きもちか、将軍」
「誰が焼くか。ただ、警戒しろと言っているだけだ」
十年間、涼景は、宮中で人を信じる危うさを説き続けてきた。それは、夕泉親王に対しても同じだった。
夕泉は、犀星の腹違いの兄であり、宝順の弟である。
温厚な性格で、政治にも権力にも固執せず、ひっそりと息を潜めるようにして宮中のすみで生きてきた。その密やかさは周囲に敵を作らず、同時に興味を持たれることもなかった。
犀星は、そんな夕泉に惹かれたらしく、兄弟として信頼を寄せている。
気が緩んだ顔の犀星を、涼景は苦々しく見た。
陽に勘ぐられるぞ、と言いかけて、涼景は黙った。今はからかっている時ではない。資料に目を落とす。国の西部の地図と、連絡や指令の木簡を順に示して、
「夕泉様が冬の間、寒さを避けて紅蘭を離れていたことは知っているな?」
「ああ。西苑に滞在していたのだろう?」
「そうだ。それが、こたび、戻ってくることになった」
「少し、時期が早くないか?」
犀星は首を傾げた。
「兄上の新邸宅が完成してから、お戻りになる予定だったろう?」
「そうなんだが、少し、事情があってな」
犀星が視線を動かし、思い当たったように、再び涼景を見る。
「もしかして、胡断の影響か?」
涼景は小さく頷いた。
「おまえは、本当に耳が早いな」
犀星の情報源は、市場だ。民の噂は、時として宮中の知らせより早い。
胡断は神出鬼没の盗賊集団である。根城は持たず、追跡と根絶は難しかった。もともとは、三年前の北方の国・千義との戦いのおり、本隊に見捨てられた騎馬民族の残党である。少数の精鋭部隊がいくつも存在し、機動力がある。停戦後も本国に戻らず国内にとどまり、火付け、強盗、人さらい、と、荒っぽく暴れ回っていた。各地の警備隊が捉えようと躍起になったが、短時間で荒らして風のように逃げ去ってしまう。旅人にとっては、大きな脅威だった。
「最近、胡断が、西苑近郊で動いていると聞いた。旅の商団も被害にあったとか。兄上は大丈夫なのか」
「今のところは」
涼景は、木簡をいくつか動かした。夕泉から送られてきた西苑近郊の状況と、帰還に向けての護衛の要請が記されている。地図の道を示して、
「街道沿いに、賊が頻出していてな。このままでは、どうしたところで衝突する。しかも、連中、ご丁寧に夕泉様を狙っての犯行声明まで出してくれた」
「兄上を人質にして、揺する気か?」
「おそらく。陛下も夕泉様を握られては、無視もできまい」
涼景の言葉には、苛立ちが混じっている。それは胡断の行いに対するものではない。宝順帝が夕泉と兄弟の繋がりを超えていることは、宮中の誰もが知るところである。それは愛情とは程遠い支配に過ぎない。そうではあっても、一度自分が手に入れたものを奪われることを、宝順が許すとは思われなかった。
「万が一、夕泉様が胡断に囚われれば、よくて隣国への売却、悪ければ殺される可能性もある」
涼景は、蛮族に関わる資料を差し出した。
「それで、夕泉様の私兵の他に、紅蘭からも援軍を送るよう、要請がきたわけだ」
「兄上の護衛ならば、左近衛の担当だろう? どうしておまえが俺にそんな話をする?」
涼景は上目遣いに犀星を見た。
面倒が起きた。
その顔は無言で告げていた。
やはりな、と犀星は腹の中で納得した。
涼景が五亨庵の扉を叩くたび、東雨が『面倒ごとを持ち込む』とぼやくのは正論だった。また、頭痛が悪化しそうだ。
「胡断は実戦慣れしている。宮中任務が主要で野戦経験のない左近衛には、荷が重い案件だ」
「正規軍を、出すのか?」
「そうなる」
涼景は、気乗りのしない顔だ。犀星は思い出しながら、
「左近衛隊長の備拓は、かつて正規軍の指揮官だったと聞く。彼が率いるのが筋だと思うが?」
「ああ。誰もが、そうなると踏んでいたのだが……」
涼景は、少々投げやりな語気で、
「夕泉様ご自身が俺を指名してきた。それに、左近衛の副長、夏史も俺を推薦した」
犀星はおし黙った。
これは、犀星なりの不服のあらわれだ。
表情はさほど変わらなくても、涼景には少しの変化でそれがわかる。長年の勘は鋭かった。
「いくら兄上のためとはいえ……」
犀星は言い淀んだが、心は決まっていた。
「おまえは俺の近衛だ。手放す気はない」
涼景の口元に、満足そうな笑みが浮かんだ。
「それが聞けただけで十分だ」
胸がすく。
涼景は目を細め、緑権が置いて行った茶を飲んだ。
「すでに宝順から、俺に幕環将軍としての直任が下りている。おまえには済まないが、しばらくは備拓様の警護下に入ってくれ」
「…………」
「なんだ? 寂しいのか?」
涼景はにやにやしながら、身を乗り出した。
「いや……」
犀星は、まったく別のことを考えていた。
「納得できないことが多すぎる」
「気になるなら言え。抱えるのは良くない」
涼景は腕を組んで、腰を据えた。犀星は西方の地図を見ながら、
「胡断はなぜ、わざわざ宣戦布告を?」
「それがあいつらのやり方だから」
涼景の返答は早い。
「そうやって警備隊を引っ張り出し、失敗させて名を落とす。単なる自己顕示欲とも取れるが、いつもの手だな」
「それにしても、親王誘拐とは、ずいぶん吹いたものだ」
「本国にも落伍者として帰るあてもない連中だ。追い詰められているのかもな」
「万が一、兄上が胡断の手に落ちれば、千義との関係もまた、悪化するな」
「そういうことだ。何がなんでも、止めねばならない」
犀星は頷いた。
「国家規模で、失敗が許されないことはわかった。だが、次に疑問なのは、兄上がなぜ、おまえを指名したか。左近衛の経験不足は否めないとして、やはり、備拓か禁軍対象の然韋を抜擢するのが自然だと」
涼景は少し声を低めた。
「俺が、おまえのものだと知っているから、か」
ぴくっと犀星の眉が動いた。
「涼景、その言い方は……」
「冗談だ。単純に、備拓や然韋が嫌いか、実戦慣れしている俺を選んだだけだろう。まぁ、夕泉殿下にはそのあたりのこと、直接伺ってみるさ。俺たちの知らない何かがあるのかもしれない」
犀星は頷き、さらに考えながら、
「夏史もそれに賛同したと言ったな?」
「ああ。心にもない世辞を並べて、俺しかいない、と」
「確か以前、夏史と備拓がうまくいっていない、と言っていなかったか? もし今も改善されていないなら、わざと、備拓に恥をかかせるための言動とも取れるな」
涼景は、ばつが悪そうに横を向いた。
「それもあるかもな。夏史の場合、俺に対する嫌がらせの可能性も捨てきれないし。まぁ、純粋に、夕泉様にとって最も良い選択をした、とも考えられる。知っての通り、あの親王は『他の兄弟』に似ず、敵をつくる性格ではないから、夏史とて親身になる」
「……悪かったな」
「敵もいないが、同時に、真の味方もいない」
一瞬、犀星は言葉に詰まった。
涼景の目が、まっすぐに犀星を見る。
惚れているのか、とさえ思わせる涼景の忠誠は、犀星を複雑な気持ちにさせる。真意を問うたことはないが、触れてはならない気もした。
「真実がどうであれ、するべきことは一つ」
涼景は声を高めて、遮った。
「宝順の命令だ。従うしかない」
犀星は黙った。
「まったく……」
涼景はやれやれと首を振った。
「おかげで、然韋には、また、嫌味を言われた」
犀星も、細く長く息をはいた。
現在の禁軍大将・然韋は、涼景を毛嫌いしている。
然韋は武人としての威厳も、経験も備え、彼以外に務まる者はないであろうと言われる軍部の逸材だった。家柄も良く、学識もある。皇帝からの信用も得ている。
しかし、その一方で、ことあるごとに涼景を敵視する。
夕泉親王の護衛に伴う幕環将軍への着任。皇帝から下されたこの命令は、確実に然韋の不満を招く。その矛先は、宝順ではなく、涼景に向く。
然韋が涼景を疎む原因は、はっきりしていた。
公然の秘密、とされる、涼景と宝順との関係性である。
歌仙で暮らす妹・燕春の身に危険が及ばないよう、涼景は自らを贄とすることを選んだ。その姿勢は、然韋にとっては見苦しく、浅ましいものと見えるのだろう。
色に漬け込んで、皇帝にすがる恥知らず。
涼景にまつわる陰口は単なる噂ではなく、不幸な事実だった。
「事情はわかった」
犀星は声を抑えた。
「兄上の警護、すまないがよろしく頼む……」
「おまえが詫びることじゃない」
涼景はあえて明るく声を張った。
「久しぶりに夕泉様に会いたいだろ? すぐに会わせてやるから、大人しく待っていろ」
それでも、犀星の顔色は冴えない。まだ何かを思い詰めているようだ。
「涼景」
いつもより、丁寧に名を呼ばれて、涼景は一瞬、息を止めた。
「西苑には、慣れた者を伴え。湖馬がいい」
「俺は、一人でも……」
「連れて行ってくれ」
あまりにまっすぐな犀星の目に、涼景は口を閉ざした。
「軍事上の理由じゃない。それくらい、わかるだろう?」
おまえが心配だ。
犀星の目は、友の目だ。
「必要なら、王旨を出すぞ」
「おいおい、そこまでしなくても」
涼景は何度か頷き、表情を緩めた。
「わかった。おまえの安心のために、連れて行く」
犀星は頷いた。
五亨庵の中に秘密は無い。
涼景と犀星の会話は、全て、慈圓の耳にも筒抜けであった。
慈圓はいつも通り、良い姿勢を保っていたが、手にした筆の先は乾いていた。
涼景を、親代わりとして育ててきた慈圓である。彼が今置かれている状況は、決して看過できるものではなかった。
あまりにも敵を作りすぎた。
それは、ひとえに自身の導き方が良くなかったのではないかと、口には出さないが、思うところであった。
涼景は、早くに親を亡くし、家名と妹の命を負った。人一倍、物事に熱心で、陰で労苦を重ねてきた。周囲からは天才だともてはやされたが、その裏に血のにじむ努力があったことを、慈圓は知っている。
それゆえに、今もなお、必死に走り続けようとする愛弟子の姿が、慈圓には危うくてならない。すでに国家の重積を担う涼景にしてやれることは、その背後を守ることだけだった。
慈圓は席を立つと、中央へと階段を降りた。振り返って慈圓と顔が合うと、涼景は少し気が休まった。いつまでも慈圓は自分の師であり、父に変わる存在だ。
「留守のことは心配するな」
慈圓は笑みを浮かべた。涼景はただの警護だという言い方をしたが、事実上は戦と同じで、犀星が不安を抱くのも、慈圓が苦痛を感じるのも、至極自然なことであった。
「ご安心ください」
涼景は、まるで自分に言い聞かせるように、
「胡断討伐の命が出たわけではありません。あくまでも、夕泉様を無事に都まで護衛するのが役目ですから」
慈圓はそこに言及せず、ただじっと涼景の顔を見た。すっかりたくましくなったが、慈圓の目には幼い頃の面影が焼き付いている。
黙って見つめ合う慈圓と涼景を、犀星は静かに眺めていた。その目には、戦いへの不安とはまた違う、彼にしかわかりえない何かが潜んでいた。
夜の天輝殿には魔物が蠢く。
いつの頃からかそんな話がまことしやかに宮中に広がっていた。警備にあたる禁軍と近衛のほかに近づくものはいない。
新月の夜。
月光届かぬその日だけは、宝順の心は安らいだ。
側近を遠ざけ、石の間に座る。
灯りを求めず、闇の中にただ一人。
どれほど洗い清めても拭い去れない血と嘆きの声が染み付いた床や壁から、闇より濃い黒がにじみ出て、自分を取り殺す感覚に埋もれていく。
死ぬに死ねず、終わらせることもできない時間はひたすら、幼い心を締め上げた。
「伯華……」
時折、つぶやく、名。
その響きは、幼子が母を呼ぶのに似ていた。
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