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1 企業勤めを目指そう!(アットホームな職場)

語り継ぐ男。その真意

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  マサヨシは白い扉を蹴り力任せに開いた。中には机に向かって書き物をしているゴリラがいて、音に驚き、ドラミングを始めた。

「ウホ!だから毎度言っているだろうが!静かに扉を開かんかい!ワビサビ忘れんな日本じ___ おい。それなんだ。」

   ゴリラのモノはマサヨシが両手に抱えているたぬき耳の少女に気がついた。

「...なんなんだろうな。わかんねぇ。けどコイツ、急に事切れて。」
「死体に欲情する趣味にでも目覚めたのか?」
「いや、薬が切れてダウンタイム通り越したんだ。」
「それを早く言え。ベットに置け。」

  少女をベットに 横たえると。モノは無造作に伸びた茶髪をかき分け、人間の形の耳を見つけた。この少女には4つの耳があったのだ。得心言ったようで
モノの鼻息が伸びる。

「どうやら転生者のようだな。獣人系統に転生したヤツには必ずある特徴だ。なら対毒性能は他の奴らより強いはず。」

  触診、脈拍、体温、瞳孔。少女のフィジカルを読み解いて彼女のステータスを測る。

「こりゃ薬物の抽出結晶に紛れてた毒にやられたな。神経毒だろうよ。」

  このモノと呼ばれるゴリラは転生者ではない。言葉を帰るなら転移者。女神アストライアを通さず、自力でこの世界に来た生物学者と人体機能工学の権威、だそうだ。

「どうすればいい?」
「どうしたくて連れてきたんだ拓也。」
「_____わからない。」

  歯切れの悪いマサヨシにため息を着く。モノにはもう察しが着いていたが、ここで言うことは無粋だなと感じ、押し黙る。

「...まぁいい。どっちみち解毒薬はない。」
「作れないのか?」
「無理だな。ブツに使われた神経毒は恐らく蛇族の物だが、彼らは絶滅した。プリズンシックスティーンのせいでな。」
「____」

  こうなると手はない。なんせプリズンは俺が壊したのだから。自責の念に責められるマサヨシは、強く歯噛みした。

「お前がこの子と契約すれば大丈夫だけどな。」
「!!!」

  契約特効により全ステータス回復がある。そうなればこの子は恐らく救われるだろう。だが出来ない。マサヨシの瞼には、槍で貫かれて肌身を焼かられたミコチがいる。
あんなこと、もう二度と体験したくない。

「いや、俺には___」
「お前が今やってる事と、この子と奴隷契約を結ぶこと、何か変わるのか。」
「...ならお前がやれよ。」
「無理だ。私には魔力がない。」

  静かな間が生まれる。この間にもこの子の体力は削られ、心臓が止まってしまうだろう。

(怖い!!あんなにも苦しそうで助けたいのに、俺は踏み越えられない。)

  モノはため息をついて、腕組みし、マサヨシに言葉を投げかける。

「人生を怖がるな。」
「____」
「人の一生は巻戻らない時間の上でこそ意義がある。そして意義とはな、結局見当たらないだけでそばにある。1番最初に感じた感覚を思い出せ。その体を動かした感情を信じろ。お前はこの子を助けたかったんだろう!!!」

  自分を見いだせず、復習に囚われていたマサヨシの心に少しだけ木漏れ日が刺した。いまのままでは何も変わらない。その切っ掛けを得られるなら、もう一度、誰かを信じてみよう。

「___ポコ」
「なんだって?」
「この子の名前はアカネじゃない。ポコだ。」








_______キミにギフトを上げる。本当はこんなことしては行けないんだけど、私を愛した貴方だから、特別に。霧を払って、眠りから起こして、私の勇者様。








  マサヨシの耳に、誰かの声が届いた。だが周囲には何も無い。ベットに横たえたボコの脈を、モノが測ているだけだった。

「ヒナギシ、じゃない。」
「______よし。容態が安定した。もう大丈夫だろ。....うん?どうした?」
「あ、いやなんでも。」

  聞き覚えのある暖かい声。思い出せそうで出せない気持ち悪さはあるものの、心は何故か落ち着いていた。

















   白く果てのない空間で、青髪の女神アストライアは膝まづいて、怯えていた。

「ちょ、調停者としての越権行為なのは分かってる。だから細心の注意を払ってた。」

マサヨシに声をかけたのは紛れもなく彼女だった。彼に与えたギフトは、普段のルールから外れる。調停者としての職責からかなりかけ離れていた。だから姿を見せなかったのだ。

「見られた。盗み聞きされたのかと思ったけれど、あれは見られた。」

  止まらない冷や汗と安定しない呼吸。アストライアは未曾有の存在に怯えていた。

_____ こっちを見てるだけだと思ったか6次元人
「!!!!!?!!」

  声が振り落ちてきた。アストライアの心臓は爆発したかと思うほどに跳ね上がる。

______転移者の俺に、この世界のルールは通用しない。お前がみているかぎり。俺もお前らを見ているからな。
「な、何者よ!なんなの!?神の職責をなんだと」
______俺の世界で作ったクスリのおかげでな、多元を視覚認識できるんだ。今じゃ上達して、メッセージも送れる。
「デタラメよ!こんなのありえない!!」
_____別に俺からどうこうしようなんて思ってない。でもお前らが何かしようものなら、分かってるな?

  神をも恐れぬ彼の名前はモノ。賢者、ゴリラのモノだ。
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