力の欠片のペンダント

河原由虎

文字の大きさ
8 / 27

第8話 ペンダントと少年の目的

しおりを挟む
 家に着くと、おばあちゃんにもそのように話をして、華奈はすぐに二階の自室へ行きました。

 急いで宿題の用意をして、それからポケットに入れたままの小さな少年、シオンを机の上にそっと出すと……

「何てことしてくれるんだ! 苦しかったじゃないか!」

 開口一番、少年は大きな声で叫びます。華奈はあわてて右手の人差し指を口の前で立て、小さな声で言いました。

「しーっ! 静かに。他の人に見つかったらいけないのよね?」

 その言葉に、シオンはグッと口を固く結んで華奈をにらみました。そしてしばらくすると、小さな声で言います。

「何でもいい。早く力の結晶を返してくれ。これ以上力を使われたら、元の世界に戻るどころか、俺の存在が消えてしまう……!」

 真剣な眼差しのシオンを見て、華奈はペンダントをコトリと机の上に置いて聞きました。

「これがそうなの?」
「そうだ! よかった……!」

 シオンは、自分と同じぐらいの大きさのペンダントを見るなり、抱きついて言いました。
その様子からも、表情からも、心の底からほっとしていることがわかります。

「それが貴方のものだという証明は……できる?」

 彼の言っていることがウソだとは思わないけれど……華奈は念のため聞いてみました。

「……証明……?」

 そんなこと、言われるとは思いもしなかったようで、シオンは困ったような顔をしてそうつぶやきました。そして何かを一生懸命に考えたのでしょう。しばらくすると、ちょっとぎこちなく、ゆっくりとですが、説明をはじめます。

「これと俺は、細い力の糸のような物で繋がっている……。その糸を力で見えるようにすることはできるが……」

 そこまで言うと、また口をつぐんで考えはじめました。そんなシオンの様子を見て、だんだん申し訳ない気がしてきた華奈は、両手を合わせてあやまります。

「ごめんなさい、大丈夫。信じるわ!」
「へ……?」

 シオンは目を丸くして華奈を見てつぶやきました。

「もし悪い人なら、迷わず何かをして証明しようとするでしょう?」

 華奈はシオンをまっすぐに見つめて、信じた理由を説明しました。するとシオンは目をパチクリとさせてから顔をそらし、不機嫌そうな声で言います。

「なんだよそれ……」
「ためすようなことをして、ごめんなさい」

 そう言いながら、シオンの横顔を見ると、ぷくっとふくらませたほおが見えます。もうしわけないけどかわいいなと思って、華奈はくすりと笑いました。

「ところで聞いてもいい? あなたは別の世界からきたの?」

 ペンダントのこと、願いを叶えるという不思議な力。聞きたいことがたくさんある華奈は、中でも一番気になっていた事を聞きました。

「ああ、そうだ」
「どうして?」

「俺のいた世界の規則だ。十の誕生日から一週間、別の世界で課題をこなすことになっているんだ」
「じゃあ、もしかして昨日が誕生日?」
「そうだ」
「私もよ! 私は昨日十一歳になったの。私の方が少しだけお姉さんね!」

 これまで会ったことのなかった、自分と同じ誕生日の人と出会えたうれしさから、はしゃいだ華奈がそう言いました。すると、シオンはさっきよりもっと不機嫌な顔になり、

「年上とか年下とか、そんなことは関係ないだろ! だいたい、この世界と俺の世界では時の流れる速さが違う!」

 そう言って怒り出してしまいました。この質問はいけなかったかしら。そう思った華奈は「ごめんなさい」と言いました。そして、すなおにすごいと思ったことを伝えてみます。

「十歳で、一人で別の世界に行くなんて、すごいのね」

 華奈には、自分が一人でどこか遠いところへ何日も行く、という想像ができませんでした。ご飯や寝る場所も、どうしたらいいのかわからないし、困ってしまうと思ったからです。

「……べつに、すごいことじゃない」

 華奈のシオンをほめる言葉に、少し気持ちは収まったのか、さっきより機嫌のよさそうな声で答えました。

「みんなやるんだし……。それに、その年一番の成績を納めた者には、特典もあるからな」
「特典?」
「一番の者から順に選ぶことのできる賞品があるんだ」
「どんな物がもらえるの?」
「物だけじゃないぞ、権利ももらえる」

 シオンが得意げにそう言ったので、彼はその「権利」が欲しいんだと華奈は思い、聞きました。

「じゃあ、シオンは何が欲しいの?」
「俺が欲しいのは……将来好きな仕事をするという権利だ!」

 シオンは胸を張って答えます。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

野良犬ぽちの冒険

KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる? ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。 だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、 気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。 やさしい人もいれば、こわい人もいる。 あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。 それでも、ぽちは 思っている。 ──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。 すこし さみしくて、すこし あたたかい、 のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。

25匹の魚と猫と

ねこ沢ふたよ
児童書・童話
コメディです。 短編です。 暴虐無人の猫に一泡吹かせようと、水槽のメダカとグッピーが考えます。 何も考えずに笑って下さい ※クラムボンは笑いません 25周年おめでとうございます。 Copyright©︎

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

だーるまさんがーこーろんだ

辻堂安古市
絵本
友だちがころんだ時に。 君はどうする?

あなのあいた石

Anthony-Blue
絵本
ひとりぼっちだったボクは、みんなに助けられながら街を目指すことに。

処理中です...