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2 企業設立?(雇い主に殺害容疑あり)
いざすすめや!商会ギルド!
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商会ギルドと呼ばれる建物の中では、少し運動不足気味な御仁が右往左往している。
肥え太った腹を抱えて笑うおじさん。見立てはいい服を着るがやせ細った若人。ここでは金銭になびく方々が多いようだ。
それはまぁそうだろう。所謂金の匂いに食らいついて肥え太る。そんな俗物がここに集まるのだから。商会ギルドは商人を登録し、信用審査を経て取り扱う品物に信頼を与えるためのシステムなのだから。
俺達の身なりを見て、金持ち共の視線が集まる。そのねっとりとした視線が体に感じてしまうほどだ。なによりポコへの視線が熱くなっている。それは獣人が故にだ。
「御主人様。私がここにいてよろしいのでしょうか…」
顔を俯かせてつぶやくように言うポコ。彼女は真ん丸な耳を頭に生えさせているラクーンドッグ種の獣人だ。
この世界で獣人というものは奴隷として使役されている。つまり商人達から見る目とは、性奴隷という消費的な品物として。もしかしたらいやらしい目で見てるやつもいるかもしれない。それがどうしたというのか。
不安そうにする彼女の前に片膝をついて、下がった顎に指を添えて上げる。すると前髪の隙間から覗く緑色の瞳が潤んでいた。まだわかっていないようだから、これは言ってやらないと。
「ここにいて守ってくれ。」
彼女の仕事は俺を守ることなのだから。
「ですが...私は獣人で…」
「気にするなポコ。そんな奴らほっとけばいい。俺たちはオレたちの道を進むんだ。」
いつの間にか消えたモジャ髪ドックの後を追うべく立ち上がり、踵を返した。すると目の前に肥った貴族が息を荒くして立っている。彼のごちそうでも見るかのような視線は交わらない。俺ではなくポコに向かっていた。
「おやおやきみたちは、どこから来たのかな?」
「俺達は商人登録を済ませようと思って来たんだ。」
「そうかそうか。なるほどなるほどぉ」
人と話してるというのに目を合わせないとは何事か。
「商材も勿論ある。さっさと済ませたいんでね。悪いがそこを___」
「いくらかね?」
「____あ?」
怒りが滾る。血が蠢く。心臓が跳ねて煩くて仕方ない。こいつはどうやら勘違いをしているようだ。
「何だその態度は?お前は奴隷商人なのだろう?だから商材を連れ歩いている。コマーシャルとしては上々だ。」
「違う。これはうちので、商品じゃない。」
「なるほどなるほどぉ。ラクーンドッグ種の獣人は珍しい。だから手放さないと言うんだな?」
「なに?」
「しらないのか?ラクーンドッグ種のオスは強く、メスはそこらの男どもより強くて子孫繁栄に欠かせない。このビジュアルは一族全部だからな。乱獲されたのだ。」
喋るな。
「雌雄共に労働力、はたまた戦力、それから慰安。奴隷に欲しいものが全て揃っている。それ故に奴隷契約するためこぞって捕まえていた。そしたら、ぱったり。その数を減らし、今ではほぼ絶滅したといっていいのだ。」
「____」
「だから。なぁわかるだろ?わしが商会に口添えしてもよい。だから譲れ、そこな獣人を。」
正直絶句だ。こういったことは遅かれ早かれあるのだろうと覚悟はあったものの、それに向かって怒るのは別問題だ。
「なぁあんた名前はなんだ。」
「ふん!ワシはコーマルセル家の家長であり、マルセル商会の会長を努めているコーマルセル・ビフレスト。恐れおののくが____」
「そうか。ポコ、ヤレ。」
ヤレ、という言葉を発音した瞬間には斧が走っていた。肥え太るビフレストの首に向かって、迷いなく、研ぎ澄まされた鉄塊。刃が首につくまでの間は0.5秒。誰にも反応なんてできるはずもない速度は急制動をする。
斧はビフレストの首から数センチのところでピタリと止まっていた。
「いい加減にしな大将。」
斧は鎧を身に纏う男が受け止めていた。それも中指と人差し指だけでだ。俺とビフレストの間にいつの間にか現れた西洋甲冑は俺を見つめている。顔の形さえわからない兜の隙間から、プレッシャーが吹き出していた。
「何もんだテメェ。」
「大将の悪い癖だぜ。その底なしの性欲ってのか?人様の大切なもんに手を出すなって忠告してんのによぉ。」
「ふん!そのためにお前がいるのだろう?ジークフリートに名を連ねる者よ。」
「そんなたいそれたもんじゃないんだが…」
「だから何もんだてめぇってきいてんだろぉおが!!!」
「あーすまんすまん。本当にわるかった。だから頼むからワンワンニャーニャー泣かないでくれ。」
激高が彼に向いているというのに、俺は怖くてたまらなかった。この感じたこともない恐怖。そうか。わかった。これが殺意だ。
頭の中で思考が巡る中、急に脳内でアラーム音が鳴る。その瞬間には瞬間移動を繰り出した。大移動などではなくて、後ろに25歩程度離れた距離だ。これはロングソードを横薙ぎしたときに届かない距離なのだ。
何もない空間に飛んで、何もない空間が生まれる。俺と西洋甲冑の間に生まれたはずの空間に何かが通り過ぎた。目には見えないが、何かが通り過ぎたんだ。
「ほぉ____勘か恐怖か。俺の技がお前の生存本能に負けたのか。」
「なにした!!イマてめぇなんかした___」
「ご主人さまに触るなぁ!!!!!」
ポコは怒りの形相を浮かべて西洋甲冑に斬りかかる。
まず上段。頭を狙ったフルスイングは斧の重みを含んでいるが、上体を屈めて避けられる。
次に下段。フルスイングを筋力だけで歪め、下へと力の限り古い、敵の足を薙ぎ払うために刃が滑っていく。すると飛び上がられて避けられた。
「アブねぇ!!」
甲冑の足が煌めいて、ポコの心臓に向かって蹴りが発射された。それを見越してポコを真反対に瞬間移動させたのは大正解で、何もない空間を鎧の足が浮かんでいるのみ。
するとどうだ。西洋甲冑の視線にすら入っていないはずのポコは、斧を盾にしたままに吹き飛んでいた。
「ポコ!!」
「いいもん持ってるぜ二人共よぉ。一撃必死の技がお前らの前じゃ型なしだ。」
転生者?魔法使い?なんにせよ力の正体が見極められないまま戦うのは良くないことだけがわかる。
【ご主人さま…】
今度は急にポコの声が思考に割り込んだ。
【これはテレパシーです。成人したラクーンドッグ族にだけ許される特技なのです。それよりもわかった事があります。】
すると頭の中にある映像が浮かんだ。それは戦争を描写した絵画だ。暗い空間の中で西洋甲冑はただ立ち尽くし、その足元におびただしい数の死体が寝ている。服装は兵士だけでなく、農民や夫婦などのべつ幕なしといった様子だ。
【200年前、転移者との戦争でジークフリートと呼ばれる英傑達がいたのです。その中でも最速と呼ばれる男がいました。彼の剣技は目に見えず、素早い一刀を捉えられる者はいない。立ち会えば死が訪れる死神と。】
つまりそいつが目の前の西洋甲冑だと?
【酷似しています。剣を抜いてもいないのに、必ず致命傷に剣撃が訪れる。ですがもっと厄介なのは彼の魔剣にあります。】
ポコの説明をなぞるように、目の前に立っている西洋甲冑は、どこからか取り出した鞘に収まる剣を左手に握っている。
【彼の魔剣は黄金の道を切り開く。狙う剣筋はどうあがいても避けられないそうです。】
つまり、目の前にある鎧を着た化け物は致命傷が必ず当たるチートな騎士様という事だ。なら簡単。俺ならヤツを殺せる。俺のスキルは空間を断つのだから。
「やめとけよコンクエスタ。死にたくなかったからな。」
「なに?」
西洋甲冑は俺の思考をかき乱す。何故正体がばれた。
「騎士道精神に則って明かしてやる。俺はジークフリートの一人、神速を担当してる。今じゃ落ち目だがな。」
西洋甲冑は毅然とした態度で言葉を使う。
「この鎧は壊れねぇ。理屈は知りゃしねぇが、スミス曰くあらゆる衝撃を受け止めて記憶するとさ。角度や強さをしっかりとな。だからこの鎧に時空断絶でもしてみろ。どうなるかわかんねぇぞ。」
時空断絶とは確かに言えてる。だが衝撃が吸収されたところで、その空間をただ分けてしまえば住む話だ。
だがまて、もしそれを吸収でもされたなら、この空間はどうなってしまうんだ。
「許容量を超えた場合はこの鎧は記憶していた攻撃を一閃に載せて吐き出す。肥え太った剣戟は辺りをたたっ斬ることになる。そうなったら百年前の再来だ。」
「百年前?」
【最速が捕まった所以。ある大きな街を瞬きを一回する間に全員が切られた事件の事です。】
「お!知ってんのか嬢ちゃん!」
「…聞かれてたのですね。」
「ラクーン種のテレパスは有名だからな。だがこんなにクリアなのは初めてだがよ。」
テレパスも、空間を切ることさえ叶わなくなった。これはもう本当にどうしょうもない。けれども。
「へー。いいね。心が打ちひしがれるのに慣れてる。地獄を見慣れた目は嫌いじゃないぜ。ひょっとこお面さんよ。」
「目なんて見えねぇだろ。ふざけた奴。」
「なんでもいいが、例え技を封じられたところで止められねぇぞ。おれはよ。剣と腕が2つあれば世界を切り裂けるんだからなぁ。」
その瞬間、視界の中に一筋の黄金が道を作った。それは西洋甲冑から俺の胸にかけて走っている。
「死人の道が見えただろ?これが黄金剣の力。逃げようもない死ってやつ。」
「御託はいいからさっさとやれ。ウスノロ」
「いいねぇ。気に入った。お別れが悲しいぜ。」
そうして剣の柄を握り込む。チャンスは一瞬で終わる。
「じゃあな。」
柄が消えたと思うほどに、鞘走りは光よりも早い。黄金剣が軌跡をなぞり、光よりも早く飛び出して死を宣告する。
筈だった。
「…驚いた。黄金剣から逃れるやつがいるとは。」
切り裂かれるはずの胴体は繋がっているし、死んでもいない。
思いがけない結果に西洋甲冑は兜を取った。そこにあるのは日本人特有の面長。髪の毛は長くなっていて全てを後ろへとながしたオールバックだった。美丈夫とよぶに相応しい顔立ちの男は笑った。
「尊敬に値する。お前は200年の歴史で唯一我が刃から逃れた男だ。」
「驚いたか。俺の体はまだくっついたまんまだぜ。」
「黄金剣は切ると言うより、溶けるぞ。」
「…まじかよ。」
西洋甲冑は兜をつけて踵を返し、ビフレストの両肩を掴んでいった。
「帰ろうおやっさん。無理だ。勝てないわこれ」
「にゃ、にゃにぃ?!!あそこのラクーンドッグをつれかえ____」
なんやかんやと言われながらもビフレストの背中を押しながら外に出ていった。
肥え太った腹を抱えて笑うおじさん。見立てはいい服を着るがやせ細った若人。ここでは金銭になびく方々が多いようだ。
それはまぁそうだろう。所謂金の匂いに食らいついて肥え太る。そんな俗物がここに集まるのだから。商会ギルドは商人を登録し、信用審査を経て取り扱う品物に信頼を与えるためのシステムなのだから。
俺達の身なりを見て、金持ち共の視線が集まる。そのねっとりとした視線が体に感じてしまうほどだ。なによりポコへの視線が熱くなっている。それは獣人が故にだ。
「御主人様。私がここにいてよろしいのでしょうか…」
顔を俯かせてつぶやくように言うポコ。彼女は真ん丸な耳を頭に生えさせているラクーンドッグ種の獣人だ。
この世界で獣人というものは奴隷として使役されている。つまり商人達から見る目とは、性奴隷という消費的な品物として。もしかしたらいやらしい目で見てるやつもいるかもしれない。それがどうしたというのか。
不安そうにする彼女の前に片膝をついて、下がった顎に指を添えて上げる。すると前髪の隙間から覗く緑色の瞳が潤んでいた。まだわかっていないようだから、これは言ってやらないと。
「ここにいて守ってくれ。」
彼女の仕事は俺を守ることなのだから。
「ですが...私は獣人で…」
「気にするなポコ。そんな奴らほっとけばいい。俺たちはオレたちの道を進むんだ。」
いつの間にか消えたモジャ髪ドックの後を追うべく立ち上がり、踵を返した。すると目の前に肥った貴族が息を荒くして立っている。彼のごちそうでも見るかのような視線は交わらない。俺ではなくポコに向かっていた。
「おやおやきみたちは、どこから来たのかな?」
「俺達は商人登録を済ませようと思って来たんだ。」
「そうかそうか。なるほどなるほどぉ」
人と話してるというのに目を合わせないとは何事か。
「商材も勿論ある。さっさと済ませたいんでね。悪いがそこを___」
「いくらかね?」
「____あ?」
怒りが滾る。血が蠢く。心臓が跳ねて煩くて仕方ない。こいつはどうやら勘違いをしているようだ。
「何だその態度は?お前は奴隷商人なのだろう?だから商材を連れ歩いている。コマーシャルとしては上々だ。」
「違う。これはうちので、商品じゃない。」
「なるほどなるほどぉ。ラクーンドッグ種の獣人は珍しい。だから手放さないと言うんだな?」
「なに?」
「しらないのか?ラクーンドッグ種のオスは強く、メスはそこらの男どもより強くて子孫繁栄に欠かせない。このビジュアルは一族全部だからな。乱獲されたのだ。」
喋るな。
「雌雄共に労働力、はたまた戦力、それから慰安。奴隷に欲しいものが全て揃っている。それ故に奴隷契約するためこぞって捕まえていた。そしたら、ぱったり。その数を減らし、今ではほぼ絶滅したといっていいのだ。」
「____」
「だから。なぁわかるだろ?わしが商会に口添えしてもよい。だから譲れ、そこな獣人を。」
正直絶句だ。こういったことは遅かれ早かれあるのだろうと覚悟はあったものの、それに向かって怒るのは別問題だ。
「なぁあんた名前はなんだ。」
「ふん!ワシはコーマルセル家の家長であり、マルセル商会の会長を努めているコーマルセル・ビフレスト。恐れおののくが____」
「そうか。ポコ、ヤレ。」
ヤレ、という言葉を発音した瞬間には斧が走っていた。肥え太るビフレストの首に向かって、迷いなく、研ぎ澄まされた鉄塊。刃が首につくまでの間は0.5秒。誰にも反応なんてできるはずもない速度は急制動をする。
斧はビフレストの首から数センチのところでピタリと止まっていた。
「いい加減にしな大将。」
斧は鎧を身に纏う男が受け止めていた。それも中指と人差し指だけでだ。俺とビフレストの間にいつの間にか現れた西洋甲冑は俺を見つめている。顔の形さえわからない兜の隙間から、プレッシャーが吹き出していた。
「何もんだテメェ。」
「大将の悪い癖だぜ。その底なしの性欲ってのか?人様の大切なもんに手を出すなって忠告してんのによぉ。」
「ふん!そのためにお前がいるのだろう?ジークフリートに名を連ねる者よ。」
「そんなたいそれたもんじゃないんだが…」
「だから何もんだてめぇってきいてんだろぉおが!!!」
「あーすまんすまん。本当にわるかった。だから頼むからワンワンニャーニャー泣かないでくれ。」
激高が彼に向いているというのに、俺は怖くてたまらなかった。この感じたこともない恐怖。そうか。わかった。これが殺意だ。
頭の中で思考が巡る中、急に脳内でアラーム音が鳴る。その瞬間には瞬間移動を繰り出した。大移動などではなくて、後ろに25歩程度離れた距離だ。これはロングソードを横薙ぎしたときに届かない距離なのだ。
何もない空間に飛んで、何もない空間が生まれる。俺と西洋甲冑の間に生まれたはずの空間に何かが通り過ぎた。目には見えないが、何かが通り過ぎたんだ。
「ほぉ____勘か恐怖か。俺の技がお前の生存本能に負けたのか。」
「なにした!!イマてめぇなんかした___」
「ご主人さまに触るなぁ!!!!!」
ポコは怒りの形相を浮かべて西洋甲冑に斬りかかる。
まず上段。頭を狙ったフルスイングは斧の重みを含んでいるが、上体を屈めて避けられる。
次に下段。フルスイングを筋力だけで歪め、下へと力の限り古い、敵の足を薙ぎ払うために刃が滑っていく。すると飛び上がられて避けられた。
「アブねぇ!!」
甲冑の足が煌めいて、ポコの心臓に向かって蹴りが発射された。それを見越してポコを真反対に瞬間移動させたのは大正解で、何もない空間を鎧の足が浮かんでいるのみ。
するとどうだ。西洋甲冑の視線にすら入っていないはずのポコは、斧を盾にしたままに吹き飛んでいた。
「ポコ!!」
「いいもん持ってるぜ二人共よぉ。一撃必死の技がお前らの前じゃ型なしだ。」
転生者?魔法使い?なんにせよ力の正体が見極められないまま戦うのは良くないことだけがわかる。
【ご主人さま…】
今度は急にポコの声が思考に割り込んだ。
【これはテレパシーです。成人したラクーンドッグ族にだけ許される特技なのです。それよりもわかった事があります。】
すると頭の中にある映像が浮かんだ。それは戦争を描写した絵画だ。暗い空間の中で西洋甲冑はただ立ち尽くし、その足元におびただしい数の死体が寝ている。服装は兵士だけでなく、農民や夫婦などのべつ幕なしといった様子だ。
【200年前、転移者との戦争でジークフリートと呼ばれる英傑達がいたのです。その中でも最速と呼ばれる男がいました。彼の剣技は目に見えず、素早い一刀を捉えられる者はいない。立ち会えば死が訪れる死神と。】
つまりそいつが目の前の西洋甲冑だと?
【酷似しています。剣を抜いてもいないのに、必ず致命傷に剣撃が訪れる。ですがもっと厄介なのは彼の魔剣にあります。】
ポコの説明をなぞるように、目の前に立っている西洋甲冑は、どこからか取り出した鞘に収まる剣を左手に握っている。
【彼の魔剣は黄金の道を切り開く。狙う剣筋はどうあがいても避けられないそうです。】
つまり、目の前にある鎧を着た化け物は致命傷が必ず当たるチートな騎士様という事だ。なら簡単。俺ならヤツを殺せる。俺のスキルは空間を断つのだから。
「やめとけよコンクエスタ。死にたくなかったからな。」
「なに?」
西洋甲冑は俺の思考をかき乱す。何故正体がばれた。
「騎士道精神に則って明かしてやる。俺はジークフリートの一人、神速を担当してる。今じゃ落ち目だがな。」
西洋甲冑は毅然とした態度で言葉を使う。
「この鎧は壊れねぇ。理屈は知りゃしねぇが、スミス曰くあらゆる衝撃を受け止めて記憶するとさ。角度や強さをしっかりとな。だからこの鎧に時空断絶でもしてみろ。どうなるかわかんねぇぞ。」
時空断絶とは確かに言えてる。だが衝撃が吸収されたところで、その空間をただ分けてしまえば住む話だ。
だがまて、もしそれを吸収でもされたなら、この空間はどうなってしまうんだ。
「許容量を超えた場合はこの鎧は記憶していた攻撃を一閃に載せて吐き出す。肥え太った剣戟は辺りをたたっ斬ることになる。そうなったら百年前の再来だ。」
「百年前?」
【最速が捕まった所以。ある大きな街を瞬きを一回する間に全員が切られた事件の事です。】
「お!知ってんのか嬢ちゃん!」
「…聞かれてたのですね。」
「ラクーン種のテレパスは有名だからな。だがこんなにクリアなのは初めてだがよ。」
テレパスも、空間を切ることさえ叶わなくなった。これはもう本当にどうしょうもない。けれども。
「へー。いいね。心が打ちひしがれるのに慣れてる。地獄を見慣れた目は嫌いじゃないぜ。ひょっとこお面さんよ。」
「目なんて見えねぇだろ。ふざけた奴。」
「なんでもいいが、例え技を封じられたところで止められねぇぞ。おれはよ。剣と腕が2つあれば世界を切り裂けるんだからなぁ。」
その瞬間、視界の中に一筋の黄金が道を作った。それは西洋甲冑から俺の胸にかけて走っている。
「死人の道が見えただろ?これが黄金剣の力。逃げようもない死ってやつ。」
「御託はいいからさっさとやれ。ウスノロ」
「いいねぇ。気に入った。お別れが悲しいぜ。」
そうして剣の柄を握り込む。チャンスは一瞬で終わる。
「じゃあな。」
柄が消えたと思うほどに、鞘走りは光よりも早い。黄金剣が軌跡をなぞり、光よりも早く飛び出して死を宣告する。
筈だった。
「…驚いた。黄金剣から逃れるやつがいるとは。」
切り裂かれるはずの胴体は繋がっているし、死んでもいない。
思いがけない結果に西洋甲冑は兜を取った。そこにあるのは日本人特有の面長。髪の毛は長くなっていて全てを後ろへとながしたオールバックだった。美丈夫とよぶに相応しい顔立ちの男は笑った。
「尊敬に値する。お前は200年の歴史で唯一我が刃から逃れた男だ。」
「驚いたか。俺の体はまだくっついたまんまだぜ。」
「黄金剣は切ると言うより、溶けるぞ。」
「…まじかよ。」
西洋甲冑は兜をつけて踵を返し、ビフレストの両肩を掴んでいった。
「帰ろうおやっさん。無理だ。勝てないわこれ」
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