訳アリおっさんが自衛隊を辞めてハンターになる話。

佐藤さん

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不明勢力農村占拠事件

ケンの心情

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 俺はこの村が大嫌いだった。居心地のいい家に、優しいご近所さん。すべて作られたみたいに完璧で、自分が貧しいことすら掠れるほど、生きる事全てが整っていた。
 だから俺は村を飛び出して、芸を学ぼうと、世界を巡った。父の出身地である日本を最後に、俺は村に帰ってきた。

「なんだよこれ…」

 たまたま家に帰ってきた時だった。外の喧騒で飛び起きて道路に出ると、吹雪の中を村の人達が逃げ惑っていた。

「な、何があったんだい____」
「母さん!外に出るな!」

 俺は母さんを家に押し込んだあと、玄関の前で転げた向かいに住むばあちゃんを助けた。

「大丈夫かよ、ばあちゃん?」

 起き上がれないばあちゃんを起こしてやると、俺の肩を掴み、怯えた目で見て俺に言った。

「そ、そんなことより早く逃げないと!」
「なんでそんな怯えて…」
「あの子だよ!クリュセ!クリュセが悪魔を呼び寄せたんだよ!」

 クリュセ。確かトルコから移り住んだ大学生だった。彼はこの村に宗教を持ち込んで、何人かよ村人や仲間を囲って教会を牛耳っているという噂があった。
 それは所謂、悪魔崇拝だったと聞いたことがある。もしパニックの原因が彼にあるなら、これはテロ行為なのではないか。そんな事を考えていた。

「と、ともかく家に入れ。母さんもいるし、外より安全だろ?」
「そんな悠長な事言ってられないよ!あたしゃ見たんだ____」

 ばあちゃんの会話を邪魔したのは、吹雪の中から漏れ出るような遠吠えだ。この村にいれば人生で何十回ほども聞く類だが、ばあちゃんは体を強張らせた。

「く、くる!くるよ!」
「おい落ち着け。狼の遠吠えだろ?街に入り込んだんだな。みんないちいち大袈裟でこま____」
「ヴォルコラークよ…あれはヴォルコラークなのよ!」

 耳を疑った。なによりばあちゃんの頭すら危ういと。ヴォルコラークは俺達の童話にあたるスラグ民謡にある狼男…というよりは獣に化ける妖怪の名前だったんだ。

「ひ、ひぃ!!殺されちまうよぉおお!!」
「落ち着け!遠吠えだとしてもだいぶとお…くそ!聞きゃしねぇ!」

 暴れ始めるばあちゃんを抱えて、俺は家の中に入った。玄関を開けて、廊下を曲がり、暖炉のある居間に入る。

「母さん。暖炉に巻きくべてくれよ、向かいのばあちゃんがたいへんで………さ………」

 暖炉の前には錆びた王冠を載せた蛙がいた。手乗りサイズなどではない。人と同じくらいの身長はある。そのカエルを見たばあちゃんは言った。

「ヴォジャノーイ…」
「ほぅ。我を知っている…ではないな。この世界に伝承される存在か。博識な老婆は癖のある味だが美味い。」
「てめぇ!!」

 よくわからない喋るカエルに、俺は護身用で持っていたナイフを構えてヴォジャノーイに駆け寄った。

「無論刺すなら構わんが、今腹の中にいるのはお前の母だぞ。」
「___はぁ??」
「刺せばお前の母がどうなるか知らんぞ。だがこれはどうだ。私が用意する場、そこで行われる試合に我の奴隷として出場し続けるのであれば、お前の母は返してやる。」

 突然持ちかけられた契約に俺は喉越しの悪さを覚えた。

「コロシアムでも開くのか?」
「ははっ!!そうだ!いいなコロシアム!!そう呼ぼう!!」

 愉悦に浸る奴を見て、ばあちゃんは俺にこっそり耳打ちをした。

「や、奴の言葉を信じちゃいけないよ。奴は人を攫って奴隷にする水の精。人間のことなんて食べ物くらいにしか思ってないんだよ。」
「老婆。何を吹き込んだ所で状況は変わらんぞ。」

 確かにそのとおりだった。だから俺は一歩前にでた。

「お前の言う事はわかった。言う通りにする…だから…母さんを助けてくれ…。」
「履行だな。まずは契約金を払ってやる。」

 蛙は胃袋を吐き出す。大きく口を開いて、肉の袋から漏れ出たのは、人の皮が剥げきった人肉だった。

「お前……これを母さんだっていうのか。」
「生きてるかどうかを貴様は聞かなかったからな。そちらの責任。クーリングオフはないぞ。」

 怒りに燃え滾った。気がつくとヴォジャノーイに向かって走っていたが、急に身体が固まった。

「契約魔法により、お前は我の1番目の奴隷と成った。可哀想にな。」
「くそが…。」
「ん??お前……既にトレントの供物とされているな。ほーーこれは面倒くさい。あの青年も酷いことをする。」

 何を言っているのか理解を拒んでいた。

「お前の魂はトレントのものとなっている。貴様がコロシアムで死ねば、その肉体は魂ごとトレントのモノ。良かったな。何も知らないままよりもマシだろう。」
「勝手な事ばっか…」
「では、先にいけ。我は老婆をゆっくり味わってから行くとするぞ。」

 意識が遠くなっていく。耳に入ってくるはずの音も、残響すらなくて、遠い場所に飛ばされていった。






 後はお前と同じだ。シマダ。この試合に勝つ事に対戦相手の記憶、意思を垣間見る事になる。
 その正義を貫けるならきっと最後まで正気だろう。だが俺は無理だった。頑張れよ。正気を保ったつもりの狂った人。

 













「!!」

 目を開くと、そこはロッカーが並んだ部屋だった。恐らくだがヴォジャノーイの控え室なのだろうここは。今はそんな事、どうでもいい。
 いつの間にか寝そべっていた簡素なベンチで体を起こし、座った。腰を曲げて眉間を指で摘む。

「今の…今のはケンの最後の意思か。」

 夢と言うには鮮烈すぎる。その瞬間に彼が感じた絶望と怒りを感じられた。
 同情しよう。彼にはこの道しか見いだせなかったのだから。俺はそいつに何をした。確かに行動したのは彼だが、本意ではなかったんだと考えられずにはいられない。

「嶋田、なんでここに。」

 顔をあげると、眼の前には戦闘スーツを着たままのラピスが、心配そうに俺を見ていた。

「俺もここに引き込まれたんだ。」
「なるほどね…まぁそれはそっか。」

 生きていたことは大変喜ばしい。だが思ってた事を聞くには怖くなっている。

「私はもう2回もこなした。」
「……そうか。」
「どれもふざけた勝負形式だけどね。一回目は早アイスバケツチャレンジ、2回目はギョーザ大食い対決。」
「ヴォジャノーイは君に何を与えるっていった。」

 ふざけた試合内容なら予想はつく。それはヴォジャノーイを楽しませる為だけのモノ。そんなことよりも、彼女の考えを知らなければ。

「旦那。」
「おいおいラピス…君は__」
「わかってる!!あの人は死んだ。でももし生け捕りにされてるなら…」
「その根拠はないだろう。」

 まだ傷が新しい彼女には魅惑的すぎる誘惑。それを止めるのは生きた俺の仕事だ。

「…まだ生きてるんだって感じるの。」
「ラピス。」
「そうよね。そうわかってる。もしこの場所にいたとしても、きっと偽物。でも1秒でも生きた声が聞けるなら、私は全てを失ってもいい。」

 ダメだ。やはりこの場所で彼女を信じる事はできない。
 俺は彼女の肩を叩いた。

「ここは俺に任せろ。全部解決して、ふたりとも外にでる。」
「………わかった。」

 また意識が遠のく感覚がした。

「試合が始まる。またここで会おう。」

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