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第三部「凛廻」(連載中)
3 若芽の災
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玲陽は、中央に集まった五亨庵の全員を前に、姿勢を正した。
玲陽の隣には東雨、その正面に緑権、横に慈圓。犀星は慈圓の向こうで、玲陽から一番離れた位置に座らされていた。
これから、目下の大議題、亀池再生に向けての会議が始まる。
「では、順番に確認しましょう」
最近では、もっぱら玲陽が進行役だ。頭の中で説明を組み立てながら、ゆっくりと話し始めた。
「まず、結論から。太久江の支流・伍江を使って、亀池を中心に、大型の養殖池を建設する事は、物理的に十分に可能です。新たに池を掘削するよりも、期間や労力を節約できる上、土壌の状態が池に適しています。問題はありません」
黙って、一同は頷いた。
「では、それで」
犀星がぽつり、と呟く。言葉は短くあっけないが、この一言が、五亨庵の決定だ。
玲陽はそれを受けて、話を進めた。
「具体的な建設に関わって、三つのことを煮詰める必要があります」
言いながら、几案の上の木簡を、順に示していく。東雨が覗き込む。
「堤防と池と水門?」
「はい」
玲陽は自分で作成した簡単な地図の上に、墨で染めた麻紐を、川に沿って置いた。
「この紐が、堤防を築く位置です」
「ここだけでいいんですか?」
東雨が、足りないのではないか、という顔をした。玲陽は微笑んだ。
「近年の伍江の氾濫流域を調べたところ、このあたりが流水域の西端となっています。外からはわかりにくいですが、川底が傾斜しているのではないかと。ですから、その地形も利用し、この流域だけ抑えれば、かなりの効果が上がります」
関心したように、東雨はため息をついた。玲陽は少し肩をすくめて、
「もちろん、本当はもっと広範囲にした方が安全性は上がりますが、なにぶん、先立つものが……」
と、犀星を伺う。
「まずは、それで」
やむに止まれない事情で、犀星は決断した。微かに頭が重く耳鳴りも再発するが、平気な顔を決め込んだ。
玲陽は進めた。
「では、次に池です。堤防がここまで伸びるとすると、最終的に、池本体はこのあたりまで拡張できます。亀池を取り込んでさらに広げて……」
染めていない紐で、ぐるりと池の輪郭を作る。
「大きいですね」
二倍以上になった池の面積を見て、緑権が言った。
「広い方が、魚がたくさん……育てられますね」
玲陽は苦笑した。
「もちろん、それもありますが、貯水量を上げておくことで、急な大雨や干ばつにも備えることができます」
「なるほど、養殖以外の役も兼ねる、か」
慈圓は腕を組んで頷いた。
「宝順が求めてきた以上の成果が上がれば、面白い見ものになるな」
「ここからさらに引水して、紅蘭周辺の農業用水にも使えるよう、計画しましょう」
玲陽はにっこりした。
「いいな、それで」
犀星が裁断する。
「では、次に、水門です。これが一番大変なんですけれど……」
玲陽は水門を模した木片を何ヶ所か配置した。
「段階的に水量を管理することにより、それぞれの水門への負担を軽減します。また、損傷が出た場合にも対応できるよう、一つの水脈につき、複数箇所の設置が必要です」
東雨は、初めて見る土木計画の図面に興奮気味だった。玲陽が言うと、大掛かりな工事も簡単な絵合わせ遊びのようで、わかりやすい。
「四カ所か……」
慈圓が口をひねった。
「やっぱり、本当はもっと欲しいところですが……」
玲陽の目は、予算を心配して犀星に向けられた。
じっと図面を見ていた犀星は、玲陽の手元に残っていた予備の木片へ手を伸ばした。偶然を装って、指先に触れることも忘れない。
「ここにも」
と、図面の上に置く。川の下流域で、ちょうど紅蘭の南東に位置する場所だ。
「なぜ、ここに?」
玲陽が意図を問う。犀星は少しだけ目を動かして、
「最近、このあたりに商人の宿場が立ち始めた。いずれ、大きくなる。その時、水門があれば何かと便利だ」
「水運に使える、と?」
慈圓が少し驚いて、
「伯華様、そのような情報をどちらで?」
「市場だ」
東雨が思わず微笑んだ。これが、彼が生涯尽くすと決めた主人の才覚だ。
「では、そうしましょう」
今度は、玲陽の一声で、五カ所の水門建設が決まった。
「現場を任せられる技術者が必要ですが、心当たりはありますか?」
「八穣園の池の設計者ならばわかるが……」
慈圓が豊富な人脈を辿った。
「宮中の池と、郊外の巨大な養殖池では、違いすぎるだろうか?」
「いいえ、基本は同じです」
玲陽は、ほっとした顔で、
「もちろん、自然の地形を利用しますから、配慮しなければならないことはありますけれど、造り自体は大きく変わりません」
玲陽は、できる限り簡潔に、言葉を選んだ。
「この一帯はもともと水はけが悪く、氾濫に悩まされていましたが、裏を返せば、水を溜めやすい土壌とも言えます」
東雨が小さく、感嘆の息を漏らした。
「なぁんだ」
緑権が大きな声を上げた。
「今までの役人連中、どうにかして農地にしようとしていたから、失敗続きだったんですね。最初から池にすればよかったのに、みんな、馬鹿だなぁ」
「おまえは何も言わなかっただろうが」
慈圓がじろりと睨んだ。
「自然に合わせる……」
犀星は静かに図面を眺めながら、
「人の手で歪めても、狂うだけか……」
「池って、どうやって掘るんですか? 私、力仕事は苦手なんですけど……」
緑権が素朴な疑問を口にした。
「そこは、適材適所で」
遠慮なく、東雨が口を挟んだ。
暗に、あなたには期待していません、という意図だが、緑権はがっかりするより安心した。玲陽はいたって丁寧だ。
「基本的には鍬を使って掘って土をどけます。そして、どけた土を周囲に積み上げて堤防を作ります」
緑権がなるほどと頷いて、
「その場で出た土をその場で利用できるってことですね」
「はい、そうなります」
「よかった。遠くまで運ばなくて済むんですね」
今度は、東雨がホッとする。ちらっと犀星を見て、
「若様が、また、荷車を引くなんて言い出したらどうしようかと思いましたよ」
そういえば、昔、そんなこともあったな。
犀星はふと懐かしく思った。玲陽はにっこりとした。
再び、緑権の質問が飛んだ。
「それで、魚は、何を育てるんですか?」
緑権の目は、何が食べられるんですか、と尋ねていた。
東雨は、宮中の池を思い出した。
「池の魚、と言えば、鯉や鮒、ですか?」
「草魚や鰌も美味しいです」
緑権が加えた。
「あと、鮎もいいですね。もちろん、鼈も」
「おまえは本当に、食うことばかりだな」
慈圓は苦笑した。だが、実のところ、目的は食料資源の確保なのだから、緑権の意見は的を得ていた。
「では、それらの魚の飼育について詳しく知る者は?」
「池の管理官に、知り合いがおるが……」
すぐに、慈圓が答えた。
「食用に育てているわけではないからな。まぁ、参考程度か」
「いつもの、あの店主はどうでしょう?」
東雨が、市場でよく、干物を売っている馴染みの店を思い出した。
「生魚から、自分で買い付けている人です。よく、珍しい魚も扱ってますし、交友関係も広いみたいです。聞いてみてもいいかもしれません」
「では、そこは東雨に任せよう」
「え?」
東雨は驚いた顔で犀星を見た。
五亨庵に勤めていても、東雨の役割は犀星の身の回りの世話が中心であり、直接、政治的な仕事を与えられたことはなかった。
東雨にとっても、それは恨めしかった。忙しく働き、難しいことを話し合い、成果をあげていく犀星たちを、ただ眺める立場に、寂しさがあった。
「俺に、できるかな……」
「それを試してみるんだ」
犀星の唇が、微かに動いた。無表情のようであるが、微笑んでいるのが東雨にはわかった。心が決まる。
「俺、やります!」
晴れやかに、東雨は大きく頷いた。
会議中はいつも渋い顔をしている慈圓が、わずかに頬を緩めた。
以前から、慈圓も犀星も、東雨の才能を高く買っていた。今までは、宝順とのつながりと、侍童という立場を考慮して業務を振らなかった。だが、今は何も遠慮する必要はない。彼は近侍であり、犀星の腹心である。今後は存分に力を発揮してくれるだろう。
先が楽しみだ。
きらきらとする東雨の目を、慈圓は満足そうに眺めた。
しだいと、亀池の再建計画はしっかりと形を見せてきた。
だが、最後の難関の前に、誰もが口を閉ざした。
金銭問題である。
皇帝からは五亨庵に『一任する』と言われた。
やり方は自由にして良いと同時に、国家予算からは一文たりとも出さないということを意味している。
すべての工事にかかる材料代、人件費、流通のための投資、情報料、必要な経費のすべては、自分たちでかき集めなければならない。
玲陽は肩をすくめた。
「これ、普通のことなんでしょうか? てっきり、皇帝陛下からの勅命であれば、予算がつくものだと……」
「本来はな」
慈圓が苦笑する。
「宝順のやつ、昔から伯華様を試すようなことばかりしおる」
「ケチなんですよ」
緑権が、さらりと言ってのけた。
「伯華様なら、なんとかしてくれると思ってるんじゃないですか?」
それは、謀児様も同じでしょう?
口には出さなかったが、東雨は、にやりとした。
「花街の時は、どうしたんですか?」
玲陽が尋ねた。
「あの時は、伯華様が……」
「謀児」
説明しようとした緑権を、犀星が止めた。わずかに顔がこわばっている。
ふーん……
玲陽は目を細めた。
「とりあえず、仮の予算を出してみます。途方もない数字ですから、兄様の俸禄を切り詰めるだけでは焼け石に水ですよ」
「親王の俸禄って、そんなに少ないんですか?」
思わず、全員が緑権を見た。その視線は凍るように冷たい。
犀星は黙って、すっと、下を向いた。仕方なく、東雨が口を開いた。
「若様は直轄地をお持ちでないので、現物支給なんです。ですから、自由になるお金はほとんどありません」
どこか、開き直った口調だ。
「それでも、ちゃんと生きてます」
「東雨……」
犀星の顔が情けなく沈む。
黙していた玲陽の目が、さらに、細められた。
五亨庵の池掘りに、関わることになるとは……
蓮章は、心深くため息をついた。
相変わらず、犀星の災難は涼景を経由して、自分たちに降りかかるようにできている。
これも全て宝順のせいだ。
皇帝への逆恨みが募る。
自分が一人で、暁隊を担わなければならなくなったのは、涼景を遠方に派遣した宝順のせいだ。
五亨庵が、亀池の再工事を請け負うことになったのも、もちろん、宝順のせいだ。
それに伴って、自分が忙しい時間を割き、隊士を連れて、都の外の視察につき合わなければいけないのも、最近眠れない日が続いているのも、春にもかかわらず汗ばむほどに気温が上がっているのも、脇を流れる伍江の川底が赤黒いのも、全て、芳順が悪い。
蓮章は、胸の中の苛立ちを全て皇帝に押し付け、表面では涼しい顔を装った。
五亨庵は、紅蘭の南東の宿場近くに、水門の建設を予定した。当然、現地を見ることは必須となるが、涼景が不在の中、親王である犀星が、都の外まで出ることは容易ではない。
代わりに、玲陽が赴くことになったのだが、過保護な犀星が簡単に了承するわけがなかった。
護衛として、犀星の数少ない友人の中から、蓮章に白羽の矢が立った。
犀星は、蓮章と護衛の暁隊士が同行することを条件に、玲陽を送り出した。
今朝、早くに都を出て、馬の足でかれこれ二刻。目的地である宿場まで、あと一息である。
南方から紅蘭へと伸びる街道は、雪解けの名残でいたるところにぬかるみがある。そこから立ち上る泥の匂いが、気だるい空気を醸していた。
この道は古くから、南と都をつなぐ道として、商人や旅人が多く利用していた。時折、都に向かう荷車や馬の一団とすれ違う。その度に、玲陽は羨ましそうに、振り返って見送った。
蓮章はその様子を横目に、胸の中に風が吹き抜けるのを感じた。
離れなければならない寂しさは、立場も事情も超えて、同じなのかもしれない。
涼……
がらにもなく、蓮章はうら寂しさを覚えた。
親友に同行したくとも、責任を持つべきことが都には残されていた。ふたり揃って離れるわけにはいかない。
春だってのに、俺の燕はどこ行ったんだよ。
蓮章は再び、皇帝を恨んだ。
ふと、玲陽と目があう。今日の彼は、珍しく髪を結い、薄い色合いの着物をまとっている。その理由が、なんとなく蓮章には想像できた。
「おまえ、辛くないか」
「これくらいなら、大丈夫です」
玲陽がやんわりと答えたのは、遠出の疲れについてだ。
「いや、そうじゃなくてなぁ……」
蓮章は首を振って、
「その髪、自分で結ったのか?」
「え?」
玲陽はきょとんとして、それから柔らかく微笑んだ。
「いいえ、これは兄様が」
「やはり……」
蓮章の直感は当たっていた。
「それに、その簪……」
玲陽の髪紐に添えられた銀色の細工を目で指す。玲陽は頷いた。
「はい。兄様のです。お守りに、と」
「その着物も」
「はい。兄様のです。自分の代わりに、と」
これは過保護を通り過ぎて、束縛だ。
自由を旨とする蓮章には、想像するだけで重すぎる執着だった。放って置かれるのも物足りないが、ここまで絡まれても嫌になる。
玲陽は、蓮章の呆れた顔を見て、苦笑を返した。
「兄様は昔から心配性なので」
「心配しすぎだ」
蓮章はきっぱりと言った。
「俺なら耐えられないぞ。おまえは、息が詰まったりしないか?」
玲陽は、静かに首を振った。軽い髪がさらさらと揺れて、春の陽気に美しかった。
「私は、これくらいが安心できるので」
無理をしている様子はない。
「むしろ私の方が、兄様より厄介かもしれません」
静かに行手に目を向けて、玲陽は秘密のように言った。蓮章は、じっと、その金色の瞳と白い肌を見た。
昨年の冬に初めて会った時から、玲陽の印象は大きく変わった。
当時は、儚さばかりが前面に出ていた。しかし今は、柔和な中にも時折、犀星以上の強さを感じさせる。
これが本来の玲陽の姿だと蓮章は思っている。そして、玲陽を得てすっかり角が取れた犀星もまた、素顔に戻れたのだろう。
ふたりで一つに完成する、か。
羨ましさと呆れとが混ざった顔で、玲陽を眺める。
「本当にすみません」
蓮章の視線を気にして、玲陽は、今日、何度目かわからない謝罪を口にした。
「涼景様がいらっしゃらなくて忙しい時なのに、お仕事をお願いしてしまって……」
「構わない。気晴らしになる」
悪いのは全部宝順だ、と、蓮章は胸の中で繰り返した。
「それより……」
玲陽は、後ろをついてくる暁隊の隊士たちに聞こえないよう、ぎりぎりまで馬を寄せ、声を低めて、
「親王とは、どうなってるんだ?」
その声色は艶めいていて、何を聞きたいのか、玲陽にもすぐにわかった。
「どう、と言われましても……」
玲陽は少し唇を噛む。
蓮章のことは、信用している。
今更隠すこともないが、話すことも本当になかった。
「残念ながら、ご報告できるような事は何も」
「何もないということは、ないだろうに」
蓮章は、簡単には引き下がらない。
「相変わらず、一緒に眠っているんだろう? おまえの体調も良くなったことだし、季節は春だし」
春と自分たちと、どんな関係があるのか。
玲陽はこっそり首を傾げた。
蓮章は、更に体を近づけた。
「ちゃんと、やること、やってんだろうな」
「や、やることって……!」
あけすけな言い方に、玲陽の頬が震えた。
かつて、歌仙で散々な目に遭っていた玲陽にとっては、今更動揺することではない。
しかし、それと犀星とのことは、また別だ。改めて言われると、意識してしまう。
「誤解がないように、はっきり申し上げますが」
玲陽は丁重に、
「牀は共にしておりますが、言葉通りの意味です」
「言葉通りとは?」
「ですから、一つの場所で眠っているだけ……」
「体には触れるだろう」
「それは……少しは……」
玲陽の返事は、歯切れが悪い。
「少し、ねぇ」
深く知りたいと、蓮章が首を伸ばす。
「子どもじゃないんだ。添い寝だけで終わるって事はないだろ」
「それは……」
「口付けより先の話が聞きたいんだが?」
むしろ、それができないのですけど……
玲陽は、心の底で思ったが、さすがに言葉には出さなかった。
一日に何度、犀星を抱きしめて唇を重ねたいと願うか。
焦がれる想いは、犀星よりもむしろ、玲陽の方が激しかった。だが、玲陽の口付けは相手を殺す。それは、犀星に対しても同じである。叶えることのできないそのたったひとつのことが、犀星への執着を強くする。
最近では、気持ちを抑えきれず、思わず力を加減ができないことが増えていた。玲陽が震える手で粗野に触れても、犀星は黙って受け止めてくれた。それが余計に玲陽には辛い。
周りの景色は、荒地から、春蒔きの油菜の畑へと変わっていた。歌仙を思い出す懐かしい匂いが、時々強まる風に乗って届く。
日差しは白く煙るようで、肌に優しかった。
玲陽は川面に目を向けた。
太久江の支流である伍江は、北の山脈に水源を持つ大河である。養殖池に関連して、これから深く関わることになる。
きらきらと陽の光を煌めかせ、悠々と流れる伍江に、懐かしい日々の記憶が重なって見えた。
幼い頃、土地の子どもたちと一緒になって、川遊びをした。あの頃から、すでに自分の心には、犀星しかいなかったと気づく。
急に、残してきた人が恋しくなって、玲陽は手綱を強く握りしめた。襟の匂いを嗅ぐように、肩に顔を寄せる。
犀星との間には、本当に情事らしいことは何もない。
以前、一度、傀儡喰らいの消耗を補うために精を求めたが、それきりだった。触れ合うのも胸元までで、そこから先へは進まない。
「……本当に、何もないんです」
玲陽の表情から、蓮章は察してくれたらしい。
「おまえ、辛くないか?」
同じ言葉をさっきも聞いたな、と思いながら、玲陽は蓮章に目を向けた。その目元はわずかに赤い。
「……正直、辛いです」
「だったら、迫れよ。親王だって拒みはしないだろうに」
「でも……」
玲陽は言い淀んだ。蓮章は、玲陽の過去の詳細を知らない。
玲陽の体は、犀星を受け入れることはできない。交わりを求めるなら、それは犀星が受け入れる以外にない。受ける身の辛さを思い知っている玲陽には、強いることがはばかられた。
今より先の触れ合いは、そのまま抑えのきかない情動につながってしまいそうで、玲陽は踏み出せずにいた。
「何か、訳がありそうだな?」
肯定するように、玲陽は蓮章を見つめた。
蓮章が色ごとに通じていることは、何かと耳に入っている。何かと相談してみるのもいいかもしれない。
玲陽の目は、蓮章が戸惑うほどに真剣だった。
「あの、蓮章様」
「うん?」
「いえ……昼間の街道で、仕事に向かう途中にする話ではないので」
玲陽が、また改めて、と思った時、護衛の隊士がひとり、ふたりを追い抜いて先へ出た。
「梨花、妙だ」
大柄なその男は少し先で、蓮章を振り返った。古参の隊士のひとり、|旦次(だんじ)である。涼景も一目置く、古株の豪傑だった。
「どうした?」
蓮章は、旦次を数歩、追いかけた。
「これ、見てみろ」
旦次は足元の土を指差した。
ぬかるんだ土が、酷く乱れ、宿場町へと続いていた。
「馬の蹄の跡ですね」
玲陽は旦次を見た。
「ああ。随分急いでいる。まだ新しい」
蓮章と三人で、顔を見合わせる。
商人が馬を使うことはあるが、荷運びをするのにこれほど走らせるとは考えにくい。
「数も多い。少なく見積もっても、十はくだらないだろう」
旦次の見立ては的確だ。蓮章と玲陽が、緊張して目配せをする。先ほどまで、口付けだの添い寝だのと話していたのが嘘のよう鋭かった。
「最悪、盗賊の類が通ったと考えるべきだな」
旦次は行く手の宿場を睨みつけた。
「盗賊……馬……」
玲陽は事前に聞いていた情報を思い出した。
三年前の北の国・千義との戦い。その際、本国の軍に裏切られ、函に取り残された部隊があった。停戦後、隊は散り散りになり、一部は野盗と化した。それが、神出希没の盗賊として恐れられる、現在の胡断である。
もともと訓練を受けた騎馬隊が核である彼らは、統率の取れた動きで、素早く村や町を襲い、短時間で全てをさらってゆく脅威だった。
「まずいな」
蓮章が形の良い眉目を、厳しく歪めた。
「宿場には金目のものは少ないが、人だけはいる」
「奴らは、人さらいもやるんだろ」
旦次は、やれやれと首を振って、
「光理、あんたはここで待ってろ。俺が様子を見てくる」
「いえ、私も行きます」
玲陽は腰の太刀を意識した。最近では、犀星に引けを取らないところまで回復していた。
「よしてくれ」
旦次は遠慮なく遮った。
「あんたに何かあったら、俺たちは皆殺しだ」
犀星の顔がちらつき、玲陽は言い返せなかった。いかに暁隊といえども、犀星を敵に回して、生き残れる保証は無い。いや、むしろ誰にもない。
「陽、他の者たちと一緒に待っていろ」
蓮章は旦次と共に町へと駆けて行く。
背後に控えていた三騎の隊士が、不満もあらわに玲陽のそばに寄ってきた。
「光理、どうする?」
玲陽は考え込んだ。彼らはみな、おとなしく待つ性格ではない。
「そりゃ、あんたも守らなきゃならないが、梨花の身に何か起きたら、隊長に合わせる顔がない」
「子どもの散歩じゃないんだ。ただの留守番なんてつまらねぇ」
「旦次のやつ、いつも手柄を独り占めにしやがる」
もともと暁隊に、統率や協調という精神はない。個人が自由な意思の元に動くだけである。
「でも、動くなと言われてしまいましたし……」
玲陽は隊士たちを見回した。まっすぐな期待に満ちた目が見つめてくる。玲陽は、この手の眼差しに弱い。
この宿場は数年前まで、わずかな宿と馬借しが並ぶ程度だった。それが、去年の夏に大棚が店を構えて以来、急速に発展した。
この地の利点はまず、広大な耕作地帯に接し、食料の入手が容易であることだった。さらに都にも近く、一日で行き来ができるのも、商人にとっては売りやすく望ましい。
しかし、あまりに短期間で人が集まったため、町としての機能整備が追いついていなかった。
道幅は広いが土がむき出しで柔らかく、路面には荷車の轍が随所にある。井戸は大棚の裏に一箇所だけだ。立ち並ぶ建物の裏手から川の水を引いているが、管理は十分とはいえなかった。水の流れが自然と蛇行し、いたるところにぬかるみができている。
蓮章と旦次は、宿場に入る前に異変に気付いた。甲高い叫び声がいくつも響き、賑わいとは別の騒がしさが押し寄せる。町の奥から、血相を変えた人々が、何人も走り出してきた。
「賊だ! 胡断だ!」
誰かが叫ぶのが聞こえた。
「当たり、か。どうする、梨花?」
旦次が馬足を緩めた。
「胡断は面倒だろ。おまえ、恨まれているから、正体が知られると……」
「だが、出くわしてしまったものは、仕方がない。とりあえず様子を見て、勝ち目がないなら逃げる」
蓮章は迷わず、騒ぎの中心へと馬を進めた。
「全く、敵を作りすぎだぜ」
「文句なら涼に言え。九割はあいつの責任だ」
蓮章は、逃げる人々の動きから、襲撃の位置を見極め、馬首を巡らせた。
旦次は大槍に手をかけた。涼景の留守中に蓮章を守るのが、自分の役割だと心得ている。
「俺より前に出るな」
蓮章は少し馬足を落として旦次の後ろに距離をとった。自分の力量は、本人が一番わかっていた。彼らの日常の中には、生死の境界線が至る所にある。
「援護する」
蓮章は鞍につけていた弓を引き寄せた。
行く手に、広い道幅一杯に、十数頭の馬が広がっているのが見えた。
一人の男が、大きな店の前で指示を出し、十余名の男たちが駆け足で慌ただしく動いている。
店先に並べられた草履や馬具、旅支度の商品が地面に散乱し、縛られた女が何人かまとめて座らされている。女中や商人、旅の者など、服装は様々だ。
女たちを見張る者、店の中から重そうな箱を担ぎ出してくる者、女を運ぶ荷車を馬につなぐ者もいる。彼らの動きに無駄はなく、手分けして次々と馬の背に略奪品をくくりつけていく。
手際の良さと馬の扱いから、胡断に間違いなかった。
一度、引くか……
蓮章は警戒を強くした。胡断を相手に、自分はほぼ、戦力にはならない。正面から当たっても、この人数に旦次一人ではどうにもならない。囚われた女たちを残すのは忍びない。
せめて、彼らだけでも解放できれば……
蓮章が策を練ったとき、ひときわ大きな悲鳴が上がった。商人らしき着物の男が店の中から飛び出し、血を流して倒れ込む。背中に刀傷を負っている。
反射的に、旦次が飛び出した。蓮章が止める間もない。
商人を追いかけて切りかかった胡断の一人を、馬上から旦次の槍が仕留めた。旦次はそのまま馬を飛び降り、躊躇なく、周囲の胡断を殴りつけた。
「先走りやがって……」
蓮章は馬を降りると、素早く近くの軒下に姿を隠した。
「急げ!」
指示役の声が飛ぶ。
胡断の特徴は、その素早さだ。猶予はない。
蓮章は、振り向きざまに弓を構えた。続けて三本を放つ。狙い違わず、馬の首の付け根に麻酔効果のある毒矢を撃ち込む。馬は驚いて荒れ狂い、荷物を放り出して馳け廻る。荷車が繋がれていた馬が暴走し、凹凸のある地面で跳ねて、車がひっくり返った。
女たちが悲鳴を上げ、抑えようとした胡断が馬蹄に蹴られて吹き飛んだ。
「馬を抑えろ!」
胡断がそれぞれの仕事を放り出し、総出で馬の綱に取り付いた。複数人で一頭の綱を引き、どうにかなだめていく。暴れ馬の興奮が他の馬に伝染し、混乱の度合いが一気に高まった。
「今だ!」
蓮章は素早く飛び出すと、女たちに駆け寄り、手と足の縄を切った。
自由になった女から先に、必死で駆け出す。悪路につまづいて転がるように、その場から逃れる。
「何をする!」
蓮章の動きに気付いた胡断が、数名、蓮章に飛びかかった。旦次は槍を刀に持ちかえ、立て続けに打ち払った。
やがて、薬が効いてきたのか、馬たちは脚で空を掻き、倒れこむ。舌打ちをしながら、胡断の総勢は残った馬をかき集め、それを囲むように背中を合わせて円陣を作る。
指示役が蓮章たちを睨みつけた。一望できる胡断の戦力は、負傷者を除いて十五名だ。
旦次が舌打ちした。蓮章も、普段からは想像もつかない厳しい表情で胡断に相対した。
「梨花、どうする?」
「おまえ一人で全員を倒せるなら、押し切るが?」
「無理言うな。俺は仙水じゃねぇぞ」
本当であれば捕獲したいところだが、今回の目的はそもそも、盗賊討伐ではない。取り逃せば左近衛の夏史あたりに嘲笑われるだろうが、玲陽を危険に晒すわけにはいかなかった。
蓮章は、地面でうずくまっている怪我人を見た。この店の者だろうか、目につくだけで三名、負傷して動けずにいる。
「助けている余裕はないぞ」
旦次が小声で蓮章の視線を制した。
「何者だ!」
自分たちの優位を察して、指揮官は蓮章たちを見下ろした。
蓮章は弓を構え直し、
「俺たちは紅蘭の警備隊だ。おとなしく投降する気がないなら、自分の命だけ持って失せろ」
「ほう。都の衛兵にしては、ずいぶん荒っぽいな」
指揮官は蓮章の全身を舐めるように見た。
「おまえの体……高値で売れそうだぜ」
「おまえの命より高くつくぞ」
細いが、しなりの強い蓮章の弓が反った。鋭く睨む灰色の目に気づいて、指揮官は短く声を上げた。見る間に顔がこわばる。
「その目、聞いたことがある。おまえ、遜蓮章……か?」
蓮章は黙った。これだから、目立つ体は厄介だ。
「……そうか、おまえら『涼景』か!」
指揮官の言葉に、胡断の間にざわめきが立つ。
自分たちをこのような境遇へ落とした仇こそ、涼景である。当然、蓮章は涼景の軍師として、同等かもしくはそれ以上に恨まれている。
「そうとなれば、引くわけにはいかないな」
指揮官は決心した。
「蓮章を手に入れれば、いくらでも涼景を動かせる。それに、おまえを仲間の中に放り込めば、面白いものが見られそうだ」
旦次が後手に蓮章を庇いながら、一歩、後退した。
「周囲、援軍に備えろ。二班は各個奴らに向かえ。蓮章は生け捕れ! もう一人は殺せ」
指示に応じて、胡断が迅速に動く。
半数が展開して周囲の警戒に当たる。残り半数が二手に分かれて、旦次と蓮章に近づいた。
「やるのかよ……」
旦次は渋い顔で、大ぶりの直刀を守りに構えた。
接近戦となれば、旦次は涼景に次ぐ実力者だ。その力量は、胡断たちにも一目で知れた。
強敵、と定められ、蓮章より多い数が旦次に向けて襲いかかった。地を転がって刃を逃れ、素早く体勢を立て直す。同時に振り下ろされる刀を交わす。ぎりぎりまで引きつけて同士討ちを狙うが、訓練されている胡断には通用しなかった。一呼吸ずれて刀が空を切る。
「くそっ……」
旦次は攻勢に出る間がない。防ぐ一方でじりじりと押される。
後方で蓮章の目が鋭く瞬いた。旦次はうまくかわしているように見えるが、胡断が意図的に空けた方向へと後退している。
「旦次、引くな!」
すぐに旦次との間に距離が開き、そこに残りの胡断が立ち位置を取って蓮章に刃を向けた。
分断された!
蓮章は小さく舌打ちした。
二手に分かれた小隊が、互いの動きを確かめながら、自分たちに優位な戦況を作っていく。相手が二人きりであろうと、そこに油断はなかった。
胡断は個人では動かない。陣形を意識して集団で戦う。
これだから、面倒なんだ。
旦次が気づいた時には遅かった。蓮章の身を守ることができる距離まで、近づけない。
蓮章に狙いを定めた四人が、すり足で距離を狭める。止むを得ず、蓮章は腰の直刃を抜いた。率直に、剣術は苦手だった。
胡断は皆、手練れだ。
もっとも近くにいた一人が、踏み込むと同時に刀を振りかぶった。蓮章は咄嗟にとびのいて距離を取った。馬上で使うことを目的にした胡断の刀は間合いが長い。一つ、攻撃から逃れるたびに、包囲が狭められる。生け捕るために慎重になっているが、殺す気ならば、とうにやられているだろう。
最悪……
蓮章の脳裏に涼景の顔がちらつく。
どうにか次の攻撃を避けて、後ろにのけぞる。背中が建物の壁に阻まれる。三人が蓮章ににじり寄る。後ろの一人の手には、捕らえるための縄が握られていた。
「梨花!」
旦次がどうにかしようと包囲の突破を狙うが、思うようにならない。
「傷つけるな。値が下がる」
指揮官が叫んだ。
刀が蓮章の頬をかすめ、すぐそばの壁に突き立つ。ぞくっと身体が縮んで硬直する。その一瞬を狙って乱暴に腹を蹴り上げられ、蓮章は崩れた。泥が髪に跳ねた。二人がかりで押さえ込まれ、腕が背中にねじられる。
涼!
咳き込みながら、不覚にも、涙が滲む。
悔しさにきつく目を閉じた時、足元の地面を通して、馬の足音が響いてきた。
まさか!
蓮章は息を呑んで顔を上げた。
白い馬に金色の髪が、鮮やかに視界に入った。
陽……!
玲陽は、さらに速度を上げてこちらに馬を走らせてくる。その後ろには、残してきた隊士もぴたりとついている。
待ってろって言ったのに……これだから、暁は……
蓮章は思わず、半面で笑った。
先頭の玲陽は、胡断が射た矢を、太刀で払い落とした。さらに身を低めて横一文字に構え、突進してくる。駆け抜けざまに、蓮章のそばにいた胡断二人の胸と腹を、一太刀で薙いだ。鮮血が走り、それが蓮章にまで降りかかる。致命傷ではないが、十分な痛手である。呻いた胡断が数歩下がり、それをかばって包囲が崩れる。
後に続いていた三人の隊士が、旦次を取り巻いていた胡断を馬で蹴散らした。旦次も形勢を逆転して、一人を打ち据え、蓮章の元に走った。そのまま、蓮章の縄を切り、抱え上げるようにして後退する。馬から降りた三人の隊士が、四散していた胡断の動きを見ながら、守りの形に前に出る。
一方、玲陽はそのまま、店の前で混乱していた胡断の中を突っ切った。
指揮官が横にとびのいて、玲陽の太刀を避ける。
玲陽は落ち着いて手綱をさばき、すぐにとって返して刀を構える。もう一度指揮官の脇を抜けて蓮章のもとまで駆け戻った。
素早く陣形を立て直し、胡断は円陣に戻った。
蓮章は気持ちを切り替えて、戦況を見回した。
胡断は指示役をいれて十二名。
こちらで戦力になるのは、自分を除いて五名。ただし、そこには警護対象である玲陽も含まれている。玲陽の実力は未知数だが、並の隊士よりは使えると考えて良さそうだった。
それでも、ぎりぎりか……
胡断にも負傷者が出ている上、馬も万全ではない。
もう一度、撤退勧告して、それでだめなら……
「どうせ聞かれるでしょうから、先に言いますけれど」
蓮章の不意をついて、玲陽の声が大きく響いた。全員が、ぎょっとして振り返る。
「私は五亨庵の玲光理。歌仙親王殿下の承親悌です」
馬上から、玲陽は堂々と名乗りを上げた。
「馬鹿、どうして……」
旦次が焦る。玲陽の身分は、胡断にとって利用価値がある。ただでさえ、その見た目から狙われてもおかしくないというのに、これでは自ら捕まえてくれと言っているも同じだ。
案の定、指揮官の目の色が変わる。
三年前、戦いの終結には、犀星も深く関わっていた。憎むべき相手が、目の前に一人増えた。
「何なんだ、おまえたちは……」
指揮官が拳を握った。
「次から次へと、どうしてそんな重鎮が、こんな街道に出てくるんだ!」
「……皇帝陛下のご命令で」
玲陽は、ぽつり、とつぶやいた。嘘はついていない。
「とにかく」
気を取り直して、玲陽は顔を上げた。
「見過ごすことはできません。歌仙親王の御領地と知っての狼藉ですか?」
蓮章が小さく息を飲んで、玲陽を見上げた。
「親王の領地?」
そんな話は聞いたことがない。
「これから、そうするんです」
玲陽はさらりと言ってのけた。
「ですから、蓮章様。歌仙様の名の下、ここは、しっかり、成敗を」
「……おまえ、計ったな」
ここで胡断を討てば、領地申請における犀星の足がかりになる。逆に見逃せば、その名声を下げてしまう。
これでは、引くに引けないではないか。
蓮章は思わず、玲陽を睨む。涼しげな横顔に悪びれた様子もなく、玲陽は大太刀を握り直した。
「さすが、親王が選んだだけのことはある。おまえを甘く見すぎていた」
蓮章は腹を括った。
「承親悌の言葉は、親王の言葉……暁隊に命ずる。現状の胡断を掃討しろ!」
旦次以下、表情が一気に険しくなり、音を立てて刀を構えた。
胡断の指揮官も戦斧を構えた。馬上からも操れる、大型の一振りである。
「これは祖国への忠誠の一戦、みな、心して当たれ!」
合わせずして、胡断から咆哮が上がる。それを合図に、その場の全員が動いた。
先鋒に、旦次が突進する。
涼景直伝の太刀捌きが、胡断の戦意をくじき、音を立てて空を切った。旦次の剣術のみではない。体当たりや蹴り技を混ぜ込み、二人を同時に相手しても遅れをとらない。
他の隊士たちも、剣術は補佐で、ほとんどが素手での殴り合いに持ち込む。暴漢と変わらないが、この戦法は元正規軍の胡断の意表をつき、正面から剣で挑むよりも勝機があった。
玲陽は、馬を逃すと蓮章の前に位置取った。大太刀を自在に操り、白刃を見事にさばいて弾きかえす。腕力ではさほどもないが、武器の重みとしなやかな身体能力が群を抜いている。知識のある者ならば、その動きが犀遠の編み出した一沙流剣術であることは一目瞭然だった。前方の敵だけではなく、後ろにも目があるように敏捷に動く。型よりも実践を重んじ、さらに大太刀によって最も効果を発揮する戦術である。
玲陽の守りが崩れない、と確信し、蓮章は近くの建物の壁を背にして、矢を射った。近くの敵は玲陽に任せ、広く戦場を見て味方の援護に回る。射尽くして空になった矢筒を放り投げる。
「矢をよこせ!」
突然、軒の上から数十の矢が詰められた筒が落ちてきた。その不自然に気づく者はいない。
戦いの緊張と剣戟の音、そこに重なる叫び声と悲鳴に紛れて、一人の男が屋根の上に潜んでいた。
「詰め込むな、と言ってるだろ……」
文句を言って、蓮章は無理に三本を引き抜いた。隙間が空いて、片手で矢を抜く余裕ができる。
「いいから、さっさと切りぬけろ」
屋根の上から声がした。正体の知れない男は身軽に屋根を伝って、姿を消した。
あらかたの敵は負傷し、蓮章の毒矢に当たった者は体がしびれて動けずにいた。暁隊士も負傷し、腕や足に血がにじんでいる。玲陽は蓮章を守りきったものの、体力的に限界が近く、立っているだけで視点が定まらない。荒く全身で息をする。
前線では旦次が指揮官と向かい合っていた。そのそばに、残った二名の胡断が添い、蓮章の矢から指揮官を守る。
玲陽は深い呼吸を二、三度して、旦次へ近づいた。自分から打ち込む余力はないが、せめて、その背中をかばう。蓮章も、角度を見ながら距離を縮めた。
頼りの旦次は、何人もと刀を交え、満身創痍である。
追い詰められているとはいえ、無傷の指揮官は簡単に倒せる相手ではなかった。
「さすがは、『涼景』だな」
指揮官は憎々しげに旦次たちを一瞥した。
「だが、たとえ敗れても、道連れにしてやる」
大型の戦斧が振りかざされた。その大きさからは想像できない速さで振り下ろされる。旦次の肩をかすめ、盛り上がった泥に深く刺さる。
「まずい……」
旦次は息を呑んだ。
これまで、何度も荒事の中を生き残ってきた。しかし、今回は訳が違う。指揮官は、都で暴れるただのならず者ではない。かつては戦場で名を馳せた武官である。その実力は決して侮れるものではなかった。
一撃一撃が重い。まともに受ければ、刀が砕けて散る威力である。指揮官の繰り出す大技と、旦次が迎え撃つ刀が乾いた音を立ててあたりに響く。
間違えれば、一撃で決着がつく。
旦次は思い切って、こちらから打って出た。指揮官の戦斧が信じられない速さで方向を変え、刀の中ほどをへし折った。
旦次は折れた刀を捨てると、地面を転がって槍を拾い上げた。指揮官の戦斧同様、馬上で扱う大物である。だが、今は使いこなすだけの体力が危うかった。
間断なく打ち下ろされる指揮官の斧を、槍の柄を滑らせてかわす。
一瞬の油断もならない緊張感に、春の日差しが凍りつき、風が止まる。
蓮章は弓に矢をつがえていたが、二人の動きが激しく、どちらを狙うこともできない。玲陽は大太刀を構えつつ指揮官の後ろに回ったが、歴戦の猛者には隙がない。下手に踏み込むと、牽制する二人の胡断の間合いに入ってしまう。
旦次は勇猛果敢ではあるが、体力の配分がうまくない。全力をぶつけ、それが尽きれば劣勢に転じてしまう。徐々に追い詰められ、息が荒くなる。それを、指揮官は見逃さない。
繰り出された指揮官の一撃を、両手で構えた槍の柄で受けとめる。腰を低く落とし、その力に全身で耐える。戦斧を流し切ろうと柄を傾けたとき、ぬかるむ地面に旦次の足が滑る。体が傾き、体勢が崩れた。
「うっ!」
戦斧の端が旦次の脇腹を裂き、鮮血が舞う。
「旦次!」
蓮章の矢が飛び、指揮官は止めをさせずにとびのいた。
膝をつく旦次に、これ以上の戦闘は不可能だ。
玲陽はある限りの体力と集中力で、二人の胡断に太刀を向けた。
「蓮章様!」
「任せろ!」
玲陽が一方に斬りかかる。打ちあう金属音が、高く低く休みなく響き渡る。同時に、もう一方の胡断の胴に、蓮章のしびれ矢が命中した。動きが鈍る。玲陽は毒を受けた胡断に、追撃を叩き込んだ。よろめいて、泥に座り込む。薬が回り、そこまでだった。
最後の一人と斬り結び、気合を込めた太刀筋と気迫で、追いつめ、戦意を奪う。
気配のない動きで、指揮官が玲陽の背後に近づいていた。振り返りざまに斧が、ぶん、と眼前を走る。玲陽はよろめいて泥水に投げ出された。蓮章が駆け寄ろうとしたが、散々に踏み荒らされた地面が泥濘化し、すぐには動けない。
動けない玲陽に、指揮官が迫る。振り上げられた戦斧が空を切る。
「陽!」
蓮章が絶叫した、その時だった。
座り込んでいた蓮章の頭上を、巨大な黒い影が飛び越えた。それは一瞬の出来事だったが、蓮章にはゆっくりと流れる黒い雲のように見えた。
馬だ。
次の瞬間、耳を覆いたくなる金属の破壊音が轟き、指揮官の戦斧が雨のように粉々に砕け散った。衝撃で、指揮官が泥の中に転がる。
馬上から打ち下ろされた、戟の一撃だった。
馬の主は身軽に飛び降りると、ぬかるむ足場を物ともせず、指揮官に駆け寄った。
迷いなく、起き上がりかけていた指揮官の後頭部に回し蹴りを叩き込む。突然の不意打ちに、指揮官は再び泥に埋もれた。一気に形勢が悪くなった指揮官の喉に、馬の主は大太刀の切っ先を突きつけた。
全ては、一瞬の出来事だった。
指揮官は、頭部への衝撃で平衡感覚が狂い、同時に体も動かなくなっていた。ふらつきながら仰け反り、突如として現れた敵を見た。目を疑う。
「は? 女?」
瞬く間に斧を破壊し、自分を蹴って昏倒させ、身動きを封じて刀を突きつけているのは、なんと、少女だった。
「誰だか知らないけど」
少女は血走った目で、指揮官を見下ろした。
「陽兄様は私が守る」
「き、きさま……」
最後の気力で、指揮官は泥に仰向けに倒れたまま、玲凛を睨み付けた。
「薫風!」
少女が呼び寄せると、巨大な馬が嘶いて駆け寄ってきた。心得ています、と言わんばかりに前脚を指揮官の頭部に勢いよく踏み下ろした。激しく泥が跳ね上がる。
「あ……」
奇妙な音がして、指揮官の口から泡が噴き出した。白目をむいて気を失う。馬の蹄は、指揮官の耳を掠め、顔のすぐ横の泥に、どっぷりと食い込んでいた。
しばらく、誰も声が出ない。場違いなほど繊細な小鳥のさえずりが聞こえてきた。
国の脅威であった胡断。
それを、機を得たとはいえ、仕留めたのは、まだ幼い面影の少女。
それは驚きよりも、一種の恐怖を生んだ。
旦次が痛みと驚きに呻いた。傷は深いが、致命傷は避けられていた。
そんな中、最初に動いたのは玲陽だった。黙って立ち上がると、呆然として少女を見た。
「凛……殿?」
少女は顔を上げた。険しかった表情が、満面の笑みにとって変わる。
「陽兄様!」
少女・玲凛は兄に駆け寄り、抱きついた。着物が泥だらけになることも厭わない。
「……兄様、だと?」
蓮章は愕然として、少女を見た。
玲陽は安堵してよろめきながら、玲凛を抱き止めた。乱れた髪を撫でつけて顔を覗く。兄と妹の喜ばしい再会は、凄惨な光景の中で繰り広げられた。
このあまりにも俗離れした場面に、旦次は傷を抱えてうずくまり、蓮章は泥の中に沈んだままぼんやりとするだけだ。
これが、涼が言っていた歌仙の女傑……
蓮章はため息をついた。その視界に突然、玲凛の鋭い視線が落ちてくる。
「ここの責任者、あんたでしょ?」
蓮章は、気圧されて、思わず頷いた。玲凛の目が厳しくなる。
「この、役立たず」
珍しく、蓮章は軽口さえ出てこなかった。
玲陽の隣には東雨、その正面に緑権、横に慈圓。犀星は慈圓の向こうで、玲陽から一番離れた位置に座らされていた。
これから、目下の大議題、亀池再生に向けての会議が始まる。
「では、順番に確認しましょう」
最近では、もっぱら玲陽が進行役だ。頭の中で説明を組み立てながら、ゆっくりと話し始めた。
「まず、結論から。太久江の支流・伍江を使って、亀池を中心に、大型の養殖池を建設する事は、物理的に十分に可能です。新たに池を掘削するよりも、期間や労力を節約できる上、土壌の状態が池に適しています。問題はありません」
黙って、一同は頷いた。
「では、それで」
犀星がぽつり、と呟く。言葉は短くあっけないが、この一言が、五亨庵の決定だ。
玲陽はそれを受けて、話を進めた。
「具体的な建設に関わって、三つのことを煮詰める必要があります」
言いながら、几案の上の木簡を、順に示していく。東雨が覗き込む。
「堤防と池と水門?」
「はい」
玲陽は自分で作成した簡単な地図の上に、墨で染めた麻紐を、川に沿って置いた。
「この紐が、堤防を築く位置です」
「ここだけでいいんですか?」
東雨が、足りないのではないか、という顔をした。玲陽は微笑んだ。
「近年の伍江の氾濫流域を調べたところ、このあたりが流水域の西端となっています。外からはわかりにくいですが、川底が傾斜しているのではないかと。ですから、その地形も利用し、この流域だけ抑えれば、かなりの効果が上がります」
関心したように、東雨はため息をついた。玲陽は少し肩をすくめて、
「もちろん、本当はもっと広範囲にした方が安全性は上がりますが、なにぶん、先立つものが……」
と、犀星を伺う。
「まずは、それで」
やむに止まれない事情で、犀星は決断した。微かに頭が重く耳鳴りも再発するが、平気な顔を決め込んだ。
玲陽は進めた。
「では、次に池です。堤防がここまで伸びるとすると、最終的に、池本体はこのあたりまで拡張できます。亀池を取り込んでさらに広げて……」
染めていない紐で、ぐるりと池の輪郭を作る。
「大きいですね」
二倍以上になった池の面積を見て、緑権が言った。
「広い方が、魚がたくさん……育てられますね」
玲陽は苦笑した。
「もちろん、それもありますが、貯水量を上げておくことで、急な大雨や干ばつにも備えることができます」
「なるほど、養殖以外の役も兼ねる、か」
慈圓は腕を組んで頷いた。
「宝順が求めてきた以上の成果が上がれば、面白い見ものになるな」
「ここからさらに引水して、紅蘭周辺の農業用水にも使えるよう、計画しましょう」
玲陽はにっこりした。
「いいな、それで」
犀星が裁断する。
「では、次に、水門です。これが一番大変なんですけれど……」
玲陽は水門を模した木片を何ヶ所か配置した。
「段階的に水量を管理することにより、それぞれの水門への負担を軽減します。また、損傷が出た場合にも対応できるよう、一つの水脈につき、複数箇所の設置が必要です」
東雨は、初めて見る土木計画の図面に興奮気味だった。玲陽が言うと、大掛かりな工事も簡単な絵合わせ遊びのようで、わかりやすい。
「四カ所か……」
慈圓が口をひねった。
「やっぱり、本当はもっと欲しいところですが……」
玲陽の目は、予算を心配して犀星に向けられた。
じっと図面を見ていた犀星は、玲陽の手元に残っていた予備の木片へ手を伸ばした。偶然を装って、指先に触れることも忘れない。
「ここにも」
と、図面の上に置く。川の下流域で、ちょうど紅蘭の南東に位置する場所だ。
「なぜ、ここに?」
玲陽が意図を問う。犀星は少しだけ目を動かして、
「最近、このあたりに商人の宿場が立ち始めた。いずれ、大きくなる。その時、水門があれば何かと便利だ」
「水運に使える、と?」
慈圓が少し驚いて、
「伯華様、そのような情報をどちらで?」
「市場だ」
東雨が思わず微笑んだ。これが、彼が生涯尽くすと決めた主人の才覚だ。
「では、そうしましょう」
今度は、玲陽の一声で、五カ所の水門建設が決まった。
「現場を任せられる技術者が必要ですが、心当たりはありますか?」
「八穣園の池の設計者ならばわかるが……」
慈圓が豊富な人脈を辿った。
「宮中の池と、郊外の巨大な養殖池では、違いすぎるだろうか?」
「いいえ、基本は同じです」
玲陽は、ほっとした顔で、
「もちろん、自然の地形を利用しますから、配慮しなければならないことはありますけれど、造り自体は大きく変わりません」
玲陽は、できる限り簡潔に、言葉を選んだ。
「この一帯はもともと水はけが悪く、氾濫に悩まされていましたが、裏を返せば、水を溜めやすい土壌とも言えます」
東雨が小さく、感嘆の息を漏らした。
「なぁんだ」
緑権が大きな声を上げた。
「今までの役人連中、どうにかして農地にしようとしていたから、失敗続きだったんですね。最初から池にすればよかったのに、みんな、馬鹿だなぁ」
「おまえは何も言わなかっただろうが」
慈圓がじろりと睨んだ。
「自然に合わせる……」
犀星は静かに図面を眺めながら、
「人の手で歪めても、狂うだけか……」
「池って、どうやって掘るんですか? 私、力仕事は苦手なんですけど……」
緑権が素朴な疑問を口にした。
「そこは、適材適所で」
遠慮なく、東雨が口を挟んだ。
暗に、あなたには期待していません、という意図だが、緑権はがっかりするより安心した。玲陽はいたって丁寧だ。
「基本的には鍬を使って掘って土をどけます。そして、どけた土を周囲に積み上げて堤防を作ります」
緑権がなるほどと頷いて、
「その場で出た土をその場で利用できるってことですね」
「はい、そうなります」
「よかった。遠くまで運ばなくて済むんですね」
今度は、東雨がホッとする。ちらっと犀星を見て、
「若様が、また、荷車を引くなんて言い出したらどうしようかと思いましたよ」
そういえば、昔、そんなこともあったな。
犀星はふと懐かしく思った。玲陽はにっこりとした。
再び、緑権の質問が飛んだ。
「それで、魚は、何を育てるんですか?」
緑権の目は、何が食べられるんですか、と尋ねていた。
東雨は、宮中の池を思い出した。
「池の魚、と言えば、鯉や鮒、ですか?」
「草魚や鰌も美味しいです」
緑権が加えた。
「あと、鮎もいいですね。もちろん、鼈も」
「おまえは本当に、食うことばかりだな」
慈圓は苦笑した。だが、実のところ、目的は食料資源の確保なのだから、緑権の意見は的を得ていた。
「では、それらの魚の飼育について詳しく知る者は?」
「池の管理官に、知り合いがおるが……」
すぐに、慈圓が答えた。
「食用に育てているわけではないからな。まぁ、参考程度か」
「いつもの、あの店主はどうでしょう?」
東雨が、市場でよく、干物を売っている馴染みの店を思い出した。
「生魚から、自分で買い付けている人です。よく、珍しい魚も扱ってますし、交友関係も広いみたいです。聞いてみてもいいかもしれません」
「では、そこは東雨に任せよう」
「え?」
東雨は驚いた顔で犀星を見た。
五亨庵に勤めていても、東雨の役割は犀星の身の回りの世話が中心であり、直接、政治的な仕事を与えられたことはなかった。
東雨にとっても、それは恨めしかった。忙しく働き、難しいことを話し合い、成果をあげていく犀星たちを、ただ眺める立場に、寂しさがあった。
「俺に、できるかな……」
「それを試してみるんだ」
犀星の唇が、微かに動いた。無表情のようであるが、微笑んでいるのが東雨にはわかった。心が決まる。
「俺、やります!」
晴れやかに、東雨は大きく頷いた。
会議中はいつも渋い顔をしている慈圓が、わずかに頬を緩めた。
以前から、慈圓も犀星も、東雨の才能を高く買っていた。今までは、宝順とのつながりと、侍童という立場を考慮して業務を振らなかった。だが、今は何も遠慮する必要はない。彼は近侍であり、犀星の腹心である。今後は存分に力を発揮してくれるだろう。
先が楽しみだ。
きらきらとする東雨の目を、慈圓は満足そうに眺めた。
しだいと、亀池の再建計画はしっかりと形を見せてきた。
だが、最後の難関の前に、誰もが口を閉ざした。
金銭問題である。
皇帝からは五亨庵に『一任する』と言われた。
やり方は自由にして良いと同時に、国家予算からは一文たりとも出さないということを意味している。
すべての工事にかかる材料代、人件費、流通のための投資、情報料、必要な経費のすべては、自分たちでかき集めなければならない。
玲陽は肩をすくめた。
「これ、普通のことなんでしょうか? てっきり、皇帝陛下からの勅命であれば、予算がつくものだと……」
「本来はな」
慈圓が苦笑する。
「宝順のやつ、昔から伯華様を試すようなことばかりしおる」
「ケチなんですよ」
緑権が、さらりと言ってのけた。
「伯華様なら、なんとかしてくれると思ってるんじゃないですか?」
それは、謀児様も同じでしょう?
口には出さなかったが、東雨は、にやりとした。
「花街の時は、どうしたんですか?」
玲陽が尋ねた。
「あの時は、伯華様が……」
「謀児」
説明しようとした緑権を、犀星が止めた。わずかに顔がこわばっている。
ふーん……
玲陽は目を細めた。
「とりあえず、仮の予算を出してみます。途方もない数字ですから、兄様の俸禄を切り詰めるだけでは焼け石に水ですよ」
「親王の俸禄って、そんなに少ないんですか?」
思わず、全員が緑権を見た。その視線は凍るように冷たい。
犀星は黙って、すっと、下を向いた。仕方なく、東雨が口を開いた。
「若様は直轄地をお持ちでないので、現物支給なんです。ですから、自由になるお金はほとんどありません」
どこか、開き直った口調だ。
「それでも、ちゃんと生きてます」
「東雨……」
犀星の顔が情けなく沈む。
黙していた玲陽の目が、さらに、細められた。
五亨庵の池掘りに、関わることになるとは……
蓮章は、心深くため息をついた。
相変わらず、犀星の災難は涼景を経由して、自分たちに降りかかるようにできている。
これも全て宝順のせいだ。
皇帝への逆恨みが募る。
自分が一人で、暁隊を担わなければならなくなったのは、涼景を遠方に派遣した宝順のせいだ。
五亨庵が、亀池の再工事を請け負うことになったのも、もちろん、宝順のせいだ。
それに伴って、自分が忙しい時間を割き、隊士を連れて、都の外の視察につき合わなければいけないのも、最近眠れない日が続いているのも、春にもかかわらず汗ばむほどに気温が上がっているのも、脇を流れる伍江の川底が赤黒いのも、全て、芳順が悪い。
蓮章は、胸の中の苛立ちを全て皇帝に押し付け、表面では涼しい顔を装った。
五亨庵は、紅蘭の南東の宿場近くに、水門の建設を予定した。当然、現地を見ることは必須となるが、涼景が不在の中、親王である犀星が、都の外まで出ることは容易ではない。
代わりに、玲陽が赴くことになったのだが、過保護な犀星が簡単に了承するわけがなかった。
護衛として、犀星の数少ない友人の中から、蓮章に白羽の矢が立った。
犀星は、蓮章と護衛の暁隊士が同行することを条件に、玲陽を送り出した。
今朝、早くに都を出て、馬の足でかれこれ二刻。目的地である宿場まで、あと一息である。
南方から紅蘭へと伸びる街道は、雪解けの名残でいたるところにぬかるみがある。そこから立ち上る泥の匂いが、気だるい空気を醸していた。
この道は古くから、南と都をつなぐ道として、商人や旅人が多く利用していた。時折、都に向かう荷車や馬の一団とすれ違う。その度に、玲陽は羨ましそうに、振り返って見送った。
蓮章はその様子を横目に、胸の中に風が吹き抜けるのを感じた。
離れなければならない寂しさは、立場も事情も超えて、同じなのかもしれない。
涼……
がらにもなく、蓮章はうら寂しさを覚えた。
親友に同行したくとも、責任を持つべきことが都には残されていた。ふたり揃って離れるわけにはいかない。
春だってのに、俺の燕はどこ行ったんだよ。
蓮章は再び、皇帝を恨んだ。
ふと、玲陽と目があう。今日の彼は、珍しく髪を結い、薄い色合いの着物をまとっている。その理由が、なんとなく蓮章には想像できた。
「おまえ、辛くないか」
「これくらいなら、大丈夫です」
玲陽がやんわりと答えたのは、遠出の疲れについてだ。
「いや、そうじゃなくてなぁ……」
蓮章は首を振って、
「その髪、自分で結ったのか?」
「え?」
玲陽はきょとんとして、それから柔らかく微笑んだ。
「いいえ、これは兄様が」
「やはり……」
蓮章の直感は当たっていた。
「それに、その簪……」
玲陽の髪紐に添えられた銀色の細工を目で指す。玲陽は頷いた。
「はい。兄様のです。お守りに、と」
「その着物も」
「はい。兄様のです。自分の代わりに、と」
これは過保護を通り過ぎて、束縛だ。
自由を旨とする蓮章には、想像するだけで重すぎる執着だった。放って置かれるのも物足りないが、ここまで絡まれても嫌になる。
玲陽は、蓮章の呆れた顔を見て、苦笑を返した。
「兄様は昔から心配性なので」
「心配しすぎだ」
蓮章はきっぱりと言った。
「俺なら耐えられないぞ。おまえは、息が詰まったりしないか?」
玲陽は、静かに首を振った。軽い髪がさらさらと揺れて、春の陽気に美しかった。
「私は、これくらいが安心できるので」
無理をしている様子はない。
「むしろ私の方が、兄様より厄介かもしれません」
静かに行手に目を向けて、玲陽は秘密のように言った。蓮章は、じっと、その金色の瞳と白い肌を見た。
昨年の冬に初めて会った時から、玲陽の印象は大きく変わった。
当時は、儚さばかりが前面に出ていた。しかし今は、柔和な中にも時折、犀星以上の強さを感じさせる。
これが本来の玲陽の姿だと蓮章は思っている。そして、玲陽を得てすっかり角が取れた犀星もまた、素顔に戻れたのだろう。
ふたりで一つに完成する、か。
羨ましさと呆れとが混ざった顔で、玲陽を眺める。
「本当にすみません」
蓮章の視線を気にして、玲陽は、今日、何度目かわからない謝罪を口にした。
「涼景様がいらっしゃらなくて忙しい時なのに、お仕事をお願いしてしまって……」
「構わない。気晴らしになる」
悪いのは全部宝順だ、と、蓮章は胸の中で繰り返した。
「それより……」
玲陽は、後ろをついてくる暁隊の隊士たちに聞こえないよう、ぎりぎりまで馬を寄せ、声を低めて、
「親王とは、どうなってるんだ?」
その声色は艶めいていて、何を聞きたいのか、玲陽にもすぐにわかった。
「どう、と言われましても……」
玲陽は少し唇を噛む。
蓮章のことは、信用している。
今更隠すこともないが、話すことも本当になかった。
「残念ながら、ご報告できるような事は何も」
「何もないということは、ないだろうに」
蓮章は、簡単には引き下がらない。
「相変わらず、一緒に眠っているんだろう? おまえの体調も良くなったことだし、季節は春だし」
春と自分たちと、どんな関係があるのか。
玲陽はこっそり首を傾げた。
蓮章は、更に体を近づけた。
「ちゃんと、やること、やってんだろうな」
「や、やることって……!」
あけすけな言い方に、玲陽の頬が震えた。
かつて、歌仙で散々な目に遭っていた玲陽にとっては、今更動揺することではない。
しかし、それと犀星とのことは、また別だ。改めて言われると、意識してしまう。
「誤解がないように、はっきり申し上げますが」
玲陽は丁重に、
「牀は共にしておりますが、言葉通りの意味です」
「言葉通りとは?」
「ですから、一つの場所で眠っているだけ……」
「体には触れるだろう」
「それは……少しは……」
玲陽の返事は、歯切れが悪い。
「少し、ねぇ」
深く知りたいと、蓮章が首を伸ばす。
「子どもじゃないんだ。添い寝だけで終わるって事はないだろ」
「それは……」
「口付けより先の話が聞きたいんだが?」
むしろ、それができないのですけど……
玲陽は、心の底で思ったが、さすがに言葉には出さなかった。
一日に何度、犀星を抱きしめて唇を重ねたいと願うか。
焦がれる想いは、犀星よりもむしろ、玲陽の方が激しかった。だが、玲陽の口付けは相手を殺す。それは、犀星に対しても同じである。叶えることのできないそのたったひとつのことが、犀星への執着を強くする。
最近では、気持ちを抑えきれず、思わず力を加減ができないことが増えていた。玲陽が震える手で粗野に触れても、犀星は黙って受け止めてくれた。それが余計に玲陽には辛い。
周りの景色は、荒地から、春蒔きの油菜の畑へと変わっていた。歌仙を思い出す懐かしい匂いが、時々強まる風に乗って届く。
日差しは白く煙るようで、肌に優しかった。
玲陽は川面に目を向けた。
太久江の支流である伍江は、北の山脈に水源を持つ大河である。養殖池に関連して、これから深く関わることになる。
きらきらと陽の光を煌めかせ、悠々と流れる伍江に、懐かしい日々の記憶が重なって見えた。
幼い頃、土地の子どもたちと一緒になって、川遊びをした。あの頃から、すでに自分の心には、犀星しかいなかったと気づく。
急に、残してきた人が恋しくなって、玲陽は手綱を強く握りしめた。襟の匂いを嗅ぐように、肩に顔を寄せる。
犀星との間には、本当に情事らしいことは何もない。
以前、一度、傀儡喰らいの消耗を補うために精を求めたが、それきりだった。触れ合うのも胸元までで、そこから先へは進まない。
「……本当に、何もないんです」
玲陽の表情から、蓮章は察してくれたらしい。
「おまえ、辛くないか?」
同じ言葉をさっきも聞いたな、と思いながら、玲陽は蓮章に目を向けた。その目元はわずかに赤い。
「……正直、辛いです」
「だったら、迫れよ。親王だって拒みはしないだろうに」
「でも……」
玲陽は言い淀んだ。蓮章は、玲陽の過去の詳細を知らない。
玲陽の体は、犀星を受け入れることはできない。交わりを求めるなら、それは犀星が受け入れる以外にない。受ける身の辛さを思い知っている玲陽には、強いることがはばかられた。
今より先の触れ合いは、そのまま抑えのきかない情動につながってしまいそうで、玲陽は踏み出せずにいた。
「何か、訳がありそうだな?」
肯定するように、玲陽は蓮章を見つめた。
蓮章が色ごとに通じていることは、何かと耳に入っている。何かと相談してみるのもいいかもしれない。
玲陽の目は、蓮章が戸惑うほどに真剣だった。
「あの、蓮章様」
「うん?」
「いえ……昼間の街道で、仕事に向かう途中にする話ではないので」
玲陽が、また改めて、と思った時、護衛の隊士がひとり、ふたりを追い抜いて先へ出た。
「梨花、妙だ」
大柄なその男は少し先で、蓮章を振り返った。古参の隊士のひとり、|旦次(だんじ)である。涼景も一目置く、古株の豪傑だった。
「どうした?」
蓮章は、旦次を数歩、追いかけた。
「これ、見てみろ」
旦次は足元の土を指差した。
ぬかるんだ土が、酷く乱れ、宿場町へと続いていた。
「馬の蹄の跡ですね」
玲陽は旦次を見た。
「ああ。随分急いでいる。まだ新しい」
蓮章と三人で、顔を見合わせる。
商人が馬を使うことはあるが、荷運びをするのにこれほど走らせるとは考えにくい。
「数も多い。少なく見積もっても、十はくだらないだろう」
旦次の見立ては的確だ。蓮章と玲陽が、緊張して目配せをする。先ほどまで、口付けだの添い寝だのと話していたのが嘘のよう鋭かった。
「最悪、盗賊の類が通ったと考えるべきだな」
旦次は行く手の宿場を睨みつけた。
「盗賊……馬……」
玲陽は事前に聞いていた情報を思い出した。
三年前の北の国・千義との戦い。その際、本国の軍に裏切られ、函に取り残された部隊があった。停戦後、隊は散り散りになり、一部は野盗と化した。それが、神出希没の盗賊として恐れられる、現在の胡断である。
もともと訓練を受けた騎馬隊が核である彼らは、統率の取れた動きで、素早く村や町を襲い、短時間で全てをさらってゆく脅威だった。
「まずいな」
蓮章が形の良い眉目を、厳しく歪めた。
「宿場には金目のものは少ないが、人だけはいる」
「奴らは、人さらいもやるんだろ」
旦次は、やれやれと首を振って、
「光理、あんたはここで待ってろ。俺が様子を見てくる」
「いえ、私も行きます」
玲陽は腰の太刀を意識した。最近では、犀星に引けを取らないところまで回復していた。
「よしてくれ」
旦次は遠慮なく遮った。
「あんたに何かあったら、俺たちは皆殺しだ」
犀星の顔がちらつき、玲陽は言い返せなかった。いかに暁隊といえども、犀星を敵に回して、生き残れる保証は無い。いや、むしろ誰にもない。
「陽、他の者たちと一緒に待っていろ」
蓮章は旦次と共に町へと駆けて行く。
背後に控えていた三騎の隊士が、不満もあらわに玲陽のそばに寄ってきた。
「光理、どうする?」
玲陽は考え込んだ。彼らはみな、おとなしく待つ性格ではない。
「そりゃ、あんたも守らなきゃならないが、梨花の身に何か起きたら、隊長に合わせる顔がない」
「子どもの散歩じゃないんだ。ただの留守番なんてつまらねぇ」
「旦次のやつ、いつも手柄を独り占めにしやがる」
もともと暁隊に、統率や協調という精神はない。個人が自由な意思の元に動くだけである。
「でも、動くなと言われてしまいましたし……」
玲陽は隊士たちを見回した。まっすぐな期待に満ちた目が見つめてくる。玲陽は、この手の眼差しに弱い。
この宿場は数年前まで、わずかな宿と馬借しが並ぶ程度だった。それが、去年の夏に大棚が店を構えて以来、急速に発展した。
この地の利点はまず、広大な耕作地帯に接し、食料の入手が容易であることだった。さらに都にも近く、一日で行き来ができるのも、商人にとっては売りやすく望ましい。
しかし、あまりに短期間で人が集まったため、町としての機能整備が追いついていなかった。
道幅は広いが土がむき出しで柔らかく、路面には荷車の轍が随所にある。井戸は大棚の裏に一箇所だけだ。立ち並ぶ建物の裏手から川の水を引いているが、管理は十分とはいえなかった。水の流れが自然と蛇行し、いたるところにぬかるみができている。
蓮章と旦次は、宿場に入る前に異変に気付いた。甲高い叫び声がいくつも響き、賑わいとは別の騒がしさが押し寄せる。町の奥から、血相を変えた人々が、何人も走り出してきた。
「賊だ! 胡断だ!」
誰かが叫ぶのが聞こえた。
「当たり、か。どうする、梨花?」
旦次が馬足を緩めた。
「胡断は面倒だろ。おまえ、恨まれているから、正体が知られると……」
「だが、出くわしてしまったものは、仕方がない。とりあえず様子を見て、勝ち目がないなら逃げる」
蓮章は迷わず、騒ぎの中心へと馬を進めた。
「全く、敵を作りすぎだぜ」
「文句なら涼に言え。九割はあいつの責任だ」
蓮章は、逃げる人々の動きから、襲撃の位置を見極め、馬首を巡らせた。
旦次は大槍に手をかけた。涼景の留守中に蓮章を守るのが、自分の役割だと心得ている。
「俺より前に出るな」
蓮章は少し馬足を落として旦次の後ろに距離をとった。自分の力量は、本人が一番わかっていた。彼らの日常の中には、生死の境界線が至る所にある。
「援護する」
蓮章は鞍につけていた弓を引き寄せた。
行く手に、広い道幅一杯に、十数頭の馬が広がっているのが見えた。
一人の男が、大きな店の前で指示を出し、十余名の男たちが駆け足で慌ただしく動いている。
店先に並べられた草履や馬具、旅支度の商品が地面に散乱し、縛られた女が何人かまとめて座らされている。女中や商人、旅の者など、服装は様々だ。
女たちを見張る者、店の中から重そうな箱を担ぎ出してくる者、女を運ぶ荷車を馬につなぐ者もいる。彼らの動きに無駄はなく、手分けして次々と馬の背に略奪品をくくりつけていく。
手際の良さと馬の扱いから、胡断に間違いなかった。
一度、引くか……
蓮章は警戒を強くした。胡断を相手に、自分はほぼ、戦力にはならない。正面から当たっても、この人数に旦次一人ではどうにもならない。囚われた女たちを残すのは忍びない。
せめて、彼らだけでも解放できれば……
蓮章が策を練ったとき、ひときわ大きな悲鳴が上がった。商人らしき着物の男が店の中から飛び出し、血を流して倒れ込む。背中に刀傷を負っている。
反射的に、旦次が飛び出した。蓮章が止める間もない。
商人を追いかけて切りかかった胡断の一人を、馬上から旦次の槍が仕留めた。旦次はそのまま馬を飛び降り、躊躇なく、周囲の胡断を殴りつけた。
「先走りやがって……」
蓮章は馬を降りると、素早く近くの軒下に姿を隠した。
「急げ!」
指示役の声が飛ぶ。
胡断の特徴は、その素早さだ。猶予はない。
蓮章は、振り向きざまに弓を構えた。続けて三本を放つ。狙い違わず、馬の首の付け根に麻酔効果のある毒矢を撃ち込む。馬は驚いて荒れ狂い、荷物を放り出して馳け廻る。荷車が繋がれていた馬が暴走し、凹凸のある地面で跳ねて、車がひっくり返った。
女たちが悲鳴を上げ、抑えようとした胡断が馬蹄に蹴られて吹き飛んだ。
「馬を抑えろ!」
胡断がそれぞれの仕事を放り出し、総出で馬の綱に取り付いた。複数人で一頭の綱を引き、どうにかなだめていく。暴れ馬の興奮が他の馬に伝染し、混乱の度合いが一気に高まった。
「今だ!」
蓮章は素早く飛び出すと、女たちに駆け寄り、手と足の縄を切った。
自由になった女から先に、必死で駆け出す。悪路につまづいて転がるように、その場から逃れる。
「何をする!」
蓮章の動きに気付いた胡断が、数名、蓮章に飛びかかった。旦次は槍を刀に持ちかえ、立て続けに打ち払った。
やがて、薬が効いてきたのか、馬たちは脚で空を掻き、倒れこむ。舌打ちをしながら、胡断の総勢は残った馬をかき集め、それを囲むように背中を合わせて円陣を作る。
指示役が蓮章たちを睨みつけた。一望できる胡断の戦力は、負傷者を除いて十五名だ。
旦次が舌打ちした。蓮章も、普段からは想像もつかない厳しい表情で胡断に相対した。
「梨花、どうする?」
「おまえ一人で全員を倒せるなら、押し切るが?」
「無理言うな。俺は仙水じゃねぇぞ」
本当であれば捕獲したいところだが、今回の目的はそもそも、盗賊討伐ではない。取り逃せば左近衛の夏史あたりに嘲笑われるだろうが、玲陽を危険に晒すわけにはいかなかった。
蓮章は、地面でうずくまっている怪我人を見た。この店の者だろうか、目につくだけで三名、負傷して動けずにいる。
「助けている余裕はないぞ」
旦次が小声で蓮章の視線を制した。
「何者だ!」
自分たちの優位を察して、指揮官は蓮章たちを見下ろした。
蓮章は弓を構え直し、
「俺たちは紅蘭の警備隊だ。おとなしく投降する気がないなら、自分の命だけ持って失せろ」
「ほう。都の衛兵にしては、ずいぶん荒っぽいな」
指揮官は蓮章の全身を舐めるように見た。
「おまえの体……高値で売れそうだぜ」
「おまえの命より高くつくぞ」
細いが、しなりの強い蓮章の弓が反った。鋭く睨む灰色の目に気づいて、指揮官は短く声を上げた。見る間に顔がこわばる。
「その目、聞いたことがある。おまえ、遜蓮章……か?」
蓮章は黙った。これだから、目立つ体は厄介だ。
「……そうか、おまえら『涼景』か!」
指揮官の言葉に、胡断の間にざわめきが立つ。
自分たちをこのような境遇へ落とした仇こそ、涼景である。当然、蓮章は涼景の軍師として、同等かもしくはそれ以上に恨まれている。
「そうとなれば、引くわけにはいかないな」
指揮官は決心した。
「蓮章を手に入れれば、いくらでも涼景を動かせる。それに、おまえを仲間の中に放り込めば、面白いものが見られそうだ」
旦次が後手に蓮章を庇いながら、一歩、後退した。
「周囲、援軍に備えろ。二班は各個奴らに向かえ。蓮章は生け捕れ! もう一人は殺せ」
指示に応じて、胡断が迅速に動く。
半数が展開して周囲の警戒に当たる。残り半数が二手に分かれて、旦次と蓮章に近づいた。
「やるのかよ……」
旦次は渋い顔で、大ぶりの直刀を守りに構えた。
接近戦となれば、旦次は涼景に次ぐ実力者だ。その力量は、胡断たちにも一目で知れた。
強敵、と定められ、蓮章より多い数が旦次に向けて襲いかかった。地を転がって刃を逃れ、素早く体勢を立て直す。同時に振り下ろされる刀を交わす。ぎりぎりまで引きつけて同士討ちを狙うが、訓練されている胡断には通用しなかった。一呼吸ずれて刀が空を切る。
「くそっ……」
旦次は攻勢に出る間がない。防ぐ一方でじりじりと押される。
後方で蓮章の目が鋭く瞬いた。旦次はうまくかわしているように見えるが、胡断が意図的に空けた方向へと後退している。
「旦次、引くな!」
すぐに旦次との間に距離が開き、そこに残りの胡断が立ち位置を取って蓮章に刃を向けた。
分断された!
蓮章は小さく舌打ちした。
二手に分かれた小隊が、互いの動きを確かめながら、自分たちに優位な戦況を作っていく。相手が二人きりであろうと、そこに油断はなかった。
胡断は個人では動かない。陣形を意識して集団で戦う。
これだから、面倒なんだ。
旦次が気づいた時には遅かった。蓮章の身を守ることができる距離まで、近づけない。
蓮章に狙いを定めた四人が、すり足で距離を狭める。止むを得ず、蓮章は腰の直刃を抜いた。率直に、剣術は苦手だった。
胡断は皆、手練れだ。
もっとも近くにいた一人が、踏み込むと同時に刀を振りかぶった。蓮章は咄嗟にとびのいて距離を取った。馬上で使うことを目的にした胡断の刀は間合いが長い。一つ、攻撃から逃れるたびに、包囲が狭められる。生け捕るために慎重になっているが、殺す気ならば、とうにやられているだろう。
最悪……
蓮章の脳裏に涼景の顔がちらつく。
どうにか次の攻撃を避けて、後ろにのけぞる。背中が建物の壁に阻まれる。三人が蓮章ににじり寄る。後ろの一人の手には、捕らえるための縄が握られていた。
「梨花!」
旦次がどうにかしようと包囲の突破を狙うが、思うようにならない。
「傷つけるな。値が下がる」
指揮官が叫んだ。
刀が蓮章の頬をかすめ、すぐそばの壁に突き立つ。ぞくっと身体が縮んで硬直する。その一瞬を狙って乱暴に腹を蹴り上げられ、蓮章は崩れた。泥が髪に跳ねた。二人がかりで押さえ込まれ、腕が背中にねじられる。
涼!
咳き込みながら、不覚にも、涙が滲む。
悔しさにきつく目を閉じた時、足元の地面を通して、馬の足音が響いてきた。
まさか!
蓮章は息を呑んで顔を上げた。
白い馬に金色の髪が、鮮やかに視界に入った。
陽……!
玲陽は、さらに速度を上げてこちらに馬を走らせてくる。その後ろには、残してきた隊士もぴたりとついている。
待ってろって言ったのに……これだから、暁は……
蓮章は思わず、半面で笑った。
先頭の玲陽は、胡断が射た矢を、太刀で払い落とした。さらに身を低めて横一文字に構え、突進してくる。駆け抜けざまに、蓮章のそばにいた胡断二人の胸と腹を、一太刀で薙いだ。鮮血が走り、それが蓮章にまで降りかかる。致命傷ではないが、十分な痛手である。呻いた胡断が数歩下がり、それをかばって包囲が崩れる。
後に続いていた三人の隊士が、旦次を取り巻いていた胡断を馬で蹴散らした。旦次も形勢を逆転して、一人を打ち据え、蓮章の元に走った。そのまま、蓮章の縄を切り、抱え上げるようにして後退する。馬から降りた三人の隊士が、四散していた胡断の動きを見ながら、守りの形に前に出る。
一方、玲陽はそのまま、店の前で混乱していた胡断の中を突っ切った。
指揮官が横にとびのいて、玲陽の太刀を避ける。
玲陽は落ち着いて手綱をさばき、すぐにとって返して刀を構える。もう一度指揮官の脇を抜けて蓮章のもとまで駆け戻った。
素早く陣形を立て直し、胡断は円陣に戻った。
蓮章は気持ちを切り替えて、戦況を見回した。
胡断は指示役をいれて十二名。
こちらで戦力になるのは、自分を除いて五名。ただし、そこには警護対象である玲陽も含まれている。玲陽の実力は未知数だが、並の隊士よりは使えると考えて良さそうだった。
それでも、ぎりぎりか……
胡断にも負傷者が出ている上、馬も万全ではない。
もう一度、撤退勧告して、それでだめなら……
「どうせ聞かれるでしょうから、先に言いますけれど」
蓮章の不意をついて、玲陽の声が大きく響いた。全員が、ぎょっとして振り返る。
「私は五亨庵の玲光理。歌仙親王殿下の承親悌です」
馬上から、玲陽は堂々と名乗りを上げた。
「馬鹿、どうして……」
旦次が焦る。玲陽の身分は、胡断にとって利用価値がある。ただでさえ、その見た目から狙われてもおかしくないというのに、これでは自ら捕まえてくれと言っているも同じだ。
案の定、指揮官の目の色が変わる。
三年前、戦いの終結には、犀星も深く関わっていた。憎むべき相手が、目の前に一人増えた。
「何なんだ、おまえたちは……」
指揮官が拳を握った。
「次から次へと、どうしてそんな重鎮が、こんな街道に出てくるんだ!」
「……皇帝陛下のご命令で」
玲陽は、ぽつり、とつぶやいた。嘘はついていない。
「とにかく」
気を取り直して、玲陽は顔を上げた。
「見過ごすことはできません。歌仙親王の御領地と知っての狼藉ですか?」
蓮章が小さく息を飲んで、玲陽を見上げた。
「親王の領地?」
そんな話は聞いたことがない。
「これから、そうするんです」
玲陽はさらりと言ってのけた。
「ですから、蓮章様。歌仙様の名の下、ここは、しっかり、成敗を」
「……おまえ、計ったな」
ここで胡断を討てば、領地申請における犀星の足がかりになる。逆に見逃せば、その名声を下げてしまう。
これでは、引くに引けないではないか。
蓮章は思わず、玲陽を睨む。涼しげな横顔に悪びれた様子もなく、玲陽は大太刀を握り直した。
「さすが、親王が選んだだけのことはある。おまえを甘く見すぎていた」
蓮章は腹を括った。
「承親悌の言葉は、親王の言葉……暁隊に命ずる。現状の胡断を掃討しろ!」
旦次以下、表情が一気に険しくなり、音を立てて刀を構えた。
胡断の指揮官も戦斧を構えた。馬上からも操れる、大型の一振りである。
「これは祖国への忠誠の一戦、みな、心して当たれ!」
合わせずして、胡断から咆哮が上がる。それを合図に、その場の全員が動いた。
先鋒に、旦次が突進する。
涼景直伝の太刀捌きが、胡断の戦意をくじき、音を立てて空を切った。旦次の剣術のみではない。体当たりや蹴り技を混ぜ込み、二人を同時に相手しても遅れをとらない。
他の隊士たちも、剣術は補佐で、ほとんどが素手での殴り合いに持ち込む。暴漢と変わらないが、この戦法は元正規軍の胡断の意表をつき、正面から剣で挑むよりも勝機があった。
玲陽は、馬を逃すと蓮章の前に位置取った。大太刀を自在に操り、白刃を見事にさばいて弾きかえす。腕力ではさほどもないが、武器の重みとしなやかな身体能力が群を抜いている。知識のある者ならば、その動きが犀遠の編み出した一沙流剣術であることは一目瞭然だった。前方の敵だけではなく、後ろにも目があるように敏捷に動く。型よりも実践を重んじ、さらに大太刀によって最も効果を発揮する戦術である。
玲陽の守りが崩れない、と確信し、蓮章は近くの建物の壁を背にして、矢を射った。近くの敵は玲陽に任せ、広く戦場を見て味方の援護に回る。射尽くして空になった矢筒を放り投げる。
「矢をよこせ!」
突然、軒の上から数十の矢が詰められた筒が落ちてきた。その不自然に気づく者はいない。
戦いの緊張と剣戟の音、そこに重なる叫び声と悲鳴に紛れて、一人の男が屋根の上に潜んでいた。
「詰め込むな、と言ってるだろ……」
文句を言って、蓮章は無理に三本を引き抜いた。隙間が空いて、片手で矢を抜く余裕ができる。
「いいから、さっさと切りぬけろ」
屋根の上から声がした。正体の知れない男は身軽に屋根を伝って、姿を消した。
あらかたの敵は負傷し、蓮章の毒矢に当たった者は体がしびれて動けずにいた。暁隊士も負傷し、腕や足に血がにじんでいる。玲陽は蓮章を守りきったものの、体力的に限界が近く、立っているだけで視点が定まらない。荒く全身で息をする。
前線では旦次が指揮官と向かい合っていた。そのそばに、残った二名の胡断が添い、蓮章の矢から指揮官を守る。
玲陽は深い呼吸を二、三度して、旦次へ近づいた。自分から打ち込む余力はないが、せめて、その背中をかばう。蓮章も、角度を見ながら距離を縮めた。
頼りの旦次は、何人もと刀を交え、満身創痍である。
追い詰められているとはいえ、無傷の指揮官は簡単に倒せる相手ではなかった。
「さすがは、『涼景』だな」
指揮官は憎々しげに旦次たちを一瞥した。
「だが、たとえ敗れても、道連れにしてやる」
大型の戦斧が振りかざされた。その大きさからは想像できない速さで振り下ろされる。旦次の肩をかすめ、盛り上がった泥に深く刺さる。
「まずい……」
旦次は息を呑んだ。
これまで、何度も荒事の中を生き残ってきた。しかし、今回は訳が違う。指揮官は、都で暴れるただのならず者ではない。かつては戦場で名を馳せた武官である。その実力は決して侮れるものではなかった。
一撃一撃が重い。まともに受ければ、刀が砕けて散る威力である。指揮官の繰り出す大技と、旦次が迎え撃つ刀が乾いた音を立ててあたりに響く。
間違えれば、一撃で決着がつく。
旦次は思い切って、こちらから打って出た。指揮官の戦斧が信じられない速さで方向を変え、刀の中ほどをへし折った。
旦次は折れた刀を捨てると、地面を転がって槍を拾い上げた。指揮官の戦斧同様、馬上で扱う大物である。だが、今は使いこなすだけの体力が危うかった。
間断なく打ち下ろされる指揮官の斧を、槍の柄を滑らせてかわす。
一瞬の油断もならない緊張感に、春の日差しが凍りつき、風が止まる。
蓮章は弓に矢をつがえていたが、二人の動きが激しく、どちらを狙うこともできない。玲陽は大太刀を構えつつ指揮官の後ろに回ったが、歴戦の猛者には隙がない。下手に踏み込むと、牽制する二人の胡断の間合いに入ってしまう。
旦次は勇猛果敢ではあるが、体力の配分がうまくない。全力をぶつけ、それが尽きれば劣勢に転じてしまう。徐々に追い詰められ、息が荒くなる。それを、指揮官は見逃さない。
繰り出された指揮官の一撃を、両手で構えた槍の柄で受けとめる。腰を低く落とし、その力に全身で耐える。戦斧を流し切ろうと柄を傾けたとき、ぬかるむ地面に旦次の足が滑る。体が傾き、体勢が崩れた。
「うっ!」
戦斧の端が旦次の脇腹を裂き、鮮血が舞う。
「旦次!」
蓮章の矢が飛び、指揮官は止めをさせずにとびのいた。
膝をつく旦次に、これ以上の戦闘は不可能だ。
玲陽はある限りの体力と集中力で、二人の胡断に太刀を向けた。
「蓮章様!」
「任せろ!」
玲陽が一方に斬りかかる。打ちあう金属音が、高く低く休みなく響き渡る。同時に、もう一方の胡断の胴に、蓮章のしびれ矢が命中した。動きが鈍る。玲陽は毒を受けた胡断に、追撃を叩き込んだ。よろめいて、泥に座り込む。薬が回り、そこまでだった。
最後の一人と斬り結び、気合を込めた太刀筋と気迫で、追いつめ、戦意を奪う。
気配のない動きで、指揮官が玲陽の背後に近づいていた。振り返りざまに斧が、ぶん、と眼前を走る。玲陽はよろめいて泥水に投げ出された。蓮章が駆け寄ろうとしたが、散々に踏み荒らされた地面が泥濘化し、すぐには動けない。
動けない玲陽に、指揮官が迫る。振り上げられた戦斧が空を切る。
「陽!」
蓮章が絶叫した、その時だった。
座り込んでいた蓮章の頭上を、巨大な黒い影が飛び越えた。それは一瞬の出来事だったが、蓮章にはゆっくりと流れる黒い雲のように見えた。
馬だ。
次の瞬間、耳を覆いたくなる金属の破壊音が轟き、指揮官の戦斧が雨のように粉々に砕け散った。衝撃で、指揮官が泥の中に転がる。
馬上から打ち下ろされた、戟の一撃だった。
馬の主は身軽に飛び降りると、ぬかるむ足場を物ともせず、指揮官に駆け寄った。
迷いなく、起き上がりかけていた指揮官の後頭部に回し蹴りを叩き込む。突然の不意打ちに、指揮官は再び泥に埋もれた。一気に形勢が悪くなった指揮官の喉に、馬の主は大太刀の切っ先を突きつけた。
全ては、一瞬の出来事だった。
指揮官は、頭部への衝撃で平衡感覚が狂い、同時に体も動かなくなっていた。ふらつきながら仰け反り、突如として現れた敵を見た。目を疑う。
「は? 女?」
瞬く間に斧を破壊し、自分を蹴って昏倒させ、身動きを封じて刀を突きつけているのは、なんと、少女だった。
「誰だか知らないけど」
少女は血走った目で、指揮官を見下ろした。
「陽兄様は私が守る」
「き、きさま……」
最後の気力で、指揮官は泥に仰向けに倒れたまま、玲凛を睨み付けた。
「薫風!」
少女が呼び寄せると、巨大な馬が嘶いて駆け寄ってきた。心得ています、と言わんばかりに前脚を指揮官の頭部に勢いよく踏み下ろした。激しく泥が跳ね上がる。
「あ……」
奇妙な音がして、指揮官の口から泡が噴き出した。白目をむいて気を失う。馬の蹄は、指揮官の耳を掠め、顔のすぐ横の泥に、どっぷりと食い込んでいた。
しばらく、誰も声が出ない。場違いなほど繊細な小鳥のさえずりが聞こえてきた。
国の脅威であった胡断。
それを、機を得たとはいえ、仕留めたのは、まだ幼い面影の少女。
それは驚きよりも、一種の恐怖を生んだ。
旦次が痛みと驚きに呻いた。傷は深いが、致命傷は避けられていた。
そんな中、最初に動いたのは玲陽だった。黙って立ち上がると、呆然として少女を見た。
「凛……殿?」
少女は顔を上げた。険しかった表情が、満面の笑みにとって変わる。
「陽兄様!」
少女・玲凛は兄に駆け寄り、抱きついた。着物が泥だらけになることも厭わない。
「……兄様、だと?」
蓮章は愕然として、少女を見た。
玲陽は安堵してよろめきながら、玲凛を抱き止めた。乱れた髪を撫でつけて顔を覗く。兄と妹の喜ばしい再会は、凄惨な光景の中で繰り広げられた。
このあまりにも俗離れした場面に、旦次は傷を抱えてうずくまり、蓮章は泥の中に沈んだままぼんやりとするだけだ。
これが、涼が言っていた歌仙の女傑……
蓮章はため息をついた。その視界に突然、玲凛の鋭い視線が落ちてくる。
「ここの責任者、あんたでしょ?」
蓮章は、気圧されて、思わず頷いた。玲凛の目が厳しくなる。
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