【短編集】読む精神安定剤。理不尽な彼らが「3分」で地獄に落ちる、極上の「ざまぁ」詰め合わせ

葉山 乃愛

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「君の作るメシは味が薄くて不味い」と追放されましたが、それはダンジョンの『致死性猛毒瘴気』を完全無効化する『聖なる塩』の味です。

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「おい、コウタ。お前の飯はもう食いたくない。今日でクビだ」

ダンジョンの最下層、ボス部屋の目の前でキャンプを張っている時だった。
リーダーの戦士ヴォルグが、俺の作ったスープを地面にぶちまけながらそう言い放った。

「……クビ? このタイミングでか?」

「ああ、そうだ。お前の料理は味が薄いし、なんか変な苦味があるんだよ。俺たちは命がけで戦ってるんだ。もっと美味い肉料理を食わせろ! 街で雇ったこの三ツ星シェフのようにな!」

ヴォルグが指差した先には、豪華な食材を並べている太った男がいた。
彼はニヤニヤしながら俺を見下している。

「へへっ、お兄ちゃん。冒険者の飯ってのは、もっとガツンとくる味じゃなきゃダメなんだよ。こんな病院食みたいなスープ、犬も食わねぇよ」

パーティーの他のメンバー、魔法使いも弓使いも、俺を冷ややかな目で見ている。

「コウタさんの料理、正直飽きてたのよねぇ。肌にも悪そうだし」
「新しいシェフのステーキ、早く食べたいなー」

俺はため息をつき、割れた器を拾い上げた。
彼らは知らない。このダンジョン、特に最下層に充満している『空気』の正体を。

「ヴォルグ。俺の料理が味が薄くて苦いのは、大量の『聖なる塩』と『浄化ハーブ』を使っているからだ」

「はぁ? 言い訳は見苦しいぞ。俺は濃い味が好きなんだよ!」

「この階層には、目に見えず臭いもしない『高濃度壊死瘴気』が充満している。普通の人間なら、吸い込んで5分で肺が腐り、全身の皮膚がただれ落ちて死ぬレベルの猛毒だ」

「……あ?」

「俺は毎食、食事に抗毒作用のある聖なる塩を限界まで混ぜ込んで、君たちの体の内側から『瘴気耐性膜』を作っていたんだ。だから君たちは、この地獄のような空気の中でピンピンしていられたんだよ」

俺は荷物をまとめた。
三ツ星シェフがジュージューと肉を焼き始めている。
いい匂いだが、あの肉には何の防護措置も施されていない。

「でも、クビならもう関係ないな。俺の作った『耐性』の効果時間は食後3時間だ。さっきのスープを捨てたってことは……そろそろ効果が切れる頃だな」

「ハッタリかますな! 俺たちはSランクだぞ? 毒なんて気合で弾き返してやるよ! さっさと失せろ!」

「はいはい。じゃあ、お元気で」

俺は『転移水晶』を取り出し、魔力を込めた。
俺の体は常に自家製の『解毒ガム』を噛んでいるから守られているが、彼らはもう無防備だ。

俺の姿が光に包まれ始めた、その時だった。

「ごほっ……!?」

ヴォルグが突然、激しく咳き込んだ。
咳と一緒に、どす黒い血の塊が口から飛び散る。

「な、なんだ……? 血……? 息が、苦し……」

「きゃあああっ!? 私の腕! 皮膚が、溶けてる!?」
「目が! 目が痛い! 焼けるように熱い!!」

魔法使いと弓使いが悲鳴を上げて転げ回る。
露出した肌が、まるで酸をかけられたように赤くただれ、ブクブクと泡を吹き始めていた。

「ひぃぃっ! 俺の高級肉が! 腐っていく!?」

三ツ星シェフが焼いていたステーキも、瞬く間にドロドロのヘドロのように変色し、腐敗臭を放ち始めた。
瘴気が食材を汚染したのだ。

「コ、コウタ……! まさか、本当だったのか……!?」

ヴォルグが血反吐を吐きながら、俺の方へ手を伸ばす。
その手も、指先から黒く変色し、爪が剥がれ落ちていく。

「助け……薬……塩をくれぇぇぇ!!」

「残念ですが、聖なる塩は貴重品なので全部持って帰ります。三ツ星シェフの美味しい料理を食べて、最後の晩餐を楽しんでください」

「あ、あがぁぁぁぁっ!! 待てぇぇぇ!!」

俺は冷ややかに彼らを見下ろし、転移を発動させた。
視界が切り替わる瞬間、ボス部屋の前が阿鼻叫喚の地獄絵図になっているのが見えた。

街に戻ったら、新しい店でも開こう。
『猛毒ダンジョンでも安心! 特製解毒弁当』なんて売り出せば、まともな冒険者たちが飛ぶように買ってくれるはずだ。
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