借金返済の為、ヤンデレ彼女とデスゲームに参加してみた【彼女が強すぎて運営が涙目】

ひふみ黒

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第2話 共犯者の体温

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まぶたの裏で、心臓が早鐘を打っていた。

銀色の蓋を持ち上げる指先が、微かに震える。

時間は引き延ばされたゴムのように、一瞬を永遠に変えていた。

僕は覚悟を決めて、トレイの中身を露わにする。

そこにあったのは。

鈍い光を放つ、一枚の金貨だった。

呼吸が止まる。

次いで、肺の奥から熱い安堵が押し寄せてきた。

正解だ。

僕は生きている。

対面の席で、中年男がチッ、と舌打ちをした。

運のいいガキだ、と吐き捨てるように言う。

嘘ではなかったのか。

彼らは「右を開けな」と言った。

敵である彼らが、なぜ僕を救うような真実を口にしたのか。

いや、違う。

彼らは僕の性格を見抜いていたのだ。

僕が論理的で、疑り深い人間だと瞬時に判断した。

だからこそ、あえて真実を告げたのだ。

「右が正解だ」と言えば、僕が裏をかいて「左」を選ぶと計算して。

もし僕が自分の思考だけで判断していたら、間違いなく左を選んで死んでいた。

僕を救ったのは、論理ではない。

アイリの指だ。

彼女の指先が伝えた「右」という信号だけが、この二重三重の心理戦を無効化したのだ。

おめでとうございます。

支配人キルケゴールの拍手が、虚ろに響く。

第一ゲーム、勝者はタクヤ様とアイリ様のペア。

賞金の加算と同時に、敗者である中年カップルの足元の床が、音もなく開いた。

悲鳴を上げる間もなかった。

彼らは椅子ごと暗闇へと吸い込まれ、重い音を立てて再び床が閉じた。

静寂。

これが脱落か。

死んだのか、それとも別の場所に落とされただけなのか。

誰にもわからない。

ただ、このゲームがごっこ遊びではないことだけは、骨の髄まで理解できた。

ゲーム終了後、僕たちはあてがわれた個室に戻った。

豪華だが、どこか独房を思わせる部屋だ。

窓はなく、空調の低い音だけが響いている。

アイリ。

僕はソファに沈み込んだ彼女に声をかけた。

彼女は青ざめた顔で、震える両手を握りしめている。

どうして、わかったんだ。

僕の問いに、アイリはゆっくりと顔を上げた。

瞳が濡れている。

わからなかったよ。

震える声で彼女は言った。

ただ、あの人たちの目が、すごく悲しそうだったから。

悲しそう?

うん。嘘をついている人の目じゃなかった。だから、信じてみようと思ったの。タクヤくんを助けるには、それしかなかった。

直感。

あるいは、純粋すぎる善意。

彼女らしい答えだ。

僕が知っているアイリは、道端の花が枯れているだけで涙を流すような女性だ。

人を疑うことを知らない。

だからこそ、あの場面で敵を信じることができた。

理屈は通る。

だが、僕の中の何かが警鐘を鳴らし続けていた。

あの指の動き。

僕の膝の上で文字を綴った、あの機械的なリズム。

あれは本当に、恐怖に震える女性の指だったのか。

それに。

僕は記憶を巻き戻す。

中年男が「右を開けな」と言った時、彼らの目が悲しそうだったか?

僕には、獲物を甚振るような嗜虐的な色しか見えなかった。

アイリには、僕に見えないものが見えていたのか。

それとも、見えていないふりをしていたのか。

ねえ、タクヤくん。

アイリが立ち上がり、僕の胸に顔を埋めてきた。

怖かった。私、タクヤくんがいなくなったら、生きていけない。

彼女の体温が、シャツ越しに伝わってくる。

甘いシャンプーの香り。

華奢な背中に腕を回すと、彼女はすがるようにしがみついてきた。

その温もりはあまりにも生々しく、愛おしい。

僕は彼女を疑っている自分を恥じた。

彼女は命がけで僕を救ってくれたのだ。

共犯者である彼女を疑ってどうする。

この地獄のようなゲームで生き残るには、彼女を信じ抜くしかないはずだ。

ありがとう。

僕は彼女の髪を撫でながら囁いた。

君のおかげで助かったよ。

アイリは答えず、ただ僕のシャツを強く握りしめた。

その時。

部屋のモニターが突然点灯し、不快なノイズが走った。

画面には、再びあの仮面の男、キルケゴールが映し出されている。

愛し合うお二人の休息を邪魔して申し訳ありません。

男は楽しげに言った。

ですが、先ほどのゲームには、皆様にお伝えしていない裏ルールがございまして。

裏ルール?

僕はアイリから体を離し、画面を睨みつける。

先ほどの毒と蜜のゲーム。実は、敗者となったペアには、事前にこんな取引を持ちかけていました。

キルケゴールが指を鳴らす。

画面が切り替わり、先ほどの中年カップルが別室でインタビューを受けている映像が流れた。

ゲーム開始前の映像だ。

男がカメラに向かって、卑屈な笑みを浮かべている。

ええ、わかってますよ。もし相手のカップルを正解の金貨に誘導できたら、俺たちの借金を半分免除してくれるんでしょう?

は?

僕は耳を疑った。

つまり、彼らにとっての勝利条件は、僕たちを殺すことではなく、僕たちを生かすことだったのか。

だとしたら、彼らが真実を告げたのは当然だ。

心理戦でも裏の裏でもなんでもない。

ただの利害の一致だ。

だが、待て。

それなら、なぜアイリはあんな指文字を送ってきた?

右を開けて。

彼女は、彼らが嘘をついていないと「直感」で感じたと言った。

しかし、もし彼女が、この裏ルールを最初から知っていたとしたら?

映像の中の男が続ける。

それにしても、相手の女の方、可愛い顔してとんだ食わせ物だな。

え?

男が画面の向こうの誰かに話しかけている。

開始前にすれ違った時、ウインクしてきやがったぜ。『私の彼は疑り深いから、正直に言った方がいいわよ』ってな。

映像がプツンと切れた。

部屋に、重苦しい沈黙が落ちる。

僕はゆっくりと首を巡らせ、アイリを見た。

彼女は先ほどと変わらず、頼りなげな表情で立ち尽くしている。

今の、聞いたか?

僕の声は、自分で思うよりも乾いていた。

アイリは小首をかしげ、不思議そうに僕を見つめ返した。

何のこと?

その瞳は、やはり底のない湖のように静かで、恐ろしいほどに透明だった。




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