愛の奴隷にしてください。【R18】

仲村來夢

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親愛なる小説家に捧げる恋1

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「ただいまー!」

返事が無い。…仕事に集中してるのか、倒れているのかどっちだろう。寝てるならいいんだけど…

足音を立てない様にそろそろとリビングに入ると、眉間に皺を寄せながらパソコンに向かう海都がいた。

「文香おかえりー」

海都はちらっとあたしを見てすぐ画面に向き直った。

「海都くん、ずっと起きてたの?」

「1時間くらい寝たよー。目覚ますためにお風呂も入ったし」

「そっかぁ、締め切り明日だもんね…終わったらご飯作りますね」

「ありがと」

現在の時刻、午前2時。今日の朝起きて、あたしが仕事に向かう頃には海都は既に仕事をしていた。…というか、昨日から寝てないっぽいんだよね。根詰めちゃってるなー、海都…

あたしは無言で再びそろそろと部屋を出て行き、お風呂に入ることにした。

久々にお風呂に浸かろう。

あたしの彼氏の海都は小説家。葉月怜緒というペンネームで活動している。そしてあたしは、海都の執筆している出版会社に勤めている。

「はー…あったかい」

10日間休みが無くて、忙しすぎてシャワーばっかりで湯船に浸かることが出来なかった。やっとゆっくり湯船に浸かることが出来て、つい声が出てしまった。明日は休みだ。久しぶりにゆっくり寝れると思うと、嬉しくて顔がにやけてしまう。

編集部の仕事は激務だけど、大好きな本に関われることが嬉しくてなんだかんだで大学卒業後に入社して以来4年が経つ。まぁ、あたし以上に激務なのは海都だけど…

小説家は自宅で仕事をする分、就業時間が無いし休みだって無い。最近は賞を頂いたし、執筆活動以外にも取材とかで本当に忙しそう。

仕事してる時の海都はほとんど食事を摂らないから仕事に一区切りがついた時にあたしがご飯を作って食べてもらっている。

海都のことは心配だけど、ちょっとお風呂でゆっくりさせてもらお…

あたしにはもう一つ海都のことで心配事がある。

海都って、めちゃくちゃイケメンなんだよね…。授賞式がテレビやネットニュースで取り上げられて一気にその名が世間に知られることになり、今まで一度も顔出しをしていなかった海都の容姿についても話題になった。

仕事の追い込み時期はなかなか外出が出来ないこともあり、少し長めの黒髪。色白の肌、切れ長の目、通った鼻筋、薄い唇…全てのバランスが整った顔に黒縁眼鏡がとても似合う。身長は180センチくらい?…で足が長くてすらっとしていて、授賞式でスーツを着て挨拶をする海都の姿はモデルの様だった。

同行した会社の人曰く、最近行われたサイン会は女の人が9割だったらしい。

イケメンだから心配、というのもあるけどちゃんと海都の本を読んで欲しいな…って思う。葉月怜緒ってイケメンだけど本は読んだことない、サイン会の為に買ったけど普段本を読まないから読む気がなかなか起きないなんていう声もけっこう聞く。

賞を頂いたことで本は10万部以上売れたし過去の作品も重版がかかっているから沢山の人に読まれているのだけど海都に興味を持った人には本を是非読んで欲しい。海都の作品はどれも素晴らしいから…

***

あたしが海都もとい、葉月怜緒を知ったのは今から10年前の高校生の頃だ。

あたしは小学生の頃から本が大好きで月に50冊近く読んでいた。学校帰りに図書館に寄って借りては返し、借りては返しの繰り返しをずっと続けていた。

ある日、よく行く本屋の新刊コーナーに葉月怜緒のデビュー作が平積みされていた。帯を見る限り学生の部活動を描いた青春ストーリーという、あまり読まないジャンルだけどなんとなく手に取ってみた。

葉月怜緒って…絶対8月生まれの獅子座じゃん。安直な名前…と思いつつ同じ8月生まれのあたしは不思議な縁を感じその日に本を買って帰った。

その日は他にも2冊買って帰ったのだけどまず葉月怜緒の本を読んでみることにした。

普段読むことがないジャンルのその作品に引き込まれ、読み始めると止まらなくなり一気に読んでしまった。

話自体が面白かったということはもちろん、話が進んでいくリズムの良さや言葉の選び方、文章の美しさがあたしの好みど真ん中で、他に買った本はそっちのけでもう一度読み返してしまった。

普段なら流し見をする奥付の作者紹介欄には20歳、8月生まれ。と記されておりやっぱり8月生まれなんだ、と笑いそうになったけれどそれ以上に20歳という若さに驚いた。

著者近影は無かったので顔はわからなかったけれど、あたしと4歳しか変わらないのにこんなに美しい文章を書けるなんて一体どんな人なんだろう。

あたしは一晩で葉月怜緒のファンになった。

新作の情報を調べては必ず発売日に買いに行ってその日中に最後まで読んだ。通学途中のバスの中や、学校の休み時間とかに読み返したくてあたしはいつも通学カバンに葉月怜緒の本を必ず1冊は入れていた。

ブックカバーをかけていても、何度も読むせいでいつもぼろぼろになってしまう。好きなフレーズが書いてあるページは読みこみすぎて勝手に開きそうになるぐらいのものもあるけど、デビュー作から今まで出版された本は全てそのまま取っている。

初めて海都にそれを見られた時はぼろぼろじゃん!と笑われたけど、顔はすごく嬉しそうだった。

そんなことを思い出しているとだんだんのぼせてきたのでかなり時間が経っていることに気付き、お風呂から上がり洗面所で髪を乾かした。温まりきった体にパジャマを着ていると暑くて、顔を仰ぎながらドライヤーを使っていても汗が滲みそうだ。このままではお風呂入った意味が無くなってしまう。

久しぶりに葉月怜緒の本が読みたくなり、玄関に置きっぱなしにしていた鞄から文庫本を取り出し寝室に移動した。

社会人になっても、高校生の頃からの習慣が抜けないんだよね…

ページをめくる度にときめく心。最後まで読みたいけど終わって欲しくないもどかしい気持ち。まるで恋をしているようだった。葉月怜緒はあたしに色んなことを教えてくれた。

イコールの存在となる海都にも、色んなことを教えてもらった。
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