元アイドルは現役アイドルに愛される

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72. 最終回

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二人の同棲生活に戻った平穏な夜。

リビングには、少し焦げたハンバーグの匂いと、ちくわぶが床を叩く足音が響いている。

​家出、という名の出張から帰ってきた奏多を、リオは文字通り「離さない」と言わんばかりの力で抱きしめていた。

​「もう二度と、あんな嘘つかないでください……。僕、本当に奏多さんが消えちゃうかと思って、心臓が止まりそうだったんですから」
​「ごめんね。でも、リオくんも少しは自由にさせてくれないと」

​奏多は苦笑しながら、自分に顔を埋めるリオの柔らかな髪を撫でた。

刺された傷跡は、今でも時々、雨の日や寒暖差のある夜に疼く。けれど、その痛みを感じるたびに、奏多は自分が「生きている」こと、そしてこうして誰かに必要とされていることを強く実感していた。

​「……ねぇ、奏多さん。約束してください。どこに行く時も、何をする時も、ずっと僕の隣にいるって」
​「それは無理だよ。仕事もあるし、トイレだって一人で行くでしょ?」
​「そういうことじゃなくて!」

​リオが顔を上げ、少し膨れて奏多を見つめる。その瞳には、かつてパニックで白く濁っていた時とは違う、真っ直ぐで力強い光が宿っていた。

​そこに、インターホンが鳴る。

現れたのは、大量のビールを抱えた颯真と、なぜか高級そうなワインを持ったセナだった。

​「家出から帰還したって聞いて祝い直しだ」
「奏多さん!僕、奏多さんがいない間、悲しすぎて新しいカクテル考案しちゃいました。名付けて『奏多さんの涙』です!」
​「……セナ、お前それネーミングセンス最悪だぞ」

​颯真が呆れ、リオが「またセナくんが来た……」と露骨に嫌な顔をする。

狭いリビングに大人4人と一匹。

かつてバラバラになりかけ、一度は光を失いかけた彼らは今、かつてないほど騒がしく、そして温かな場所にいた。

​奏多は、差し出されたグラスを手に取り、窓の外の夜景を見つめる。

あの裏口の暗闇も、冷たい刃の感触も、もう遠い過去のこと。

​「……みんな、ありがとう」
​「何言ってるんだよ、今更」

颯真がグラスをぶつけてくる。

「奏多さんは、僕たちがいないとダメなんですからね」

リオが隣で腕を絡める。

「奏多さん、一生ついていきます!」

セナが大きな声で叫ぶ。

​奏多は、心からの笑顔でグラスを掲げた。

降り注ぐスポットライトよりも、鳴り止まないアンコールよりも、今この場所にある体温が、何よりも彼を輝かせていた。

​彼らの物語は、これからも続いていく。

傷跡を抱えながら、それでも誰よりも強く、美しく、明日を歌うために。
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