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不明勢力農村占拠事件
この星で1番強いモノ
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ラピスは雪景色の中で一際目立つ、金色の長い髪をなびかせながら、眼前に君臨する悪魔に立ち向かう。
森の女と言われるその存在はスクーグズヌフラ。マイナスを超えている筈の冬にそぐわない裸体、そして傍らにはケンタウロスのような姿のポルカンは、地から生えた太い木の根で縛り上げられていた。
劣勢だ。明らかな劣勢。
男を魅了する魔法を扱うスクーグズヌフラにはラピス以外は近づけない。よって強化スーツを纏う隊員たちも、心強い味方であるはずのポルカンも、何よりスキルを持つ俺ですら近づけない。
「誰も近づくな。あれは私の獲物だ。」
にも関わらずラピスは臆さない。まるで獲物を見るような綺麗な翡翠の瞳から放つ眼光が、森の女から外れない。
「翡翠の目…忌々しい…忌々しいったらないわ!!!」
森の女は手をひらりと揺らす。まるで風に揺れる葉。それに合わせて地中から3本の木の根が吹き出した。
太く堅固な木の根が蛇のように蠢いて、雪上をえぐりながら突き進む。その先に立つラピスは丸い何かを落として、地面を転がり根を避けた。
「避けたから何だって言うの!」
「まずは小手調べよ。」
雪を踏みつけた3つ木の根は、突然爆炎に巻き込まれた。爆風と共に根が飛び散って、ラピスが口の端が曲がった。
「ぐっ…この世界の弾け石か…。」
「ハハッ。何が悪魔だ。対したことないじゃないか。」
そして森の女は気付いた。浅緑の球体が3個、足元に転がっていた事に。
「なにを__」
空気を押し退けて、音を喰って、オレンジ色の爆炎が森の女とポルカンを巻き込んだ。
あまりに劣勢だと思っていたのに、押しているのはラピスのようだ。見た目と裏腹に容赦のない攻撃に圧倒されて、開いた口が塞がらない。そんな俺に隊員が一人近づいてきた。
「嶋田さんですよね?うちの副隊長はご存知ですか?」
「いや…すまん。知らない。」
うちの会社は多国籍を巻き込んで雇い入れているため、知らない人間は多い。そもそも合流する予定にないので居心地が悪い。
そんな気持ちを知らない隊員は誇らしげに雄弁を流す。
「名前はラピス。彼女は軍人出で、男社会でのし上がった兵なんですよ。あの機動力と爆弾の相性がすごく良くて…敵方には非人道的人間兵器だと。」
「なるほど。」
紅蓮の陽炎に浮かぶ彼女のシルエットが物語っている。この世界でラピスに勝てる者はそうそういないのだろう。
「だが相手は人間じゃない。限度がある。」
オレンジ色の光を割って木の根が現れた。固く尖った先端を、ラピスは軽やかにかわして、また爆発が起こる。
「なんで追いかけて…」
サーチ……………爆発で破壊された一部から、新たに根が吹き出しています。
アナウンスによる回答は予想の範疇だが、それでも伝えないといけない。
「ラピス!奴の根は再生してる!!」
「化け物めッ」
愚痴を吐くラピスだが、今更流れを止めることはできない。爆煙が消えて、姿を表す森の女は笑っていた。
「ホラホラホラ早くしないと追いついてしまうわ!」
木の根が現れては爆発を繰り返す。対応しているラピスもすごいが、これも時間稼ぎにしかならない。
「目標森の女!敵1!各個に撃て!!」
隊員の一人が声音をあげると、まばらに散っていた隊員達が一斉に射撃を始めた。
だが届かない。弾は全て彼女に近づくに連れて弾速を弱めて、次第に地面に溢れていく。その光景を満足げに森の女が眺めていた。
「あっはっは!これは何の感謝祭なの?子供のおもちゃは箱にしまいなさい。」
「なんであたらない!どういうことなんだ嶋田!!」
「んなもんしるか!爆弾使え爆だ____」
対応も間違っていなかった。彼等の出来ることもした。だからラピスが迎える局面は必然だ。
「ハァ…ハァ……」
ラピスは肩で息をしながら、雪に尻を付けていた。
「副隊長!」
彼女はゆっくりと隊員達を見て回し、優しく語った。
「貴方達は夫が残した希望。最期まで…国民を救いなさい。」
木の根がラピスに迫っていた。逃げようもない機動力に加えて、それを避ける体力もない。ならもう俺しかいない。足に力を込めて走る。
「嶋田!」
するとタイミングを図っていたのか、ポルカンは木の根に巻かれているのに大剣を無理やり投げた。そして俺とラピスの間の地面に突き刺さって、手を伸ばした。
「まだ____」
昔までの俺なら振るうことすら躊躇っていたが、今はスキルが体を支えている。今の俺になら扱える。
「終わっちゃいねぇ!!!!」
木の根はもうすぐラピスを貫こうとしている。取手を握り、剣を震えば届く。迷ってしまえば間に合わない。だから掴めばすぐに振るわないと。
待ち受けているのか静かに居座る大剣の柄を躊躇いなく掴んだ。
アラート
アラートアラート
アラートアラートアラート
アラートアラートアラートアラート
アラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラート
頭の中を埋め尽くした警告の後、体から黒い鉄の鎖が生えて地面に打ち込まれた。そして身動きが取れなくなる。
警告…………「大剣」に付与された縛りの呪いにより、全身の動きを拘束された。解析解除には15分必要。
「な、何だこれは…」
「すまない。本当にすまない嶋田。汝ならば扱えると考えてしまった。」
イレギュラーな出来事に反応して木の根の動きが止まった。
「黒鉄鎖の剣。ポルカンも馬鹿ね、いくら蛮勇でも人間に扱える訳がないわよ。それじゃ気を取り直して…」
状況が悪いままに、再び動き出す。俺達の前には死が迫っていた。
確信が心を巣食った途端、意識が浮遊したような不思議な感覚が襲ってきた。これが何なのか理解した途端に、拘束されて身動きが取れないまま天を仰いで叫んだ。
「てめぇスタチュー!これを狙ってやがったな!」
_____御名答だ。
すべての時間が止まると、どこからか声がした。その声がスタチューであることがわかったとしても、前とは違って俺は声が出せなかった。
_____今からすることには君が邪魔でね。悪いが思考だけは残して動きを止めている。
「な、なに。何が起こってるの。」
胸が締め付けられた。スタチューがここまでレール敷いたのは、彼女が欲しかったからだ。ラピス。強く気高い女が差し出すものを。
「誰かいるの?」
_____私はスタチュー。この世界を守る存在、君等で言う神に値する。
「神…だから時間を止められたのね…。」
_____そうだ。君を守る為にね。だがそれだけ。私ができるのは事象を止めるだけ、今起きていることを無くすことはできない。
気づいてくれラピス。それこそが彼の目的なんだ。
「……どうすればいいの?」
ああ。心細そうに話す声が聞こえる。このままではいけない。彼女は口車に乗せられているんだ。
____私は君に能力を授けようと思っている。
「能力?」
____あそこの嶋田のように、君たちの社長のように。人なる身で、人ならざる力を授けよう。
「私に力を…。」
____だが君の大事なものを捧げてもらう事になる。命などではないが、力に相応する物を頂いている。
「そっか……そういうことね。」
今度は話し声の後に、ラピスはため息をついていった。
「貴方はこの世界に干渉できない。だから手駒が欲しかったのね。」
突然切り替わるラピスはまくし立てた。
「耳障りのいい言葉で蓋をして、内側の欲望でドロドロになっている人を私は見てきた。貴方もその人達と同じ言い訳をしてるみたいに見える。」
______それで、どうしたいんだ。
「……。」
______私にはお前がただ悪あがきをして、何も奪われず、スキルだけを掠め取れないか算段を立てているように見えるぞ。
あまりにも的確で、ラピスはぐうの音がでないでいる。
______言う通り、私はこの世界で起きてしまう事象には触れられない。だからお前が今立たされている運命を変えることはできないのだ。
「…」
______なにも無理強いするつもりもない。もし受け取れないのであればそれもいいだろう。覚悟ができたら言ってくれ。時間を進ませる。因みにこの空間を解除すれば、君がどこに逃げても同じ場所に戻る。
「……あーーーークソクソクソクソクソクソクソ!!!やるわよやればいいんでしょ!!!!さっさと出せばいいじゃない!なんだってあげ」
ラピスの激昂は止まって、目が一瞬だけ黒くなった。
「……………あれ?」
自分の身体の違和感に気づいたのか、慌てていた。
_____想いを貫く拳。お前の拳は次元に干渉される事なく、必ず相手に至るだろう。
「うそ………うそうそ…。」
_____生贄として、お前の夫への愛を頂いた。
「思い出せない………プロポーズされた時の気持ちを……」
惨い行為だった。故人という過去の人に対する想いを、この神様は奪ったのだ。ラピスの声は聞いていられないほどに悲しみに暮れていた。
俺には力があった筈だ。なのに何故ナイテイルヒトがイル
_____………嶋田よ。私はお前のことを低く見積もっていたようだ。
こんな鎖如き、呪いごときになぜ囚われているんだ。
強く願う程にこの身体に結びついた鎖が軋みを上げている。怒りと、自分への情けなさ。熱い気持ちが身体の内側を焼いていく。焼かれる事に身体は疼いて、勝手に動いた。
「ふ!……ふざ………」
____その鎖は呪いが凝固し、神が天寿を全うするまで丁寧に編み込み続けたものだ。その鎖を解くと判断した上で世界を止める魔法に嶋田を加えた。なのに。
「お…………れは!!!おれは!!!!」
動くたびに肌が引っ張られ、骨と身体が千切れそうになる。呪いが動きを止めるために体を至る方向から引っ張っているのだ。
「それでも!!!それでも俺は、全部を!!」
今までの事を思い出していた。スキルを使うときに感じた微妙な空白。ゾンビの毒に侵されたときに見えた流れ。そしてこの鎖。
すべての力に流れがある事がわかったんだ。その流れは形を作っている訳じゃない。体感的に見えている。たったそれだけで全てがひっくり返るんだ。
「もう……すこし!!!!」
大きな流れ、呪いのプレッシャーが強くなっていく。プレッシャーが強くなる事に、鎖の張力も比例していた。
「もう……………一歩!!!」
そしてそのプレッシャーが一瞬弱り、視界の中で突然小さな男の子が現れた。
「見えた!!!この呪いの核が!!」
対象「黒鉄鎖の核」、解析完了。
スキル宿り木の身体を発動しました。
「きた!!やっぱりできた!」
アナウンスが脳内で流れた途端、体から生えていた鎖が弾けて、跡形もなく消えていった。身体を引き裂こうとしていた張力がなくなったことに安堵した。
____私の設計を超えた。流石というよりも、それはあまりにも危険だな。
「スタチュー。俺はてめぇに追いつく。絶対に。」
____なれば、これを超えてみせろ。
スタチューの言葉が聞こえた後、風の音、爆音の残響、薬莢の匂い、重なる環境音が時間が進みだしたことを知らせる。
「黒鉄鎖ッ!!!!」
黒色の鎖に、ラピスに迫る根の妨害をイメージした。するとなにもない空間にまるで水面の波のように空間を撓ませ、黒色の鎖が飛び出した。
鎖は格子状に編まれて壁を形成した。根の先が障害にぶつかる音が響く。
「あら…呪いを吸い込んで扱うなんて悪趣味ね。」
森の女は自身の攻撃が届かない事を見届ける。だがまだ余裕の表情は崩れていない。
「悪趣味はあんた。」
するとラピスは拳を前に送り出した。その拳の周りは何故か空間が波立って歪んでいる。躊躇いなく空気を割りながら、波及していく空間の波は鉄の壁に届いた。
編まれたはずの鎖は膨らんで、結び目を壊し、木の根事粉砕した。
「ふん!殴るだけの加護、そんなものが私に届く筈が___」
「よく見なさいよアバズレ。」
砕かれた木の根の断面からは新たな根が生えることはなかった。
「根が生えない…!」
どういった権能なのかわからないが、どうやらどんな物でも破壊し、再生を阻むようだ。必ず打ち負かすという気概が形になった能力だと思った。
(アナウンスが反応しない。スタチューが他人に授けた力は解析できないのか…)
「生えないからっていい気になるんじゃないよッ!!」
激昂する森の女の背後から、木の根が一斉に地中から吹き出した。根は横一列に整頓していて、まるで津波だった。
だから俺は黒鉄鎖を使って、根の列を全て絡め取る。
「邪魔立てばかりするな小僧!!!」
「まだまだ!!」
そしてまた新たに鉄の鎖を召喚。森の女の軟そうな肌に鎖が巻き付いて動きを抑え込んだ。
「くそ!クソが!!私はまだ____」
身動き一つ取れず、悪あがきで首を振り続ける森の女の眼下に、怒りを向けて拳を握り込んだラピスが現れた。
「殺す。」
「私は_____」
拳は誰にも止められない。まるで滑るようにして、森の女の腹はと進んだ。
「愛されたかっただけなの_____」
内蔵が破れた音が、赤い血と共に雪の上へ振ってくる。
「愛されたいなら、ちゃんと愛しなさい。魔法なんかに頼らずにね。」
打ち込まれた拳に伝う血は、肘に垂れていく。ラピスは仇を討ったのだ。
夫を殺され、その仇を打ち、あまつさえ尋常ならざる力を持ったラピスの頬は、涙がながれていた。
「……ねぇ。返して。」
ドサッと雪の上に落ちた森の女の亡骸は、痛みに歪んだまま死んでいた。金切り声すら聞こなくなったこの場所で、ラピスは孤独感と虚無感が胸を巣食っているのだろう。
「あの人への気持ちを返して。あんなにも溢れていた愛をもう感じない…。だからなの?だからこんなにも、心が動かないなんて。」
愛を神に捧げた妻の結末は、どうしょうもなく虚しいものだった。だから俺はなにか声をかけたくなってしまったが、その足を自分で止めた。
「ラピス…乗り越えるんだ。俺達はずっとそれを忘れちゃいけないんだから。」
遠くで膝を抱えて泣いているラピスの背中を、俺はしばらく見守った。
森の女と言われるその存在はスクーグズヌフラ。マイナスを超えている筈の冬にそぐわない裸体、そして傍らにはケンタウロスのような姿のポルカンは、地から生えた太い木の根で縛り上げられていた。
劣勢だ。明らかな劣勢。
男を魅了する魔法を扱うスクーグズヌフラにはラピス以外は近づけない。よって強化スーツを纏う隊員たちも、心強い味方であるはずのポルカンも、何よりスキルを持つ俺ですら近づけない。
「誰も近づくな。あれは私の獲物だ。」
にも関わらずラピスは臆さない。まるで獲物を見るような綺麗な翡翠の瞳から放つ眼光が、森の女から外れない。
「翡翠の目…忌々しい…忌々しいったらないわ!!!」
森の女は手をひらりと揺らす。まるで風に揺れる葉。それに合わせて地中から3本の木の根が吹き出した。
太く堅固な木の根が蛇のように蠢いて、雪上をえぐりながら突き進む。その先に立つラピスは丸い何かを落として、地面を転がり根を避けた。
「避けたから何だって言うの!」
「まずは小手調べよ。」
雪を踏みつけた3つ木の根は、突然爆炎に巻き込まれた。爆風と共に根が飛び散って、ラピスが口の端が曲がった。
「ぐっ…この世界の弾け石か…。」
「ハハッ。何が悪魔だ。対したことないじゃないか。」
そして森の女は気付いた。浅緑の球体が3個、足元に転がっていた事に。
「なにを__」
空気を押し退けて、音を喰って、オレンジ色の爆炎が森の女とポルカンを巻き込んだ。
あまりに劣勢だと思っていたのに、押しているのはラピスのようだ。見た目と裏腹に容赦のない攻撃に圧倒されて、開いた口が塞がらない。そんな俺に隊員が一人近づいてきた。
「嶋田さんですよね?うちの副隊長はご存知ですか?」
「いや…すまん。知らない。」
うちの会社は多国籍を巻き込んで雇い入れているため、知らない人間は多い。そもそも合流する予定にないので居心地が悪い。
そんな気持ちを知らない隊員は誇らしげに雄弁を流す。
「名前はラピス。彼女は軍人出で、男社会でのし上がった兵なんですよ。あの機動力と爆弾の相性がすごく良くて…敵方には非人道的人間兵器だと。」
「なるほど。」
紅蓮の陽炎に浮かぶ彼女のシルエットが物語っている。この世界でラピスに勝てる者はそうそういないのだろう。
「だが相手は人間じゃない。限度がある。」
オレンジ色の光を割って木の根が現れた。固く尖った先端を、ラピスは軽やかにかわして、また爆発が起こる。
「なんで追いかけて…」
サーチ……………爆発で破壊された一部から、新たに根が吹き出しています。
アナウンスによる回答は予想の範疇だが、それでも伝えないといけない。
「ラピス!奴の根は再生してる!!」
「化け物めッ」
愚痴を吐くラピスだが、今更流れを止めることはできない。爆煙が消えて、姿を表す森の女は笑っていた。
「ホラホラホラ早くしないと追いついてしまうわ!」
木の根が現れては爆発を繰り返す。対応しているラピスもすごいが、これも時間稼ぎにしかならない。
「目標森の女!敵1!各個に撃て!!」
隊員の一人が声音をあげると、まばらに散っていた隊員達が一斉に射撃を始めた。
だが届かない。弾は全て彼女に近づくに連れて弾速を弱めて、次第に地面に溢れていく。その光景を満足げに森の女が眺めていた。
「あっはっは!これは何の感謝祭なの?子供のおもちゃは箱にしまいなさい。」
「なんであたらない!どういうことなんだ嶋田!!」
「んなもんしるか!爆弾使え爆だ____」
対応も間違っていなかった。彼等の出来ることもした。だからラピスが迎える局面は必然だ。
「ハァ…ハァ……」
ラピスは肩で息をしながら、雪に尻を付けていた。
「副隊長!」
彼女はゆっくりと隊員達を見て回し、優しく語った。
「貴方達は夫が残した希望。最期まで…国民を救いなさい。」
木の根がラピスに迫っていた。逃げようもない機動力に加えて、それを避ける体力もない。ならもう俺しかいない。足に力を込めて走る。
「嶋田!」
するとタイミングを図っていたのか、ポルカンは木の根に巻かれているのに大剣を無理やり投げた。そして俺とラピスの間の地面に突き刺さって、手を伸ばした。
「まだ____」
昔までの俺なら振るうことすら躊躇っていたが、今はスキルが体を支えている。今の俺になら扱える。
「終わっちゃいねぇ!!!!」
木の根はもうすぐラピスを貫こうとしている。取手を握り、剣を震えば届く。迷ってしまえば間に合わない。だから掴めばすぐに振るわないと。
待ち受けているのか静かに居座る大剣の柄を躊躇いなく掴んだ。
アラート
アラートアラート
アラートアラートアラート
アラートアラートアラートアラート
アラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラート
頭の中を埋め尽くした警告の後、体から黒い鉄の鎖が生えて地面に打ち込まれた。そして身動きが取れなくなる。
警告…………「大剣」に付与された縛りの呪いにより、全身の動きを拘束された。解析解除には15分必要。
「な、何だこれは…」
「すまない。本当にすまない嶋田。汝ならば扱えると考えてしまった。」
イレギュラーな出来事に反応して木の根の動きが止まった。
「黒鉄鎖の剣。ポルカンも馬鹿ね、いくら蛮勇でも人間に扱える訳がないわよ。それじゃ気を取り直して…」
状況が悪いままに、再び動き出す。俺達の前には死が迫っていた。
確信が心を巣食った途端、意識が浮遊したような不思議な感覚が襲ってきた。これが何なのか理解した途端に、拘束されて身動きが取れないまま天を仰いで叫んだ。
「てめぇスタチュー!これを狙ってやがったな!」
_____御名答だ。
すべての時間が止まると、どこからか声がした。その声がスタチューであることがわかったとしても、前とは違って俺は声が出せなかった。
_____今からすることには君が邪魔でね。悪いが思考だけは残して動きを止めている。
「な、なに。何が起こってるの。」
胸が締め付けられた。スタチューがここまでレール敷いたのは、彼女が欲しかったからだ。ラピス。強く気高い女が差し出すものを。
「誰かいるの?」
_____私はスタチュー。この世界を守る存在、君等で言う神に値する。
「神…だから時間を止められたのね…。」
_____そうだ。君を守る為にね。だがそれだけ。私ができるのは事象を止めるだけ、今起きていることを無くすことはできない。
気づいてくれラピス。それこそが彼の目的なんだ。
「……どうすればいいの?」
ああ。心細そうに話す声が聞こえる。このままではいけない。彼女は口車に乗せられているんだ。
____私は君に能力を授けようと思っている。
「能力?」
____あそこの嶋田のように、君たちの社長のように。人なる身で、人ならざる力を授けよう。
「私に力を…。」
____だが君の大事なものを捧げてもらう事になる。命などではないが、力に相応する物を頂いている。
「そっか……そういうことね。」
今度は話し声の後に、ラピスはため息をついていった。
「貴方はこの世界に干渉できない。だから手駒が欲しかったのね。」
突然切り替わるラピスはまくし立てた。
「耳障りのいい言葉で蓋をして、内側の欲望でドロドロになっている人を私は見てきた。貴方もその人達と同じ言い訳をしてるみたいに見える。」
______それで、どうしたいんだ。
「……。」
______私にはお前がただ悪あがきをして、何も奪われず、スキルだけを掠め取れないか算段を立てているように見えるぞ。
あまりにも的確で、ラピスはぐうの音がでないでいる。
______言う通り、私はこの世界で起きてしまう事象には触れられない。だからお前が今立たされている運命を変えることはできないのだ。
「…」
______なにも無理強いするつもりもない。もし受け取れないのであればそれもいいだろう。覚悟ができたら言ってくれ。時間を進ませる。因みにこの空間を解除すれば、君がどこに逃げても同じ場所に戻る。
「……あーーーークソクソクソクソクソクソクソ!!!やるわよやればいいんでしょ!!!!さっさと出せばいいじゃない!なんだってあげ」
ラピスの激昂は止まって、目が一瞬だけ黒くなった。
「……………あれ?」
自分の身体の違和感に気づいたのか、慌てていた。
_____想いを貫く拳。お前の拳は次元に干渉される事なく、必ず相手に至るだろう。
「うそ………うそうそ…。」
_____生贄として、お前の夫への愛を頂いた。
「思い出せない………プロポーズされた時の気持ちを……」
惨い行為だった。故人という過去の人に対する想いを、この神様は奪ったのだ。ラピスの声は聞いていられないほどに悲しみに暮れていた。
俺には力があった筈だ。なのに何故ナイテイルヒトがイル
_____………嶋田よ。私はお前のことを低く見積もっていたようだ。
こんな鎖如き、呪いごときになぜ囚われているんだ。
強く願う程にこの身体に結びついた鎖が軋みを上げている。怒りと、自分への情けなさ。熱い気持ちが身体の内側を焼いていく。焼かれる事に身体は疼いて、勝手に動いた。
「ふ!……ふざ………」
____その鎖は呪いが凝固し、神が天寿を全うするまで丁寧に編み込み続けたものだ。その鎖を解くと判断した上で世界を止める魔法に嶋田を加えた。なのに。
「お…………れは!!!おれは!!!!」
動くたびに肌が引っ張られ、骨と身体が千切れそうになる。呪いが動きを止めるために体を至る方向から引っ張っているのだ。
「それでも!!!それでも俺は、全部を!!」
今までの事を思い出していた。スキルを使うときに感じた微妙な空白。ゾンビの毒に侵されたときに見えた流れ。そしてこの鎖。
すべての力に流れがある事がわかったんだ。その流れは形を作っている訳じゃない。体感的に見えている。たったそれだけで全てがひっくり返るんだ。
「もう……すこし!!!!」
大きな流れ、呪いのプレッシャーが強くなっていく。プレッシャーが強くなる事に、鎖の張力も比例していた。
「もう……………一歩!!!」
そしてそのプレッシャーが一瞬弱り、視界の中で突然小さな男の子が現れた。
「見えた!!!この呪いの核が!!」
対象「黒鉄鎖の核」、解析完了。
スキル宿り木の身体を発動しました。
「きた!!やっぱりできた!」
アナウンスが脳内で流れた途端、体から生えていた鎖が弾けて、跡形もなく消えていった。身体を引き裂こうとしていた張力がなくなったことに安堵した。
____私の設計を超えた。流石というよりも、それはあまりにも危険だな。
「スタチュー。俺はてめぇに追いつく。絶対に。」
____なれば、これを超えてみせろ。
スタチューの言葉が聞こえた後、風の音、爆音の残響、薬莢の匂い、重なる環境音が時間が進みだしたことを知らせる。
「黒鉄鎖ッ!!!!」
黒色の鎖に、ラピスに迫る根の妨害をイメージした。するとなにもない空間にまるで水面の波のように空間を撓ませ、黒色の鎖が飛び出した。
鎖は格子状に編まれて壁を形成した。根の先が障害にぶつかる音が響く。
「あら…呪いを吸い込んで扱うなんて悪趣味ね。」
森の女は自身の攻撃が届かない事を見届ける。だがまだ余裕の表情は崩れていない。
「悪趣味はあんた。」
するとラピスは拳を前に送り出した。その拳の周りは何故か空間が波立って歪んでいる。躊躇いなく空気を割りながら、波及していく空間の波は鉄の壁に届いた。
編まれたはずの鎖は膨らんで、結び目を壊し、木の根事粉砕した。
「ふん!殴るだけの加護、そんなものが私に届く筈が___」
「よく見なさいよアバズレ。」
砕かれた木の根の断面からは新たな根が生えることはなかった。
「根が生えない…!」
どういった権能なのかわからないが、どうやらどんな物でも破壊し、再生を阻むようだ。必ず打ち負かすという気概が形になった能力だと思った。
(アナウンスが反応しない。スタチューが他人に授けた力は解析できないのか…)
「生えないからっていい気になるんじゃないよッ!!」
激昂する森の女の背後から、木の根が一斉に地中から吹き出した。根は横一列に整頓していて、まるで津波だった。
だから俺は黒鉄鎖を使って、根の列を全て絡め取る。
「邪魔立てばかりするな小僧!!!」
「まだまだ!!」
そしてまた新たに鉄の鎖を召喚。森の女の軟そうな肌に鎖が巻き付いて動きを抑え込んだ。
「くそ!クソが!!私はまだ____」
身動き一つ取れず、悪あがきで首を振り続ける森の女の眼下に、怒りを向けて拳を握り込んだラピスが現れた。
「殺す。」
「私は_____」
拳は誰にも止められない。まるで滑るようにして、森の女の腹はと進んだ。
「愛されたかっただけなの_____」
内蔵が破れた音が、赤い血と共に雪の上へ振ってくる。
「愛されたいなら、ちゃんと愛しなさい。魔法なんかに頼らずにね。」
打ち込まれた拳に伝う血は、肘に垂れていく。ラピスは仇を討ったのだ。
夫を殺され、その仇を打ち、あまつさえ尋常ならざる力を持ったラピスの頬は、涙がながれていた。
「……ねぇ。返して。」
ドサッと雪の上に落ちた森の女の亡骸は、痛みに歪んだまま死んでいた。金切り声すら聞こなくなったこの場所で、ラピスは孤独感と虚無感が胸を巣食っているのだろう。
「あの人への気持ちを返して。あんなにも溢れていた愛をもう感じない…。だからなの?だからこんなにも、心が動かないなんて。」
愛を神に捧げた妻の結末は、どうしょうもなく虚しいものだった。だから俺はなにか声をかけたくなってしまったが、その足を自分で止めた。
「ラピス…乗り越えるんだ。俺達はずっとそれを忘れちゃいけないんだから。」
遠くで膝を抱えて泣いているラピスの背中を、俺はしばらく見守った。
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そこへ、現れたのは、天敵に近い存在の数学教師にしてクラス担任、井名里礼良(いなりあきら)。
辞めろ辞めないの押し問答の末に、井名里が持ち出した賭けとは?果たして夏清は平穏な日常を取り戻すことができるのか!?
何て言ってても、どこかにある幸せの結末を求めて突っ走ります。
こちらは2001年初出の自サイトに掲載していた小説です。完結済み。サイト閉鎖に伴い移行。若干の加筆修正は入りますがほぼそのままにしようと思っています。20年近く前に書いた作品なのでいろいろ文明の利器が古かったり常識が若干、今と異なったりしています。
20年くらい前の女子高生はこんな感じだったのかー くらいの視点で見ていただければ幸いです。今はこんなの通用しない! と思われる点も多々あるとは思いますが、大筋の変更はしない予定です。
フィクションなので。
多少不愉快な表現等ありますが、ネタバレになる事前の注意は行いません。この表現ついていけない…と思ったらそっとタグを閉じていただけると幸いです。
当時、だいぶ未来の話として書いていた部分がすでに現代なんで…そのあたりはもしかしたら現代に即した感じになるかもしれない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
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