借金13億の天才、デスゲームを「論理的」に搾取する。

白山 乃愛

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第14話 72億の論理爆弾(ロジック・ボム)

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メインコンソールの前に立つ。

巨大なモニターには、無数の数字が滝のように流れ落ちていた。
それら全てが、現在進行系で参加者たちから搾取している「利息」の計算式だ。


「すごい……。
これ、全部お金のデータですか?」

歪がモニターを見上げ、呆然と呟く。


「ああ。人の不幸を数値化した、悪魔の家計簿だ」

僕はキーボードに指を走らせた。
カチャカチャッ、という乾いた音が、静寂なサーバー室に響く。


『アクセス拒否。管理者権限がありません』

無機質なエラーメッセージ。
当然だ。正面からハッキングしようとすれば、数時間はかかる堅牢なセキュリティだ。
だが、僕には時間がない。
分速5%の利息は、今も僕の借金を増やし続けている。


「……芥川さん、どうするんですか?
パスワードなんてわからないでしょ!?」

能見が焦って声を上げる。
彼は自分のタブレット(2億円)を失い、顔面蒼白だ。
もしここで金利を止められなければ、彼は本当に終わる。


「パスワード?
そんなものは必要ない」

僕は懐から、自分のタブレットを取り出した。
第8話からずっと抱えてきた、僕の全財産ならぬ「全負債」が入った端末だ。


「セキュリティというのは、外部からの『攻撃』には強いが、内部からの『巨大すぎるデータ』には脆い」

僕はタブレットを、コンソールの外部入力端子に直結した。


「いくぞ。
僕の借金『62億』と、天道から奪った資産データ、そして歪が持っている『30億』のデータ。
これら全てを、同時にこのシステムに流し込む」

「えっ!? そ、そんなことしたら……!」

「『オーバーフロー(桁あふれ)』を起こさせる」

僕はエンターキーを叩いた。


ドォォォン……!!

目に見えない衝撃が、システム全体を駆け巡った。

モニターの数字が、異常な速度で回転を始める。
本来、このシステムは「1人あたり数億円」の借金を管理するために設計されている。
そこに突如として、個人レベルを超越した「数百億円規模」の、しかも「プラスとマイナスが激しく変動する異常なデータ」がねじ込まれたのだ。


『警告。警告。
データ処理能力の限界を超過。
メモリ領域不足。
計算式に矛盾が発生しました』

エラー音がけたたましく鳴り響く。


「いいぞ。混乱している」

僕はさらに畳み掛ける。

「このシステムにとって、僕は『超・優良顧客(71億の債権)』だ。
システムは僕のデータを最優先で処理しようとする。
だが、そのデータ量が巨大すぎて、他の処理――つまり『金利計算プログラム』のリソースを食いつぶしているんだ」

いわゆる「DDoS攻撃」のアナログ版。
ただし、使う弾丸は「自分の借金」。


『システムエラー。
金利計算プロセス、応答なし。
緊急停止(フリーズ)します』

プツン。

モニターの滝のような数字が、唐突に停止した。
静寂が戻る。

負債総額カウンター:
-6,244,109,800円

ピタリと止まっている。
分速5%の呪いが、ついに解けたのだ。


「……と、止まった……!」

能見がその場にへたり込む。
「た、助かった……助かったんだな俺たち……!」


「ああ。物理的ハッキング、成功だ」

僕は息を吐き、眼鏡を直した。

だが、その時だ。


『……素晴らしい』

スピーカーから、ノイズ混じりの拍手が聞こえた。
先ほどのラプラスやヴォルフとは違う。
もっと深く、もっと暗い、底知れない「知性」を感じさせる声。


『まさか、自らの負債を「ウイルス」として使うとは。
私の設計したシステムを、力技ではなく論理(ロジック)で過負荷にさせるとはね』


モニターに、一人の男のシルエットが映し出された。
顔は見えない。だが、その佇まいだけでわかる。
こいつが、このふざけたゲームの創造主(ゲームマスター)だ。


「……お褒めに預かり光栄だよ、運営さん。
それとも、ラスボスさんと呼ぶべきか?」

僕はモニターを睨み据えた。


『ふふふ。
挨拶は省略しよう、芥川馨。
君は私のシステムを停止させ、第2ステージを「破壊」してクリアした。
よって、君たちには「第3ステージ」への特別招待券(VIPパス)を与えよう』


「第3ステージだと?
まだやらせる気か」


『当然だ。君の借金はまだ62億も残っている。
……だが、安心していい。
次のステージは、君のような「論理の怪物」のために用意した、極上の舞台だ』


ガガガガッ……!

部屋の奥、サーバーラックの壁が左右に割れ、巨大なエレベーターが現れた。


『乗れ。
地上へ案内しよう。
そこには、世界中から集められた「嘘つき」たちが待っている』


『次なるゲームの名は――
【バベルの断頭台(オークション)】』


「……上等だ」

僕はタブレットを回収し、エレベーターへと歩き出した。


「行くぞ、歪、能見。
地下の遊びは終わりだ。
次は地上で、もっと派手に稼がせてもらおう」

エレベーターの扉が閉まる。
上昇する重力加速度(G)を感じながら、僕は確信していた。

この先に待っているのは、ただのギャンブルではない。
僕の「過去」と「父の死」に繋がる、真の地獄だということを。

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