借金13億の天才、デスゲームを「論理的」に搾取する。

白山 乃愛

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第17話 欠陥品たちの入札戦争(ビッド・ウォー)

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第2ラウンドの商品(ロットナンバー2)。
ステージ中央に置かれたのは、重厚なジュラルミンケースだ。

中身は見えない。
だが、歪の目には確信が見えていた。


「……間違いありません」

歪が、僕の耳元で震える声で囁く。

「さっきのUSBは『灰色(ゴミ)』でした。
でも、あのケースからは、目が眩むような『黄金色』が溢れ出しています。
あれは、この会場のすべての商品の中で、最も価値があるものです!」


「了解だ」

僕は能見の肩を叩いた。

「出番だぞ、能見。
あのケースを手に入れる」


「ひぃぃ! やめてくれよぉ!
次はどこだ!? 歯の次はどこを賭けるんだよぉ!」

能見が涙目で喚くが、僕は無視して手を挙げた。


「入札。
【能見貞治の『右腕』】。評価額3,000万円」


会場がざわめく。
いきなりの高額ベット。
僕が「本気」であることが、周囲にも伝わる。


「おや?」

西園寺が、残った左目でこちらを見て、ニヤリと笑った。

「鼻が利くねぇ、ネズミ君。
さっきは降りたのに、今回は即決かい?
……さては、『中身』が見えているのかな?」


バレたか。
やはり、この男は勘が鋭い。
僕が「本物」を狙っていると気づき、ハイエナのように被せてくる気だ。


「乗ろうか。
【右脚一本】。評価額4,000万円」

西園寺が涼しい顔でコールする。


「【能見の『左腕』を追加】。合計6,000万円」

「【左脚】を追加。合計8,000万円」


価格が跳ね上がる。
能見の両腕と、西園寺の両脚。
テーブルの上には、見えない鮮血が飛び交っている。


「あ、あわわ……俺の両腕が……」

能見が白目を剥きかけている。
だが、勝負はここからだ。


「……西園寺。君はクレイジーだ」

僕は溜め息交じりに言った。

「だが、計算が甘い。
君はもう『右目』を失っている。
さらに両脚を失えば、日常生活に支障が出るどころか、このゲームの続行も不可能だ。
リスク管理がなっていない」


「ハハハ! リスク?」

西園寺は狂ったように笑った。

「関係ないね。
欲しいものを手に入れるためなら、ダルマになったって構わない。
それに……君の方こそ、その『財布(能見)』が空になったら終わりじゃないのかい?」


西園寺の言う通りだ。
能見の四肢を切り売りしても、せいぜい1億ちょっと。
西園寺の資産(自身の身体)と張り合えば、いずれジリ貧になる。

だからこそ。
ここで「論理」という名の凶器を使う。


「司会者。確認だ」

僕は手を挙げた。

「このオークションは、『より高い価値』を提示した者が勝者となる。
間違いないな?」


「はい、その通りです」

「ならば、商品の価値だけでなく、入札者の『質』も査定されるべきだ」


僕は西園寺を指差した。


「西園寺レオの提示した『両脚』。
その査定額8,000万円に異議がある」

「……何?」
西園寺が眉をひそめる。


「医学的な事実を述べよう。
西園寺、君は先ほど、右目を失った際、痛み止めも打たずに笑っていたな?
そして今も、異常な興奮状態にある」

僕は周囲の参加者たちに聞こえるように声を張り上げた。

「これは、前頭葉および扁桃体の機能障害……いわゆる『精神病質(サイコパス)』の典型的症状だ。
脳の欠陥により、痛覚信号や恐怖心が正常に処理されていない」


「……それがどうした?」

「つまり、君の肉体は『欠陥品(ジャンク)』だということだ」


会場が静まり返る。


「健康な人間の脚と、痛みを感じない欠陥品(サイコパス)の脚。
生物学的な市場価値が高いのは、どちらだ?
当然、神経系が正常に機能している『健康体』の方だろう」

僕は能見の腕を掴み、高々と掲げた。

「この能見貞治を見ろ!
彼は痛みに弱く、すぐに泣き、恐怖に震えている!
これぞ『正常な神経』の証!
生物としての鮮度、反応速度、すべてにおいて君の肉体を上回る『極上の素材』だ!」


「えっ……? 褒められてるの俺……?」
能見がキョトンとする。


「したがって、運営に要求する。
西園寺の身体部位の査定額を、一律【50%ダウン】に修正せよ。
欠陥品に、正規品と同じ値札をつけるな」


滅茶苦茶な理屈だ。
だが、このバベルの塔は「価値を定義した者」が勝つ世界。


司会者は、少し考え込み……そして、深く頷いた。


「……受理します(アクセプト)。
確かに、当運営としても、サンプルの反応(リアクション)は重要な評価基準です。
痛みに鈍感な肉体は、実験動物としての価値が低い」


『西園寺レオ様の身体査定額を、50%に減額します』


モニターの数字が書き換わる。
西園寺の提示額が、8,000万から4,000万に暴落した。


「なっ……!?」

西園寺の顔から、初めて余裕が消えた。

「ふ、ふざけるな!
俺の体が……この泣き虫の凡人より劣るだと!?」


「ああ、劣るね」
僕は冷徹に言い放った。

「君は狂気を誇っていたようだが、市場において狂気はただの『バグ』だ。
能見の『凡人性』こそが、ここでは『ブランド』なんだよ」


「くっ……おのれぇぇ!!」

西園寺が激昂する。
プライドが高い彼にとって、「凡人以下」という格付けは耐え難い屈辱だ。


「さあ、どうする?
半値にされた体で、まだ張り合うか?
勝つためには、内臓も、残った目も、すべてベットしなきゃ届かないぞ?」


西園寺の手が震える。
恐怖ではない。怒りで震えている。
だが、彼は計算ができる男だ。
査定を半減された状態で、これ以上レイズ(上乗せ)すれば、本当にダルマになっても勝てない可能性がある。

何より、彼は「自分が能見より価値が低い」という事実を認めたくない。


「……降りる」

西園寺は、ギリギリと歯ぎしりをしながら手を下げた。

「くれてやるよ、そんなケース……。
俺の価値を認めない運営になんて、用はない!」


「落札!
能見貞治様、【両腕】にて落札です!」


ハンマーが鳴る。
勝利だ。
しかし、同時に「支払い」の時間が来る。


「いやだぁぁ! 腕が! 俺の腕がぁぁ!」

能見が泣き叫ぶ。
天井から、切断用のロボットアームが降りてくる。
鋭利なレーザーカッターが、能見の両腕に照準を合わせる。


「待て」

僕はアームの前に立ちはだかった。


「おや? 支払いの拒否ですか?
それはルール違反(デフォルト)により、即死刑ですが」
司会者が冷ややかに告げる。


「拒否じゃない。
『支払い方法の変更』を提案する」

僕は、落札したばかりのジュラルミンケースを指差した。


「このケースの中身。
歪の目によれば、会場で最も価値がある『黄金』だそうだ。
その価値は、優に数億円を下らない」


僕はケースのロックに手をかけた。


「この中身を、即座に『下取り』に出す。
その売却益で、能見の腕の代金(6,000万)を支払う」


「……は?」
司会者が呆気にとられる。


「つまり、『落札した商品をその場で売って、代金を払う』。
転売(ショート・トレード)だ。
これなら、能見の腕を切る必要はないだろう?」


「そ、それは……中身の価値次第ですが……」


「見せてやるよ。
黄金の中身をな」

僕はケースを勢いよく開け放った。

そこに入っていたのは、金塊でも宝石でもない。
一枚の古びた「羊皮紙」と、一本の「鍵」だった。


しかし、それを見た瞬間。
司会者の顔色が変わり、会場の照明が赤く点滅し始めた。


『緊急警報。
特級遺物(アーティファクト)の解放を確認』


「……なんだこれは?」

僕が羊皮紙を手に取ると、そこには運営のロゴと共に、一つの数式が記されていた。
そして、その下にはこう書かれていた。


【第13埠頭・管理者権限譲渡契約書】


会場が静まり返る。
それは、このデスゲームの「運営権」そのものだった。


「は……ははは!
すごい……すごすぎるぞ歪!」

僕は思わず笑い声を上げた。
黄金色に見えるわけだ。
これは金なんてレベルじゃない。
このふざけたゲームの「神」になる権利書だ。


「司会者。査定を頼む」

僕は契約書をヒラヒラと振った。

「この『運営権』の価値はいくらだ?
能見の腕(6,000万)でお釣りが来るどころか……
西園寺の全財産、いや、この会場ごと買い取れる値段がつくんじゃないか?」


司会者はガタガタと震え、無線に向かって絶叫した。

「ほ、本部に連絡!
マスター! 大変です!
『ジョーカー』が引かれました!!」


西園寺が、呆然と口を開けている。
能見が、涙を流したまま固まっている。

借金まみれの数学者が、一夜にして「運営側」へと回る。
最強の逆転劇(パラダイム・シフト)が、ここで完成した。
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