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‐第19夜‐ 偽物の家族
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私の勘が正しければあの大男はバリス・ケルディでは無い。何者かが彼の家に不法な形で立ち入り、本人に成り済ましている可能性が高い……そう見ている。
そして、この後に及んで本人やその奥さんが姿を現さないとなると恐らく……。
脳裏に過ぎったのは“死”という言葉だった。いけない。何故、私はいつもこんな言葉ばかり考えてしまうのだろうか。
一人で考えるのは辞め、私は相方兼、部下であるレーネにこう声を掛けたのだ。
「遅い。あまりにも遅過ぎる。彼は私達を待たせ過ぎだとは思わないか?」
キョトンとした表情の彼女は「そう……ですね、確かに」とだけ答えた。そんな彼女に私は提案を持ち掛ける。
「居間の一室でいつまで待ってても埒が明かない。こっそりこの部屋から抜け出して、2人でバリス夫妻を探さないか?」
「そうですね、分かりました。でも一体、何処を…?」
「大丈夫……任せて」
こっそり部屋を抜け出して、私とレーネは中の様子を伺いながら玄関へと向かった。
「一体、何処へ行こうとしてるんです?」
小声で彼女は私に尋ねる。
「この家の近くに小屋らしき建物を見つけた。平屋だ。恐らくそこがバリスの仕事場なんだろう。そこへ向かう。もしかしたら、そこにバリス夫妻は監禁されているかもしれない」
私も小声でそう返した。
「な、なるほど。では早速向かいましょう」
「あぁ」
玄関の扉も気付かれぬ様、細心の注意を払って音を立てずに開閉をした。そして、軽やかな足取りで平屋へと向かう。
「随分と古臭い小屋だな」
私の前にある小屋はかなりの年代物のようだ。
「相当年季が入ってますね」
「あぁ、中から奴らの気配は無いな」
「ですね……」
「行ってみるか」
横に開くタイプの扉はそんなに重くなく、すんなりと開いた。が……しかし、その先には何も無かった。
「何も無いみたいですね、」
「一応探すぞ中も」
「はい…」
「そこで何を探してるんですか?お二人さん」
小屋の扉が開かれると同時に夕焼けの光が差し込む。その声は後ろからほぼ同じタイミングに聞こえてきた。
反射的に振り返る私と恐る恐る振り返るレーネ。
扉には先程の大男と見知らぬ女性が立っていた。
「すみません、余りにも遅いものでつい、興味本位で……」
また、嘘を吐いた。
「そうですか、それは失礼。でも、突然いなくなったもんですから心配しましたよ」
その目はとても心配している様には思えなかった。とても、白々しい嘘だ。私の嘘に嘘で対抗しようというハラなのか?
「いえ、こちらこそ。所で隣の女性は?」
「これはこれは申し遅れました。こいつはウチの家内でしてね。ほら、お二人に挨拶をするんだ」
彼女の方を向きながら男はそう言うと、隣の女性はコクと小さく頷き紹介を始めた。
「初めまして、私はバリスの妻。マクリア・ケルディです。今日はよくぞおいでなさいました。ゆっくりしていってください」
最近、メルエムの王都を中心に流行り始めたワンピースを着ている彼女は丁寧に挨拶をしてくれた。
「それは……どうも」
なんとも言えない空気の中、私はそう返す。そんな私(達)に対し大男は「さ、参りましょうお二人さん。この小屋には何も無いですし、誰もいませんから」と言った。
その声は決して怖く無かった。むしろ、優しい声であったが、不思議と背筋に寒気の電流を走らせたのだ。
彼らと再び、家に戻ると今度は応接間では無く、ダイニングルームへと案内された。散らかっていた箇所を綺麗にし終えたので、そこでご飯が出来るまでのんびりしていて欲しいということだ。
今に思うとこの行動も何処か怪しく思えた。だって、まるでキッチンからダイニングの私達を監視しているように思えたからだ。
極み付けは……。
「あ、父さん、母さん。そちらのお二人はお客さん?」
ダイニングルームの扉を開けたのは、また見知らぬ顔の青年であった……。
そして、この後に及んで本人やその奥さんが姿を現さないとなると恐らく……。
脳裏に過ぎったのは“死”という言葉だった。いけない。何故、私はいつもこんな言葉ばかり考えてしまうのだろうか。
一人で考えるのは辞め、私は相方兼、部下であるレーネにこう声を掛けたのだ。
「遅い。あまりにも遅過ぎる。彼は私達を待たせ過ぎだとは思わないか?」
キョトンとした表情の彼女は「そう……ですね、確かに」とだけ答えた。そんな彼女に私は提案を持ち掛ける。
「居間の一室でいつまで待ってても埒が明かない。こっそりこの部屋から抜け出して、2人でバリス夫妻を探さないか?」
「そうですね、分かりました。でも一体、何処を…?」
「大丈夫……任せて」
こっそり部屋を抜け出して、私とレーネは中の様子を伺いながら玄関へと向かった。
「一体、何処へ行こうとしてるんです?」
小声で彼女は私に尋ねる。
「この家の近くに小屋らしき建物を見つけた。平屋だ。恐らくそこがバリスの仕事場なんだろう。そこへ向かう。もしかしたら、そこにバリス夫妻は監禁されているかもしれない」
私も小声でそう返した。
「な、なるほど。では早速向かいましょう」
「あぁ」
玄関の扉も気付かれぬ様、細心の注意を払って音を立てずに開閉をした。そして、軽やかな足取りで平屋へと向かう。
「随分と古臭い小屋だな」
私の前にある小屋はかなりの年代物のようだ。
「相当年季が入ってますね」
「あぁ、中から奴らの気配は無いな」
「ですね……」
「行ってみるか」
横に開くタイプの扉はそんなに重くなく、すんなりと開いた。が……しかし、その先には何も無かった。
「何も無いみたいですね、」
「一応探すぞ中も」
「はい…」
「そこで何を探してるんですか?お二人さん」
小屋の扉が開かれると同時に夕焼けの光が差し込む。その声は後ろからほぼ同じタイミングに聞こえてきた。
反射的に振り返る私と恐る恐る振り返るレーネ。
扉には先程の大男と見知らぬ女性が立っていた。
「すみません、余りにも遅いものでつい、興味本位で……」
また、嘘を吐いた。
「そうですか、それは失礼。でも、突然いなくなったもんですから心配しましたよ」
その目はとても心配している様には思えなかった。とても、白々しい嘘だ。私の嘘に嘘で対抗しようというハラなのか?
「いえ、こちらこそ。所で隣の女性は?」
「これはこれは申し遅れました。こいつはウチの家内でしてね。ほら、お二人に挨拶をするんだ」
彼女の方を向きながら男はそう言うと、隣の女性はコクと小さく頷き紹介を始めた。
「初めまして、私はバリスの妻。マクリア・ケルディです。今日はよくぞおいでなさいました。ゆっくりしていってください」
最近、メルエムの王都を中心に流行り始めたワンピースを着ている彼女は丁寧に挨拶をしてくれた。
「それは……どうも」
なんとも言えない空気の中、私はそう返す。そんな私(達)に対し大男は「さ、参りましょうお二人さん。この小屋には何も無いですし、誰もいませんから」と言った。
その声は決して怖く無かった。むしろ、優しい声であったが、不思議と背筋に寒気の電流を走らせたのだ。
彼らと再び、家に戻ると今度は応接間では無く、ダイニングルームへと案内された。散らかっていた箇所を綺麗にし終えたので、そこでご飯が出来るまでのんびりしていて欲しいということだ。
今に思うとこの行動も何処か怪しく思えた。だって、まるでキッチンからダイニングの私達を監視しているように思えたからだ。
極み付けは……。
「あ、父さん、母さん。そちらのお二人はお客さん?」
ダイニングルームの扉を開けたのは、また見知らぬ顔の青年であった……。
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