訳アリおっさんが自衛隊を辞めてハンターになる話。

佐藤さん

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不明勢力農村占拠事件

重くとも願いの量は変わらない

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 少年は頭に被せられた黒頭巾のせいで視界は使えていても、使えていないようなものだった。

「ねぇ…ここどこなの?」
「…いいから。歩きなさい」

 少年の問いかけはあまり意味を成さない。寧ろ状況を悪くさせる。状況を理解できず不安に駆られたまま、少年は歩みを進めた。
 大人達によって誘われ、否が応でも被せられたこの頭巾は、少年の小さな心を潰そうとしている。だが少年は一人ではなかった。

「お兄ちゃん…」

 右隣には妹がいたのだ。妹はより不安をため込んで、破裂してしまいそうなのは兄である少年にはわかっていた。

「だ、大丈夫。大丈夫だからね。泣かないで。」
「うん。」

 忍び足で寄ってくる掌を握り返す。

「お兄ちゃんがいるから大丈夫…」
「…。」

 だから耐えられている。泣き出さないでいる。風船みたいに膨れ上がる気持ちを破裂させずにいたのは、妹を守りたいという純粋な気持ち故だった。
 そして横から針が現れて、少年の小さな風船を割る。

「おいこっちだ!!」

 突然手を引き離される。突発的すぎる出来事で少年は反応が遅れ、いとも簡単に手が離れていった。

「ま、まって____」
「おい暴れるな!頭巾がズレるだろうが!!」

 少年は必死にもがくが、男の無骨な手で両腕を抑えられてしまい、動く事は出来ない。

「離せ!!妹にさわ____」

 非力な少年の力ではどうにもできない。低レベルな力で暴れ狂っている所、誰かがドアを開いた。その瞬間、沸き立つ鼓動も、声も、感覚すらも一挙に塗りつぶされた。

「我々は未だ、目的を成し得ていない!!」

 青年だろうか。若々しくも凛々しい声が響き、それに呼応した大衆が叫んでいた。興奮しているのか、やけに猛々しく、熱気と音圧が少年に降り注ぐ。

「な、なんなんだ…」

 あまりの圧に自身の言葉すら耳に届かない。視界を奪われてなお体感する狂気を少年は理解できないが、そこにいる人達が目の前のものに熱狂しており、それが束になって少年に降り注いでいることぐらいは感覚で認識していた。

「だが同志は日本の大阪で実行し、目的を成し得たことは知っているか??!大いなる犠牲のもとに打ち立てた結果に我々もついて行こうではないか!!」

 最後の口上で、観衆は声を上げ、空気を震えさせた。少年はなぜここに連れられているのか未だ察しすらしていない。
 動揺を隠せずにいると、手近な所で話し声が聞こえてきた。

「おい。この男の子はなんだ?」
「ターゲットの兄だ。あの子を連れようとした時に居たんだよ。」

 先程まで話していた青年の声と、少年を取り押さえていた男の声だ。

「余分な仕事だぞ。どう責任取るつもりだ。」
「怒るな、わかってるわかってる。あれが終わるまでに考えるから、一先ず話を進ませろよ。」
「ふん…。」

 青年は無理やり話を終わらせると、またどこかへと歩いていく。
 そして少年が1番望んでいない結果が目の前で行われる。

「同士諸君!!わが親友が連れてきてくれた子供にあいさつをしてくれ!!」

 口上が始まると、観衆は止まる。そして、まるで花が咲くようにか細い声が響く。

「………お兄ちゃん」
「アナ______」

 予想していた最悪の結果に叫ぼうとするも、後ろから頭巾を巻き込んで、口を抑えられる。

「おいおい騒いでんじゃねぇよ。」

 声なき声、開け無い視界、強靭な腕力。全てが少年を否定して動きを止める。

「んん!ん!!!んんんんん____」

 無闇矢鱈と藻掻いていると、不意に頭巾が脱げ落ちた。

「あ、やべ。」
「________」

 そこに広がるのは古い円形の祭壇を囲む大人達。中心には青年が立っており、その隣には、腹を切られて倒れている妹が虚ろな目で少年を見ていた。

「しまったしまった…ははっ」
「お前わざとだろ。やっぱりいい趣味してるぜ。」

 項垂れる妹はもう死にそうで、少年にはどうしょうもないと直感して、後味の悪い後悔だけが胸に残っている。

「さぁ!さぁさぁさぁ!!!この亡骸に入り給え!!」

 青年に空から突然青い光が注ぐ。まるで天照す星の光が落ちてくるようで、少年の目を奪う。それは言葉の通りだった。

「な、なんで、目が離せないの」

 妹の死体を見ているはずなのに、無理やり顔をむけられているみたいに、青年から視線を外せない。
 青年は空を見上げながら恍惚とした顔で、頬が避けるのではと心配になるほど笑っている。

「コレが_____コレが世界の狭間から漏れ落ちる神のたま_____」









  






「ん………あれ………寝てた…」

 少年は気がついた。自身が気付かぬ間に眠っていたことを自覚して、体を起こす。

「なんで寝てたんだろ。」

 謎の気絶に不気味さを感じて、周囲を見回すと途端に吐き気を催す。
 血が、肉が、臓物が。少年を除くすべての生き物は肉塊になって床を転がっていた。赤い血が一面を彩って少年の世界を壊していた。

「な____なんでこんなッ!!」

 少年が叫んだ瞬間に、部屋の中心にある祭壇に影が現れた。降り注ぐ光の中で埋もれる影。身体を覆う毛と、頭に生えた耳がシルエットとなっている。それはまるで狼だった。

「いつの間に狼なんて___ウッ…」

 シルエットが何かを加えていて、光からはみ出していた。それは青年の首だった。

「うぉぉええ!!!」

 沸き上がる胃酸は少年の口から噴き出して止まらない。床にまき散らした溶け切った夕飯が、誰のかもわからない血と交じる。

(なんなんだ!何がどうなったらこんな___)
「お兄ちゃん?」

 声は祭壇の方から間違いなく聞こえた。人気のないこの空間で動いてるのは少年と狼のシルエットのみだった。少年はたまらず妹の名前をつぶやく。

「_____マリア?」
「お兄ちゃん。私よ。」

 シルエットは妹と同じ声で答える。

「マリア!!」
「お兄ちゃん!!!」

 少年は駆け出して、構うものかと臓物を踏み、シルエットに組み付いた。
 それはやはり毛深く、妹大違いではあるが声は妹そのものだったことに安心感を覚えた。

「マリア…死んだかと思った。」
「私もだよ。でもね。気がついたらこの身体になってたの。」

 シルエットは強靭な前脚で少年を抱き返す。

「私に怖いことをした人はもういないんだよ。」
「うん。」
「もうお兄ちゃんにこわいことする人もいない。」
「うん。うん。」
「これからはもう、誰も怖がらなくていいの。」

 兄を想う気持ちも、間違いなく妹であった。

「お兄ちゃん……」

 呟くと抱きしめる腕が震え、力を増す。怖がっているのだろうか。突然の変化なら仕方ないなと少年は顔を上げる。

「どうしたの?」

 目の前には強靭な牙が並ぶ、狼の口腔が開いていて、涎を垂らしながら迫っていた。

「………美味しそう。」 
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