日本でモブだった俺、レベルの低すぎる異世界では「顔面国宝」兼「全知の賢者」らしい

葉山 乃愛

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第9話 学園一のアイドルに「色仕掛け」をされたので、リボンを綺麗に結んであげました

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(負けられませんわ……!)

放課後の茶道室。
私、白雪ミアは、茶釜の湯が沸く音を聞きながら、自身の高鳴る鼓動を抑え込んでいました。

昨日の「ドア開け事件」以来、私の心は平沢拓海様で埋め尽くされています。
あのような気高く、慈愛に満ちた殿方は、この世界に二人といません。

ですが、ライバルは強力です。
あの古賀陽菜さん。彼女はあろうことか、拓海様の腕に胸を押し付けるという、破廉恥極まりない攻撃を仕掛けていました。
悔しいですが、殿方はああいう「直接的な誘惑」に弱いと聞きます。

(私には、家柄も品性もあります。ですが……「女」としての武器を使わなければ、あの方を振り向かせることはできないのかもしれません)

私は決意しました。
今日、この密室で、拓海様に私の全てをお見せするのです。
そのために、侍女から没収した『男性を虜にする100のテクニック(庶民向け)』という怪しげな本も熟読してきました。

コンコン。

「失礼します。……白雪さん? 呼ばれたから来たんだけど」

「お、お待ちしておりました! さあ、どうぞ中へ!」

私は拓海様を招き入れ、すかさず背後の障子を閉めました。
密室。二人きり。
畳の匂いと、私の甘い香水の香りが混じり合う空間。

拓海様は正座し、不思議そうな顔で私を見ています。

「それで、話ってなに?」

「は、はい……。その、お茶を点てましたので」

私は震える手で、お茶碗を差し出しました。
ですが、ただ飲むだけではいけません。
あのアドバイス本にはこう書いてありました。
『男はチラリズムに弱い。普段隠されている部分を見せるべし』と。

私は覚悟を決めました。
清楚の象徴である私にとって、これは清水の舞台から飛び降りるほどの暴挙。
ですが、拓海様のためなら……!

「……拓海様。暑くは、ありませんか?」

「え? まあ、ちょっと蒸すかな」

「でしたら……少し、着崩してもよろしいでしょうか……?」

私はゆっくりと、制服のブラウスの第一ボタンに手をかけました。
そして、胸元のリボンを、あえて「ゆるり」とほどいたのです。

スルリ……。

赤に染まった私の顔。
露わになった、白く華奢な鎖骨。
そして、乱れたリボン。
完璧なアイドルである私の、あられもない「隙」。

(どうですか、拓海様……! これが私の、精一杯の「誘惑」ですわ!)

私は上目遣いで、潤んだ瞳を拓海様に向けました。
さあ、理性を失って、私を押し倒してくださいませ……!

しかし、拓海様の反応は予想外でした。

「あー……」

彼は困ったように眉を下げ、ため息をついたのです。

「ダメだよ、白雪さん」

「えっ……?」

「リボン、ほどけてるよ。だらしない格好は、君の品格を落とすことになる」

拓海様はスッ、と私に近づきました。
そして、私の胸元に手を伸ばし――。

「え、あ、あの……!?」

(まさか、このまま服を脱がされるのですか!? いきなり!? キャァァァッ♡)

私が目をギュッと瞑って身を硬くした、その時でした。
首元に、キュッ、という心地よい締め付けを感じました。

「……ん、これでよし」

目を開けると、そこには満足げに微笑む拓海様の顔がありました。
そして私の胸元を見ると、ほどきかけたリボンが、見たこともないほど美しく、左右対称の完璧な形で結び直されていたのです。

「き、これは……?」

「日本……いや、私の故郷の結び方だよ。ほどけにくくて、見た目も綺麗だろ?」

「……ッ!!」

電流が走りました。
誘惑しようとした私を諌め、あまつさえ、その「神の指先」で私の乱れを正したのです。
しかも、この複雑怪奇で美しい結び目……。

(これは……『拘束』……!?)

私の妄想が爆発しました。
彼は言葉ではなく、行動で示したのです。
『お前は乱れるな。俺の色に染まり、俺に縛られていろ』と。
私の胸元にあるこのリボンは、拓海様が私にかけた「首輪」であり「所有の証」……!

「はぁぁぁ……っ♡」

私はその場で崩れ落ち、熱い吐息を漏らしました。
なんて……なんてサディスティックで、独占欲の強いお方なのでしょう!
色仕掛けをした私が恥ずかしくなるほど、彼は一枚も二枚も上手でした。

「白雪さん? 大丈夫? やっぱり暑かった?」

「いいえ……! いいえ!!」

私は涙目で拓海様の手を握り締めました。

「一生……一生ほどきません! このリボンは、私の宝物にします! お風呂に入る時も、寝る時も、絶対にこの結び目は守り抜きますわ!」

「いや、それは不衛生だからほどいて?」

「愛しています、拓海様……! あなたの『戒め』に、私は永遠に囚われます……!」

私は恍惚の表情で、綺麗に結ばれたリボンを胸に抱きしめました。
どうやら私の色仕掛けは失敗しましたが、代わりに「一生の愛の契約」を結んでいただけたようです。
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