訳アリおっさんが自衛隊を辞めてハンターになる話。

佐藤さん

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浪速区封鎖事件

呪詛凝結生命体vs領域浄化兵器

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 誰も居なくなったこの場所には、純白のウェディングドレスを着飾る白い少女と魔法使いだけが残っている。
 あれほど居たゾンビの大群も縦横無尽の狂戦士もいない。誰も居なくなったこの場所では、ビル風が通り抜けていくだけだった。

「キャリバン、浄化が世界を救うのよ。」

 魔法使いは彼女の言葉に連なる感情を解きほぐす事はできなかった。何故なら自分が召喚したモノの不完全さに理解が及ばなかったからだ。
 ある少女を依り代に、法と秩序の神が作ったとされる浄化兵器「天秤」を呼び出した。だが、まさか否応なく消してしまうとは考えが及ばなかったのだ。

「そうですか…ですが、少しやりすぎなのではありませんか?」
「いいえ。そんな甘い事を考えてはいけないわ。白く、最果てよりも白くしないと。」

 キャリバンは魔法使いとしてはかなり優秀だが、これは規格を超えていると思わずに居られない。

「汚らしい全てを浄化するのです。」

 か細い声で淡々と話す彼女の横顔に、キャリバンは冷や汗が止まらない。

(純白すぎたか。依り代の少女…処女の純白さを利用したのがマズかったか…。天秤を体内に入れたことで、依り代自身の白さが罪の重さを偏らせている。今のままでは全てが悪に偏ってしまうぞ…どうするキャリバン…。このままでは世界に何も残らないぞ。)

 キャリバンの不安を他所に時間は流れていく。少し距離が遠い建物の合間から、ゾンビが群れをなして現れた。
 少女は自身が担う役割を遂行すべく、視線を向けた。

「しつこい汚れね。きれいに______」

 言葉を詰まらせたのには理由がある。ゾンビ達の行軍の後を追うようにして、巨大な狼がゆっくりと現れた。

____おやおや。終末の魔法使いとかわいい女の子がいるねぇ。ごちそうじゃないか。

 狼に言葉を発音する機能はない。声は狼からテレパシーのようなものを発し、魔法使いと少女の頭に直接届けられている。

「今回のゾンビはお前の仕業だな。」
_____昔馴染みに大袈裟な言い分じゃないか?
「なに?」

 眉間にしわ寄せて脳みそを回していると、ついに記憶の奥で眠った長髪の女性が現れる。色褪せた記憶に不意を突かれて、キャリバンはため息を吐いて項垂れた。

「狼のロア…呪術を使う。なぜこんなにも簡単な事を忘れていたのか」
「……ロア」
「いえ。ブードゥーの精霊ではありません。狼、彼女の正体はボコールと呼ばれる魔女です。」
「そうですか。では浄化」

 やはり、間髪入れずに少女は浄化を実行した。天照す光を彼女は指定した領域に展開をするが、少し離れた場所にいるボコールまでは届いていない。

「グッ_____」
「まずこの場所を確保しました。」

 無差別領域浄化魔法。領域にいる術者よりも罪深く穢れた魂を祓う魔法は、味方であるはずのキャリバンにも等しく降り注ぐ。
 まるで脳みそを振り回すような目眩に襲われるが、自身にかけた魔法によって無理やり意識を持ち上げられる。

(…防護魔法がなかったら…魂が消えていたな____)

 目眩を矯正され、魂が浮き立つのをフック一つで繋がれる不安定さ。キャリバンは耐え難い気持ち悪さに負けて、胃の中身を地面に吐き散らした。

____キャリバン。自分の犠牲を何とも感じない生者。こんな不完全な者に縋らないと、どうしょうもないのね。かわいそうに…
「___なら…早くここから出てってくれ。」
____それはできない。できないわよ。ここが新たな世界の始まりなのだからッ!!

 言葉の最後にボコールは遠吠えを轟かせる。空気を震えさせる雄叫びを合図に、ゾンビの群れはキャリバンと少女へ一挙に駆け出した。
 だが天照す光の領域に足を入れた途端、ゾンビ達は糸の切れた人形のように崩れ倒れ、地面上に屍の山を積んでいく。

____穢れているなら魂もろとも消してしまう。面倒な魔法だねぇ。

 浄化魔法によってゾンビの毒に呪われた魂は、その罪の是非に問わず消してしまう。少女の領域を通り抜けた瞬間に魂が消失し、意思がなくなった肉体だけが世界に取り残されている。

___だがそんな盾では私を倒すことはできない。あんたの使用期限が切れるまで攻めるのみよ。呪詛を並べていくのみ。

 突然、少女の背後から何かが飛び出した。

「なんだ___」

 地面から飛び出した黒い影は二人の頭上で大きなギロチンに姿を変える。

(浄化されても形は損なわれない。土の下には光が当たらない。いきなり裏を突かれた。)

 否応なく刃が投下されるが、その刃が二人に届くことはない。誰かに受け止められたわけでもなく、空中で動きを止めた刃は、霧散して消えていった。

「私に触れるものこそ汚らわしい。」
___種明かししてること、自分でわからないのね。かわいそうな子。

 狼は牛歩の歩みだが、足を動かせる。

「だがボコール、不利なのはお前の方だ。」
___あらそうかしら?
「この光の中に入れば穢れは祓われる。手下は入ってこれないしお前だって。」
___さっきのギロチンには私の魂を分けてるの。持続的に供給される負のエネルギーならある程度の強度が発揮される。活動も可能。

 大きくはない歩みは目の前の絶対的な守護領域でも止めない。それどころか大きく踏み出し、光の下に体を曝した。浮き彫りになるその姿に、キャリバンは固唾を飲んだ

「なんと…」

 狼の輪郭は闇によって覆われていた。うねり歪む闇が極厚の膜を張り、光を遮って、狼を守っていた。

___神様程度の救済がなんだというのか。我が孕んだ憎しみが、紛い物程度にやられるものか。
「た、魂から湧き出る呪詛が彼女の浄化を覆してるんだ。彼女を直接倒さない限り___」
___覚悟しろ人間。神頼みなど、所詮無駄なことだ!!

 そうして狼は狙いを定め、光の下を駆け出した。































 誰もいないオフィスでは、島田の足元で寝転がるハーフゾンビの少年がいた。

「___オマエ、何者なんだよ。」

 泡く血を吐きいて恨めしそうに島田を睨む。だがそれを受けても島田は表情一つ変えずに、ただ無表情に決めたことを貫くのみだった。

「…悪いな。俺もよくわかっていな___」
___アナウンス。呪詛凝結生命体が領域浄化兵器と邂逅。戦闘を始めてる模様。
「___なんだ。」

 突然のガイドに島田が驚くと、少年は笑い出した。

「キヅイタナ?母上が到着されたんだよ。」
「母上?あのデカい狼のことか…」
「母上はこの世界を征服し、本当の意味での開放をもたらすのだ。僕は大人を殺せるダケデよかったんだけどね。それでも君に見せてやる。」

 島田が疑念に囚われていると、少年の目が赤く光った。

「これが母の記憶だ。」

 まるで針でも刺されたみたいな痛みが頭に走る。眼を貫く光が島田の脳に直接届いたのだ。

____念動メッセージが到達。毒等の有害物なし。映像を視界にフィードバックします。
(なんかロボットアニメみたいなアナウンスだなぁ…)





 すると、今までの光景が砂嵐で埋まり、こと次いで十字架に張り付けられた女性の絵が現れた。視界を埋めるほどの巨大な絵に合わせて怒声が聞こえてくる。

「母はある村で祈祷師をシテイタ。腕も確かだし見目麗しい女性としても有名で、よく婚姻をせまられていた。村の救世主なんてもてはやされていたのに、ある日起きると十字架に張り付けられていた。」

 殺せ。悪魔を殺せ。男を誑かした女を焼き殺せ。人の心を惑わす女を焼き殺せ。鮮烈で暴力的な言葉が彼女自身の声を埋めていく。そして彼女の視線の先には男の死体が積み重なっていた。

「母ハナニガ何やらと混乱していた。すると視界の先に見知った男の遺体が山積みされていた。」

 今度は絵が動き、黒い肌の男が松明をもって、彼女のもとに歩み寄っていた。

「母が助けテキタ男たちだったんだ。どれも誰もが憎しみを持ち、母に嫉妬で狂った暴徒と変わっていた。」

 男は松明を投げ込み、十字架を足元から燃やし始めた。

「そのまま母は焼き殺された。助けてきた人間に恨まれただけなのに、殺されたんだ」

 轟々と燃え上がる赤い火柱の中から聞こえてくるのは呪詛だった。世界を恨む。助けてくれない神も、裏切った人間も、すべてを許さないと。
 炎が絵を埋めていく。身を焼き焦がし、絵が燃え尽きるまで、彼女の呪詛はこびりついた染みみたいに残り続けた。

「そうか…」

 島田は落胆した声音で反応した。

「お前もわかるだろう?裏切りに会うカナシサを。だったら____」

 言葉が途切れた途端、見えていないはずの視界が突然開く。
 ハーフゾンビの少年の顔を島田は握り、片腕のみで持ち上げていた。島田は感覚がない状態で勘だけを頼りに顔面を掴み取って持ち上げていたのだ。

「知るか。おれがわかったのは、お前らの母親を起こした奴が居るってことだ。」
「なに、が____」
「幽霊やら怪物やら知らねぇが、死人の声に反応して無理やり引き起こした奴がいるんだろう?じゃないとあんな大きな化け物が突然現れるわけねぇそれが分かったって言ってんの。」

 怒りを向けるべき相手の正体はわからない。だが存在しているという事だけが理解できたのだ。

「よく考えろ。自分に抗う力があればそうしてるんだ。それが出来ないから呪詛並べる。タイミングよくそれに居合わせて力を与えた奴がいんだよ。お前こそわかってねぇ。裏切られた奴の気持ちを。」

 怒りが身体を舐め回す。這い上がってくる力に真面目に反応する身体は、意図せず手に力みを促していく。

「な___やめ___」

 頭骨が軋みをあげて、目玉が飛び出そうと突き出てきた。

「俺は人を利用するようなカスに腹が立つ。これは完全に八つ当たりだ。悪いな。」
「マテ_____」

 まるで野菜を手で潰すみたいに簡単だった。グシャっと人まとまりになる頭部、つながりが消えて地面に少年の身体が落ちる。

「スタチュー。見てんだろ。」

 島田は手に残った残骸を投げ捨て、血が滴る拳を作る。そして踵を返し、壁を穿つ穴を見る。
 遠い向こう側では、巨大な狼がコミュニティの方へと駆け出していた。

「お前は俺に何をさせたいのか。何となく分かった気がするよ。」

 そして足に力をためて、開放した。
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