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第11話 複利という名の「透明な搾取」
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「……ありえ、ません……」
ラプラスは、崩れ落ちるようにテーブルに手をついた。
彼女の鉄壁のポーカーフェイスは崩壊し、その瞳は焦点が合わず、ブツブツと不可解な計算式を呟き続けている。
無理もない。
「確率」という絶対的な神を信じていた彼女にとって、物理法則(鏡)による敗北は、信仰の崩壊に等しい。
「勝負ありだ。チップを換金してくれ」
僕はテーブルに積み上がった、総額40億円分のチップを指差した。
元手が20億。配当が2倍。
合計40億円の勝利。
これだけの金額があれば、71億の借金は一気に半分以下になり、-31億円まで減るはずだ。
『……集計処理を実行します』
頭上のスピーカーから、不機嫌極まりない運営の声が響く。
モニターの数字が回転し、精算が始まった。
現在負債:-7,143,508,542円
獲得賞金:+4,000,000,000円
ここまではいい。
だが、次の瞬間、モニターに表示された「追加項目」を見て、能見が絶叫した。
特別徴収税(テラ銭):-2,000,000,000円
遅延損害金および経過利息:-1,000,000,000円
------------------------------------------------
最終負債総額:-6,143,508,542円
「は、はぁぁぁ!? なんだこれ!!」
能見が画面に食ってかかる。
「40億勝ったんだぞ!?
なんで30億も引かれてるんだよ!
『テラ銭』ってなんだ! 『経過利息』ってどういう計算だよ!」
生き残った他の参加者たちも騒然となる。
命がけでゲームに勝っても、運営が勝手に名目をつけて金を吸い上げていく。
これでは、いつまで経っても借金など減らない。
まさに「賽の河原」だ。
「……ふん、やっぱりか」
だが、僕だけは冷静だった。
予想通りだ。
このゲームの運営が、そう簡単に人間に「完済」させるはずがない。
「おい、ラプラス。
この『経過利息』の計算式を見せろ」
僕は呆然としているディーラーに命じた。
彼女は震える手で、タブレットを操作し、約款を表示させた。
『第108条:ゲームプレイ中は、プレイヤーの心拍数上昇に伴い、リスクプレミアムとして金利が【分速 5%】の複利で加算されるものとする』
「分速……5%!?」
歪が目を丸くする。
「ああ。とんでもない暴利だ。
サラ金どころの話じゃない。
僕たちがブラックジャックに熱中していた数十分の間、借金は雪だるま式に膨れ上がっていたんだよ」
僕はモニターを睨みつけた。
「つまり、こういうことだ。
僕が40億勝ったとしても、その裏で『30億の利息』が発生していた。
差し引き、利益は10億だけ。
……よくできた集金システムだ」
運営は最初から、僕たちを帰す気などない。
勝てば勝つほど、時間を使えば使うほど、システムが自動的に金を回収する。
これはギャンブルではない。
ただの「遅延行為による処刑」だ。
『……ご名答です、芥川馨様』
スピーカーから、拍手の音が聞こえた。
『よくぞ気づきました。
そう、このゲームの本質は「時間」です。
貴様らが迷い、悩み、長考している間にも、借金は生物のように増殖し続ける。
「完済」など、理論上不可能なのですよ』
絶望的な事実。
能見はその場にへたり込み、歪も唇を噛み締めている。
だが、僕は眼鏡の位置を直し、薄く笑った。
「理論上不可能?
……面白いことを言うね、運営さん」
僕は71億(正しくは61億になった)の負債画面を指差した。
「君たちは大きなミスを犯した。
『分速5%』という数字を、僕に見せてしまったことだ」
『……何?』
「複利計算は、諸刃の剣だ。
時間が経てば負債は無限に増えるが、逆に言えば『時間さえ操作できれば』、その計算式は崩壊する」
僕は歪の手を取った。
「行くぞ、歪。
ちんたらゲームをしている暇はない。
ここからはRTA(リアルタイムアタック)だ」
「えっ? ど、どこへ?」
「決まっている。
このふざけた金利を生み出している『中枢(マザーコンピュータ)』だ」
僕は天井のカメラを見据え、宣言した。
「運営さん。
君たちが大好きな『数学』で、君たちのシステムを物理的にハッキングしてやる。
分速5%の利息が追いつかないほどの速度で、この会場を制圧する」
『……貴様、まさか』
「第4ステージへの扉を開けろ。
いや、開けなくてもいい」
僕はラプラスが座っていたディーラー席の下、床板の不自然な継ぎ目を足で踏み抜いた。
そこには、配線がむき出しになったメンテナンス用のダクトが広がっていた。
僕の目は誤魔化せない。
このカジノルームの空調の流れ、配線の位置から、ここが「裏ルート」であることは計算済みだ。
「正規ルートなんて通らない。
最短距離で、君の首(サーバー)を取りに行く」
「ひっ……芥川さん、そこに入るんですか!?」
能見が驚く。
「ついて来い、能見。
ここに残れば、分速5%の利息でお前は10分後に破産だぞ」
「い、行きます! 連れてってください!」
僕たちは、煌びやかなカジノの裏側、埃とオイルの匂いがする闇の中へと飛び込んだ。
借金61億。
ここからは、時間との競争だ。
運営がこの「複利」を後悔するほどのスピードで、ゲームを終わらせてやる。
ラプラスは、崩れ落ちるようにテーブルに手をついた。
彼女の鉄壁のポーカーフェイスは崩壊し、その瞳は焦点が合わず、ブツブツと不可解な計算式を呟き続けている。
無理もない。
「確率」という絶対的な神を信じていた彼女にとって、物理法則(鏡)による敗北は、信仰の崩壊に等しい。
「勝負ありだ。チップを換金してくれ」
僕はテーブルに積み上がった、総額40億円分のチップを指差した。
元手が20億。配当が2倍。
合計40億円の勝利。
これだけの金額があれば、71億の借金は一気に半分以下になり、-31億円まで減るはずだ。
『……集計処理を実行します』
頭上のスピーカーから、不機嫌極まりない運営の声が響く。
モニターの数字が回転し、精算が始まった。
現在負債:-7,143,508,542円
獲得賞金:+4,000,000,000円
ここまではいい。
だが、次の瞬間、モニターに表示された「追加項目」を見て、能見が絶叫した。
特別徴収税(テラ銭):-2,000,000,000円
遅延損害金および経過利息:-1,000,000,000円
------------------------------------------------
最終負債総額:-6,143,508,542円
「は、はぁぁぁ!? なんだこれ!!」
能見が画面に食ってかかる。
「40億勝ったんだぞ!?
なんで30億も引かれてるんだよ!
『テラ銭』ってなんだ! 『経過利息』ってどういう計算だよ!」
生き残った他の参加者たちも騒然となる。
命がけでゲームに勝っても、運営が勝手に名目をつけて金を吸い上げていく。
これでは、いつまで経っても借金など減らない。
まさに「賽の河原」だ。
「……ふん、やっぱりか」
だが、僕だけは冷静だった。
予想通りだ。
このゲームの運営が、そう簡単に人間に「完済」させるはずがない。
「おい、ラプラス。
この『経過利息』の計算式を見せろ」
僕は呆然としているディーラーに命じた。
彼女は震える手で、タブレットを操作し、約款を表示させた。
『第108条:ゲームプレイ中は、プレイヤーの心拍数上昇に伴い、リスクプレミアムとして金利が【分速 5%】の複利で加算されるものとする』
「分速……5%!?」
歪が目を丸くする。
「ああ。とんでもない暴利だ。
サラ金どころの話じゃない。
僕たちがブラックジャックに熱中していた数十分の間、借金は雪だるま式に膨れ上がっていたんだよ」
僕はモニターを睨みつけた。
「つまり、こういうことだ。
僕が40億勝ったとしても、その裏で『30億の利息』が発生していた。
差し引き、利益は10億だけ。
……よくできた集金システムだ」
運営は最初から、僕たちを帰す気などない。
勝てば勝つほど、時間を使えば使うほど、システムが自動的に金を回収する。
これはギャンブルではない。
ただの「遅延行為による処刑」だ。
『……ご名答です、芥川馨様』
スピーカーから、拍手の音が聞こえた。
『よくぞ気づきました。
そう、このゲームの本質は「時間」です。
貴様らが迷い、悩み、長考している間にも、借金は生物のように増殖し続ける。
「完済」など、理論上不可能なのですよ』
絶望的な事実。
能見はその場にへたり込み、歪も唇を噛み締めている。
だが、僕は眼鏡の位置を直し、薄く笑った。
「理論上不可能?
……面白いことを言うね、運営さん」
僕は71億(正しくは61億になった)の負債画面を指差した。
「君たちは大きなミスを犯した。
『分速5%』という数字を、僕に見せてしまったことだ」
『……何?』
「複利計算は、諸刃の剣だ。
時間が経てば負債は無限に増えるが、逆に言えば『時間さえ操作できれば』、その計算式は崩壊する」
僕は歪の手を取った。
「行くぞ、歪。
ちんたらゲームをしている暇はない。
ここからはRTA(リアルタイムアタック)だ」
「えっ? ど、どこへ?」
「決まっている。
このふざけた金利を生み出している『中枢(マザーコンピュータ)』だ」
僕は天井のカメラを見据え、宣言した。
「運営さん。
君たちが大好きな『数学』で、君たちのシステムを物理的にハッキングしてやる。
分速5%の利息が追いつかないほどの速度で、この会場を制圧する」
『……貴様、まさか』
「第4ステージへの扉を開けろ。
いや、開けなくてもいい」
僕はラプラスが座っていたディーラー席の下、床板の不自然な継ぎ目を足で踏み抜いた。
そこには、配線がむき出しになったメンテナンス用のダクトが広がっていた。
僕の目は誤魔化せない。
このカジノルームの空調の流れ、配線の位置から、ここが「裏ルート」であることは計算済みだ。
「正規ルートなんて通らない。
最短距離で、君の首(サーバー)を取りに行く」
「ひっ……芥川さん、そこに入るんですか!?」
能見が驚く。
「ついて来い、能見。
ここに残れば、分速5%の利息でお前は10分後に破産だぞ」
「い、行きます! 連れてってください!」
僕たちは、煌びやかなカジノの裏側、埃とオイルの匂いがする闇の中へと飛び込んだ。
借金61億。
ここからは、時間との競争だ。
運営がこの「複利」を後悔するほどのスピードで、ゲームを終わらせてやる。
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