【R18】子宮の奴隷

葉山 乃愛

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第26話 降誕

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ズズズズズ……ッ。

地響きと共に、アジトの上空を鉛色の雲が覆い尽くした。
嵐の前触れではない。無数のヘリコプターの回転音が、重低音となって空気を震わせているのだ。
評議会の本気。
奴らはこの聖域を、地図ごと消し去るつもりだ。

「俊弘さん! 来たわ! 上空から降下部隊……いいえ、あれは!」

マリアが窓の外を指差し、絶句した。
ヘリから投下されたのは、兵士ではない。巨大な黒いコンテナだった。
ドォォォン!!
庭の中央にコンテナが突き刺さり、土煙が舞い上がる。
プシューッという排気音と共に装甲が開くと、中から現れたのは、悪夢を具現化したような異形だった。

身長3メートルを超える巨躯。全身を黒い強化外骨格で覆い、右腕には巨大なガトリング砲、左腕には単分子カッターの爪。
そして何より異様なのは、その頭部だ。目も鼻もなく、ただ無数のセンサーが赤く明滅している。

「『タイラント』……! 評議会が封印していた、対要塞用・生物兵器よ! あんなものを市街地近くで使うなんて正気じゃない!」

「なりふり構っていられないってことだろ」

俺はイヴの手を握りしめた。
彼女はベッドの上で、苦悶の表情を浮かべている。額には玉のような汗が浮かび、呼吸が浅く、速い。

「んっ、ぐぅ……! あぁぁぁ……ッ!」

「イヴ、しっかりしろ!」

「パパ……来る……! あの子が……外に出たがってる……!」

イヴの下腹部が激しく波打ち、黄金色の光が部屋全体を照らし始めた。
陣痛だ。それも、ただの出産じゃない。核融合炉が臨界点を超えようとしているような、爆発的なエネルギーの奔流。

「玲子、マリア! イヴから離れるな! あのデカブツは俺が止める!」

「ご主人様! ご武運を!」

俺はテラスから飛び出し、巨人の前へと立ちはだかった。
タイラントのセンサーが俺を捉え、ガトリング砲が回転を始める。

「邪魔なんだよ、鉄屑がぁッ!!」

俺は咆哮と共に地面を蹴った。
ダダダダダッ!!
銃弾の豪雨が俺を襲う。だが、今の俺は止まらない。
弾丸を皮膚で弾き、衝撃を筋肉で殺す。
距離を一瞬で詰め、奴の懐に潜り込む。

「オラァッ!!」

俺の右拳が、タイラントの胴体に突き刺さった。
ドガァァン!!
装甲がひしゃげ、巨体が数メートル後退する。
だが、倒れない。奴は姿勢を制御すると、左腕の爪を振り下ろしてきた。
速い。

キィン!!
俺は咄嗟に瓦礫を盾にしたが、豆腐のように切り裂かれた。
その隙に、タイラントの鋼鉄の蹴りが俺の脇腹を捉える。

「ぐはッ……!」

俺は吹き飛ばされ、別荘の壁に叩きつけられた。
強い。今まで戦ったサイボーグや警備ロボットとは次元が違う。
痛みで意識が飛びそうになるが、背後の部屋から聞こえるイヴの悲鳴が、俺を現実に引き戻す。

「あぁぁぁぁーーッ!! 裂けるぅぅッ!!」

「イヴッ!!」

タイラントは俺にとどめを刺そうとせず、標的をイヴのいる部屋へと変更した。
感知しているのだ。最大の脅威が、あの胎内にいることを。

「させるかよ……ッ!」

俺は血を吐きながら立ち上がった。
足が震える。だが、ここで倒れるわけにはいかない。
俺は父親だ。妻と子が命懸けで戦っている最中に、寝ている暇なんてねえ!

「うおぉぉぉぉッ!!」

俺は全精力を右腕に集中させた。筋肉が異常膨張し、血管が破裂寸前まで浮き上がる。
タイラントが壁を破壊しようと爪を振り上げた瞬間。

オギャァァァァァァァァーーーーッ!!!!

世界が、白一色に染まった。

赤ん坊の泣き声。
だがそれは、鼓膜を震わせる空気の振動ではなかった。
空間そのものをねじ曲げ、物質を原子レベルで分解する、破壊の波動。

「な……!?」

俺の目の前で、信じられない光景が繰り広げられた。
最強の生物兵器タイラントの装甲に亀裂が走り、次の瞬間、内側から光が溢れ出したかと思うと、砂のように崩れ去ったのだ。
一撃。
産声一つで、怪物が消滅した。

嵐が止んだ。
雲が割れ、神々しい朝日が別荘に差し込む。
静寂の中、俺はおそるおそる寝室へと戻った。

部屋の中は、金色の粒子が舞っていた。
ベッドの上で、イヴが荒い息を吐きながら、胸に抱かれた小さな「命」を見つめている。
玲子とマリアが、涙を流してその場に平伏していた。

「……産まれたのか?」

俺が声をかけると、イヴがゆっくりと顔を上げた。
その表情は、慈愛に満ちた聖母そのものだった。

「ええ……。見て、貴方。……私たちの、希望よ」

俺は震える手で、その赤ん坊を抱き上げた。
男の子だ。
まだ羊水に濡れているが、その肌は白く輝き、瞳は俺と同じ、深い闇と炎を宿した黒色。そして、小さな額には、王冠のような形のアザが微かに光っていた。

「……よう。初めまして、俺の息子」

俺が指を差し出すと、赤ん坊はそれを小さな手でギュッと握り返してきた。
凄い力だ。指の骨が軋むほどに。
そして、赤ん坊はニヤリと笑った。
まるで、「パパ、遅いよ」とでも言うように。

「……ははっ。こいつは将来、大物になるぜ」

俺の中に、愛おしさと同時に、底知れない畏怖が湧き上がった。
この子は人間じゃない。かといって、ただの怪物でもない。
世界を統べるために生まれてきた、正真正銘の「王」だ。

マリアが震える声で告げた。

「……計測不能。この子の潜在能力は、イヴと俊弘さんの合計値を遥かに超えているわ。……評議会なんて、もう敵じゃない」

俺は息子を高々と掲げた。
朝日に照らされたその姿は、あまりにも神々しく、そして凶悪だった。

「聞いたか、世界。……新しい支配者のお出ましだ」

評議会との戦争? もう勝負はついたようなもんだ。
俺たち「最強の家族」が、この腐った世界を更地にして、新しい楽園を作ってやる。

子宮の奴隷から始まった俺の物語は、ここから「王の伝説」へと変わる。
俺の確変は、永遠に終わらない。

(第一部・完)
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