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マンションの駐車場から、半ば抱きかかえられるようにしてリビングまで運ばれた奏多は、ソファに降ろされるなり「にゃあ……」と低く鳴いてこちらを窺うちくわぶを見つけた。
「あ……ちくわぶ。……ちくわぶ、おいで……。帰ったよぉ……」
奏多はふらふらと手を伸ばし、ソファの上で丸まっているちくわぶに抱きつこうとした。しかし、その体温に触れる直前、大きな影が割り込み、奏多の体は強引に別の胸板へと引き寄せられた。
「だめです。今はちくわぶじゃなくて、僕を見てください」
リオが奏多の腰に腕を回し、自分に密着させる。
「……リオくんの幻覚、……独占欲、つよい……。ちくわぶ、さびしがってる……」
「ちくわぶより僕の方が寂しがってます! それに……」
リオは奏多の顎をクイと持ち上げ、その潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめた。
「店で、セナくんにもあんな風に抱きついたんですか? 僕以外の男に、あんなに無防備に、全身で……」
問い詰めるリオの声は、嫉妬で少し低く震えている。奏多は視線を泳がせながら、熱を持った吐息とともに、酔っ払い特有の支離滅裂な弁明を始めた。
「……だって……。セナくんは、リオくんと、仲がいいから……っ。……リオくんの、お友達、だから……いいかなって……」
「いいわけないでしょう!? 友達なら僕の代わりに抱きついていいなんて理屈、どこにあるんですか!」
「……だって、リオくんの匂いがしそうだったんだもん……」
奏多がさらに胸元に顔を埋めて擦り寄ってくると、リオは「くっ……」と声を漏らして言葉を詰まらせた。そんな顔で、そんな可愛い理由を言われては、怒りたくても怒りきれない。
「……もう一杯。リオくん、……お酒、ちょうだい。宴会の続き、するの……」
奏多がトロンとした目で、おねだりするようにリオのシャツを掴んだ。リオはため息をつくと、「分かりました。準備してくるので、大人しく待っててくださいね」とキッチンへ向かった。
数分後。リオが持ってきたのは、ロックグラスに注がれた透明な液体。
「はい、どうぞ。特別なやつですよ」
「……わぁ。きれい……。かんぱーい……」
奏多はそれがただの冷たい水だとも気づかず、嬉しそうにグラスを傾けた。
「……ん。これ……すっごく、喉にいい味がする……。リオくん、……おかわり……」
「はいはい、いくらでもありますからね」
子どものように素直に水を飲み干す奏多を見つめながら、リオは「これ、明日起きたら絶対に全部話してやるからな……」と、愛しさと独占欲を混ぜ合わせたような複雑な笑みを浮かべていた。
二杯、三杯とリオから手渡される水を飲み干していくうちに、奏多の脳内を覆っていたアルコールの霧が、少しずつ、けれど確実に晴れ始めた。
冷たい水が喉を通り、火照った体に染み渡るたびに、思考の解像度が上がっていく。
「……あれ」
まず、視界がはっきりした。
目の前にあるのは、幻覚にしてはあまりにも質感のリアルな、リオのルームウェアの胸元。そして、自分の腰をがっしりとホールドしている、熱くて力強い腕。
「……り、リオ……くん?」
「はい。お水、もう一杯飲みますか? 奏多さん」
上から降ってきたのは、幻聴ではない、本物のリオの低く甘い声。
その瞬間、店での出来事が走馬灯のように脳裏を駆け抜けた。
(……セナくんに抱きついた……? 通行人に向かって手を振った……? リオくんに向かって『幻覚だ』なんて言って……っ!)
「っっひ!!!」
奏多は叫び声を上げながら、弾かれたようにリオの腕の中から飛び退こうとした。しかし、リオの腕は鉄壁で、逃げるどころかさらに密着させられる。
「あ、暴れないでください、危ないですよ!」
「離して! 離してリオくん! 僕、今すぐ消えたい! 地面の底に埋まりたい!!」
奏多は顔を両手で覆い、真っ赤を通り越して耳まで熱くしながら悶絶した。酔いが覚めかけた今、自分がどれほど醜態を晒し、どれほど恥ずかしい「デレ」をぶちまけたかを完璧に理解してしまったのだ。
「……思い出したんですね? 昨日の女優さんへの嫉妬から、セナくんへの浮気未遂まで」
「浮気じゃない、あれは……っ! だって、リオくんが楽しそうにしてるから……っ!」
「だからって、僕の目の前で他の男に抱きつくなんて……。奏多さん、僕がどれだけ理性を保つのに必死だったか分かってますか?」
リオがじりじりと顔を近づけてくる。その瞳は笑っているようでいて、奥の方には「逃がさない」という深い独占欲が渦巻いていた。
「……ごめん……なさい……」
「謝っても許しません。あ、ちなみにセナくんとのツーショット写真、彼からしっかり送られてきましたからね。『奏多さんの抱き心地、最高でした』って。……明日、彼をどう料理しましょうか?」
「セナくんは悪くて! 僕が、僕が勝手に……っ」
奏多は涙目になりながらリオの肩をぺしぺしと叩くが、もはや「子どものようにニコニコしていた」先ほどまでの無敵モードはない。
ただの、恥ずかしさで爆発寸前の素の奏多だった。
「もういいです。明日の朝まで、奏多さんは僕の腕の中から一歩も出禁止です。……いいですね?」
リオの有無を言わさない宣言に、奏多はもはや小さく「……はい」と答えるしかなかった。その様子を、ソファの端で見ていたちくわぶが「やれやれ」とばかりに大きな欠伸をして、二人に背を向けた。
「あ……ちくわぶ。……ちくわぶ、おいで……。帰ったよぉ……」
奏多はふらふらと手を伸ばし、ソファの上で丸まっているちくわぶに抱きつこうとした。しかし、その体温に触れる直前、大きな影が割り込み、奏多の体は強引に別の胸板へと引き寄せられた。
「だめです。今はちくわぶじゃなくて、僕を見てください」
リオが奏多の腰に腕を回し、自分に密着させる。
「……リオくんの幻覚、……独占欲、つよい……。ちくわぶ、さびしがってる……」
「ちくわぶより僕の方が寂しがってます! それに……」
リオは奏多の顎をクイと持ち上げ、その潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめた。
「店で、セナくんにもあんな風に抱きついたんですか? 僕以外の男に、あんなに無防備に、全身で……」
問い詰めるリオの声は、嫉妬で少し低く震えている。奏多は視線を泳がせながら、熱を持った吐息とともに、酔っ払い特有の支離滅裂な弁明を始めた。
「……だって……。セナくんは、リオくんと、仲がいいから……っ。……リオくんの、お友達、だから……いいかなって……」
「いいわけないでしょう!? 友達なら僕の代わりに抱きついていいなんて理屈、どこにあるんですか!」
「……だって、リオくんの匂いがしそうだったんだもん……」
奏多がさらに胸元に顔を埋めて擦り寄ってくると、リオは「くっ……」と声を漏らして言葉を詰まらせた。そんな顔で、そんな可愛い理由を言われては、怒りたくても怒りきれない。
「……もう一杯。リオくん、……お酒、ちょうだい。宴会の続き、するの……」
奏多がトロンとした目で、おねだりするようにリオのシャツを掴んだ。リオはため息をつくと、「分かりました。準備してくるので、大人しく待っててくださいね」とキッチンへ向かった。
数分後。リオが持ってきたのは、ロックグラスに注がれた透明な液体。
「はい、どうぞ。特別なやつですよ」
「……わぁ。きれい……。かんぱーい……」
奏多はそれがただの冷たい水だとも気づかず、嬉しそうにグラスを傾けた。
「……ん。これ……すっごく、喉にいい味がする……。リオくん、……おかわり……」
「はいはい、いくらでもありますからね」
子どものように素直に水を飲み干す奏多を見つめながら、リオは「これ、明日起きたら絶対に全部話してやるからな……」と、愛しさと独占欲を混ぜ合わせたような複雑な笑みを浮かべていた。
二杯、三杯とリオから手渡される水を飲み干していくうちに、奏多の脳内を覆っていたアルコールの霧が、少しずつ、けれど確実に晴れ始めた。
冷たい水が喉を通り、火照った体に染み渡るたびに、思考の解像度が上がっていく。
「……あれ」
まず、視界がはっきりした。
目の前にあるのは、幻覚にしてはあまりにも質感のリアルな、リオのルームウェアの胸元。そして、自分の腰をがっしりとホールドしている、熱くて力強い腕。
「……り、リオ……くん?」
「はい。お水、もう一杯飲みますか? 奏多さん」
上から降ってきたのは、幻聴ではない、本物のリオの低く甘い声。
その瞬間、店での出来事が走馬灯のように脳裏を駆け抜けた。
(……セナくんに抱きついた……? 通行人に向かって手を振った……? リオくんに向かって『幻覚だ』なんて言って……っ!)
「っっひ!!!」
奏多は叫び声を上げながら、弾かれたようにリオの腕の中から飛び退こうとした。しかし、リオの腕は鉄壁で、逃げるどころかさらに密着させられる。
「あ、暴れないでください、危ないですよ!」
「離して! 離してリオくん! 僕、今すぐ消えたい! 地面の底に埋まりたい!!」
奏多は顔を両手で覆い、真っ赤を通り越して耳まで熱くしながら悶絶した。酔いが覚めかけた今、自分がどれほど醜態を晒し、どれほど恥ずかしい「デレ」をぶちまけたかを完璧に理解してしまったのだ。
「……思い出したんですね? 昨日の女優さんへの嫉妬から、セナくんへの浮気未遂まで」
「浮気じゃない、あれは……っ! だって、リオくんが楽しそうにしてるから……っ!」
「だからって、僕の目の前で他の男に抱きつくなんて……。奏多さん、僕がどれだけ理性を保つのに必死だったか分かってますか?」
リオがじりじりと顔を近づけてくる。その瞳は笑っているようでいて、奥の方には「逃がさない」という深い独占欲が渦巻いていた。
「……ごめん……なさい……」
「謝っても許しません。あ、ちなみにセナくんとのツーショット写真、彼からしっかり送られてきましたからね。『奏多さんの抱き心地、最高でした』って。……明日、彼をどう料理しましょうか?」
「セナくんは悪くて! 僕が、僕が勝手に……っ」
奏多は涙目になりながらリオの肩をぺしぺしと叩くが、もはや「子どものようにニコニコしていた」先ほどまでの無敵モードはない。
ただの、恥ずかしさで爆発寸前の素の奏多だった。
「もういいです。明日の朝まで、奏多さんは僕の腕の中から一歩も出禁止です。……いいですね?」
リオの有無を言わさない宣言に、奏多はもはや小さく「……はい」と答えるしかなかった。その様子を、ソファの端で見ていたちくわぶが「やれやれ」とばかりに大きな欠伸をして、二人に背を向けた。
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