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第18話 神の鍵と、70億の身代金
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「……冗談でしょう?」
司会者の顔から、血の気が引いていた。
会場の空気が凍りつく。
参加者たちは、僕の手にある「羊皮紙と鍵」を、まるで核爆弾のスイッチでも見るような目で見つめている。
「冗談なものか。
運営の透かしロゴに、電子署名コード。
どう見ても本物の『管理者権限譲渡契約書』だ」
僕は羊皮紙をパラパラと振ってみせた。
「さて、司会者。
僕はこれを、能見の『両腕(6,000万円)』で落札した。
所有権は僕にある。
……文句はないな?」
「くっ……!
直ちにその商品を返却してください!
それは手違いで混入した……」
「手違い?」
僕は鼻で笑った。
「オークションに『手違い』など存在しない。
出品された以上、それは商品だ。
それとも、このバベルの塔は、自分たちのミスを棚に上げて落札品を強奪する『盗賊の巣窟』なのか?」
「ぐぬぬ……!」
司会者は言葉に詰まる。
ここで力ずくで奪えば、ゲームの公平性(という建前)が崩壊する。
だが、放置すれば運営の首が飛ぶ。
完全な膠着状態(デッドロック)。
「芥川さん! 後ろ!」
歪の叫び声が響く。
ヒュンッ!
鋭い風切り音と共に、シャンパングラスが僕の顔の横を掠めた。
ガラス片が飛び散り、頬に薄い傷を作る。
「……あはは! 最高だね!」
隻眼となった西園寺レオが、血まみれの顔で笑いながら近づいてくる。
その手には、ディナーナイフが握られていた。
「運営権だって?
つまり、それを奪えば、俺がこのゲームの『神』になれるってことか?
素晴らしい!
俺の失った右目なんて安いものだ!」
西園寺だけではない。
会場にいる他の参加者たちも、血走った目で僕を取り囲み始めていた。
彼らは理解したのだ。
このゲームをクリアするより、僕を殺してその「鍵」を奪う方が、手っ取り早く借金を帳消しにできると。
「……やれやれ。
想定通りだが、人気者は辛いな」
僕は能見の首根っこを掴み、自分の背後に隠した。
「ひぃぃ! 芥川さん、どうすんのこれ!?
全員敵だよ! 四面楚歌だよ!」
「落ち着け。
この状況こそが、僕の『商品』の価値を上げている」
僕は羊皮紙と鍵を高く掲げ、大声で叫んだ。
「聞け! 全員!」
会場が静まり返る。
「この『管理者権限』は、現在ロックがかかっている。
僕の生体認証(バイオメトリクス)を通さない限り、ただの紙切れだ。
つまり、僕を殺しても権限は手に入らない。
逆に、僕が死ねばロックは永遠に解除されず、この鍵はゴミになる!」
ハッタリだ。
そんな機能はない。
だが、この場にいる人間には確認する術がない。
「チッ……殺せないってことか?」
西園寺が舌打ちをして足を止める。
僕はそのまま、ステージ上の司会者に向き直った。
「さて、交渉(ディール)の時間だ、運営さん。
この『神の鍵』を、君たちに売ってやる」
「……はい?」
司会者が目を白黒させる。
「僕は運営になりたいわけじゃない。
面倒な仕事は御免だ。
だから、この権利書を『買い戻し(バイバック)』させてやる」
僕は指を3本立てた。
「条件は3つだ。
1. 今回のオークションにおける『能見の両腕』の支払いを免除すること。
2. 西園寺レオの『右目』の治療を即座に行うこと(これ以上暴れられると迷惑だ)。
3. この商品の買取価格として……【70億円】を僕の口座に入金すること」
「なっ……!?」
会場がどよめく。
70億。
それは、僕の抱える負債「71億」をほぼ相殺できる金額だ。
「70億だと!? ふざけるな!」
司会者が叫ぶ。
「そんな法外な値段……!」
「法外?
安いものだろう?」
僕は冷ややかに言い放った。
「もしこの権利書が、西園寺のような狂人の手に渡ったらどうなる?
ゲームは崩壊し、君たちの組織は終わるぞ。
組織の存続を『70億』で買えるなら、バーゲンセールじゃないか」
僕は鍵を握りしめ、力を込めるフリをした。
「さあ、どうする?
3秒以内に決断しろ。
さもなければ、この鍵をへし折ってトイレに流すぞ。
そうなれば、君たちの管理責任問題だ」
「3」
「ま、待て!」
「2」
「わかった! 本部に確認する!」
「1」
「承認します! 条件を呑みます!!」
司会者が悲鳴に近い声で叫んだ。
『取引成立(ディール・ダン)』
僕はニヤリと笑い、鍵と羊皮紙を司会者に投げ渡した。
「賢明な判断だ」
直後、天井のモニターに数字が表示される。
【入金確認:+7,000,000,000円】
【能見貞治・両腕切断:キャンセル】
「た、助かったぁぁぁ……!」
能見がその場に崩れ落ち、号泣する。
彼の両腕は繋がったままだ。
そして、僕の負債総額カウンターが、凄まじい勢いで減っていく。
-62億から、一気にプラスへ転じる――
かと、思われた。
ピピッ。
カウンターが止まる。
【現在負債総額:-143,508,542円】
「……あれ?」
能見が涙を拭いて顔を上げる。
「芥川さん、借金が……まだ1億4000万残ってますよ?」
「ああ。計算通りだ」
僕は平然と答えた。
「70億入金させたが、全額は返済に充てていない。
意図的に『借金』を残した」
「は? なんで!?」
「忘れたのか?
借金がゼロになれば、僕は『用済みの人間』として、運営に消される可能性がある。
だから、ギリギリ殺されないライン……『1億の小口債務者』として生き残る道を選んだ」
これぞ、生存戦略。
70億という巨額を手にしても、決して完済はしない。
借金という名の「命綱」を握り続ける。
「……ククッ、ハハハハ!」
治療ドローンに右目を塞がれた西園寺が、狂ったように笑い出した。
「面白い! 最高だ芥川馨!
神の座を捨てて、あえて『借金持ち(スレイブ)』に戻るとはね!
その度胸、気に入ったよ!」
西園寺は立ち上がり、僕の方へ歩いてきた。
殺気はない。
あるのは、歪んだ親愛の情だ。
「次は負けないよ。
私の新しい『目』が馴染むまで、首を洗って待ってな」
彼はそう言い残し、会場を去っていった。
『第3ステージ終了。
生存者:芥川馨、能見貞治、歪、西園寺レオ……他12名』
バベルの塔の最上階。
夜明けの光が差し込んでくる。
僕たちは生き残った。
70億の借金を返済し(あえて少し残し)、狂気のオークションを制圧した。
「帰ろう、歪。
今日は疲れた」
「はい! 芥川さん!」
歪が満面の笑みで抱きついてくる。
その笑顔には、一点の曇りもない「幸福な黄金色」が宿っていた。
だが、僕は知っている。
運営が、このまま大人しく引き下がるはずがないことを。
あの「鍵」が出品された理由。
それはおそらく、僕を試すための「次のゲーム」への招待状だったのだと。
司会者の顔から、血の気が引いていた。
会場の空気が凍りつく。
参加者たちは、僕の手にある「羊皮紙と鍵」を、まるで核爆弾のスイッチでも見るような目で見つめている。
「冗談なものか。
運営の透かしロゴに、電子署名コード。
どう見ても本物の『管理者権限譲渡契約書』だ」
僕は羊皮紙をパラパラと振ってみせた。
「さて、司会者。
僕はこれを、能見の『両腕(6,000万円)』で落札した。
所有権は僕にある。
……文句はないな?」
「くっ……!
直ちにその商品を返却してください!
それは手違いで混入した……」
「手違い?」
僕は鼻で笑った。
「オークションに『手違い』など存在しない。
出品された以上、それは商品だ。
それとも、このバベルの塔は、自分たちのミスを棚に上げて落札品を強奪する『盗賊の巣窟』なのか?」
「ぐぬぬ……!」
司会者は言葉に詰まる。
ここで力ずくで奪えば、ゲームの公平性(という建前)が崩壊する。
だが、放置すれば運営の首が飛ぶ。
完全な膠着状態(デッドロック)。
「芥川さん! 後ろ!」
歪の叫び声が響く。
ヒュンッ!
鋭い風切り音と共に、シャンパングラスが僕の顔の横を掠めた。
ガラス片が飛び散り、頬に薄い傷を作る。
「……あはは! 最高だね!」
隻眼となった西園寺レオが、血まみれの顔で笑いながら近づいてくる。
その手には、ディナーナイフが握られていた。
「運営権だって?
つまり、それを奪えば、俺がこのゲームの『神』になれるってことか?
素晴らしい!
俺の失った右目なんて安いものだ!」
西園寺だけではない。
会場にいる他の参加者たちも、血走った目で僕を取り囲み始めていた。
彼らは理解したのだ。
このゲームをクリアするより、僕を殺してその「鍵」を奪う方が、手っ取り早く借金を帳消しにできると。
「……やれやれ。
想定通りだが、人気者は辛いな」
僕は能見の首根っこを掴み、自分の背後に隠した。
「ひぃぃ! 芥川さん、どうすんのこれ!?
全員敵だよ! 四面楚歌だよ!」
「落ち着け。
この状況こそが、僕の『商品』の価値を上げている」
僕は羊皮紙と鍵を高く掲げ、大声で叫んだ。
「聞け! 全員!」
会場が静まり返る。
「この『管理者権限』は、現在ロックがかかっている。
僕の生体認証(バイオメトリクス)を通さない限り、ただの紙切れだ。
つまり、僕を殺しても権限は手に入らない。
逆に、僕が死ねばロックは永遠に解除されず、この鍵はゴミになる!」
ハッタリだ。
そんな機能はない。
だが、この場にいる人間には確認する術がない。
「チッ……殺せないってことか?」
西園寺が舌打ちをして足を止める。
僕はそのまま、ステージ上の司会者に向き直った。
「さて、交渉(ディール)の時間だ、運営さん。
この『神の鍵』を、君たちに売ってやる」
「……はい?」
司会者が目を白黒させる。
「僕は運営になりたいわけじゃない。
面倒な仕事は御免だ。
だから、この権利書を『買い戻し(バイバック)』させてやる」
僕は指を3本立てた。
「条件は3つだ。
1. 今回のオークションにおける『能見の両腕』の支払いを免除すること。
2. 西園寺レオの『右目』の治療を即座に行うこと(これ以上暴れられると迷惑だ)。
3. この商品の買取価格として……【70億円】を僕の口座に入金すること」
「なっ……!?」
会場がどよめく。
70億。
それは、僕の抱える負債「71億」をほぼ相殺できる金額だ。
「70億だと!? ふざけるな!」
司会者が叫ぶ。
「そんな法外な値段……!」
「法外?
安いものだろう?」
僕は冷ややかに言い放った。
「もしこの権利書が、西園寺のような狂人の手に渡ったらどうなる?
ゲームは崩壊し、君たちの組織は終わるぞ。
組織の存続を『70億』で買えるなら、バーゲンセールじゃないか」
僕は鍵を握りしめ、力を込めるフリをした。
「さあ、どうする?
3秒以内に決断しろ。
さもなければ、この鍵をへし折ってトイレに流すぞ。
そうなれば、君たちの管理責任問題だ」
「3」
「ま、待て!」
「2」
「わかった! 本部に確認する!」
「1」
「承認します! 条件を呑みます!!」
司会者が悲鳴に近い声で叫んだ。
『取引成立(ディール・ダン)』
僕はニヤリと笑い、鍵と羊皮紙を司会者に投げ渡した。
「賢明な判断だ」
直後、天井のモニターに数字が表示される。
【入金確認:+7,000,000,000円】
【能見貞治・両腕切断:キャンセル】
「た、助かったぁぁぁ……!」
能見がその場に崩れ落ち、号泣する。
彼の両腕は繋がったままだ。
そして、僕の負債総額カウンターが、凄まじい勢いで減っていく。
-62億から、一気にプラスへ転じる――
かと、思われた。
ピピッ。
カウンターが止まる。
【現在負債総額:-143,508,542円】
「……あれ?」
能見が涙を拭いて顔を上げる。
「芥川さん、借金が……まだ1億4000万残ってますよ?」
「ああ。計算通りだ」
僕は平然と答えた。
「70億入金させたが、全額は返済に充てていない。
意図的に『借金』を残した」
「は? なんで!?」
「忘れたのか?
借金がゼロになれば、僕は『用済みの人間』として、運営に消される可能性がある。
だから、ギリギリ殺されないライン……『1億の小口債務者』として生き残る道を選んだ」
これぞ、生存戦略。
70億という巨額を手にしても、決して完済はしない。
借金という名の「命綱」を握り続ける。
「……ククッ、ハハハハ!」
治療ドローンに右目を塞がれた西園寺が、狂ったように笑い出した。
「面白い! 最高だ芥川馨!
神の座を捨てて、あえて『借金持ち(スレイブ)』に戻るとはね!
その度胸、気に入ったよ!」
西園寺は立ち上がり、僕の方へ歩いてきた。
殺気はない。
あるのは、歪んだ親愛の情だ。
「次は負けないよ。
私の新しい『目』が馴染むまで、首を洗って待ってな」
彼はそう言い残し、会場を去っていった。
『第3ステージ終了。
生存者:芥川馨、能見貞治、歪、西園寺レオ……他12名』
バベルの塔の最上階。
夜明けの光が差し込んでくる。
僕たちは生き残った。
70億の借金を返済し(あえて少し残し)、狂気のオークションを制圧した。
「帰ろう、歪。
今日は疲れた」
「はい! 芥川さん!」
歪が満面の笑みで抱きついてくる。
その笑顔には、一点の曇りもない「幸福な黄金色」が宿っていた。
だが、僕は知っている。
運営が、このまま大人しく引き下がるはずがないことを。
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