ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた

佐藤さん

文字の大きさ
34 / 46
2 企業設立?(雇い主に殺害容疑あり)

雨垂れ石穿っちゃう。

しおりを挟む
 ステゴロ、喧嘩。俺の拳は誰よりも固く、壊れた事かない。だから喧嘩で負けた事なんて今まで一度もなかった。
 今目の前で地べたで大の字に寝てるひょっとこお面のコイツもそれだ。コンクエスタとかって大きく名前が通っていたが、大したことはなかった。

「…弱っちいクソザコめ。殺しゃしねぇからとっととかえんな。それから二度と顔見せんじゃねぇぞ。」

 踵を回し、ポケットに手を突っ込んで帰路を踏もうとした途端、その動きを止められた。

「まてよ。」

 背後から湧いてきた声に振り向けば、コンクエスタは立っていた。

「…これ以上やんなら死ぬぞ。それで良いのか。」
「お前の拳、なんでも壊せるんだってな。」

 こっちの話なんざ聞いちゃいない。そして、雰囲気もあからさまに変わった。なんだコイツは。

「おい三下。聞いてのかっての。」
「あ?」

 あからさまな挑発を避けられるほど、器用ではなかった。だから乗ってやることにした。

「そうだ。だから次はてめぇの頭弾いてやる。」
「だったらなんで、俺の頭が壊れてねぇのかな?」
「...」

 確かにそうだ。スキルの加減はしているとはいえ、2発も俺の拳骨を受けて立っているのは確かにおかしい。
脳みそを揺するために狙った頬、人誅も叩い
た。にも関わらずコイツは立って話している。持ち前に頑丈だったとしても、コッチはスキルを使ってる。無傷なんてのはありえない。

「そうか。ならもう俺流を通させて貰う以外ない。」
「なんだそれ。」
「壊れるまで殴る。」

 所詮やり方を変えられるほど器用ではない。そんな自分に嫌気がするが、嫌いじゃないんだ。こういうの。

「来いよ。テメェの虎の子、ぶん殴って壊してやる。」

 するとひょっとこは左の掌を後ろに、右を俺に向けた。

「左手が入口、右手が出口。流して通すのは___」

 何かがくる。けれどなんだって良い。俺はいつものように顎を守るボクシングスタイルの構えを取り、気持ち程度に右手を顎先より後ろに下げた。
足並みを揃え、腰回りから体重を乗せた右フックで、ヤツの攻撃を撃ち落とすのだ。

黄金道ゴールデンロード
「なんだと!!」

 その名前を聞いて驚かない者はいない。世界に轟く超能力者対抗騎士団「ジークフリート」、その最速が使う技だ。黄金剣に指し示された剣戟は標的を消滅させるという伝説級の____

「まず____」

 視界が光で埋まるのと、同時に左手を咄嗟に突き出していた。左手の拳が終わらない鉄砲水に当てられたかのような衝撃を受け、指の骨を粉々にした。
体の関節を全て潰し、肉を小刻みに震えさて、踵まで突き抜けていくのを感じる。
 痛みが体を強張らせて、思考を乱して、死を彷彿させる。余裕を持たせるために脱力する必要があるが、そんな事をすれば直撃を免れない。

「くそ!くそ!!くそぉおおおおおおおおおお!!」

 俺のスキルと体の骨は、光の撃力に負ける。左手首が折れたのだ。柔らかくなる手首を右手で掴み、ギブス代わりにするが、痛みが脳を突いて意識を奪おうとする。
 上からとめどなく押し寄せる攻撃に耐えかねて、膝を折って地につけた。
 
「し___しぬ____のか」

 一挙に力を使い果たす。もう力なんぞは残っちゃいない。ものの10秒も立っていないというのに、俺は俺自信を信用することができない。



_______ケンさん…うちのこを…どうか、助けてぇ!!!



 光の中で見たのは、ある女性が死刑台にて殺された過去の記憶だ。彼女はある医者に騙され、娘を奪われそうになり、人間の持つ全てを奪われた後で死刑台に乗ったのだ。

(マリさん。そうだよな。おれが____)

 あの子を救うためにここまで来たのだ。置いていった物を取りに行くことはできない。前へ。前へ進まねば。この腕が無くなろうとも。

「俺はぁあ!!!!!」

 左手首から右手を離して、後ろに下げたその瞬間、左手が千切れてどこぞへと飛んでいく。無論スキルの効果範囲は拳だけのため、左腕の血肉と骨はあっという間に砕けて消えていく。

「あの子を助けねぇといけねぇえええええ!!」

 怒号と共に右拳を突き出す。技術なんてもののない、心を込めた単なるパンチは、流れというよりもはや壁となる質量攻撃を迎え撃った。

 だがそれだけだ。

 押し返される右腕の関節は、筋肉で締め固められていたはずなのに、じりじりと曲がっていく。

「親父!!聞こえてるか!!俺もやきが回ってそっちに行くことになりそう____がぁ!!!」

 次に限界を迎えたのは全ての衝撃を支えていた右足。まるで雷でも落ちたのかと思ったほどに、熱さに似た痛みが突き抜ける。大腿骨にヒビが入った途端、砕けたのだ。

「くッ…おかんの所に返してやれなくてゴメンな____アナ。」

 名前を呟いた途端に光の嵐が消えた。残滓すら残さず、綺麗に消えて、またレンガの壁に挟まれた路地裏が視界を埋める。それからひょっとこが立ったまま、俺を見て言った。

「おい。お前、アナって言ったのか。」
















 私はいつものように斧を担いだまま、通りを走り抜けていた。

「まっててね!アナ!」

 風が通り過ぎる音が耳障りになる頃に、木製の建付けの悪そうな扉が嵌め込まれた壁に突き当たった。横が狭いために斧を横へ振れない。だから私はまるで槍でも持つようにして、斧の刃部を前にして助足をつけた。
 行使の力をもつマサカリは横薙ぎでないと発動しない。だからこの場所は私にとって不利だけど、それだけでは止まらない。なぜなら私にはバネ力のある背筋が発達しているからだ。

「ソーレッ____フン!!!」

 女性らしからぬ掛け声とともに、斧をやり投げのように投げ飛ばす。真っ直ぐとその重苦しい体重を載せて進み、木製のドアを粉砕させる。木片が地面を打って音が軽快に沸き立つ中を駆け抜けた。
 枠だけになったドアをくぐって、薄暗い部屋に入ったら、私は大きな声を上げた。

「アナッ!!助けに_____」

 だが思いがけない光景に言葉を詰まらせた。そこにいたのは驚きで腰を抜かし、尻餅をつく清潔な服を着た女の子だった。
 女の子は整えられた髪を流し、洗濯されたであろう少し着古した白い衣服を纏う。アナとは大きく違った生活感をしているが、その面影はも瓜二つだった。

「おねぇちゃん、だれ?」
「え?あー…」

 小首を傾げる愛くるしさだが、それとは裏腹に心のざわつきがヒリヒリと響いていた。

(アナのおねぇちゃんだよね…攫われたんだよね…なのになんでこんな身なりがいいの?)

 自分がされてきた事を思えば、彼女の処遇は理解ができない。
攫われるというのは自分を奪われることだ。踏まれ、蔑まれ、犯される。自分で有ることを否定されて、持っていたもの全てを奪われるのだ。悪漢の私利私欲の限りを尽くされるのだ。そうでなくてはリスクに伴わない。
 そんな思考が、ある答えを見つけた。私はその答えを恐る恐る口にする。そうではないと否定して欲しいがために。
 
「…貴方は、もしかして助けてもらったの?」

 すると少女は笑顔を作って頷いた。

「ケンおじさんがね、死んだおかあさんの約束を守る為に助けてくれたの。」

 俄然とした。私達はまた何かしらに利用されたのだ。きっとここへ誘った者は、この子を捕らえるために。

「…何から助けてくれたの?」
「えーっと、太ってて、いやらしい顔つきのおじちゃん。」

 特徴を聞くとマルセル商会の会長が頭に浮かんだけど、そうなるとあの時アナを捕まえなかった理由がわからない。いや。まて。

「気づかれちゃった。」

 背後からまた別の、かといえば目の前の女の子とそっくりな声が飛び出した。
 恐怖が心を縛り上げて心臓が跳ねる。だけど私はそれを抑えてゆっくりと振り返った。
壁際に立ったまま、私と女の子に向けて邪悪な笑みを浮かべたアナが立っていたのだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...