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親愛なる小説家に捧げる恋2
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中学生あたりから、将来は本に関わる仕事に就きたいな…とぼんやりと考え始めていたけど高校生になるとその夢はどんどん明確になっていった。
色んな出版社から出ている色んな作家の本を読んできたけれど、せっかくなら大好きな葉月怜緒が書いている出版社で働きたい。
本当なら高校を卒業してすぐに働きたいくらいだったけど、応募条件が大卒以上の会社なので大学に通い就職活動の末、
「矢代文香さんですか?○○社の人事部です。採用のご連絡をさせて頂きました」
という電話をもらった時はその一言だけで嬉しくて泣いてしまい、連絡をしてきてくれた人事部の人を困らせてしまうぐらい嬉しかった。
晴れて入社をし、第1希望の書籍部門に配属になったあたしは何事も経験、まずは実践ということですぐに編集や取材のアシスタントをしたり、ページ構成の作成を教えてもらったり、書店への営業に同行したり、忙しさと仕事のハードさで心が折れそうになったけど、2年目になる頃には体力もメンタルも強くなった。
メールでのやり取りが中心のこのご時世に、遅筆な作家にプレッシャーをかける為にあえて自宅に原稿を取りに行かされることもあった。今時そんな仕事あるんだ…と驚いたけれどそういう戦法をとらなければなかなか原稿をあげられない作家は一定数いた。
その一定数の中にいたのが葉月怜緒だった。その頃、雑誌の小さいコーナーで数人の作家がリレー方式で執筆するコラムの仕事をしていた葉月怜緒の原稿だけがいつも遅く、編集部は困り果てていた。
しびれを切らした先輩に行ってこい、と言われあたしは葉月怜緒の自宅に向かうことになった。
その日は新しい仕事を与えられ覚える事も多くへとへとだったあたしはその仕事を任されてぐったりしながら自宅へ向かった。
今日はいつもより早く帰れるはずだったのに…!どんだけ遅筆なのよ、葉月怜緒…。あれだけの素晴らしい話を書くこと自体に時間がかかるだろうしそこからかなり推敲もする人みたいだからわからなくもないけれど…
大好きな作家に初めて会えるのに、あたしの足取りは重かった。ただたんに疲れていたというのもあるし、希望して葉月怜緒のいる出版社に就職したくせに会いたいと思ったことはなかったし。…会ってしまうと夢が壊れちゃうというか、顔を見ない方が純粋に作品を楽しめるというか…
仕事なんだし、そんな個人的なこと言ってる場合じゃないけど。
けれどいざ自宅に着き、オートロックを解除してもらって部屋に行くまでの間にめちゃくちゃ緊張してきた。
インターホンを鳴らし○○社の矢代です、と名前を告げた時に無言でオートロックを解除されたからまだどんな声なのかもわからないし…
部屋のインターホンを鳴らすと2、3分ほど待たされ、ドアを開けて今にも倒れそうな顔で出てきた葉月怜緒を見た時はこっちが倒れるかと思った。
…イケメンすぎるでしょ!!
どきどきしながら震える声で原稿のデータを取りにきました、と伝えるとすいません…もう出来ますから待ってて下さい、と部屋に招き入れてくれた。
消え入りそうだったけど、鼻にかかるような低い声が聞き取れて、声までイケメンということに更にどきどきした。
気が気でなくてそわそわしながらソファで待っていると30分後にようやくデータをもらうことが出来、お疲れ様でした。失礼します…と冷静に部屋を出たけど、ドアが閉まった瞬間あたしはエレベーターまで走ることで興奮を抑えようとした。
我ながら謎だけどそれぐらいあたしの頭は混乱していたのだ。
…タイプ過ぎる。なんなのあのイケメンっぷり!あんなイケメンがあんな素敵な文章書いてるって反則すぎる。天が二物以上与えてる…
会社に戻りデータを提出してようやく退勤した。朝出社するときは今日は絶対寝てやる。なんなら帰りの電車でも寝てやる。ぐらいに思っていたのに家に帰ってもなかなか寝付けなかった。
…やっぱり会わない方が良かった。高校生で初めて知ってから恋をしたように葉月怜緒の作品を読んでいたけど…本当に恋しちゃうよ。
あの頃一晩で葉月怜緒の作品のファンになってしまったあたしは、葉月怜緒本人に出会いこれまた一晩で恋に落ちてしまった。
***
それ以来、葉月怜緒の元へ原稿を取りに行くことが増え少し話をすることも増えた。とはいえ原稿をもらいに行っているのだから長々と話すわけではないけど。
ある日、いつもの様に原稿をもらい帰る時のことだった。
「矢代さん、この後って時間ありますか?」
「今から会社に戻るんですけど…」
「その後こっちに戻ってきてもらえたりとか…無理ですかね?」
「何かあるんですか?」
「いや、ずっとご飯食べてなくて。よかったら付き合ってもらえないかなって…いつも迷惑かけてるし」
…断る理由なんかどこにも無い。あたしは会社からダッシュで戻り、嬉しさや緊張や何で誘ってくれたんだろう、という色んな感情が渦巻きつつその日初めて二人で食事をした。
それから何度かそんなことがあり、あたし達の仲は急に深まりあれよあれよと付き合うことになり、今に至る。
しかもあたしの家の契約更新をきっかけに、付き合ってわりとすぐに同棲することになった。最初は慣れず葉月先生って呼んでいたけど今となっては海都と呼ぶことが自然になり2年が経つ。今度は海都の家の契約更新が近付いており、来月には引っ越すことになっている。
高校生の頃、葉月怜緒とこんな風に出会えることになるなんて思いもしなかった。
葉月怜緒があたしの初体験の相手になるなんてことも。
色んな出版社から出ている色んな作家の本を読んできたけれど、せっかくなら大好きな葉月怜緒が書いている出版社で働きたい。
本当なら高校を卒業してすぐに働きたいくらいだったけど、応募条件が大卒以上の会社なので大学に通い就職活動の末、
「矢代文香さんですか?○○社の人事部です。採用のご連絡をさせて頂きました」
という電話をもらった時はその一言だけで嬉しくて泣いてしまい、連絡をしてきてくれた人事部の人を困らせてしまうぐらい嬉しかった。
晴れて入社をし、第1希望の書籍部門に配属になったあたしは何事も経験、まずは実践ということですぐに編集や取材のアシスタントをしたり、ページ構成の作成を教えてもらったり、書店への営業に同行したり、忙しさと仕事のハードさで心が折れそうになったけど、2年目になる頃には体力もメンタルも強くなった。
メールでのやり取りが中心のこのご時世に、遅筆な作家にプレッシャーをかける為にあえて自宅に原稿を取りに行かされることもあった。今時そんな仕事あるんだ…と驚いたけれどそういう戦法をとらなければなかなか原稿をあげられない作家は一定数いた。
その一定数の中にいたのが葉月怜緒だった。その頃、雑誌の小さいコーナーで数人の作家がリレー方式で執筆するコラムの仕事をしていた葉月怜緒の原稿だけがいつも遅く、編集部は困り果てていた。
しびれを切らした先輩に行ってこい、と言われあたしは葉月怜緒の自宅に向かうことになった。
その日は新しい仕事を与えられ覚える事も多くへとへとだったあたしはその仕事を任されてぐったりしながら自宅へ向かった。
今日はいつもより早く帰れるはずだったのに…!どんだけ遅筆なのよ、葉月怜緒…。あれだけの素晴らしい話を書くこと自体に時間がかかるだろうしそこからかなり推敲もする人みたいだからわからなくもないけれど…
大好きな作家に初めて会えるのに、あたしの足取りは重かった。ただたんに疲れていたというのもあるし、希望して葉月怜緒のいる出版社に就職したくせに会いたいと思ったことはなかったし。…会ってしまうと夢が壊れちゃうというか、顔を見ない方が純粋に作品を楽しめるというか…
仕事なんだし、そんな個人的なこと言ってる場合じゃないけど。
けれどいざ自宅に着き、オートロックを解除してもらって部屋に行くまでの間にめちゃくちゃ緊張してきた。
インターホンを鳴らし○○社の矢代です、と名前を告げた時に無言でオートロックを解除されたからまだどんな声なのかもわからないし…
部屋のインターホンを鳴らすと2、3分ほど待たされ、ドアを開けて今にも倒れそうな顔で出てきた葉月怜緒を見た時はこっちが倒れるかと思った。
…イケメンすぎるでしょ!!
どきどきしながら震える声で原稿のデータを取りにきました、と伝えるとすいません…もう出来ますから待ってて下さい、と部屋に招き入れてくれた。
消え入りそうだったけど、鼻にかかるような低い声が聞き取れて、声までイケメンということに更にどきどきした。
気が気でなくてそわそわしながらソファで待っていると30分後にようやくデータをもらうことが出来、お疲れ様でした。失礼します…と冷静に部屋を出たけど、ドアが閉まった瞬間あたしはエレベーターまで走ることで興奮を抑えようとした。
我ながら謎だけどそれぐらいあたしの頭は混乱していたのだ。
…タイプ過ぎる。なんなのあのイケメンっぷり!あんなイケメンがあんな素敵な文章書いてるって反則すぎる。天が二物以上与えてる…
会社に戻りデータを提出してようやく退勤した。朝出社するときは今日は絶対寝てやる。なんなら帰りの電車でも寝てやる。ぐらいに思っていたのに家に帰ってもなかなか寝付けなかった。
…やっぱり会わない方が良かった。高校生で初めて知ってから恋をしたように葉月怜緒の作品を読んでいたけど…本当に恋しちゃうよ。
あの頃一晩で葉月怜緒の作品のファンになってしまったあたしは、葉月怜緒本人に出会いこれまた一晩で恋に落ちてしまった。
***
それ以来、葉月怜緒の元へ原稿を取りに行くことが増え少し話をすることも増えた。とはいえ原稿をもらいに行っているのだから長々と話すわけではないけど。
ある日、いつもの様に原稿をもらい帰る時のことだった。
「矢代さん、この後って時間ありますか?」
「今から会社に戻るんですけど…」
「その後こっちに戻ってきてもらえたりとか…無理ですかね?」
「何かあるんですか?」
「いや、ずっとご飯食べてなくて。よかったら付き合ってもらえないかなって…いつも迷惑かけてるし」
…断る理由なんかどこにも無い。あたしは会社からダッシュで戻り、嬉しさや緊張や何で誘ってくれたんだろう、という色んな感情が渦巻きつつその日初めて二人で食事をした。
それから何度かそんなことがあり、あたし達の仲は急に深まりあれよあれよと付き合うことになり、今に至る。
しかもあたしの家の契約更新をきっかけに、付き合ってわりとすぐに同棲することになった。最初は慣れず葉月先生って呼んでいたけど今となっては海都と呼ぶことが自然になり2年が経つ。今度は海都の家の契約更新が近付いており、来月には引っ越すことになっている。
高校生の頃、葉月怜緒とこんな風に出会えることになるなんて思いもしなかった。
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