訳アリおっさんが自衛隊を辞めてハンターになる話。

佐藤さん

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不明勢力農村占拠事件

偽装船

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 大阪の事件から丸五年が経っているが、影響は落ち着きを見せない。
 未だ浪速区を含めた3区は未だ「ゾンビ」が潜んでいる事が懸念されている。加えてゾンビ化現象を引き起こす「巨大不明生物」の有害なガス、それを含有した液体をしており、近づくことはほぼ不可能と。故に今日にいたるまで立ち入り封鎖区域となっている。

 島田回収後、すぐに自衛隊の対応の是非が追及された。
 対応が事後に回り、被害は甚大、当時の指揮官であった角田一佐を筆頭に約23名の隊員は責任追及の末に罷免。誰がどう見ても首切り要員として差し出されたのは明白だが、だれも何も言わず去っていった。
 だがあまりにも悲惨な対応に、全自衛隊員の14パーセントが彼らの後ろについていく形で退職していった。

 現在彼らの行く末を知るもの、知ろうとするものは誰もいない。




















 薄暗く目利きが利きにくい鉄の階段を上がり、少し開けた足場に上がると、右側の壁に這っている太いパイプから蒸気が漏れていた。作業服を着ている男は誰もいない空間に話しかけた。

「オジキ、故障個所発見したぞ。圧力どうなってる。」

 すると右耳にはめたワイヤレスイヤホンから、老人の声が出力される。

【べントゲージは0だな。パイプから圧力が抜けてるんだろうが、フランジしめて蓋しないことにはどこが悪いのかわからんぞ。】
「クッソめんどくせぇ…。」
【いうないうな。技官扱いで召し上げられとるわしらは、黙々と仕事するのみじゃ。】

 男はベルトに吊り下げたスパナを二つ持ち、パイプの接合部から生えたネジにあてがい締めこんだ。すると蒸気は後を残しながら、勢いが死んでいく。

「こんな、最新鋭の設備の、船なのに!!こういう部分だけは、かわらないねッ!!」
【毎度毎度、何に文句言ってんだ。】
「この古来ゆかしき圧力パイプだよ。」

 故障個所の始末を終えても、男の苛立ちは収まらなかった。

「外装は豪華巨大旅客船、中身は払い下げの中古空母に最新設備を無理矢理ねじ込んだ玩具箱と来てる。なのにこのでけぇ何の用途もしれない圧力パイプは、意味分かんねーぐらいの頻度で圧力漏れ起こしてやがる」

 男は踵を返して事務所へと戻る。だが走り出した思考はブレーキを見失っていた。

「ここは居住エリアから遠く離れてる。ボイラーの蒸気ならエンジン周りでもないし、蒸気パイプなら別にある。まじで内容物不明のパイプなのに、使用頻度は高いとくる。治させるなら使用基部くらい教えろっての…」
【それを言うな…軍事関係の品物だから言えないんだろうさ。それにこの船が技術屋なかせなのは重々わかってんだよ。でもやるしかねぇ。】
「そうはいうけどオジキ。これが何の圧力送ってるのか知りたくないのか?そうすれば故障の原因だって…」
【いいや!知りたくないねぇ!!】

 オジキは大きく声をあげて、スピーカーをハウらせる。割れた音声が男の鼓膜を擽るので、反射的に頭を逸らす動作をしてしまった。

【俺は技術屋だ。目的がなんだろうと仕事ならやるのさ。】
「でも…」
【でもへったくれもねぇ!!俺の下で働く技術屋なら、口より手ぇうごかせ!!手ぇをよ!!】
「………あいあいさー。」

 オジキの躾を受けながら、男は階段を降りきると、エレベーターのドアが現れる。そしてドアノブを回そうと手を伸ばすと、意図せず勝手に開かれた。
 重苦しい鉄のドアが開くと、そこには淡いハロゲンの光が降り注ぐ、ビジネススーツ姿のゴツい体の角田元1佐がいた。角田は190センチという高身長であるために、大体のものが物理的に見下ろすことになる。

「お、お疲れ様です。」
「君は…」
「設備技師の高山です…。」
「そうか。君のおかげでこの船は守られている。いつもありがとう。」
「あぁいえ…仕事ですから。」

 にこりと岩の様な筋肉を盛り上げで笑顔を向けるが高山は彼の迫力の気圧されて笑顔を作れなかった。

「設備巡察が残ってるのでな。では。」

 肩を揺らしながら高山を通り過ぎて、どこかへと歩いていく角田。高山は大きな背中に見惚れていると、耳からやかましい声が沸き上がる。

【なんだ、急にだんまりしやがって。】
「大将が通ったんだよ。設備巡察でな。」
【角田か。アイツも偉くなったなぁ。】

 ノスタルジーに浸るオジキを無視して、高山は事務所に向かって歩く。















 自動ドアが音を立て開くと涼しいエアコンの風が流れ出す。それに当てられながら、スーツのネクタイを少し緩めながら、角田は艦長室に入った。

 ウッド調の机を支えにして革張りの椅子に腰掛けると、胸ポケットが震えだす。
 スマートウォッチを見ると着信が入っていた。角田はため息を吐きながら優しく着信を取る。すると耳に入れていたワイヤレスイヤホンから若々しい女の声が流れ出す。

「…なんだ。」
【ゴテゴテに機材を取り付けた急造船なのに、よく動いてるなと思いまして。角田社長。】
「その為に船に帰ってきても休憩せず、巡察を怠っていないだろう。冷やかしなら切るぞ。」
【あーいやいや待ってください。あなたが下船してる間に動きがありまして…。】
「なら早くいうんだ。時間が惜しい。」

 角田は机の上にノートパソコンを置いて開き、腕組みをすると、ディスプレイにロシアの地元新聞が表示された。それを見た角田は眉間に皺を寄せて、厳つい顔がさらに強面になった。

「なんだこれは。私はロシア語が知らんのは君も知ってるだろう?」
【写真をよく見てください。】
「うん?」

 皺がさらによって顔を近づける。

【怖いですよ…顔が…】
「あまり言うな。気にしているんだ_____これは。」

 白黒に溶けていて分かりづらくはあったが、それは夜空を映す写真だった。その異変に角田は気がついた。それは星がないことだった。

「この日は晴れているのか?」
【ええ。ですが星の光がなく、夜空だけ。この異常気象は5年前の大阪にも現れました。】
「光だけ…天体の位置はどうなっている。」
【変わりありません。あくまでも地球上で観測ができない現象だと。】

 ゾンビが来襲した浪速区では、その前夜に同じ夜空が確認されていた。黒いオーロラとも言うべき、それが星の光を隠す現象は今でも理由がわからない。
 角田はため息を吐きながら考え込むと、声の主は少しトーンを下げて声をかける。

【その目を使っても…わからない現象だと言うことですか?】
「……。」

 スタチューと呼ばれる高位の存在から譲り受けた千里の目は、角田にとって唯一の人智を超える能力だが、その制約は多い。

「…全てが見えるわけではない。この目に映る未来は断片的なんだ。」

 指で机を叩き、意を決した角田は提案をしてみる。

「派遣しよう。我々は貿易会社だ。ロシアに会社として入港する事に問題はない。」
【手配します。】
「人員はまだ入れないからな。控えとして新設部隊を待機状態に移行させろ。」
【了解。】

 指で机を叩く。ここまでの人の流れは作ったし、それらにかかる事務作業も彼女がやってくれるだろう。後は斥候の問題だ。

【斥候はやはり…。】
「彼しかいないだろう。可哀想ではあるが呼び戻そう。」

 角田がスマホの画面を見ると、時刻は日付が変わっていた。恐らくだが島田は起きていて酒を飲み歩いているのだろうと考えこんだ。
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