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-第31夜- 開会の挨拶
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リビングにある時計の針が7時半であることを告げる。丁度、その頃に先程の老執事に連れられてもう一人の参加者がやって来た。
「只今、白百院 蓮弥様が到着致しました。この深い霧で道中、道を迷われたそうで。付近を巡回していた屋敷の執事が見つけて参いりました」
彼の隣には霧で和服を濡らした高齢の男性が静かに立っていた。その男は目にかかっている麦わら(?)の帽子を頭からゆっくりと取るとこちらに目を向け「遅れて済まない」と静かに謝罪をした。
恐らく輝夜と同じ“和の国”出身と思われる彼は共通語を話せるようだが、どうやら、まだ少し発音に訛りが見受けられる。メルエムに来たてなのだろうか?それとも西洋圏に来るのが初めてなのか、異国語に慣れていない様子だ。
「ご苦労だ爺や。これで今夜の僕の生誕を祝う同胞達は全員かな?」
「えぇ。全員揃っております」
それを聞くとオーエンは満足気な表情を浮かべ「そうか、ならばよろしい。今から15分後に僕が挨拶を始める。それまで爺やは蓮弥殿の立派な服に付いた水滴を拭き取り、彼に温かい飲み物を用意してくれ」と老執事に命令をした。
「畏まりました。では、白百院殿……こちらへ」
ハクビャクイン レンヤと呼ばれた男は執事によって別室へと連れて行かれた。
「楽しい会話をしている途中に静止を掛けて済まなかった。45分になるまで皆はお酒と共に会話を楽しんでくれまえ。僕は今からこれからの段取りについて他の者達に確認を取ってくる」
そう言って彼はリビングから消えた。
彼らがいなくなってすぐ、まるでこの機を待っていたかのようにシェイリが私達の元へとやって来た。
「サテラさん、それとサテラさんのお友達?さん?さっきはすみません。彼らもう大分アルコールが回ってたみたいで」
「大丈夫ですよシェイリさん」
「わっ……たしも大丈夫です……」
「それなら良かったです。それで、えーっと、こちらは……?」
「あ~、えーっとこちらはですね……」
私はレーネの簡単な紹介を済ませると彼女もレーネに簡単な自己紹介をしてくれた。2人が意気投合するのは実にあっという間だった。
(というかこの2人、今夜初めてあった筈なのに面識がある私より仲良くなってる!?)
相変わらずレーネの人柄には驚かされる。私と違い、人とすぐに打ち解ける能力が高いようだ。
「あ、そうだ。サテラさん、レーネさん。良かったらワイン持ってきましょうか?赤と白、どっちにします?」
「私は赤。お前は?」
「わ、私は白で」
「分かりました!少々待っててくださいね!」
そう言い、シェイリは自分が飲んでいた白ワインを私に預けると私達の分のワインを取りに行ってくれた。戻って来た彼女からそれぞれのグラスを受け取った私とレーネはそのワインのあまりの美味しさに感動すら覚えていた。
「凄い美味しいですね、このワイン!!」
「あぁ……とても美味しいな、いつの日かのシャンパンを思い出すよ……。あの時は私だけ酷い扱いを受けたものだ……」
後半は小声で言った為、レーネには聞こえなかったのか「ん?なんか言いましたか?後半」と訊いてくる。私は「いや、なんでもない」とはぐらかした。
そうこうしていると、先程のヒャクバクイン?とかバクヒャクイン?とか言った和国から来たと思われる御老人が例の執事と共に戻って来た。そして、勿論この屋敷の当主もだ。先程とは格好が変わり、白から紫色のタキシード。その下には白のカッターシャツを着ており、首元にはラメ入りの紫のリボンネクタイを着けている。パンツは上に合わせた紫色だ。
「ここの当主は随分と派手好きなんだな」
「あのオーエンさんって人は富裕層の間ではかなりの派手好きとして有名で、そして無類の女好きらしいそうですよ。先程、話していた男の一人がそう仰ってました。かなり親しいそうです」
特に誰かに向かって言った訳でも無い言葉をシェイリが拾ってくれた。
「そうか。レーネは知っていたか?」
「いいえ?私から言わせてみればこんなのちょっと大きな倉庫みたいなもんですよ。全然、富豪じゃありません」
どうやらこいつからしたら古びた屋敷は家じゃないらしい。
「そういえばシェイリさんも随分と雰囲気が変わりましたね。村にいた頃とは違って髪型も服装も随分と煌びやかになっていたので一瞬、見間違えかと思いましたよ」
シェイリは「ははっ」と笑うと「あの頃は村長にあれこれ五月蝿く言われてましたからね。その時の鬱憤を晴らす為っていうか……反動ですよ。抑制されていた時の」とどこか清々しそうに言った。
「そうですか……まぁ、色々とありましたしね」
「えぇ、色々と……」
咄嗟に視線を斜めに下げた彼女の表情は何処か悲しくも切なく寂しそうであった。
(やはりあの事については言うべきではなかろうか……)
突然、『チリンチリン』と音が室内に鳴り響いた。例の執事だ。赤いワインの入ったグラスをスプーンで楽器を演奏するかのように鳴らした。これがパーティー開始の合図なのだろう。
「紳士淑女の皆様、今宵はこの霧深い生い茂った森の中へ、御足労頂き誠にありがとうございます。中には遠路遥々来られた方々や偶然、この視界の悪い森の中を迷う、偶々、この屋敷へと辿り着いた者もいましょう。しかし、これもきっと何かの縁。人と人との出会い別れには必ず意味があると言う方もいます。一先ずはこの出会いに感謝をしようではありませんか!」
老執事の言葉にこの場にいる一同が拍手をし始める。周りに合わせて私達も拍手を重ねた。
(あの執事、凄いな。まるでさっきまでと雰囲気が違う。これ程までの影響力があるとは……流石はベテランだ)
拍手が鳴り止むと執事は話を続けた。
「今夜は沢山の催し物や豪華な料理を用意しております。皆様、とくとご堪能ください。それでは私の話はここまでです。司会進行は私、グランヴィル家執事長。ミシェル・ゲイレン。続いて第34代当主。グランヴィル・オーエン=ワグナーよりご挨拶があります……オーエン様、よろしくお願い致します」
役目を終えたミシェル執事長は後ろへと身を引くと、入れ替わるように当主であるオーエンが出て来た。
「あの気味の悪い老執事、執事長だったんだな。なんとなくそんな気はしてたが……」
「名前も漸く分かりましたね。あの老執事とか例の執事じゃ呼びにくいんですものね」
「あぁ。にしてもここはどっかの議員宅と違ってサービス精神は高いが椅子が用意されてないんだな。気が利かないな……私はもう立ち疲れたよ。早くどっかに座りたい……」
「すみません、今夜は立食式でございまして……」
「「「うぉぉ!?」」」
私達3人は変な声を大きく上げてしまった。周囲の視線が痛い。レーネが「す、すみません」と即座に謝ったことで事なきを得たが……。
しかし、この老執事、いつの間に背後に。まるでその気配を感じさせなかった。しかも、ついさっきまで私達の目先にいたというのに……これは一体……。それ愚か、私とレーネは小声で喋っていた。こいつ読心術だけでなく、聴覚も異常に発達しているのか?
「おいおいどうした?赤装束の美少女。僕の生誕祭に何か言いたい事でもあるのか?」
すっかり主役気分の当主様に私は「いえ何も。邪魔してしまいすみません」と心の篭っていない謝罪をした。当主はそうか、そうか。では少し横やりが入ったが挨拶を始めるとしよう」と言い「僕がこのグランヴィル家の当主。グランヴィル・オーエン=ワグナーだ」と先程、執事が言ったことをまた言い始めた。
「御二方、今は主の生誕祭の挨拶中です。くれぐれも私語は慎むように」
そう言うと彼は私達の背後から消えた。
オーエン当主の挨拶は非常に長いものであった。45分から始まった開会の挨拶も既にXIの上に針が乗っていた。
「思ってたより……長いですね挨拶」
「そうですね」
シェイリもレーネも同じ事を思っているようだ。流石にこれには執事長のミシェルも思ったのか再び、彼の元へと駆け寄ると皆の前で同等と耳打ちをし始めた。
「漸くだな」
「えぇ」
私もレーネもやっと終わると思っていた時だった。突如、オーエンが思いがけぬ言葉を言い始めたのだった。
「皆も僕の長話でそろそろ疲れたと思うだろう……。お腹も空かせた頃だと思う。このまますぐに祝杯の音頭へと移ってもいいが……ここは最後の〆として彼女に一つ芸を疲労してもらおうと思う。先程声を上げたそこの隅の少女よ」
なんと彼は私達の方へと人差し指を向けてきたのだった。まさかまさかと思い、恐る恐る私は自分の身体の方へと人差し指を向けると「そうだ。君だ。先程の赤装束の美少女……名をなんと言ったかな?まぁいい、こっちに来て〆の芸を一発疲労しておくれ。名前はそこで名乗ればいい」
まさかこのタイミングでそれを要求されるとは思わなかった。まぁ誰が悪いかと言ったら全て私が悪いのだが……。
本当に彼の無茶振りには頭を悩ます。
さて、どうしたものか……。
そうこう私が悩んでいるとレーネが「先輩……」と小声で心配そうに見てきた。私は口をパクパクと動かし無言で「お・ま・え・な・ん・と・か・し・ろ」とメッセージを送った。レーネは「厶・リ・デ・ス・ヨ」と首を横にブンブンと振るばかりだ。
「どうした?早くこっちに来い。皆もお腹を空かせている。早く見せておくれよ。僕はずっと楽しみにしていたんだぞ?」とオーエンが急かし始めた。彼が催促をすると同時に他の人々も「早くしろよ」とか「皆、お腹空かせて待っているんだ」とか「一体、あそこで何をしているのかしら?」とか「そもそもあの人達は誰?オーエン様が呼んだ人達なのかしら?それとも他の誰かの紹介?」等と好き好きに喋り始める。
まるで言いたい放題だ。
大勢からのブーイングと「早くしろ」等という要求に耐えかねた私は遂に決心をし、前へと出ようとしていた。
「先輩……」
「サテラさん……」
心配そうな2人を横目に前へと一歩踏み出すと突然、リビングの扉が静かに開かれた。
「なんだ?今はまだ挨拶の途中だぞ?」
少し不機嫌そうな主に「どうかしましたか?」と冷静な執事長。
扉を開けた燕尾服の男は執事長の元へと静かに駆け寄ると何やら耳打ちを始める。その様子に参加者らもヒソヒソと小声で話し始める。
「何かあったんですかね?」
「さぁ?何がともあれ一旦、私は助かったということだな」
不安そうなレーネに対して私は何処か楽観的だった。
執事達の話が終わると執事長ミシェル・ゲイレンは「すみません、ちょっと不測の事態が……先に乾杯の音頭の方をしといてください」と言い2人は部屋を出ていった。
「只今、白百院 蓮弥様が到着致しました。この深い霧で道中、道を迷われたそうで。付近を巡回していた屋敷の執事が見つけて参いりました」
彼の隣には霧で和服を濡らした高齢の男性が静かに立っていた。その男は目にかかっている麦わら(?)の帽子を頭からゆっくりと取るとこちらに目を向け「遅れて済まない」と静かに謝罪をした。
恐らく輝夜と同じ“和の国”出身と思われる彼は共通語を話せるようだが、どうやら、まだ少し発音に訛りが見受けられる。メルエムに来たてなのだろうか?それとも西洋圏に来るのが初めてなのか、異国語に慣れていない様子だ。
「ご苦労だ爺や。これで今夜の僕の生誕を祝う同胞達は全員かな?」
「えぇ。全員揃っております」
それを聞くとオーエンは満足気な表情を浮かべ「そうか、ならばよろしい。今から15分後に僕が挨拶を始める。それまで爺やは蓮弥殿の立派な服に付いた水滴を拭き取り、彼に温かい飲み物を用意してくれ」と老執事に命令をした。
「畏まりました。では、白百院殿……こちらへ」
ハクビャクイン レンヤと呼ばれた男は執事によって別室へと連れて行かれた。
「楽しい会話をしている途中に静止を掛けて済まなかった。45分になるまで皆はお酒と共に会話を楽しんでくれまえ。僕は今からこれからの段取りについて他の者達に確認を取ってくる」
そう言って彼はリビングから消えた。
彼らがいなくなってすぐ、まるでこの機を待っていたかのようにシェイリが私達の元へとやって来た。
「サテラさん、それとサテラさんのお友達?さん?さっきはすみません。彼らもう大分アルコールが回ってたみたいで」
「大丈夫ですよシェイリさん」
「わっ……たしも大丈夫です……」
「それなら良かったです。それで、えーっと、こちらは……?」
「あ~、えーっとこちらはですね……」
私はレーネの簡単な紹介を済ませると彼女もレーネに簡単な自己紹介をしてくれた。2人が意気投合するのは実にあっという間だった。
(というかこの2人、今夜初めてあった筈なのに面識がある私より仲良くなってる!?)
相変わらずレーネの人柄には驚かされる。私と違い、人とすぐに打ち解ける能力が高いようだ。
「あ、そうだ。サテラさん、レーネさん。良かったらワイン持ってきましょうか?赤と白、どっちにします?」
「私は赤。お前は?」
「わ、私は白で」
「分かりました!少々待っててくださいね!」
そう言い、シェイリは自分が飲んでいた白ワインを私に預けると私達の分のワインを取りに行ってくれた。戻って来た彼女からそれぞれのグラスを受け取った私とレーネはそのワインのあまりの美味しさに感動すら覚えていた。
「凄い美味しいですね、このワイン!!」
「あぁ……とても美味しいな、いつの日かのシャンパンを思い出すよ……。あの時は私だけ酷い扱いを受けたものだ……」
後半は小声で言った為、レーネには聞こえなかったのか「ん?なんか言いましたか?後半」と訊いてくる。私は「いや、なんでもない」とはぐらかした。
そうこうしていると、先程のヒャクバクイン?とかバクヒャクイン?とか言った和国から来たと思われる御老人が例の執事と共に戻って来た。そして、勿論この屋敷の当主もだ。先程とは格好が変わり、白から紫色のタキシード。その下には白のカッターシャツを着ており、首元にはラメ入りの紫のリボンネクタイを着けている。パンツは上に合わせた紫色だ。
「ここの当主は随分と派手好きなんだな」
「あのオーエンさんって人は富裕層の間ではかなりの派手好きとして有名で、そして無類の女好きらしいそうですよ。先程、話していた男の一人がそう仰ってました。かなり親しいそうです」
特に誰かに向かって言った訳でも無い言葉をシェイリが拾ってくれた。
「そうか。レーネは知っていたか?」
「いいえ?私から言わせてみればこんなのちょっと大きな倉庫みたいなもんですよ。全然、富豪じゃありません」
どうやらこいつからしたら古びた屋敷は家じゃないらしい。
「そういえばシェイリさんも随分と雰囲気が変わりましたね。村にいた頃とは違って髪型も服装も随分と煌びやかになっていたので一瞬、見間違えかと思いましたよ」
シェイリは「ははっ」と笑うと「あの頃は村長にあれこれ五月蝿く言われてましたからね。その時の鬱憤を晴らす為っていうか……反動ですよ。抑制されていた時の」とどこか清々しそうに言った。
「そうですか……まぁ、色々とありましたしね」
「えぇ、色々と……」
咄嗟に視線を斜めに下げた彼女の表情は何処か悲しくも切なく寂しそうであった。
(やはりあの事については言うべきではなかろうか……)
突然、『チリンチリン』と音が室内に鳴り響いた。例の執事だ。赤いワインの入ったグラスをスプーンで楽器を演奏するかのように鳴らした。これがパーティー開始の合図なのだろう。
「紳士淑女の皆様、今宵はこの霧深い生い茂った森の中へ、御足労頂き誠にありがとうございます。中には遠路遥々来られた方々や偶然、この視界の悪い森の中を迷う、偶々、この屋敷へと辿り着いた者もいましょう。しかし、これもきっと何かの縁。人と人との出会い別れには必ず意味があると言う方もいます。一先ずはこの出会いに感謝をしようではありませんか!」
老執事の言葉にこの場にいる一同が拍手をし始める。周りに合わせて私達も拍手を重ねた。
(あの執事、凄いな。まるでさっきまでと雰囲気が違う。これ程までの影響力があるとは……流石はベテランだ)
拍手が鳴り止むと執事は話を続けた。
「今夜は沢山の催し物や豪華な料理を用意しております。皆様、とくとご堪能ください。それでは私の話はここまでです。司会進行は私、グランヴィル家執事長。ミシェル・ゲイレン。続いて第34代当主。グランヴィル・オーエン=ワグナーよりご挨拶があります……オーエン様、よろしくお願い致します」
役目を終えたミシェル執事長は後ろへと身を引くと、入れ替わるように当主であるオーエンが出て来た。
「あの気味の悪い老執事、執事長だったんだな。なんとなくそんな気はしてたが……」
「名前も漸く分かりましたね。あの老執事とか例の執事じゃ呼びにくいんですものね」
「あぁ。にしてもここはどっかの議員宅と違ってサービス精神は高いが椅子が用意されてないんだな。気が利かないな……私はもう立ち疲れたよ。早くどっかに座りたい……」
「すみません、今夜は立食式でございまして……」
「「「うぉぉ!?」」」
私達3人は変な声を大きく上げてしまった。周囲の視線が痛い。レーネが「す、すみません」と即座に謝ったことで事なきを得たが……。
しかし、この老執事、いつの間に背後に。まるでその気配を感じさせなかった。しかも、ついさっきまで私達の目先にいたというのに……これは一体……。それ愚か、私とレーネは小声で喋っていた。こいつ読心術だけでなく、聴覚も異常に発達しているのか?
「おいおいどうした?赤装束の美少女。僕の生誕祭に何か言いたい事でもあるのか?」
すっかり主役気分の当主様に私は「いえ何も。邪魔してしまいすみません」と心の篭っていない謝罪をした。当主はそうか、そうか。では少し横やりが入ったが挨拶を始めるとしよう」と言い「僕がこのグランヴィル家の当主。グランヴィル・オーエン=ワグナーだ」と先程、執事が言ったことをまた言い始めた。
「御二方、今は主の生誕祭の挨拶中です。くれぐれも私語は慎むように」
そう言うと彼は私達の背後から消えた。
オーエン当主の挨拶は非常に長いものであった。45分から始まった開会の挨拶も既にXIの上に針が乗っていた。
「思ってたより……長いですね挨拶」
「そうですね」
シェイリもレーネも同じ事を思っているようだ。流石にこれには執事長のミシェルも思ったのか再び、彼の元へと駆け寄ると皆の前で同等と耳打ちをし始めた。
「漸くだな」
「えぇ」
私もレーネもやっと終わると思っていた時だった。突如、オーエンが思いがけぬ言葉を言い始めたのだった。
「皆も僕の長話でそろそろ疲れたと思うだろう……。お腹も空かせた頃だと思う。このまますぐに祝杯の音頭へと移ってもいいが……ここは最後の〆として彼女に一つ芸を疲労してもらおうと思う。先程声を上げたそこの隅の少女よ」
なんと彼は私達の方へと人差し指を向けてきたのだった。まさかまさかと思い、恐る恐る私は自分の身体の方へと人差し指を向けると「そうだ。君だ。先程の赤装束の美少女……名をなんと言ったかな?まぁいい、こっちに来て〆の芸を一発疲労しておくれ。名前はそこで名乗ればいい」
まさかこのタイミングでそれを要求されるとは思わなかった。まぁ誰が悪いかと言ったら全て私が悪いのだが……。
本当に彼の無茶振りには頭を悩ます。
さて、どうしたものか……。
そうこう私が悩んでいるとレーネが「先輩……」と小声で心配そうに見てきた。私は口をパクパクと動かし無言で「お・ま・え・な・ん・と・か・し・ろ」とメッセージを送った。レーネは「厶・リ・デ・ス・ヨ」と首を横にブンブンと振るばかりだ。
「どうした?早くこっちに来い。皆もお腹を空かせている。早く見せておくれよ。僕はずっと楽しみにしていたんだぞ?」とオーエンが急かし始めた。彼が催促をすると同時に他の人々も「早くしろよ」とか「皆、お腹空かせて待っているんだ」とか「一体、あそこで何をしているのかしら?」とか「そもそもあの人達は誰?オーエン様が呼んだ人達なのかしら?それとも他の誰かの紹介?」等と好き好きに喋り始める。
まるで言いたい放題だ。
大勢からのブーイングと「早くしろ」等という要求に耐えかねた私は遂に決心をし、前へと出ようとしていた。
「先輩……」
「サテラさん……」
心配そうな2人を横目に前へと一歩踏み出すと突然、リビングの扉が静かに開かれた。
「なんだ?今はまだ挨拶の途中だぞ?」
少し不機嫌そうな主に「どうかしましたか?」と冷静な執事長。
扉を開けた燕尾服の男は執事長の元へと静かに駆け寄ると何やら耳打ちを始める。その様子に参加者らもヒソヒソと小声で話し始める。
「何かあったんですかね?」
「さぁ?何がともあれ一旦、私は助かったということだな」
不安そうなレーネに対して私は何処か楽観的だった。
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