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-第30夜- 思いがけぬ再会
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「熱っ、熱い、熱いって、熱いですって!先輩っ!!」
失礼な奴だ。この優しい私が背中を流してやってるというのに。
バスタブの中に私達は入っていた。あの後、ババ抜きに負けたレーネは「もう1回」とお願いしてきたが私はそれを棄却。半ば強制的に彼女を浴室へと連れて行ったのだった。
「ここ最近、まともにシャワーすら浴びれなかったからな。髪や身体の臭いがキツかった訳だ」
そう言いながら私は全開のシャワーを彼女の背中へ当てていた。
「冷たい冷たい冷たい冷ダァビイイイイイイイイイイ」
絶叫するレーネに私は「うるさいぞレーネ。この屋敷には他にも人がいるんだから少しは周りの迷惑を考えろ」と理不尽なことを言う。ガタガタと震えているレーネはゆっくりと後ろを振り向き「も、もぉ、やめてください。か、風邪を引いて……」と何やら言いかけていたが「馬鹿は風邪を引かないから安心しろ」と彼女の声に被せて私は更に冷たい追撃をした。
その瞬間、断末魔の様な恐ろしい叫び声をレーネが上げた。
あまりにも声がうるさかった為、メイドが2名程部屋に入って来たがカーテン越しに私が「大丈夫です。ちょっと水遊びをしていただけなのでお構いなく」と言い追い返した。
「全く酷いですよ先輩。せっかく一緒にお風呂に入ってるっていうのに……私、先輩の背中流すことが出来て嬉しかったんですよ?」
鳴き声の如く震えた声で言うレーネに流石に私も申し訳なくなり「悪かった悪かった。私にも仕返ししていいぞ?まぁ私はお前と違って寒さには強いからな。ちょっとくらいの冷水じゃ声も出ないが」と笑いながら言うと「そりゃあ、先輩は寒冷地出身ですもの、ズルいですよ」とすっかり不貞腐れてしまった。
「悪かったって。ほら、水で薄めて温度調整したから。これなら熱くもないし冷たくもない筈だぞ」
その派手なオレンジ髪に私はお湯をかけた。
「どうだ?熱くないか?」
レーネは何も言わず、ただ首を縦に振った。
「そうか。ならお前のは終わりだ。身体も髪も綺麗になったぞ。じゃあ、次は私の身体を頼んでいいか?」
「はい、分かりました」
意外だった。彼女は仕返しをすること無く、ちゃんと私の身体の周りに付いた泡を洗い流してくれたのだ。
「優しいんだなレーネ」
「へっ?」
「さっきの仕返し。して良いって言ったのにしないから」
レーネは「あ~」と言いと「私はそんな事しませんよ。先輩と違うんですから」と笑いながら言った。
「一言余計だ」
「はいはい。にしても先輩。やっぱり身体綺麗ですね!背中凄いですよ!?傷やシミ1つ無いですし、めちゃくちゃスベスベです!!!」
「そうか?別に普通だと思うけど?」
正直言うと嬉しかった。普通に。
「でもお前だって十分綺麗じゃないか?レーネ。胸だって小振りだがとても綺麗な形をしているし、左右対称だ。黄金比って奴だな」
向かいに半身を沈めているレーネはムッとした表情で「なんですか嫌味ですか?いいですよ。どーせ私は先輩より胸小さいですし?スタイルも悪いですから?形が良いって事ぐらいしか取り柄なんてありませんから」と足先をこちらにわざとらしく伸ばしてきた。
「レーネ、足をこっちに伸ばすな。悪かったって。決して悪意を持って言った訳じゃないんだ。本当だ信じてくれっ」
「あーっ、あーっ、ああああああ!なんですか?何か喋ってますか?私には何も聞こえないな~」
レーネは両耳を塞ぎながらまたしてもわざとらしくそんなことを言い始める。
「はいはい悪かった悪かった私が悪かったよレーネ。だからその手も耳から離して、さっさとこの長い脚もどかしてくれ。お前の足の裏が私のお腹に当たってくすぐったいんだ」
冷えていた身体もすっかり温まり私達はお風呂から出る事とした。脱衣所に用意されたタオルを使って身体を拭いているとレーネがこんな事を聞いてきた。
「そういえばこの前の漁村で泊まった時に訊こうと思ってたんですけど、先輩って赤めっちゃ好きですよね?」
「えっ?まぁ言われてみればそうかな、うん」
「そうですよ!だってそれと同じ装束、何着も持ってるじゃないですか?着ているのも合わせて普段から3着ぐらい持ち歩いてますよね?」
「あぁ、そうだな」
言われてみれば私はいつも赤に身を包んでいた。一体、いつから私はこの色を好んでいたのだろうか?
(思い出せない……何故だ?これも私の抜けた幼少期の記憶と関係があるのか?)
「やっぱりそれって髪が赤いことと何か関係してるんですか?先輩、スタイル良いから他の色の服来ても似合うと思うんだけどな~」
私はその問いに答えることを無く着替えを切り上げ、先に脱衣所を出た。
ソファの上で髪の毛の余分な水分を取っているとコンコンと部屋をノックする音がした。
「入ってもよろしいでしょうか?部屋の暖炉の薪を持って参りました。そろそろお風呂を出てこられる頃だと思いまして」
扉越しに聞こえた声はこの屋敷の老執事だった。
「どうぞ。丁度、出て来た所です。扉の鍵は閉めていないので」
「では失礼致します」
老執事は手際良く暖炉へと薪を入れ、火を付けると「後ほどまたこちらに伺います。御粧しの必要があればうちの化粧班を呼びますが如何致しましょう?」と尋ねて来た。私が「大丈夫」とだけ答えると彼は「分かりました。では後ほど」と言い部屋を後にした。
「あれぇ~?今、誰かと話してました~?誰か部屋に来てましたか~?」
タオルで髪の毛を拭きながらレーネが遅れて脱衣所から出て来た。
「例の老執事だ。頃合を見計らい暖炉の薪を持ってきてくれた。これを使って湯冷めしないようにしながら髪を傷まない程度に乾かそう。あと、御粧しの方をどうするかと尋ねられたが断って問題無かったな?」
「え、えぇ」
レーネはベッドに腰を下ろすと不思議そうな顔で突然、こんな事を言ってくる。
「前から思ってたんですけど、先輩ってどうして部屋の鍵を閉めないんですか?物騒ですよ」
「おかしな事を言うなレーネ。物騒も何もこの屋敷に変な人はいないだろう?それに私は元々、扉の鍵を閉めるという習慣が無いんだ。昔よりは気を使うようになったがな」
「え、そうだったんですか?失礼ですけど先輩って田舎の出身なんですか?」
「どうだろうな。都会にも住んでいたような気がするが覚えてないな。だが私は森の中にある、ある家の中に住んでいたような気がするよ。そこでお婆さんと……ヴッ」
突然、頭の痛みに襲われる。余程、辛そうな表情をしていたのかレーネがベッドから私のソファの元へと寄ってくる。
「大丈夫ですか?先輩!やっぱり昔の事はよしますか……ん、あれっ?でも、なんで鍵をかける習慣が無いことを覚えていたんですか?」
私は頭の痛みで答えられなかったが確かにレーネの言う通りだと思った。もしかしたら、部分的にだが記憶が蘇りつつあるのか?
「あ痛たたたっ」
「先輩っ!!」
原因不明の頭痛が治まった頃には髪も殆ど乾いていた。それから私達は特に何事も無かったかのようにトランプを再開し、三戦程したら共に御粧しをし、執事が呼びに来るのは待った。
そして再び、彼がコンコンとノックをしに来ると私は彼が声を発するよりも先に扉を開け「待っていました」と表に出た。老執事は少し驚いた顔をしていたが「お二人共、とても似合っております。非常に素敵ですな」とお世辞を言うと「先に行っていて下さいませ。私は暖炉の火を消してから参ります故。場所は1階のリビングルームでございます。下に着けば屋敷のメイドが案内してくれると思います」とわざわざご丁寧に教えてくれた。
彼の言う通り、1階に着くなり待っていたメイド2名が私達をその部屋へと導いてくれた。
そして、メイド達によって左右の扉が同時に開かれる。扉の向こうには先程の変わった当主と大勢の参加者がグラスを片手に楽しそうな会話をして立っていた。周囲をざっと見渡すとなんと、その中には見覚えがある人物がいたのだ。
(彼女は……確か。見間違えか?ただの他人の空似って可能性もあるか……)
そんなことを考えていると当主が私達の方へとやって来る。
「やぁ、君達。待っていたよ。お風呂に入った事もあってとても良い匂いだ。香しいよ。化粧もナチュラルで自然体って感じて良い感じだし、赤装束の君は先程と全く同じ格好なのに美しいな。惚れ惚れするよ」
なんでだろう。この男の顔と声を見聞きしただけで無性にお腹の内側が熱くなり、妙に殺意を覚えてしまう。これは一体、何故なのだろうか?
「それはどうも。オーエンさんも素敵なタキシードですね。純白がお似合いで」
嫌味のつもりで言ったのに彼はとても上機嫌に「ありがとう」と言うとすれ違い様、耳元で「君の出し物、凄く期待しているよ」と言い、美人達の固まる方へと歩いて行った。
「先輩、今、耳元で何か囁かれてませんでしたか?」
「いや、何も言われてない。お前の勘違いだろう」
私は嘘を吐き、ある一人の女性の元へと行った。私の記憶が正しければその女性はかつてある村の人狼と婚約をしていた女性だったからだ。
美男子に囲まれながら楽しそうにワインを飲む彼女の元へ私は駆け寄る。
「お久しぶりですね。覚えていますか?シェイリさん。私です。サテラです。サテライト・ヴィル=アストレア。コリダクの件はどうも」
どうせ覚えては無いだろうと思ったが私が自身の名前と村のことについて言ったからか彼女は「あ~っ!あの時の」と思い出してくれたようだ。やはり彼女だった。
「こちらこそ、その説はどうも。まさかこのグランヴィル家の屋敷にサテラさんがいらっしゃるとは思いませんでした」
「それはこっちもですよ、シェイリさん。何故、こんな所へ?旅行中ですか?あの頑固そうなお父様が許すとは思えないけど……」
すると彼女は少し表情を曇らせて「実は……私、もうあの村とは何も関係ないんです。あの一件以来、どうも父と上手くいかなくなって……それで、もう半ば父と縁を切った状態で……。だから今は新しい出会いを求めて旅に出ているんです」と後半は明るめに言ってくれた。
(それでイケメン達と絡んでいるという訳か)
妙に納得した私は「そうですか……見つかるといいですね!素敵な男性が。私達は深い森の霧で迷って。もしかして、シェイリさんも道に迷われて?」と尋ねる。「えぇ」とだけ彼女は答えると今まで黙っていた周りの男3人が「え、何何。シェイリちゃん知り合い?この女の子達と?」とか「やっぱり可愛い子の周りには美人さんが自然と集まってくるもんだな~」とか勝手なことを抜かして、しかもそのうちのチャラついた男一人が私とレーネに「君達、シェイリちゃんの知り合いなんでしょ?オーエンの挨拶までまだ時間あるし?俺達と一緒に飲まない?」とかナンパをして来た。
ハッキリと言えない性格のレーネはオドオドとしていた為、私が強くキッパリと「結構です!生憎、そういうの足りてるので」と言い放ち、その場を後にした。
シェイリは「サテラさん、女性だけの楽しいお話は後ほど~」とグラスを片手に離れて行く私とレーネを手を振って見届けてくれた。
「先輩、さっきの人って…?」
人の少ない角っこへと移動してからタイミングを計ったように彼女は聞いてきた。
「まだお前と出会う前に出会った人だよ。ある任務で私はあの人と出会った。その村では夜になると女性ばかりが狼に襲われてな。あの人はそこの村の村長の娘さんだったんだ。それで、一連の事件を起こしていた人狼は彼女の婚約者だった……。結婚を控えていたんだ……その狼を私が……この手で……」
私の相棒は余計な詮索をせず、ただ「そうだったんですね、そんなことが……」とだけ反応をしてくれた。
失礼な奴だ。この優しい私が背中を流してやってるというのに。
バスタブの中に私達は入っていた。あの後、ババ抜きに負けたレーネは「もう1回」とお願いしてきたが私はそれを棄却。半ば強制的に彼女を浴室へと連れて行ったのだった。
「ここ最近、まともにシャワーすら浴びれなかったからな。髪や身体の臭いがキツかった訳だ」
そう言いながら私は全開のシャワーを彼女の背中へ当てていた。
「冷たい冷たい冷たい冷ダァビイイイイイイイイイイ」
絶叫するレーネに私は「うるさいぞレーネ。この屋敷には他にも人がいるんだから少しは周りの迷惑を考えろ」と理不尽なことを言う。ガタガタと震えているレーネはゆっくりと後ろを振り向き「も、もぉ、やめてください。か、風邪を引いて……」と何やら言いかけていたが「馬鹿は風邪を引かないから安心しろ」と彼女の声に被せて私は更に冷たい追撃をした。
その瞬間、断末魔の様な恐ろしい叫び声をレーネが上げた。
あまりにも声がうるさかった為、メイドが2名程部屋に入って来たがカーテン越しに私が「大丈夫です。ちょっと水遊びをしていただけなのでお構いなく」と言い追い返した。
「全く酷いですよ先輩。せっかく一緒にお風呂に入ってるっていうのに……私、先輩の背中流すことが出来て嬉しかったんですよ?」
鳴き声の如く震えた声で言うレーネに流石に私も申し訳なくなり「悪かった悪かった。私にも仕返ししていいぞ?まぁ私はお前と違って寒さには強いからな。ちょっとくらいの冷水じゃ声も出ないが」と笑いながら言うと「そりゃあ、先輩は寒冷地出身ですもの、ズルいですよ」とすっかり不貞腐れてしまった。
「悪かったって。ほら、水で薄めて温度調整したから。これなら熱くもないし冷たくもない筈だぞ」
その派手なオレンジ髪に私はお湯をかけた。
「どうだ?熱くないか?」
レーネは何も言わず、ただ首を縦に振った。
「そうか。ならお前のは終わりだ。身体も髪も綺麗になったぞ。じゃあ、次は私の身体を頼んでいいか?」
「はい、分かりました」
意外だった。彼女は仕返しをすること無く、ちゃんと私の身体の周りに付いた泡を洗い流してくれたのだ。
「優しいんだなレーネ」
「へっ?」
「さっきの仕返し。して良いって言ったのにしないから」
レーネは「あ~」と言いと「私はそんな事しませんよ。先輩と違うんですから」と笑いながら言った。
「一言余計だ」
「はいはい。にしても先輩。やっぱり身体綺麗ですね!背中凄いですよ!?傷やシミ1つ無いですし、めちゃくちゃスベスベです!!!」
「そうか?別に普通だと思うけど?」
正直言うと嬉しかった。普通に。
「でもお前だって十分綺麗じゃないか?レーネ。胸だって小振りだがとても綺麗な形をしているし、左右対称だ。黄金比って奴だな」
向かいに半身を沈めているレーネはムッとした表情で「なんですか嫌味ですか?いいですよ。どーせ私は先輩より胸小さいですし?スタイルも悪いですから?形が良いって事ぐらいしか取り柄なんてありませんから」と足先をこちらにわざとらしく伸ばしてきた。
「レーネ、足をこっちに伸ばすな。悪かったって。決して悪意を持って言った訳じゃないんだ。本当だ信じてくれっ」
「あーっ、あーっ、ああああああ!なんですか?何か喋ってますか?私には何も聞こえないな~」
レーネは両耳を塞ぎながらまたしてもわざとらしくそんなことを言い始める。
「はいはい悪かった悪かった私が悪かったよレーネ。だからその手も耳から離して、さっさとこの長い脚もどかしてくれ。お前の足の裏が私のお腹に当たってくすぐったいんだ」
冷えていた身体もすっかり温まり私達はお風呂から出る事とした。脱衣所に用意されたタオルを使って身体を拭いているとレーネがこんな事を聞いてきた。
「そういえばこの前の漁村で泊まった時に訊こうと思ってたんですけど、先輩って赤めっちゃ好きですよね?」
「えっ?まぁ言われてみればそうかな、うん」
「そうですよ!だってそれと同じ装束、何着も持ってるじゃないですか?着ているのも合わせて普段から3着ぐらい持ち歩いてますよね?」
「あぁ、そうだな」
言われてみれば私はいつも赤に身を包んでいた。一体、いつから私はこの色を好んでいたのだろうか?
(思い出せない……何故だ?これも私の抜けた幼少期の記憶と関係があるのか?)
「やっぱりそれって髪が赤いことと何か関係してるんですか?先輩、スタイル良いから他の色の服来ても似合うと思うんだけどな~」
私はその問いに答えることを無く着替えを切り上げ、先に脱衣所を出た。
ソファの上で髪の毛の余分な水分を取っているとコンコンと部屋をノックする音がした。
「入ってもよろしいでしょうか?部屋の暖炉の薪を持って参りました。そろそろお風呂を出てこられる頃だと思いまして」
扉越しに聞こえた声はこの屋敷の老執事だった。
「どうぞ。丁度、出て来た所です。扉の鍵は閉めていないので」
「では失礼致します」
老執事は手際良く暖炉へと薪を入れ、火を付けると「後ほどまたこちらに伺います。御粧しの必要があればうちの化粧班を呼びますが如何致しましょう?」と尋ねて来た。私が「大丈夫」とだけ答えると彼は「分かりました。では後ほど」と言い部屋を後にした。
「あれぇ~?今、誰かと話してました~?誰か部屋に来てましたか~?」
タオルで髪の毛を拭きながらレーネが遅れて脱衣所から出て来た。
「例の老執事だ。頃合を見計らい暖炉の薪を持ってきてくれた。これを使って湯冷めしないようにしながら髪を傷まない程度に乾かそう。あと、御粧しの方をどうするかと尋ねられたが断って問題無かったな?」
「え、えぇ」
レーネはベッドに腰を下ろすと不思議そうな顔で突然、こんな事を言ってくる。
「前から思ってたんですけど、先輩ってどうして部屋の鍵を閉めないんですか?物騒ですよ」
「おかしな事を言うなレーネ。物騒も何もこの屋敷に変な人はいないだろう?それに私は元々、扉の鍵を閉めるという習慣が無いんだ。昔よりは気を使うようになったがな」
「え、そうだったんですか?失礼ですけど先輩って田舎の出身なんですか?」
「どうだろうな。都会にも住んでいたような気がするが覚えてないな。だが私は森の中にある、ある家の中に住んでいたような気がするよ。そこでお婆さんと……ヴッ」
突然、頭の痛みに襲われる。余程、辛そうな表情をしていたのかレーネがベッドから私のソファの元へと寄ってくる。
「大丈夫ですか?先輩!やっぱり昔の事はよしますか……ん、あれっ?でも、なんで鍵をかける習慣が無いことを覚えていたんですか?」
私は頭の痛みで答えられなかったが確かにレーネの言う通りだと思った。もしかしたら、部分的にだが記憶が蘇りつつあるのか?
「あ痛たたたっ」
「先輩っ!!」
原因不明の頭痛が治まった頃には髪も殆ど乾いていた。それから私達は特に何事も無かったかのようにトランプを再開し、三戦程したら共に御粧しをし、執事が呼びに来るのは待った。
そして再び、彼がコンコンとノックをしに来ると私は彼が声を発するよりも先に扉を開け「待っていました」と表に出た。老執事は少し驚いた顔をしていたが「お二人共、とても似合っております。非常に素敵ですな」とお世辞を言うと「先に行っていて下さいませ。私は暖炉の火を消してから参ります故。場所は1階のリビングルームでございます。下に着けば屋敷のメイドが案内してくれると思います」とわざわざご丁寧に教えてくれた。
彼の言う通り、1階に着くなり待っていたメイド2名が私達をその部屋へと導いてくれた。
そして、メイド達によって左右の扉が同時に開かれる。扉の向こうには先程の変わった当主と大勢の参加者がグラスを片手に楽しそうな会話をして立っていた。周囲をざっと見渡すとなんと、その中には見覚えがある人物がいたのだ。
(彼女は……確か。見間違えか?ただの他人の空似って可能性もあるか……)
そんなことを考えていると当主が私達の方へとやって来る。
「やぁ、君達。待っていたよ。お風呂に入った事もあってとても良い匂いだ。香しいよ。化粧もナチュラルで自然体って感じて良い感じだし、赤装束の君は先程と全く同じ格好なのに美しいな。惚れ惚れするよ」
なんでだろう。この男の顔と声を見聞きしただけで無性にお腹の内側が熱くなり、妙に殺意を覚えてしまう。これは一体、何故なのだろうか?
「それはどうも。オーエンさんも素敵なタキシードですね。純白がお似合いで」
嫌味のつもりで言ったのに彼はとても上機嫌に「ありがとう」と言うとすれ違い様、耳元で「君の出し物、凄く期待しているよ」と言い、美人達の固まる方へと歩いて行った。
「先輩、今、耳元で何か囁かれてませんでしたか?」
「いや、何も言われてない。お前の勘違いだろう」
私は嘘を吐き、ある一人の女性の元へと行った。私の記憶が正しければその女性はかつてある村の人狼と婚約をしていた女性だったからだ。
美男子に囲まれながら楽しそうにワインを飲む彼女の元へ私は駆け寄る。
「お久しぶりですね。覚えていますか?シェイリさん。私です。サテラです。サテライト・ヴィル=アストレア。コリダクの件はどうも」
どうせ覚えては無いだろうと思ったが私が自身の名前と村のことについて言ったからか彼女は「あ~っ!あの時の」と思い出してくれたようだ。やはり彼女だった。
「こちらこそ、その説はどうも。まさかこのグランヴィル家の屋敷にサテラさんがいらっしゃるとは思いませんでした」
「それはこっちもですよ、シェイリさん。何故、こんな所へ?旅行中ですか?あの頑固そうなお父様が許すとは思えないけど……」
すると彼女は少し表情を曇らせて「実は……私、もうあの村とは何も関係ないんです。あの一件以来、どうも父と上手くいかなくなって……それで、もう半ば父と縁を切った状態で……。だから今は新しい出会いを求めて旅に出ているんです」と後半は明るめに言ってくれた。
(それでイケメン達と絡んでいるという訳か)
妙に納得した私は「そうですか……見つかるといいですね!素敵な男性が。私達は深い森の霧で迷って。もしかして、シェイリさんも道に迷われて?」と尋ねる。「えぇ」とだけ彼女は答えると今まで黙っていた周りの男3人が「え、何何。シェイリちゃん知り合い?この女の子達と?」とか「やっぱり可愛い子の周りには美人さんが自然と集まってくるもんだな~」とか勝手なことを抜かして、しかもそのうちのチャラついた男一人が私とレーネに「君達、シェイリちゃんの知り合いなんでしょ?オーエンの挨拶までまだ時間あるし?俺達と一緒に飲まない?」とかナンパをして来た。
ハッキリと言えない性格のレーネはオドオドとしていた為、私が強くキッパリと「結構です!生憎、そういうの足りてるので」と言い放ち、その場を後にした。
シェイリは「サテラさん、女性だけの楽しいお話は後ほど~」とグラスを片手に離れて行く私とレーネを手を振って見届けてくれた。
「先輩、さっきの人って…?」
人の少ない角っこへと移動してからタイミングを計ったように彼女は聞いてきた。
「まだお前と出会う前に出会った人だよ。ある任務で私はあの人と出会った。その村では夜になると女性ばかりが狼に襲われてな。あの人はそこの村の村長の娘さんだったんだ。それで、一連の事件を起こしていた人狼は彼女の婚約者だった……。結婚を控えていたんだ……その狼を私が……この手で……」
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