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1 企業勤めを目指そう!(アットホームな職場)

必ず勝つ。いつもそう。

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  転生者は常識を覆す魔法を持ってこの世界に辿り着く。それは女神アストライアによって世界均衡の調整の為である。だがこの世界はそれを是としない。それらを悪用する者がいるからだ。
治安悪化が文化を汚し、果ては都市すら壊滅、転生者と戦争する事もあったと言う。

  長い時間をかけた悪あがきは功を奏し、人類は転生者に対抗する手段を見つける。それは初手殺しにて「契約魔法」をする事。この世界の人間は追い詰められた末に「契約魔法」の1つ、奴隷契約に縋り、特化させた。
新たな世界に戸惑う異邦人に甘い言葉で近づいて、本人か知らぬ間に奴隷契約を結んで各方面に散らせる。コレにより、終わる筈の戦争は膠着状態になり、土地は召し上げられ、貧民からは全てを削り取られることになる。

繁栄に手を伸ばす余裕はもうなく、人類の進化速度はは停滞。バランスを取り戻そうとする女神は、逐次転生者を突入。そしてそれを繰り返す終わらない円を描いていた。
有識者はこの現状に「ワールドスリープ」と名前をつけた。世界の眠りを起こす者は未だ、現れてはいない。

















「ハッハッハ!!」

  噎せ返る程の雄の匂いが立ちこめる部屋で、浅黒く筋骨隆々のハゲが裸で笑っていた。笑いながらも腰を打ち付けている。硬い床の上に頬を付けて、声を上げることも出来ない茶髪の少女は虚ろな目をしたまま揺れていた。

「いゃぁーーー!ハッハッハ!蹂躙だ蹂躙!!奴隷も安く買えて、街も陵辱できて、言うことなしだ!!なぁア、カ、ネちゃん!」

少女は答えない。

「転生者はいつも泣いて喜ぶんだぜぇ?特に日本人はぁ!可愛らしい声なのに!!______てめぇはなんで何もいわねぇ?」

  なんの反応もしないアカネの細い首に、男の大きくて乱暴な手が組み付く。そしてその手は骨にも届くのではと思える程にキツく締まる。

「なぁ。おめェの魔力ブーストはまだまだ使えるんだ。殺したくねぇ。だからほら、前に死んだ妹みたいになりたくなけりゃ____」
「イモウト...」
  
  少女の目に生気が宿る。妹というパスで正常に動いた為に、脳裏に溢れかえる妹との思い出。死別後にこの世界で再開し、それからまた最期を看取った瞬間も。含めて。

「いやぁぁぁ!!!リカ!りかぁあ!!」
「うぉ!締ま_____クスリのフラッシュバックか。へへ。おぉほう!いいぞッ!!そらッ!死にたくなけりゃ死ぬまでお_____」

  なんの音もなく、男の頭が無くなった。唐突の出来事に思考の余韻で腰は動いていた。それも少しづつ動きを緩め、止まり、身体は倒れた。
  そしてどこからともなく、黒いコートに身を包んだ八木元拓也が現れ、男の死体を右足で踏みつけた。

「見てらんねぇよゲスが」

その衝撃で天井を仰ぐ男の首から突然血が吹き出し、壁を赤く汚す。

「りかぁあ....りかぁああ!!」
「...」

  少女はこんな突然変わる状況すら認知していない。クスリのフラッシュバックが惨いほど続いているのだ。
それを見て、拓也は無言で立ち去ろうとした。

____マサヨシ...どうか

  不意に思い出す記憶に足を止めた。これでいいのかと自問が始まる。どこかの誰かに似ている気がする彼女に、何もしないまま立ち去っても。

「...くそが。」

  踵を返し、少女の元に近寄って、手頃な毛布をかけてやった。
その時に触れた弱々しい肩の感触。尚放置することが出来なくなってしまった。

「おい。聞いてるか。」
「あぁあ...」
「解毒薬はない。もし正気を取り戻したら、金目のもんとって逃げろ。」
「うぅ...」
「いいのかこのままで!!また同じことになるぞ!ほら!起きろ!くそ、聞いてないなこりゃ..もうしら____」

  床に蹲る少女の頭には耳が生えていた。半円で茶色。タヌキの耳。つまり彼女は獣人ラクーンドック族の転生者と言うことだ。
だがそれらの事情は拓也に関係がない。思い出したのはミコチの事だ。

「...なんなんだよ。俺って...」

そんなことをしている内に、部屋の扉が乱暴に開いた。槍を持った革細工で装備を固める男が、泣き菅る子供と女を連れている。下卑た笑顔を浮かべて。

「親方、街から女子供連れきや____なんだこれ!てめぇ!どっからはいっ____」

  瞬殺だった。拓也がしたのは手をかざしただけ。槍の男はその瞬間に上半身を消され、足だけが立ったままだった。

「皆殺しだ。」

  残酷な場面に悲鳴があがる。散り散りに逃げる女達は拓也の通る道を開く。

「コイツらみたいな糞共は...皆殺しだぁあ!!!!」

  鬼は廊下を進み、更なる悪を探した。そして時間差を経て槍の男の上半身が、拓也の背後に落下した。

















  アカネと呼ばれた少女は朝日を受けて目が覚めた。身体を起こすのを邪魔する全身の筋肉痛と頭痛が重い。

「寝ちゃってたか...痛ぅ...。昨日の記憶が無いなって、うん?あれ?___」

  部屋は嫌に鉄臭い。いつもとは違った匂いに違和感を覚えて首を振り回す。すると部屋の真ん中で倒れた首のない男の体があった。

「え___なんで?」

  この世界では遺体は珍しくない。驚いたのは男が死んでいる事だった。消して弱くわない盗賊の頭目である男の遺体が、少女の状況判断力を混乱させた。

「___まぁいいか。外、見に行ってみよ。」

適当にシーツを取って体を包み、裸足でドアに向かうとそこには足だけ立ったまま、上半身のない人がいた。

「何が起こった...反逆?いや、襲撃されたのか。」

  少女は道の邪魔をする下半身を蹴飛ばして廊下に進んだ。だがそこかしこにパーツとなった人間の部品が散らばっている。腕が廊下を転がり、身体は壁を突き抜けて、大量の内蔵が天井にへばりついている。
  だがそれをものともせず、少女は進んだ。

















  外の景観は様変わりしていた。焼けこげたテント郡。嫌に鼻を擦る肉が焼けた匂い。道に血を振りまいたであろう欠損した遺体の数々。それらが向かう先に黒い背中を少女は見つけた。
  近づいてみると、血や傷は見られない。

「あなた、だれ?」
「...」

  少女は沈黙する背中に、ある噂話を思い出す。東から来た、悪賊を消し去り、奴隷を解放している男の話。彼の目的はわからない、だが見返りもなく、ただ過ぎ去っていくのみだと言う。

「コンクエスタ...」

  その名はコンクエスタ。大昔、奴隷の為に立ち上がった不死の転生者と同じだ。
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