【生存確率0%】S級ダンジョンのボス部屋で、唯一表示された「生存ルート」が『ボス(美少女)にプロポーズすること』だった件。

ひふみ黒

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第3話 魔王様、初めての牛丼

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「いらっしゃいませー。何名様ですか?」

「……二名で」

店員の気の抜けた声に、俺は震える声で答えた。
駅前の牛丼チェーン店『ヨシノヤ』。
カウンター席だけの狭い店内に、俺と、黒いドレスの美少女(世界を滅ぼすドラゴン)が並んで座る。

シュールすぎる。
周囲の客が、ルナの浮世離れした美貌に釘付けになっている。
だが、彼らは知らない。
彼女がくしゃみを一つすれば、この街が地図から消えることを。

「ダーリン、ここは本当に王族の隠れ家なの?」

ルナがキョロキョロと店内を見回す。

「ああ、そうだ。この『狭さ』こそが、選ばれし者しか入れない証拠なんだ」

俺は嘘を重ねた。
なぜなら、そう言わないと生存確率が下がるからだ。

【A:「ごめん、ただのファストフードだ」と明かす】
→ 生存確率:15.00%(「私をこんな場所に連れてきたの?」と不機嫌になり、店が半壊する)

【B:「ここが日本で一番うまい店だ」と堂々と言い切る】
→ 生存確率:100.00%

「へぇ……! さすがダーリン。お店の選び方も素敵ね」

ルナは目を輝かせた。チョロい。
いや、チョロくて助かった。

「お待たせしましたー。牛丼特盛、つゆだく二つです」

ドンッ。
湯気を立てる丼が、二人の前に置かれる。
茶色く煮込まれた牛肉。甘辛い匂い。
ルナがゴクリと喉を鳴らした。

「これが……王の食事……」

彼女は恐る恐る箸を手に取り(使い方がやけに上手い)、肉を口に運んだ。

パクり。
モグモグ……。

俺は息を呑んで見守った。
気に入らなかったらどうしよう。ブレスで店ごと焼却処分とか言われたら、俺の財布じゃ弁償できない。

カッッッ!!!

ルナが目を見開いた。
その背後に、幻影の翼がバサァッと広がるのが見えた気がした。

「……美味(うま)っ!!!!」

「え?」

「な、なによこれ!? 甘くて、脂がトロトロで、この白い穀物と絡み合って……! ダンジョンの生肉と全然違うわ!!」

ルナは猛烈な勢いで牛丼をかき込み始めた。
ガツガツガツッ!
美少女にあるまじき吸引力だ。

「ダーリン! これ、最高よ! 人間界にはこんな魔性の食べ物があったのね!」

「そ、そうか。気に入ってくれてよかった」

【ルナの好感度が上昇しました】
【生存確率が安定しました】

俺はホッと胸を撫で下ろした。
と同時に、俺のスマホの通知音が鳴り止まないことに気づく。

チラリと画面を見る。
配信のコメント欄が、まだ祭り状態だった。

:おい見ろよ、魔王が牛丼食ってるぞwww
:特盛つゆだくwww
:しかもめっちゃ美味そうに食うじゃん
:この美少女、本当にS級ボスか?
:カズトって奴、魔王を牛丼で餌付けしやがった
:庶民派英雄すぎるだろwww

世界中の視聴者が、このシュールな光景に爆笑し、同時に俺への評価を勝手に上げている。
「魔王をファストフードに連れて行く度胸がある男」として。
違う。金がなかっただけだ。

その時だった。
俺のスマホに、一件の着信が入った。
表示名は『勇者アルド』。
俺を追放した張本人だ。

「……チッ」

俺は舌打ちした。
今さら何の用だ。
出ないと面倒なことになりそうなので、通話ボタンを押す。

『――おい、カズトォォォッ!!』

耳をつんざくような怒鳴り声。

『てめぇ、生きてやがったのか! しかもなんだあのふざけた配信は! 合成動画流してんじゃねえぞ!』

「……合成じゃないですよ。事実です」

『うるせえ! S級ボスを手懐けた? Fランクのゴミが調子に乗るな! 今すぐその配信を切って、ギルドに出頭しろ! 「私は詐欺師です」って土下座すれば、俺のパーティーに雑用として戻してやっても――』

その瞬間。
隣で牛丼を食べていたルナの手が、ピタリと止まった。

店内の気温が、一気に氷点下まで下がる。
ルナがゆっくりと、俺のスマホを覗き込んだ。

「……ねえ、ダーリン?」

鈴を転がすような、しかし絶対零度の声。

「その『雑音』は、なぁに?」

【緊急選択肢発生】

【A:勇者との電話だと正直に言う】
→ 生存確率:50.00%(ルナが電話越しに魔法を放ち、勇者が爆死。俺も共犯で指名手配される)

【B:電話を切って誤魔化す】
→ 生存確率:0.00%(「私に隠し事?」と疑われ、監禁ルート)

【C:スマホをスピーカーにして、ルナに一任する】
→ 生存確率:99.99%

俺は無言でスピーカーボタンを押し、スマホをルナに渡した。

『あ? なんだ無言かよ! おいカズト、聞いてんのか! その合成女も連れてこいよ、俺たちが「教育」してやるからな! ギャハハ!』

勇者の下品な笑い声が響く。
ルナは無表情のまま、スマホに向かって一言だけ呟いた。

「――消えなさい、下等生物」

ドォォォォォォォンッ……!!

電話の向こうで、凄まじい爆音がした。
続いて、ガラスが割れる音と、勇者の悲鳴。

『うわあああっ!? な、なんだ!? 窓の外から雷が……!? ギャアアアアッ!』

プツン。
通話が切れた。

俺は呆然とルナを見た。
彼女は何事もなかったようにスマホを俺に返し、ニコリと微笑んだ。

「虫が鳴いていたから、ちょっと黙らせておいたわ。……遠隔魔法で、彼らのホテルの部屋に『天罰』を落としただけ。死んではいないと思うけど?」

「……あ、ありがとうございます」

恐ろしい。
牛丼食べながら、指先一つ動かさずに勇者パーティーを半壊させやがった。

コメント欄が、再び爆発する。

:えっ
:今、勇者の声しなかった?
:悲鳴聞こえたぞwww
:この美少女、ガチで魔法撃ちやがった……
:遠隔魔法ってレベルじゃねーぞ!!
:勇者ざまぁwwwww
:カズトの嫁、最強すぎるだろ

「さあ、ダーリン。お腹もいっぱいになったし……次は『お家』に行きましょう?」

ルナが俺の腕に絡みつき、上目遣いで囁く。
その瞳は、牛丼の時よりも熱っぽく、俺を求めていた。

「今日からは、ずっと一緒よ。……朝まで、たーっぷり可愛がってあげる♡」

【選択肢発生】

【A:狭いボロアパートに連れ込む】
→ 生存確率:100.00%(ただし、腰が砕ける確率:98%)

俺は覚悟を決めた。
どうやら今夜は、ダンジョンよりも過酷な戦いになりそうだ。
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