力の欠片のペンダント

河原由虎

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第22話 シオンとの外出

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 翌朝起きると、シオンの大きさは昨日より十センチほど大きくなっていました。

「おぉ! なんでだ? 昨日は大した事してないのに……」

 喜びとおどろきでそうつぶやくシオンに華奈は、ほほえみながら言います。

「たぶん、昨日の保健室に行った時の『慌てるな、ちゃんと見ろ』って言ってくれたことや、夜に話してくれたこととかが、ソウだったんだと思うよ」

 一昨日や昨日の出来事、それにシオンが話してくれたことは、自分の心をどこか成長させてくれたように華奈は感じていました。

「……そうか……」

 シオンは少し照れたようにそう言うと、笑顔で聞いてきました。

「ところで、今日はどうするんだ?」
「そうね……」

 今日は土曜日。学校はなく、家族での用事も特にありません。華奈は少し考えたあと、提案してみました。

「公園に行くのはどうかしら?」
「公園?」
「そう。週末はたくさんの人が公園に行くから」
「人がたくさん……それなら、良い行いもたくさんできるかもしれないな」

 シオンの同意を得た華奈は、絵を描きに公園へ行く、ということにして準備をしました。朝ごはんを食べ、身支度を整え、シオンを入れたいつもの筆箱と色鉛筆のセット、それとスケッチブックを入れたカバンを持って、玄関で元気よく叫びました。

「行ってきます!」
「気をつけて行ってきてね」

 パタパタと、キッチンの方から顔をのぞかせに来たお母さんが、言いました。

「はーい! ありがとう、お母さん!」

 華奈はとてもウキウキとした気分で家を出発しました。なぜなら、朝ご飯を食べた後に誕生日プレゼントでもらったコスメセットを使ってみたからです。唇と爪はツヤツヤで、桃の良い香りがしていました。

「おいしそうな匂いだな、何でそれを付けてきたんだ?」

「見たらダメ」と言ってシオンに背を向けてもらい、付けてきたリップとマニキュア。それは華奈の心を、とてもはずませてくれるものでした。

「そうね……自分で自分にかける魔法みたいなものだからよ。楽しくなれる魔法!」

 そうにっこりと、華奈は答えます。
 ただ、可愛い物が好きで、可愛くありたい。そんな以前から華奈の中にあった気持ちが、今は〝シオンの前で可愛くありたい〟と少し詳しく、細かいものへと変化していました。


「とりあえず、来てはみたけど……」

 華奈とシオンは、家から一番近い公園までやってきました。そこはあまり大きくない公園で、小さな滑り台とブランコ、そして砂場がありました。時間が早いからか人は少なく、小さな子供を連れた家族が二組だけいます。

「まだ人は少ないわね……ちょうど良いから先に描いておこうかな」

 そう言うと華奈は、公園の奥にあるベンチに座り、シオンに「少し待っていてね」と小さな声で伝えました。そして一番描きやすそうだと思った、象の形をした滑り台の絵を描きはじめます。

『華奈って絵が上手なんだな! 早いし』

 しばらくすると、シオンの声が突然頭の中に聞こえました。

(あ、勝手に見ないでよ……!)

 華奈は、シオンが何も言わないで描いている絵を見たことに文句を言いました。

『えー、いいだろ? 外の様子を見てないと、何ができるかわからないんだし』

 シオンの言うことはもっともなのですが、それでも華奈は言います。

(それでも描いてる絵を勝手に見たらダメ! 見てもいいか、一言聞いて。こうやって話しかけれるんだから……)

 華奈は頬をふくらませて、心の中でシオンに語りかけました。こんな、ちょっとしたやりとりすらも、うれしく感じてしまう。それは、華奈にとっては楽しくてしょうがない、魔法のような時間でした。

 ふと顔を上げると、滑り台のところで遊んでいる小さな女の子が目に入ります。その子は滑り終えると、もう一度階段の方へと走って行きました。

「あ……!」

 走って行った先で何かに足が引っかかり、その子は転んでしまいました。そして、立ち上がって血の出ている自分の膝を見て、大きな声で泣きだしました。

 どうしよう、と辺りを見回すと、そこから一番近いベンチにいた、お母さんらしき人が女の子の方へ向かおうとしています。ですが、抱っこしている小さな赤ちゃんもが泣き出してしまい、慌てて立ち止まりました。

 華奈は急いで女の子にかけより「大丈夫?」とききました。するとその時、頭の中にシオンの声が響いてきます。

『華奈、その子の膝に手をかざして』
(シオン……こう……?)

 華奈は「痛いの痛いの飛んでけ」と、まるで魔法の呪文のように唱えながら、血のにじむ膝に手をかざしました。すると、だんだんと手のひらが温かくなってきます。

 華奈は目を閉じて、手に温かさを感じながら、二回、三回と唱えました。
 気づくと女の子は泣き止んで、じっと華奈の顔をみつめていました。視線に気づいた華奈は、女の子に聞きます。

「もう大丈夫?」
「うん、痛いの飛んでったみたい!」

 見ると、女の子の血が出ていたひざは、少し土がついて汚れているだけで、キレイに治っているようです。満面の笑顔にほっとした華奈は「気をつけてね」と言いながら、女の子の手を取り、立ち上がるのを手伝いました。

「ありがとう! おねえちゃん!」

 うれしそうにお礼を言った女の子は、お母さんの元へと走っていきます。手を振りながら見送ると、その子のお母さんは、華奈にむけて丁寧にお辞儀をしました。赤ちゃんは泣き疲れて眠ってしまったのか、静かにお母さんに抱っこされています。

 その時、華奈は心にふんわりとした温かい何かを感じました。それをくすぐったく思い、にっこりと微笑んで、改めて手を振り、荷物を持ってその公園を後にしました。

 そして二人は、いくつかの公園を移動していきます。ある時は木の陰から、またある時は茂みにかくれ。誰にも気づかれないよう気を付けながら、少しずつ『良い行い』をして。

 華奈の家からずいぶん離れた所にある、大きな公園までやってきた時には、だいぶ日も高くなっていました。
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