借金返済の為、ヤンデレ彼女とデスゲームに参加してみた【彼女が強すぎて運営が涙目】

ひふみ黒

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第6話 天使の寝息と、悪魔の所持品

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深夜二時。

豪奢なキングサイズのベッドに、静寂だけが横たわっている。

隣で眠るアイリの呼吸は、驚くほど穏やかだった。

スー、スー、と小さな胸が上下するたびに、甘い香りが漂ってくる。

月明かりに照らされた彼女の寝顔は、宗教画に描かれる天使そのものだ。

数時間前に一組の夫婦を死に追いやった人間とは、到底思えない。

僕は、どうしても眠ることができなかった。

目を閉じると、あのサカキバラ教授の断末魔が蘇る。

そして、アイリが皿の上のソースを拭った時の、あの冷ややかな微笑みが脳裏に焼き付いて離れない。

僕は音を立てないように体を起こし、ベッドを抜け出した。

喉が渇いたふりをして、ミニバーの水を取る。

冷たい水を流し込んでも、胃の奥の熱い塊は消えない。

ふと、部屋の隅にあるドレッサーに目が止まった。

そこには、アイリのハンドバッグが無造作に置かれている。

普段の僕なら、恋人のプライバシーを侵害するような真似は絶対にしない。

だが、今は非常事態だ。

このゲームのルールは「パートナーを信じること」。

だが、信じるためには「信じるに足る根拠」が必要だ。

僕は、まるで泥棒のように足音を忍ばせ、ドレッサーへと近づいた。

アイリの方を振り返る。

彼女は寝返りを打ち、何かを呟いた。

タクヤくん……すき……。

寝言だ。

その無防備な愛の言葉に、僕の良心が激しく痛む。

何をしているんだ、僕は。

彼女は僕を守るために汚れ役を買って出ただけかもしれないのに。

やめよう。

そう思った時だった。

バッグの口が少し開いていて、そこから見慣れない「薬瓶」のようなものが覗いているのに気づいた。

アイリは持病など持っていないはずだ。

僕は吸い寄せられるように、バッグに手を伸ばした。

指先が震える。

革の感触。

中には財布、ハンカチ、化粧ポーチ。

そして、底の方に押し込まれていた、小さなガラス瓶。

取り出して、月明かりにかざす。

ラベルはない。

中には、青と白のカプセルが数錠入っているだけだ。

睡眠薬か? 精神安定剤か?

それとも、もっと危険な何かか?

わからない。

だが、その薬瓶の下に、もう一つ、折り畳まれた紙片があるのを見つけた。

四つ折りにされた、厚手の上質紙。

嫌な予感がした。

心臓が早鐘を打つ。

僕はその紙を広げた。

そこに書かれていた文字を見た瞬間、全身の血液が逆流するような感覚に襲われた。

『警告:プレイヤーの中に、運営側に雇われたジョーカーが一人紛れ込んでいます』

あのカードだ。

サカキバラ教授が持っていたものと、一言一句違わない。

そして、僕のポケットに入っているものとも同じだ。

アイリは言った。

「私たちの部屋には届いていなかった」と。

「だから私たちはジョーカーじゃない」と。

嘘だ。

届いていたんじゃないか。

彼女はこれを受け取り、隠し、そして平然と「届いていない」と嘘をついて、サカキバラを偽造犯に仕立て上げたのだ。

なぜ?

単にサカキバラを排除するため?

いや、違う。

もし彼女が、ただの「勝ちたいだけの参加者」なら、このカードを隠す必要はない。

むしろ「私たちにも届いたから、私たちもシロです」と主張すればよかったはずだ。

それをしなかった理由。

それは、彼女が「ジョーカーについて知られたくない事情」があるからではないか。

あるいは。

彼女自身が、この警告文の「主役」だからではないか。

指先から力が抜け、カードが床に落ちそうになるのを慌てて掴む。

真っ黒だ。

彼女は真っ黒だ。

僕が愛しているアイリは、虚構の存在だったのか?

出会った時から?

いや、もっと前から?

恐怖で呼吸が浅くなる。

その時。

背後で、衣擦れの音がした。

ビクリと体が跳ねる。

恐る恐る振り返る。

ベッドの上のアイリは、変わらず穏やかな寝息を立てていた。

ただの寝返りだったようだ。

助かった。

僕は安堵のため息をつき、カードと薬瓶を元の位置に戻そうとした。

その瞬間。

暗闇の中で、鈴が鳴るような声がした。

ねえ、タクヤくん。

心臓が止まるかと思った。

アイリは目を閉じたままだ。

寝言か?

それとも起きているのか?

何を探してるの?

はっきりとした、冷徹な口調だった。

寝言ではない。

彼女はずっと、起きていたのだ。

僕がベッドを抜け出し、バッグを漁り、証拠を見つけるまでの全てを、闇の中で観察していたのだ。

僕は凍りついたまま、動けない。

ゆっくりと、アイリが瞼を開ける。

月明かりに濡れたその瞳は、深淵のように黒く、そして楽しげに三日月型に歪んでいた。

見ちゃった?

彼女が体を起こす。

シーツが滑り落ち、白い肌が露わになる。

私の秘密。

彼女はベッドから降り、音もなく僕へと近づいてくる。

逃げ場はない。

僕は背後のドレッサーに追い詰められる。

アイリの手が、僕の頬に伸びてくる。

その手は氷のように冷たく、そして優しかった。

悪い子だね、タクヤくん。

彼女は僕の耳元で、甘く、毒を含んだ声で囁いた。

信じてって、言ったのに。



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