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14.写真撮影
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ユニットの本格始動に向け、アーティスト写真の撮影日がやってきた。
場所は都内の有名なハウススタジオ。奏多は、颯真が用意したシックなネイビーの衣装に身を包み、プロのメイクアップアーティストの手によって、かつての「エース」としての輝きを完全に取り戻していた。
「……やっぱり、奏多さんは特別だ」
鏡越しに彼を見ていたリオが、感嘆の溜息を漏らす。
「これなら、世間が放っておくわけないですよ」
「……そんなにジロジロ見ないでよ。落ち着かない」
照れ隠しに顔を背ける奏多だったが、撮影が始まると空気は一変した。
カメラマンは数々の雑誌を手がけるベテランで、3人の関係性を瞬時に見抜いたのか、とんでもないポーズを要求してきた。
「いいね、最高。……よし、次は3人の距離感をグッと縮めようか。颯真くんとリオくん、真ん中の奏多くんを奪い合うようなイメージで」
「「……!!」」
その指示に、二人のスイッチが入った。
「奏多、こっちを見て。……俺だけを見ていればいいから」
颯真が奏多の腰を力強く引き寄せ、耳元で甘く囁く。丁寧な口調はそのままに、カメラに向けられた顔とは別に瞳は奏多を捉えている。
「ずるいですよ颯真さん! 奏多さん、僕の方は向いてくれないんですか?こう見えて僕グループではセンターなんですよ?」
反対側からリオが奏多の手を取り、自分の頬に寄せる。パーマのかかった髪を奏多の肩に預け、縋るような視線をカメラに送った。
「ちょ、二人とも……近すぎ……っ!」
奏多の顔が瞬時に林檎のように赤くなる。
カメラのシャッター音が連続して響く中、左右から押し寄せる二人の体温と、執着にも似た熱い視線。かつてのグループ活動では経験したことのない、剥き出しの感情に挟まれ、奏多はパニック寸前だった。
「いいよ! その戸惑った表情、最高にそそるね!」
カメラマンが興奮気味に声を上げる。
「奏多、耳まで赤くなってる。可愛い」
「あーもう、僕、撮影じゃなかったらこのまま連れて帰りたいくらいです!」
「……っ、もう、いい加減にして!」
奏多は赤面したまま叫んだが、その恥じらう姿さえもレンズに完璧に収められていた。
撮影が終わる頃には、奏多は精神的に疲れ果てていたが、出来上がったモニターの中の自分たちは、これまで見たことがないほど鮮烈で魅力的だったと思う。
奏多は再び、かつて以上の輝きを放ち始めていた。
※※※※※
ユニット結成の発表と共に、あの「奪い合い」のアー写がSNSで解禁された。
反響は凄まじかった。
かつての人気エース・奏多の復活、そして実力派の颯真と、別グループのリオという不思議な組み合わせだったこともあり話題を呼び、さまざまな憶測まで。
公開からわずか数時間で、ハッシュタグは世界トレンドの1位を独占した。
「すごいですよ奏多さん! サーバーが落ちる勢いです!」
「……本当だ。信じられない……」
自宅のリビングで、リオが興奮気味に画面を見せ、奏多は信じられない思いでそれを見つめていた。隣では、颯真がどこか満足げに奏多の背中を撫でている。
「当然。皆、奏多を待っていたんだ。……これでようやく、スタート地点にまた立てた」
※※※※※※
その夜、奏多を挟むようにして、3人はリビングのソファに座っていた。
「……ねえ、二人とも。どうして?」
不意に奏多が小さな声を漏らした。
俯いたまま、震える指でカップを見つめる。
「どうして……こんなに良くしてくれるの? 颯真は自分の事務所の代表で、リオくんは他事務所で活躍してて。二人とも、僕みたいな影のある人間に関わって、一緒に住んで、守って……。何のメリットもないはずだよ。……なんで…」
奏多の真っ直ぐな、けれど自分を卑下するような問いかけに、颯真とリオは同時に言葉を失った。
「それは……」
「それは、もちろん……」
二人の視線が空中で交差する。
本当は、今すぐにでも叫びたかった。
「ただ君に幸せになって欲しいからだ」と。
「奏多さんが好きだから」と。
しかし、今の奏多にそれを伝えてしまえば、繊細な彼はその想いの重さに耐えきれず、またどこかへ逃げ出してしまうかもしれない。
まだ「好きだから」という決定的な言葉を突きつけるわけにはいかなかった。
「……奏多。俺はね、君の才能を誰よりも信じているんだ。かつての仲間として、もう一度ステージに立ってほしかった。」
颯真が絞り出すように言った。
「僕だってそうです! 奏多さんの曲を聴いて、人生救われたって言ったじゃないですか。……推しを助けるのに、理由なんていらないんですよ。あ、あと……ほら、3人でいた方が楽しいし!」
リオも必死に明るく振る舞うが、握りしめた拳には力がこもっている。
「……才能、…推し、だから……?」
奏多は二人の言葉を反芻するように呟き、小さく微笑んだ。
「……ありがとう。そう言ってもらえると、少しだけ安心する」
安心した、と言って瞳を閉じた奏多。
そんな彼の寝顔を見守りながら、颯真とリオは「本当の理由」を飲み込み、激しいもどかしさに襲われていた。
「(……いつか、ちゃんと伝えないとな)」
「(……颯真さんには負けない!)」
場所は都内の有名なハウススタジオ。奏多は、颯真が用意したシックなネイビーの衣装に身を包み、プロのメイクアップアーティストの手によって、かつての「エース」としての輝きを完全に取り戻していた。
「……やっぱり、奏多さんは特別だ」
鏡越しに彼を見ていたリオが、感嘆の溜息を漏らす。
「これなら、世間が放っておくわけないですよ」
「……そんなにジロジロ見ないでよ。落ち着かない」
照れ隠しに顔を背ける奏多だったが、撮影が始まると空気は一変した。
カメラマンは数々の雑誌を手がけるベテランで、3人の関係性を瞬時に見抜いたのか、とんでもないポーズを要求してきた。
「いいね、最高。……よし、次は3人の距離感をグッと縮めようか。颯真くんとリオくん、真ん中の奏多くんを奪い合うようなイメージで」
「「……!!」」
その指示に、二人のスイッチが入った。
「奏多、こっちを見て。……俺だけを見ていればいいから」
颯真が奏多の腰を力強く引き寄せ、耳元で甘く囁く。丁寧な口調はそのままに、カメラに向けられた顔とは別に瞳は奏多を捉えている。
「ずるいですよ颯真さん! 奏多さん、僕の方は向いてくれないんですか?こう見えて僕グループではセンターなんですよ?」
反対側からリオが奏多の手を取り、自分の頬に寄せる。パーマのかかった髪を奏多の肩に預け、縋るような視線をカメラに送った。
「ちょ、二人とも……近すぎ……っ!」
奏多の顔が瞬時に林檎のように赤くなる。
カメラのシャッター音が連続して響く中、左右から押し寄せる二人の体温と、執着にも似た熱い視線。かつてのグループ活動では経験したことのない、剥き出しの感情に挟まれ、奏多はパニック寸前だった。
「いいよ! その戸惑った表情、最高にそそるね!」
カメラマンが興奮気味に声を上げる。
「奏多、耳まで赤くなってる。可愛い」
「あーもう、僕、撮影じゃなかったらこのまま連れて帰りたいくらいです!」
「……っ、もう、いい加減にして!」
奏多は赤面したまま叫んだが、その恥じらう姿さえもレンズに完璧に収められていた。
撮影が終わる頃には、奏多は精神的に疲れ果てていたが、出来上がったモニターの中の自分たちは、これまで見たことがないほど鮮烈で魅力的だったと思う。
奏多は再び、かつて以上の輝きを放ち始めていた。
※※※※※
ユニット結成の発表と共に、あの「奪い合い」のアー写がSNSで解禁された。
反響は凄まじかった。
かつての人気エース・奏多の復活、そして実力派の颯真と、別グループのリオという不思議な組み合わせだったこともあり話題を呼び、さまざまな憶測まで。
公開からわずか数時間で、ハッシュタグは世界トレンドの1位を独占した。
「すごいですよ奏多さん! サーバーが落ちる勢いです!」
「……本当だ。信じられない……」
自宅のリビングで、リオが興奮気味に画面を見せ、奏多は信じられない思いでそれを見つめていた。隣では、颯真がどこか満足げに奏多の背中を撫でている。
「当然。皆、奏多を待っていたんだ。……これでようやく、スタート地点にまた立てた」
※※※※※※
その夜、奏多を挟むようにして、3人はリビングのソファに座っていた。
「……ねえ、二人とも。どうして?」
不意に奏多が小さな声を漏らした。
俯いたまま、震える指でカップを見つめる。
「どうして……こんなに良くしてくれるの? 颯真は自分の事務所の代表で、リオくんは他事務所で活躍してて。二人とも、僕みたいな影のある人間に関わって、一緒に住んで、守って……。何のメリットもないはずだよ。……なんで…」
奏多の真っ直ぐな、けれど自分を卑下するような問いかけに、颯真とリオは同時に言葉を失った。
「それは……」
「それは、もちろん……」
二人の視線が空中で交差する。
本当は、今すぐにでも叫びたかった。
「ただ君に幸せになって欲しいからだ」と。
「奏多さんが好きだから」と。
しかし、今の奏多にそれを伝えてしまえば、繊細な彼はその想いの重さに耐えきれず、またどこかへ逃げ出してしまうかもしれない。
まだ「好きだから」という決定的な言葉を突きつけるわけにはいかなかった。
「……奏多。俺はね、君の才能を誰よりも信じているんだ。かつての仲間として、もう一度ステージに立ってほしかった。」
颯真が絞り出すように言った。
「僕だってそうです! 奏多さんの曲を聴いて、人生救われたって言ったじゃないですか。……推しを助けるのに、理由なんていらないんですよ。あ、あと……ほら、3人でいた方が楽しいし!」
リオも必死に明るく振る舞うが、握りしめた拳には力がこもっている。
「……才能、…推し、だから……?」
奏多は二人の言葉を反芻するように呟き、小さく微笑んだ。
「……ありがとう。そう言ってもらえると、少しだけ安心する」
安心した、と言って瞳を閉じた奏多。
そんな彼の寝顔を見守りながら、颯真とリオは「本当の理由」を飲み込み、激しいもどかしさに襲われていた。
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