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第1話 抽卵
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「おいババア、五千円。早くしろよ、時間がねえんだ」
俺、久馬俊弘(くまとしひろ)、23歳。
実家のリビングで、パートに出ようとする母親の財布から野口英世をひったくる。
「俊弘、あんた少しは働きなさいよ……」
母親の情けない声を背中で無視し、俺はサンダルを突っかけて家を出た。
俺の戦場は、駅前の『パーラー・オアシス』。
だが、最近の戦場は居心地が最悪だ。
「全席禁煙」。入り口に貼られたそのステッカーを見るたび、俺は舌打ちをする。
タバコも吸えねえパチンコ屋なんて、クリープの入ってないコーヒー以下だ。喫煙所まで行くのが面倒で、俺は常にイライラしながらハンドルを握っている。
いつもの1円パチンココーナー。ここが俺の指定席だ。
奪い取った五千円をサンドにねじ込む。
投資二千円。血管にニコチンが足りていないせいで、貧乏ゆすりが止まらない。
その時だった。
ギュイイイン! とけたたましい音が鳴り響き、台枠が真っ赤に発光した。
激アツだ。信頼度90%オーバーの最強リーチ。
もらった。これで勝って、帰りにタバコをワンカートン買ってやる。
俺は息を止めて画面を見つめた。
だが、画面の中の勇者は、敵の攻撃にあっけなく倒れた。
復活演出もない。次回転が静かに回り始める。
「は……? 嘘だろ」
プツン、と頭の中で何かが切れた。
「ふざけんなよ! 遠隔だろこれェ!!」
ドガンッ!!
俺は右拳をガラス面に叩きつけた。
直後、台が「ブーッ」と不快な警告音を上げ、玉が飛ばなくなる。
殴った衝撃でハンマーがズレたのか、玉詰まりだ。
「チッ……クソが」
呼び出しボタンを乱暴に連打する。
イライラが頂点に達し、ポケットの中の箱を握りつぶしそうになった時だった。
「お待たせいたしました」
やってきたのは、小柄な女店員だった。
ネームプレートには『小鳩』。
俺と同じくらいの歳だろうか。身長は150センチあるかないか。制服のサイズが少し大きいのか、華奢な体が布の中で泳いでいるように見える。リスかハムスターのような、愛くるしい顔立ちだ。
「玉詰まりだ。早くしろ」
「はい、失礼します」
彼女は鍵を取り出し、俺の目の前で台のガラス扉をガチャリと開けた。
最近の店員は膝をついて接客する奴が多いが、彼女は立ったままだ。
俺は椅子にふんぞり返り、作業する彼女を見上げた。
台の中を覗き込む彼女の体が、俺の目の前に迫る。
立ったまま前傾姿勢になったせいで、制服のベストが引っ張られ、慎ましい胸の膨らみが強調されている。
核心部を覗き込むようなその姿勢で、彼女の小さな尻が俺の目の前でわずかに揺れる。
ふわり、と甘い匂いがした。
タバコの臭いが染み付いた俺の肺が、驚くほど澄んだ香りで満たされる。
シャンプーか? いや、もっとこう、脳髄を直接撫でられるような、雌の匂いだ。
イライラしていたはずなのに、俺の股間がズクリと疼いた。
ヤニ切れの禁断症状と、目の前の無防備な小動物。
この細い首を掴んで、狭い喫煙所に連れ込んだら……。
最低な妄想が頭をよぎった時、彼女が作業の手を止めた。
「……お客様」
彼女は台の中に顔を突っ込んだまま、視線だけを俺に向けた。
パッチリとした大きな瞳。だが、その奥は笑っていない。どこか熱っぽく、それでいて冷徹な光を宿している。
「あ? 直ったのかよ」
「俊弘さん」
心臓が跳ねた。
なぜ名前を知っている? 会員カードも作っていないのに。
彼女は周りの騒音にかき消されるほどの小声で、信じられないことを囁いた。
「貴方、すごく『濃い』ですね」
「は……?」
「タバコ、我慢してるでしょ? そのストレスと、負けた悔しさと……童貞特有の煮詰まった欲望。匂いで分かります」
彼女はマスク越しに鼻を鳴らし、スゥーっと俺の匂いを嗅ぐような仕草をした。
まるで獲物の品定めをする肉食獣だ。
「この台, もう当たりませんよ。設定L(最低設定)ですから」
「なっ……ふざけんな!」
「でも、私なら『大当たり』させてあげられます」
小鳩は、台の内部にある配線を弄りながら、俺にだけ聞こえる声で続けた。
「今夜22時。私が閉店作業で裏口のゴミ出しをする時、そこに来てください」
彼女は意味ありげに俺の股間を一瞥し、妖艶に目を細めた。
その目は、俺を客として見ていない。ただの『餌』として見ていた。
「お金なんて要りません。貴方のそのパンパンに溜まったストレス、私の体の中に全部ぶちまけてください。……一滴残らず、私の人生(いのち)の糧にしてあげますから」
カチャン。
彼女が扉を閉めた瞬間、俺の頭の中はパチンコのことなど消し飛んでいた。
残されたのは、鼻腔にこびりついた甘い匂いと、約束の時間への抗いがたい渇望だけだった。
俺、久馬俊弘(くまとしひろ)、23歳。
実家のリビングで、パートに出ようとする母親の財布から野口英世をひったくる。
「俊弘、あんた少しは働きなさいよ……」
母親の情けない声を背中で無視し、俺はサンダルを突っかけて家を出た。
俺の戦場は、駅前の『パーラー・オアシス』。
だが、最近の戦場は居心地が最悪だ。
「全席禁煙」。入り口に貼られたそのステッカーを見るたび、俺は舌打ちをする。
タバコも吸えねえパチンコ屋なんて、クリープの入ってないコーヒー以下だ。喫煙所まで行くのが面倒で、俺は常にイライラしながらハンドルを握っている。
いつもの1円パチンココーナー。ここが俺の指定席だ。
奪い取った五千円をサンドにねじ込む。
投資二千円。血管にニコチンが足りていないせいで、貧乏ゆすりが止まらない。
その時だった。
ギュイイイン! とけたたましい音が鳴り響き、台枠が真っ赤に発光した。
激アツだ。信頼度90%オーバーの最強リーチ。
もらった。これで勝って、帰りにタバコをワンカートン買ってやる。
俺は息を止めて画面を見つめた。
だが、画面の中の勇者は、敵の攻撃にあっけなく倒れた。
復活演出もない。次回転が静かに回り始める。
「は……? 嘘だろ」
プツン、と頭の中で何かが切れた。
「ふざけんなよ! 遠隔だろこれェ!!」
ドガンッ!!
俺は右拳をガラス面に叩きつけた。
直後、台が「ブーッ」と不快な警告音を上げ、玉が飛ばなくなる。
殴った衝撃でハンマーがズレたのか、玉詰まりだ。
「チッ……クソが」
呼び出しボタンを乱暴に連打する。
イライラが頂点に達し、ポケットの中の箱を握りつぶしそうになった時だった。
「お待たせいたしました」
やってきたのは、小柄な女店員だった。
ネームプレートには『小鳩』。
俺と同じくらいの歳だろうか。身長は150センチあるかないか。制服のサイズが少し大きいのか、華奢な体が布の中で泳いでいるように見える。リスかハムスターのような、愛くるしい顔立ちだ。
「玉詰まりだ。早くしろ」
「はい、失礼します」
彼女は鍵を取り出し、俺の目の前で台のガラス扉をガチャリと開けた。
最近の店員は膝をついて接客する奴が多いが、彼女は立ったままだ。
俺は椅子にふんぞり返り、作業する彼女を見上げた。
台の中を覗き込む彼女の体が、俺の目の前に迫る。
立ったまま前傾姿勢になったせいで、制服のベストが引っ張られ、慎ましい胸の膨らみが強調されている。
核心部を覗き込むようなその姿勢で、彼女の小さな尻が俺の目の前でわずかに揺れる。
ふわり、と甘い匂いがした。
タバコの臭いが染み付いた俺の肺が、驚くほど澄んだ香りで満たされる。
シャンプーか? いや、もっとこう、脳髄を直接撫でられるような、雌の匂いだ。
イライラしていたはずなのに、俺の股間がズクリと疼いた。
ヤニ切れの禁断症状と、目の前の無防備な小動物。
この細い首を掴んで、狭い喫煙所に連れ込んだら……。
最低な妄想が頭をよぎった時、彼女が作業の手を止めた。
「……お客様」
彼女は台の中に顔を突っ込んだまま、視線だけを俺に向けた。
パッチリとした大きな瞳。だが、その奥は笑っていない。どこか熱っぽく、それでいて冷徹な光を宿している。
「あ? 直ったのかよ」
「俊弘さん」
心臓が跳ねた。
なぜ名前を知っている? 会員カードも作っていないのに。
彼女は周りの騒音にかき消されるほどの小声で、信じられないことを囁いた。
「貴方、すごく『濃い』ですね」
「は……?」
「タバコ、我慢してるでしょ? そのストレスと、負けた悔しさと……童貞特有の煮詰まった欲望。匂いで分かります」
彼女はマスク越しに鼻を鳴らし、スゥーっと俺の匂いを嗅ぐような仕草をした。
まるで獲物の品定めをする肉食獣だ。
「この台, もう当たりませんよ。設定L(最低設定)ですから」
「なっ……ふざけんな!」
「でも、私なら『大当たり』させてあげられます」
小鳩は、台の内部にある配線を弄りながら、俺にだけ聞こえる声で続けた。
「今夜22時。私が閉店作業で裏口のゴミ出しをする時、そこに来てください」
彼女は意味ありげに俺の股間を一瞥し、妖艶に目を細めた。
その目は、俺を客として見ていない。ただの『餌』として見ていた。
「お金なんて要りません。貴方のそのパンパンに溜まったストレス、私の体の中に全部ぶちまけてください。……一滴残らず、私の人生(いのち)の糧にしてあげますから」
カチャン。
彼女が扉を閉めた瞬間、俺の頭の中はパチンコのことなど消し飛んでいた。
残されたのは、鼻腔にこびりついた甘い匂いと、約束の時間への抗いがたい渇望だけだった。
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