訳アリおっさんが自衛隊を辞めてハンターになる話。

佐藤さん

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浪速区封鎖事件

最期にしては手応えがない

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 島田を包むように風が抜けていく。その風には血の匂いが混じっている。

「割と良いところ蹴ったつもりなんだけどな。」
「あなたは…」

 声に引かれて視線を流す。そこには純白のウェディングドレスを着た少女が立っていた。足元に寝転がる魔法使いのような格好をした男の関係者だろうか、そんな事を考えた。

(ウェディングドレス…こんな場違いな格好でどうしたんだろう。)
_____それはこの子自身の趣味ではないよ。

 頭に響く声に驚くことはない。

(スタチューか…)
_____年若い子に神の浄化兵器が宿っているね。多分、そこに寝ている魔法使いのせいだろう。この浄化領域もこの子の仕業だ。
(浄化兵器って…)
_____世界の均衡を保つ為の装置だよ。君たちだって襲ってくる相手に銃を使うだろう。それと同じだ。

 絶妙に納得がいかない返事を島田はのみ込む事しかできない。

「貴方は、神に愛されているのね。」
「愛されてるのか知らないけど、まぁそんな感じだ。安心して。」

 島田が不器用に笑顔を作って向けると、背後から轟音を纏って迫ってくる気配があった。
 影のように黒く、しなやかに動き、まっすぐ突っ込んでくる狼は、2人を丸呑みしようと顎を開いている。

「おじさん、強いんだから。」

 握り拳が出来上がる。固く締められ、武器と変わった手を振り回し、野球みたいに迫ってきた狼の顔を地面に向かって殴りつけた。

_____に、人間が!!ここまでの!!

 地面を割り、大きな顔の半分が地面にめり込んだ。人並以上の膂力で地面へ打ち付けられた狼が、血を吐きながら暴力に身を任せる。

「わるいけど、この世界から消えてもらう。」
_____我は呪詛の塊なる者!!これだけでやられるも

 言葉など聞くはずもなく、何度も、何度も、拳を振り下ろして狼の顔を埋めていく。

「お前の弱点は何処だ…」
_____我に弱点なぞあるものか。
「うるせぇッ!!!てめぇに言ったんじゃねぇよ!!」

 視界に狼の喉の真ん中に赤い点が映る。するとすぐにガイドが流れた。

_____呪詛凝結体発見。喉笛の破壊によって露見される。
「そこか_____てめぇの弱点は!!」

 頭を抑え、飛び上がり、拳を振り上げる。今の島田の膂力はコンクリートならば粉々に砕くことができる。凶悪の暴力を腕に宿し、狼の喉笛に狙いを定めた。

(終わらせる!!これを当てれば!!!)
_____(終わる。誰が当たれば確実に。)

 振り上げた拳に見えたのは、大いなる圧。目に見えて実在しないプレッシャーに狼は直感した。そして、何よりも身を焦がす程の恐怖を覚えていた。

______(私は恐怖を感じている。あの拳が当たれば、消えてしまうと言う恐怖が!!)

 狼の目には生前の痛みが蘇っていた。足元からにじり寄って這い上がってきた炎に身体を貪られる感覚を。
 熱を持ち、痛みとともに意識を削られ、最期には苦しみに喘ぎながら死んだ時の苦しみを。

_____イヤダァアアアア!!!

 突如、狼の叫びが聞こえる。

「急になんだ…」

 影が狼の巨体を覆って鋭い棘と化す。狼の巨体すべてから突き出し、隙間なくそびえ立つ針山となった。そして島田へ向かって切っ先を伸ばす。

「そんなもん___がッ!!!」

 ボクサーにとって大振りの攻撃は強大だが、リスクを取っている。当たれば大きなダメージとなるが、脇を開くことによって防御を捨てる事になるからだ。
 今、大きく振り上げていた島田の右脇腹には、影の棘が刺さり、貫通していた。

「クソ…がっ………」

 血反吐を吐き、途切れそうになるほどの痛みが意識が削りにくる。加えて空中で棘に貫通された為、自重で身体が少しづつ下がっていた。

「やばいッ……この……ままじゃ……」

 円錐上の棘により、下に下がるにつれて身体を穿つ穴は広くなっていく。電撃のように痛みが走り、骨や内臓の傷は広がり深刻化していく。

_______何が世界だッ!!!!

 今度は棘全体が炎を纏った。どういった原理か分からないが、影というフィルターに黒い炎が這い回る。無論、突き刺さっていた島田もろとも燃え上がった。

________これはあの日の炎。怨嗟が形になった物、その中に身を窶せば何万年分の憎しみが心を包む。身体が燃え焦げることは無いが心は黒く焦げ落ちる。

 轟々と燃え上がる黒炎は、島田をあっという間に飲み込んだ。

「…駄目ですか。ではやはり、この世界を丸ごと。」

 少女は一連の光景を目の当たりにし、躊躇いなく掌を空に向ける。

「この世界を浄化、白紙に戻しま...」

 祝詞が始まる前に口が止まる。なぜなら少女の視線の先で、炎から島田が飛び出したからだ。

「なめてんじゃねぇ!!」

 黒炎の中から、島田を追って何本もの棘が追いかける。それを避けもせず目標へ、狼へとまっすぐに進む。
 腕を、腹を。肌を破いて中に入り込む棘は、筋繊維をズタズタに引き裂きながら貫通した。
 意識をこそぎ落としながら、熱く走る痛み。失神してもおかしくはない苦痛も、今の島田は何も感じてはいなかった。

「ぁぁああああ」
________負けるものかぁあ!!!

 致命傷になりそう攻撃だけをよけ、浸すら突き進む。そして島田の足は狼の頭蓋骨に食いついた。

「これでぇえええええええ!」

 だが届かない。僅か1センチで届く距離が縮まらない。なぜなら彼らの間には、ガラスが割れたような形をしている壁が隔てていたのだ。
 それは狼は命の危機を感じ、無我夢中で魔法使いが使っていた不解障壁を真似していたのだ。

_____絶対やらせぬ!!絶対にやらせぬぞ!!!!!

 突然ぶち当たる壁に、島田のぼろぼろになった身体は悲鳴をあげていた。
 荷重を支えながらも駆動していた関節は、あまりの衝撃で癒着。身体に穿たれた穴からは血が垂れ幕を作っている。背骨はあと一押しで砕けて散るだろう。

(止まったらだめだ。止まったら意識が…)

 島田の意識の後ろに何かがいるのを感じていた。到底絶えられないほどの痛みが控えていることを。
 それがなんだ。それがなんだと島田は固唾を飲んだ。

「俺より先にぃぃいいいい」

 力みを通すとまるで熱湯が帰ってきたのかと勘違いするほどの痛みが反発した。
 それでもやり抜くと誓った気概が、魔法すら貫く。不解障壁は蜘蛛の巣を張り巡らせて砕け散った。

「お前がきぇろぉおおおおおおおおおお!!」

 自由落下を再びはじめて、島田の踵は狼の頭蓋骨を貫いた。


 


 
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