ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた

佐藤さん

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2 企業設立？(雇い主に殺害容疑あり)

中身を脱ぎ捨てて、美しい日々を迎える。

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　満身創痍とはこの事だ。左腕は手首から千切れていて、右手の拳は赤黒く肉と骨を露出させ、左足なんぞふくらはぎから弾けて骨が突き出している。最初の威勢の良さなど微塵もない。
　なんとか肩で呼吸しているような弱々しい坊主頭の男に、俺はその場に立ち尽くし、トドメを刺せないでいた。

「お前…さっきなんていった。」
「…悪いが耳が…もう使えない…みたいでよ。」
「だから！なんで！お前がアナを母親に返すなんて____」

　叫びが頭を整理させた。息抜きにでた言葉が冷静さを誘った事で頭が回りだしたのだ。俺がまた誰かに騙されたって事に気づかせた。
　すると坊主頭はポツリポツリと言葉を吐き出していった。

「アナの母親は、俺の恋人だったんだ。」

　男の言葉は明確に俺の頭の中でイメージを作っていく。

　ヤクザの若頭だった坊主頭が死んだ時、気がつくとこの街に転移していた。異世界転生だ。
　商会の息子として転生した彼だが、生き方を曲げられる程柔軟ではなく、成人してからは「強固な拳」のスキルを使って取立屋として生計を立てていた。

「邪魔するぜ。」

　いつものようにドスの効いた声でドアを蹴破って入ると、そこにいたのは美しくも貧相な金髪の女がいた。彼女は薄汚れた床に正座で座り、坊主頭の顔を見ずに優しく声を発する。

「どちら様でしょうか？」
「あー…まじか。」

　坊主頭は商会から託された債権の取り立てに着たのだが、当の本人はいないことを直感する。

「逃げられたな…」

　彼の唯一のポリシーとして、人攫いはしないと固く誓っていた。だからこの家にはもう要はない。踵を返して家を出ようとした。

「…母さんの、取り立てに来られたのでしょう？」
「___」

　彼女の声に足を止め、返す言葉が詰まった。その通りだし、この子はそれを理解していた。

「母さんなら先程、どなたかの殿方とお出かけになりましたので用向きがあれば私が。」
「なんだ？金の在り処でも知ってるのか？」
「…いいえ。金銭などはありませんが…私の体で支払えるのなら。」
「___あんた。目が見えないのによく言うな。」

　彼女の回りのゴミに足場がない。男の声を聞いても逃げようとしない。限られた条件の中で彼女の取った行動は「諦めた」ということになる。つまるところ逃げても無駄だと本人も理解しているのだ。

「そのとおりですが、貴方の私服と欲なら満たす事が出来る顔立ちではと。」
「なめんな。俺は取立屋だが人攫いはやらねぇ。そんな後味悪いもんに興味ねぇからな。安心しな。アンタに指一本だって触れねぇし、お前の母親にはきっちりふんだくってやるからよ。」
「____ならせめてお雇い下さい。」
「だから…」

　どうしたものかと頭を掻きむしっても状況は良くならない。
　処遇の算段すらつかないままでいると、彼女は土下座を繰り出した。

「どういうつもりだ。」
「私の母親はこんな出来損ないの娘でも育ててくれました。その恩をかえしたいので_____」

　こういう人間が一番むかつく。坊主頭は彼女2近づいて見えないはずの目をしっかりと睨む。

「そんな御託はやめろ。」
「…。」
「何が言いてぇのかちゃんと言わねぇなら、俺は何もできねぇぞ。」

　すると彼女はゆっくりと涙を流して言葉を零した。

「…やです。」
「ぁあ？」
「もう！一人は！嫌なんです！！」

　愛してくれていたと思っていた母親に捨てられ、誰も助けてくれない部屋に一人いる。そんな孤独と絶望に気圧される彼女を捨て置けなかったのは、坊主頭が拾われる時と瓜二つだったからだ。

「たまたま助けた女を…愛して…その人の娘を助けようとしたんだよ。」

　血と共に零す彼の言葉が胸に容赦なく刺さって抜けない。

「嫁さんの娘も盲目で...娘の病気の治療費として、医者に娘を差し出す契約をしたんだ.…だから取り立てが来る前にアナを攫ったんだよ...。」
「____なんで早く言わないんだ。」
「噂に聞くコンクエスタが...俺の話をき...聞くとは到底思えなくてな...」

　今にも消えそうな彼の声はつづく。

「こんな頑固な生き方しかできないロクデナシを…生涯愛してくれた人は...死んじまった...。孤独から守ってくれた人の…娘を…守りたかったんだよ。」　

　坊主頭の独白を考えても俺達の知っているアナとは全く違う事に気がついて、俺は質問をしてみた。

「なぁ坊主頭、アナに姉はいるか？」
「いない…多分な。」

　どうやら俺達が知っているアナは、別のなにかなのだろう。スッと寒気が忍んで来るのを耐えていると、坊主頭は血の泡を吐き出しながら懇願した。

「なぁ…コンクエスタｯ！せめて…あの子には、なにもない平和な世界を…せめて…あの子だけは…タス…け…」

　そうして坊主頭は意識を失った。地に項垂れたまま動きを止めて、静けさが空間を埋めていく。寂しさだけが残るこの場所で、俺は坊主頭の頭を撫でた。

「…任せろ。」
「ご主人さまァァァ！！！」

　そうしていると、道の向こうからポコがこちらに向けて走ってきた。なんというか必死の形相で。

「上です！上を見て！！」

　顎を上げて空を見れば、いつの間にか夕方をすぎて暗闇が訪れたなと思う。だがそれは間違いだ。暗闇なんかではない。これは大きな掌が空を隠して俺に降ってきていたのだ。

「な、なにこれ！！」
「ご主人さま！早く瞬間移動を！！」

　俺はそれに従ってポコと俺をスキルを使って瞬間移動させようとした。だが降ってくる速度がとてつもなく早い。何だこれは。何がおきてる。

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