8 / 20
1 企業勤めを目指そう!(アットホームな職場)
ある日、森の中
しおりを挟む
雨が気温を容赦なく下げる、肌寒い夜の事だった。ある夫婦の団欒にノックが割り込む。
「こんな時間になんだ?回収業者でも呼んだか?」
「いやいや。いつも勝手に来るでしょ。神託でも降りたのよ。」
「そっか。まぁいいやろ。...はいはいどちらさ____」
夫が扉を開くと、雨に濡れた黒いコートの男が立っていた。目を細めてよく見るも表情まではわからない。すると夫は気がついた。
「そのコート...回収業者か。おい母さん、やっぱり回収業者だったぞ。」
「顔すら覚えてないんだな。」
「?」
ボソボソと小声で話す男はなんの躊躇いもなく、背中を見せた夫の首に縄をかけた。まるでアヒルのような声を上げる滑稽さに表情を和らげた。
「久しぶりだな。俺は八木元拓也だ。」
「お___お前マサヨシだろ...なんでここに、ぐぇッ!」
夫が声を上げようとする度に、キツく締め上げる。首に食い込む縄の感触を楽しみながら拓也は夫に耳打ちをした。
「声を上げたら殺すからな。」
2人を締め上げ椅子に縛り付けた拓也は、2人を眺めながらナイフを手にしていた。
「な、なんでもやる!なんでもやるからゆる____」
「黙れ。何度も同じ事を言うな。」
拓也は苛立ちを載せてナイフを夫の胸目掛けて投げつける。命中。手加減も相まって、刃先が少し刺さる程度で収まった。
対した痛みでもないだろうに、夫は苦悶の表情を浮かべる。隣で縛られた妻がそれを見て慄く。だが両者共に声をあげない。
「いい子だ。1人でも煩わしかったら殺す。いいな。」
「わか___」
「それではまず質問だ。奴隷を売っていたのはあそこだけか?」
夫は首を縦に大きく2回振った。だが妻は口を止めている。
「おい女。きこえてるか?」
「...ります。」
「あ?」
「他にもあります!うちは沢山の奴隷を、色んな所に売っ____」
妻が叫んだその瞬間。部屋の雰囲気が急に変わった。人気がないというか、静けさが嫌に肌身に触れる。だが八木元は動いていない。否。夫に向けて手をかざしていた。妻はゆっくりと手の方へと首を動かしてみる。するとほのかに鉄の匂いが鼻を掠めた。
「んっ!!!_______んんんんん!!!!!」
夫は縛られたまま頭が無くなっている。スッパリと消えていたのだ。切り口は綺麗に横一線され、まるで剣で斬首されたようだった。だがもちろんこの場に、これができる武器などない。
混乱が思考を乱し、無意識に声を上げる妻は、涙を零しながら震えている。
「首だけ飛ばしたつもりだったが、あまり調整が上手くないな。」
「あな、あなた!あなた何したのよ!!そんな特殊スキルもってなかったでしょぉお!」
「うるせぇ女だな____まぁいい。今は許してやる。それで、どこにどれだけ奴隷を売ったか話してもらうぞ。」
「そ、それなら、そこの引き出しに入った地図に...」
マサヨシは反対側にある引き出しから、折りたたまれた地図を抜き取った。肌触りがザラつきが酷く、古い紙である事が見れる。
「そんなもの、どうする気よ...」
1番上の面にはプリズンシックスティーンの所在と名前の列があった。1番上には八木元拓也、その下にハーフキャットと書かれてある。
「仇討ちだよマヌケ。」
「なんだっての...」
雨音だけが聞こえる明かりの消えた部屋。暗闇の中で、窓から零れる雷光が血の池に浮かぶ女性を照らす。
「気になってるだろうから言ってやる。」
マサヨシは眼下の女に跨り、返事もないのに話しかけていた。
「お前がプリズンシ...長い名前だな。あそこに送った奴隷は全員死んだ。俺以外は。」
話しかけながら、動かない腕に向けて手をかざす。
「そこじゃあ失ってばかりだった。まぁいいんだ。元々持ち合わせは____」
瞼の裏に現れるあの日の記憶。腕の中で細く息をしていた黒焦げのミコチ、もう表情なんて面影もない。泣いて喚くマサヨシの頬に手を触れて、息を引き取った。
マサヨシは再度集中した。手の甲が中心、そこから1本の線が伸びていき腕を通過する。線に触れた二の腕から縦幅を選定するイメージを持って、握り締める。
「なかったしな___わっ!!」
血が飛び散って顔にかかる。手を退けたパノラマには腕が切り落とされている。綺麗な輪切りとなって胴体から離れていた。断面はかなり綺麗で、まるでMRIの写真のようだった。
「手に入った物もある。瞬間移動のスキル、コレは応用だ。」
時間差で背後から重みのある肉が落ちた気持ちの悪い音がした。腕の10分の1だけを瞬間移動させ、切断したのだ。マサヨシが得たものは、あの時ヒナギシ婆さんから送られた物は、転移させるスキルだった。
「ふぅー。こんなものか。ご協力どうも。」
再度稲光。右手、左足、右足を切断され顔が顎から上がない女の遺体がマサヨシの目に入る。だが心は乱れない。ミコチが死んだ日にマサヨシも死んだ。
「あともうひとつある。俺の名前は八木元拓也だ。」
全てを思い出し、手に入ったのは、復讐に取り憑かれた鬼だった。
「こんな時間になんだ?回収業者でも呼んだか?」
「いやいや。いつも勝手に来るでしょ。神託でも降りたのよ。」
「そっか。まぁいいやろ。...はいはいどちらさ____」
夫が扉を開くと、雨に濡れた黒いコートの男が立っていた。目を細めてよく見るも表情まではわからない。すると夫は気がついた。
「そのコート...回収業者か。おい母さん、やっぱり回収業者だったぞ。」
「顔すら覚えてないんだな。」
「?」
ボソボソと小声で話す男はなんの躊躇いもなく、背中を見せた夫の首に縄をかけた。まるでアヒルのような声を上げる滑稽さに表情を和らげた。
「久しぶりだな。俺は八木元拓也だ。」
「お___お前マサヨシだろ...なんでここに、ぐぇッ!」
夫が声を上げようとする度に、キツく締め上げる。首に食い込む縄の感触を楽しみながら拓也は夫に耳打ちをした。
「声を上げたら殺すからな。」
2人を締め上げ椅子に縛り付けた拓也は、2人を眺めながらナイフを手にしていた。
「な、なんでもやる!なんでもやるからゆる____」
「黙れ。何度も同じ事を言うな。」
拓也は苛立ちを載せてナイフを夫の胸目掛けて投げつける。命中。手加減も相まって、刃先が少し刺さる程度で収まった。
対した痛みでもないだろうに、夫は苦悶の表情を浮かべる。隣で縛られた妻がそれを見て慄く。だが両者共に声をあげない。
「いい子だ。1人でも煩わしかったら殺す。いいな。」
「わか___」
「それではまず質問だ。奴隷を売っていたのはあそこだけか?」
夫は首を縦に大きく2回振った。だが妻は口を止めている。
「おい女。きこえてるか?」
「...ります。」
「あ?」
「他にもあります!うちは沢山の奴隷を、色んな所に売っ____」
妻が叫んだその瞬間。部屋の雰囲気が急に変わった。人気がないというか、静けさが嫌に肌身に触れる。だが八木元は動いていない。否。夫に向けて手をかざしていた。妻はゆっくりと手の方へと首を動かしてみる。するとほのかに鉄の匂いが鼻を掠めた。
「んっ!!!_______んんんんん!!!!!」
夫は縛られたまま頭が無くなっている。スッパリと消えていたのだ。切り口は綺麗に横一線され、まるで剣で斬首されたようだった。だがもちろんこの場に、これができる武器などない。
混乱が思考を乱し、無意識に声を上げる妻は、涙を零しながら震えている。
「首だけ飛ばしたつもりだったが、あまり調整が上手くないな。」
「あな、あなた!あなた何したのよ!!そんな特殊スキルもってなかったでしょぉお!」
「うるせぇ女だな____まぁいい。今は許してやる。それで、どこにどれだけ奴隷を売ったか話してもらうぞ。」
「そ、それなら、そこの引き出しに入った地図に...」
マサヨシは反対側にある引き出しから、折りたたまれた地図を抜き取った。肌触りがザラつきが酷く、古い紙である事が見れる。
「そんなもの、どうする気よ...」
1番上の面にはプリズンシックスティーンの所在と名前の列があった。1番上には八木元拓也、その下にハーフキャットと書かれてある。
「仇討ちだよマヌケ。」
「なんだっての...」
雨音だけが聞こえる明かりの消えた部屋。暗闇の中で、窓から零れる雷光が血の池に浮かぶ女性を照らす。
「気になってるだろうから言ってやる。」
マサヨシは眼下の女に跨り、返事もないのに話しかけていた。
「お前がプリズンシ...長い名前だな。あそこに送った奴隷は全員死んだ。俺以外は。」
話しかけながら、動かない腕に向けて手をかざす。
「そこじゃあ失ってばかりだった。まぁいいんだ。元々持ち合わせは____」
瞼の裏に現れるあの日の記憶。腕の中で細く息をしていた黒焦げのミコチ、もう表情なんて面影もない。泣いて喚くマサヨシの頬に手を触れて、息を引き取った。
マサヨシは再度集中した。手の甲が中心、そこから1本の線が伸びていき腕を通過する。線に触れた二の腕から縦幅を選定するイメージを持って、握り締める。
「なかったしな___わっ!!」
血が飛び散って顔にかかる。手を退けたパノラマには腕が切り落とされている。綺麗な輪切りとなって胴体から離れていた。断面はかなり綺麗で、まるでMRIの写真のようだった。
「手に入った物もある。瞬間移動のスキル、コレは応用だ。」
時間差で背後から重みのある肉が落ちた気持ちの悪い音がした。腕の10分の1だけを瞬間移動させ、切断したのだ。マサヨシが得たものは、あの時ヒナギシ婆さんから送られた物は、転移させるスキルだった。
「ふぅー。こんなものか。ご協力どうも。」
再度稲光。右手、左足、右足を切断され顔が顎から上がない女の遺体がマサヨシの目に入る。だが心は乱れない。ミコチが死んだ日にマサヨシも死んだ。
「あともうひとつある。俺の名前は八木元拓也だ。」
全てを思い出し、手に入ったのは、復讐に取り憑かれた鬼だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる