訳アリおっさんが自衛隊を辞めてハンターになる話。

佐藤さん

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不明勢力農村占拠事件

この星で1番強いモノ

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 ラピスは雪景色の中で一際目立つ、金色の長い髪をなびかせながら、眼前に君臨する悪魔に立ち向かう。
 森の女と言われるその存在はスクーグズヌフラ。マイナスを超えている筈の冬にそぐわない裸体、そして傍らにはケンタウロスのような姿のポルカンは、地から生えた太い木の根で縛り上げられていた。

 劣勢だ。明らかな劣勢。

 男を魅了する魔法を扱うスクーグズヌフラにはラピス以外は近づけない。よって強化スーツを纏う隊員たちも、心強い味方であるはずのポルカンも、何よりスキルを持つ俺ですら近づけない。

「誰も近づくな。あれは私の獲物だ。」

 にも関わらずラピスは臆さない。まるで獲物を見るような綺麗な翡翠の瞳から放つ眼光が、森の女から外れない。

「翡翠の目…忌々しい…忌々しいったらないわ!!!」

 森の女は手をひらりと揺らす。まるで風に揺れる葉。それに合わせて地中から3本の木の根が吹き出した。
 太く堅固な木の根が蛇のように蠢いて、雪上をえぐりながら突き進む。その先に立つラピスは丸い何かを落として、地面を転がり根を避けた。

「避けたから何だって言うの!」
「まずは小手調べよ。」

 雪を踏みつけた3つ木の根は、突然爆炎に巻き込まれた。爆風と共に根が飛び散って、ラピスが口の端が曲がった。

「ぐっ…この世界の弾け石か…。」
「ハハッ。何が悪魔だ。対したことないじゃないか。」

 そして森の女は気付いた。浅緑の球体が3個、足元に転がっていた事に。

「なにを__」

   空気を押し退けて、音を喰って、オレンジ色の爆炎が森の女とポルカンを巻き込んだ。
 あまりに劣勢だと思っていたのに、押しているのはラピスのようだ。見た目と裏腹に容赦のない攻撃に圧倒されて、開いた口が塞がらない。そんな俺に隊員が一人近づいてきた。

「嶋田さんですよね?うちの副隊長はご存知ですか?」
「いや…すまん。知らない。」

 うちの会社は多国籍を巻き込んで雇い入れているため、知らない人間は多い。そもそも合流する予定にないので居心地が悪い。
 そんな気持ちを知らない隊員は誇らしげに雄弁を流す。

「名前はラピス。彼女は軍人出で、男社会でのし上がった兵なんですよ。あの機動力と爆弾の相性がすごく良くて…敵方には非人道的人間兵器だと。」
「なるほど。」

 紅蓮の陽炎に浮かぶ彼女のシルエットが物語っている。この世界でラピスに勝てる者はそうそういないのだろう。

「だが相手は人間じゃない。限度がある。」

 オレンジ色の光を割って木の根が現れた。固く尖った先端を、ラピスは軽やかにかわして、また爆発が起こる。

「なんで追いかけて…」

  サーチ……………爆発で破壊された一部から、新たに根が吹き出しています。

 アナウンスによる回答は予想の範疇だが、それでも伝えないといけない。

「ラピス!奴の根は再生してる!!」
「化け物めッ」

 愚痴を吐くラピスだが、今更流れを止めることはできない。爆煙が消えて、姿を表す森の女は笑っていた。

「ホラホラホラ早くしないと追いついてしまうわ!」

 木の根が現れては爆発を繰り返す。対応しているラピスもすごいが、これも時間稼ぎにしかならない。

「目標森の女!敵1!各個に撃て!!」

 隊員の一人が声音をあげると、まばらに散っていた隊員達が一斉に射撃を始めた。
 だが届かない。弾は全て彼女に近づくに連れて弾速を弱めて、次第に地面に溢れていく。その光景を満足げに森の女が眺めていた。

「あっはっは!これは何の感謝祭なの?子供のおもちゃは箱にしまいなさい。」
「なんであたらない!どういうことなんだ嶋田!!」
「んなもんしるか!爆弾使え爆だ____」

 対応も間違っていなかった。彼等の出来ることもした。だからラピスが迎える局面は必然だ。

「ハァ…ハァ……」

 ラピスは肩で息をしながら、雪に尻を付けていた。

「副隊長!」

 彼女はゆっくりと隊員達を見て回し、優しく語った。

「貴方達は夫が残した希望。最期まで…国民を救いなさい。」

 木の根がラピスに迫っていた。逃げようもない機動力に加えて、それを避ける体力もない。ならもう俺しかいない。足に力を込めて走る。

「嶋田!」

 するとタイミングを図っていたのか、ポルカンは木の根に巻かれているのに大剣を無理やり投げた。そして俺とラピスの間の地面に突き刺さって、手を伸ばした。

「まだ____」

 昔までの俺なら振るうことすら躊躇っていたが、今はスキルが体を支えている。今の俺になら扱える。

「終わっちゃいねぇ!!!!」

 木の根はもうすぐラピスを貫こうとしている。取手を握り、剣を震えば届く。迷ってしまえば間に合わない。だから掴めばすぐに振るわないと。
 待ち受けているのか静かに居座る大剣の柄を躊躇いなく掴んだ。







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  アラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラートアラート


 頭の中を埋め尽くした警告の後、体から黒い鉄の鎖が生えて地面に打ち込まれた。そして身動きが取れなくなる。 


  警告…………「大剣」に付与された縛りの呪いにより、全身の動きを拘束された。解析解除には15分必要。


「な、何だこれは…」
「すまない。本当にすまない嶋田。汝ならば扱えると考えてしまった。」

 イレギュラーな出来事に反応して木の根の動きが止まった。

「黒鉄鎖の剣。ポルカンも馬鹿ね、いくら蛮勇でも人間に扱える訳がないわよ。それじゃ気を取り直して…」

 状況が悪いままに、再び動き出す。俺達の前には死が迫っていた。
 確信が心を巣食った途端、意識が浮遊したような不思議な感覚が襲ってきた。これが何なのか理解した途端に、拘束されて身動きが取れないまま天を仰いで叫んだ。

「てめぇスタチュー!これを狙ってやがったな!」

_____御名答だ。

 すべての時間が止まると、どこからか声がした。その声がスタチューであることがわかったとしても、前とは違って俺は声が出せなかった。

_____今からすることには君が邪魔でね。悪いが思考だけは残して動きを止めている。
「な、なに。何が起こってるの。」

 胸が締め付けられた。スタチューがここまでレール敷いたのは、彼女が欲しかったからだ。ラピス。強く気高い女が差し出すものを。

「誰かいるの?」

_____私はスタチュー。この世界を守る存在、君等で言う神に値する。

「神…だから時間を止められたのね…。」

_____そうだ。君を守る為にね。だがそれだけ。私ができるのは事象を止めるだけ、今起きていることを無くすことはできない。

 気づいてくれラピス。それこそが彼の目的なんだ。

「……どうすればいいの?」

 ああ。心細そうに話す声が聞こえる。このままではいけない。彼女は口車に乗せられているんだ。

____私は君に能力を授けようと思っている。

「能力?」

____あそこの嶋田のように、君たちの社長のように。人なる身で、人ならざる力を授けよう。

「私に力を…。」

____だが君の大事なものを捧げてもらう事になる。命などではないが、力に相応する物を頂いている。

「そっか……そういうことね。」

 今度は話し声の後に、ラピスはため息をついていった。

「貴方はこの世界に干渉できない。だから手駒が欲しかったのね。」

 突然切り替わるラピスはまくし立てた。

「耳障りのいい言葉で蓋をして、内側の欲望でドロドロになっている人を私は見てきた。貴方もその人達と同じ言い訳をしてるみたいに見える。」


______それで、どうしたいんだ。


「……。」


______私にはお前がただ悪あがきをして、何も奪われず、スキルだけを掠め取れないか算段を立てているように見えるぞ。


 あまりにも的確で、ラピスはぐうの音がでないでいる。


______言う通り、私はこの世界で起きてしまう事象には触れられない。だからお前が今立たされている運命を変えることはできないのだ。

「…」

______なにも無理強いするつもりもない。もし受け取れないのであればそれもいいだろう。覚悟ができたら言ってくれ。時間を進ませる。因みにこの空間を解除すれば、君がどこに逃げても同じ場所に戻る。


「……あーーーークソクソクソクソクソクソクソ!!!やるわよやればいいんでしょ!!!!さっさと出せばいいじゃない!なんだってあげ」

 ラピスの激昂は止まって、目が一瞬だけ黒くなった。

「……………あれ?」

 自分の身体の違和感に気づいたのか、慌てていた。


_____想いを貫く拳。お前の拳は次元に干渉される事なく、必ず相手に至るだろう。

「うそ………うそうそ…。」

_____生贄として、お前の夫への愛を頂いた。

「思い出せない………プロポーズされた時の気持ちを……」


 惨い行為だった。故人という過去の人に対する想いを、この神様は奪ったのだ。ラピスの声は聞いていられないほどに悲しみに暮れていた。

 俺には力があった筈だ。なのに何故ナイテイルヒトがイル


_____………嶋田よ。私はお前のことを低く見積もっていたようだ。



 こんな鎖如き、呪いごときになぜ囚われているんだ。


 強く願う程にこの身体に結びついた鎖が軋みを上げている。怒りと、自分への情けなさ。熱い気持ちが身体の内側を焼いていく。焼かれる事に身体は疼いて、勝手に動いた。

「ふ!……ふざ………」

____その鎖は呪いが凝固し、神が天寿を全うするまで丁寧に編み込み続けたものだ。その鎖を解くと判断した上で世界を止める魔法に嶋田を加えた。なのに。

「お…………れは!!!おれは!!!!」

 動くたびに肌が引っ張られ、骨と身体が千切れそうになる。呪いが動きを止めるために体を至る方向から引っ張っているのだ。

「それでも!!!それでも俺は、全部を!!」

 今までの事を思い出していた。スキルを使うときに感じた微妙な空白。ゾンビの毒に侵されたときに見えた流れ。そしてこの鎖。
 すべての力に流れがある事がわかったんだ。その流れは形を作っている訳じゃない。体感的に見えている。たったそれだけで全てがひっくり返るんだ。

「もう……すこし!!!!」

 大きな流れ、呪いのプレッシャーが強くなっていく。プレッシャーが強くなる事に、鎖の張力も比例していた。

「もう……………一歩!!!」

 そしてそのプレッシャーが一瞬弱り、視界の中で突然小さな男の子が現れた。

「見えた!!!この呪いの核が!!」

 
  


  対象「黒鉄鎖の核」、解析完了。
スキル宿り木の身体を発動しました。

「きた!!やっぱりできた!」

 アナウンスが脳内で流れた途端、体から生えていた鎖が弾けて、跡形もなく消えていった。身体を引き裂こうとしていた張力がなくなったことに安堵した。



____私の設計を超えた。流石というよりも、それはあまりにも危険だな。

「スタチュー。俺はてめぇに追いつく。絶対に。」

____なれば、これを超えてみせろ。


 スタチューの言葉が聞こえた後、風の音、爆音の残響、薬莢の匂い、重なる環境音が時間が進みだしたことを知らせる。

「黒鉄鎖ッ!!!!」

 黒色の鎖に、ラピスに迫る根の妨害をイメージした。するとなにもない空間にまるで水面の波のように空間を撓ませ、黒色の鎖が飛び出した。
 鎖は格子状に編まれて壁を形成した。根の先が障害にぶつかる音が響く。

「あら…呪いを吸い込んで扱うなんて悪趣味ね。」

 森の女は自身の攻撃が届かない事を見届ける。だがまだ余裕の表情は崩れていない。

「悪趣味はあんた。」

 するとラピスは拳を前に送り出した。その拳の周りは何故か空間が波立って歪んでいる。躊躇いなく空気を割りながら、波及していく空間の波は鉄の壁に届いた。
 編まれたはずの鎖は膨らんで、結び目を壊し、木の根事粉砕した。

「ふん!殴るだけの加護、そんなものが私に届く筈が___」
「よく見なさいよアバズレ。」

 砕かれた木の根の断面からは新たな根が生えることはなかった。

「根が生えない…!」

 どういった権能なのかわからないが、どうやらどんな物でも破壊し、再生を阻むようだ。必ず打ち負かすという気概が形になった能力だと思った。

(アナウンスが反応しない。スタチューが他人に授けた力は解析できないのか…)
「生えないからっていい気になるんじゃないよッ!!」

 激昂する森の女の背後から、木の根が一斉に地中から吹き出した。根は横一列に整頓していて、まるで津波だった。
 だから俺は黒鉄鎖を使って、根の列を全て絡め取る。

「邪魔立てばかりするな小僧!!!」
「まだまだ!!」

 そしてまた新たに鉄の鎖を召喚。森の女の軟そうな肌に鎖が巻き付いて動きを抑え込んだ。

「くそ!クソが!!私はまだ____」

 身動き一つ取れず、悪あがきで首を振り続ける森の女の眼下に、怒りを向けて拳を握り込んだラピスが現れた。

「殺す。」
「私は_____」

 拳は誰にも止められない。まるで滑るようにして、森の女の腹はと進んだ。

「愛されたかっただけなの_____」

 内蔵が破れた音が、赤い血と共に雪の上へ振ってくる。

「愛されたいなら、ちゃんと愛しなさい。魔法なんかに頼らずにね。」

 打ち込まれた拳に伝う血は、肘に垂れていく。ラピスは仇を討ったのだ。
 夫を殺され、その仇を打ち、あまつさえ尋常ならざる力を持ったラピスの頬は、涙がながれていた。

「……ねぇ。返して。」

 ドサッと雪の上に落ちた森の女の亡骸は、痛みに歪んだまま死んでいた。金切り声すら聞こなくなったこの場所で、ラピスは孤独感と虚無感が胸を巣食っているのだろう。

「あの人への気持ちを返して。あんなにも溢れていた愛をもう感じない…。だからなの?だからこんなにも、心が動かないなんて。」

 愛を神に捧げた妻の結末は、どうしょうもなく虚しいものだった。だから俺はなにか声をかけたくなってしまったが、その足を自分で止めた。

「ラピス…乗り越えるんだ。俺達はずっとそれを忘れちゃいけないんだから。」

 遠くで膝を抱えて泣いているラピスの背中を、俺はしばらく見守った。
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