ハンカチの木

Gardenia

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第一章

2 女の子

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何事もなく数日が過ぎていった。
月曜日から降り続いていた雨も止み、久しぶりに青い空が広がっている。
保坂は提案書をまとめ不在の課長のデスクに置き、帰り支度をした。
今日は木曜日だ。週末の明日朝に課長から質問があるだろう。修正があれば明日中に仕上げて週末は仕事のことを考えずに過ごせそうだ。
と、香川から声がかかった。
「保坂チャン、明日開けといて~♪」
そろそろ合コンのお誘いがあるはずだと思った矢先のことなので思わず笑いそうになった。
「明日はダメだな」
「即答かよ!一人足りないんだ。なんとか考えてよ」
「ん~~、相手は?」
「隣駅の短大の子たちだ~。女子大生だぞ~!ピチピチだぞ~」
「明日までに考えとくよ」
「まったく、相手聞いてから考えるの保坂らしいよな」
まぁあたりまえだろと肯いて駅前の道を香川と一緒に歩き出した。

それにしてもと思う。
短大生はちょっと若すぎやしないか?10歳ほどの差があるだろ、子供だろ!と保坂は思う。
香川のほうはどうせ飲むなら若くて可愛い女の子が居て、わいわい楽しく飲めるほうがいいと気軽な考えだ。
女子大生との合コンは人数など足らなくなることはないが、保坂が意外に女子ウケするのを香川は知っていた。
身長178cmでやや細身、理系出身にしては服装も野暮じゃなくさりげないセンスが女子からは好感を持たれるみたいだ。会話も滞ることなく紳士的なエスコートに保坂が参加する合コンはいつでもトラブルがなかった。
結構コイツは場慣れしてるんだよな~と香川は保坂のことを思う。
出身地も大学も違うためお互いにどんな青春時代を過ごしたかはわからないが、どうも同じ匂いがすると香川は感じていた。

「なぁ、新しいプロジェクトのこと聞いたか?」と、駅が見えてきたところで香川が言った。
「うちの部署に関係あるのか?」
「改善や提案の上手な誰かさんが居るからなぁ。上のほうが一度話を聞きたいようなこと小耳に挟んだよ」
「一体どこからの情報だよ~。もしかして・・・」と保坂はあてずっぽうでつぶやいてみた。
「そういえば秘書課に香川好みのおねえちゃんが居たな」と小さな声で言うと、
「うぅぅ・・・。おまえ・・・」と言葉に詰まった香川が保坂の肩をこづいた。
「女子大生と合コンしてる場合かよ(笑)」
「まだそんなんじゃないから・・・・」歯切れの悪い香川を見て笑っていると、改札が見えてきた。

薫が改札を通ろうとしている。
栗色のストレートヘアーが少しだけ風に動かされてスレンダーな顔のラインが見え隠れする。
そんな視線に気がついたのか、薫が二人に手を上げた。
「同じ電車かぁ」と香川がわざとがっかりした声を出すと、「一緒の車両についてこないでね」と薫も言い返している。
この二人は同じ歳だ。実は保坂は大学院を出てからの入社なので同期ではあるけれど彼らより2歳年上だ。
同じ年に入社し研修も配属先も同じになって5年ほど毎日顔を合わせている。
保坂は反対方向のためそんな二人と改札を入ったところで別れた。

電車を降りて、会社からたった二駅しか離れていないのに気分が変わるのがわかる。
この切り替え感がほしくて4年ほどの寮生活から一人暮らしを始めた。その選択は間違ってなかったと思う。
いつも右折するスーパーの先にある本屋に行こうかとふと思ったが、本屋は休日の楽しみにしようと思い直してマンションに帰ることにした。
スーパーの角をまがると数軒先の黒い板塀に女の子が手をついていた。
肘が軽く曲がったかと思うとその女の子が板塀に吸い込まれていくのが見えた。
えっ?と思って目を凝らすと、ゆるやかにウエーブがかかった長い髪をした女の子だった。髪にはピンクと白の小さな飾りがついたピンが留まっていて、白いハイソックスにピンクの靴、そしてピンクのランドセルが最後に視界から消えてドアが静かに締まった。
スローモーションのように見えたが実際はあっという間だったんだろうなと我に帰って、板塀をじっと見てみる。
その板塀には小さなドアがついていた。勝手口なのだろうか、通常のドアより小さ目なことに気がついた。今までドアがあることに気がついていなかったのでまるで女の子が異次元に吸い込まれるように見えただけだろう。
保坂は少しほっとしてマンションに帰る足を速めた。



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