元アイドルは現役アイドルに愛される

文字の大きさ
51 / 71

51.

しおりを挟む
翌朝。

カーテンの隙間から差し込む朝日と、ズキズキと響く軽い頭痛とともに、奏多は目を覚ました。

​隣には、自分の腰をがっしりと抱きしめたまま眠るリオの姿。

昨夜の記憶が、濁流のように脳内に押し寄せてくる。「幻覚」だと言い張ったこと、セナに抱きついたこと、挙句の果てに通行人にまで愛想を振りまいたこと……。


​「……っ、死にたい……」


​奏多が枕に顔を埋めて震えていると、枕元に置いていたスマホが「チリン」と通知を鳴らした。恐る恐る画面を覗くと、そこにはセナからのメッセージが。


​セナ:
「奏多さん、昨夜はお疲れ様でした!
リオさんに無事回収されてよかったです。
でも、奏多さんが泣きながら『リオくんが好きすぎて死んじゃう』って僕の胸で言ってたこと、一生の宝物にしますね!
P.S. リオさん、すっごく怖かったので、生きてたら返信ください(笑)」

​「……っ、セナくん……!!」


​煽りスキルの高い後輩の言葉に、奏多の顔面はゆでだこのように赤くなった。昨夜の失態がすべて事実であったことを、これ以上ない形で突きつけられた瞬間だった。


​「……奏多さん、おはようございます。起きてたんですね」 


​低い、まだ眠気の残る声が耳元で響く。リオがゆっくりと目を開け、奏多をさらに自分の方へ引き寄せた。


​「り、リオくん……おはよう。……あの、昨日は、その……」
​「セナくんからのメッセージ、見ました? 僕のところにも届いてますよ。『奏多さんの抱き心地、忘れません』って。……あいつ、後で一回絞めますね」
​「……ごめんなさい……」


​シュンと萎れてしまった奏多。その様子を見て、リオはふっと表情を和らげた。
本当は昨夜、嫉妬で狂いそうだった。けれど、泥酔した奏多が口にしていたのは、どれも自分への不器用な愛と、寂しさの裏返しだった。

​「……奏多さん。僕の方こそ、ごめんなさい。仕事とはいえ、奏多さんをあんなに不安にさせて、寂しくさせて……。僕が、足りなかったんですよね」

​リオは奏多の額に優しくキスを落とした。

​「今日は一日オフです。……二人で、デートに行きましょう。もちろん、変な男が寄ってこないように、僕がずっと隣を歩きますから」


​数時間後。

すっかり体調を整えた二人は都内から少し離れた静かな公園へと向かった。

​キャップを深く被り、マスクをしていても隠しきれない華やかなオーラを放つ二人。
奏多は、昨夜の奔放な甘えっぷりが嘘のように、いつもの控えめさに戻っていた。けれど、歩きながらそっと自分の「袖」を掴んでくる指先に、リオはたまらない愛おしさを感じる。

​「……リオくん。これ、……お詫び」

​奏多が差し出したのは、途中の売店で見つけた、リオが好きそうなフレーバーのアイスクリーム。

​「ありがとうございます。……でも、お詫びなら、もっと別のものがいいな」
​「え……?」

​リオは立ち止まり、周囲に人がいないことを確認すると、奏多の手を引いて自分の方へ向けた。

​「昨日の夜みたいに、……『大好き』って、シラフで言ってください。それで全部、許してあげます」

​奏多は一瞬、耳まで真っ赤になったが、今度は逃げなかった。
リオの瞳を真っ直ぐに見つめ、小さな、けれど確かな声で紡ぐ。

​「……だいすきだよ、リオくん。……僕だけの、リオくんでいて」

​その瞬間、リオの顔に満開の笑顔が咲いた。
もう女優さんの影も、セナの煽りも、二人の間には入り込めない。

澄み切った青空の下、二人は繋いだ手を解かないまま、ゆっくりと並んで歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

処理中です...