借金返済の為、ヤンデレ彼女とデスゲームに参加してみた【彼女が強すぎて運営が涙目】

ひふみ黒

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第10話 魂の定価表

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第三ゲーム『ポーカー・フェイスの懺悔室』が終了した。

結果は、僕たちの圧勝だった。

僕が吐き出した「親を売った過去」という汚れたカードは、この悪趣味なゲームにおいて最強の切り札となった。

チップの山が、僕たちの手元に積み上げられている。

最終獲得枚数、280枚。

参加者の中でダントツのトップだ。

対照的に、ゴンドウとミレイのペアは破産寸前まで追い込まれ、互いに罵り合いながら退場していった。

お疲れ様でした。

アンドロイドの事務的な声が響く。

獲得したチップは、この後の『ナイト・フェーズ』で使用可能な通貨となります。大切に保管してください。

通貨?

ただのスコアじゃないのか。

疑問を抱く余裕もなく、僕たちは解放された。

部屋に戻った途端、張り詰めていた糸が切れ、僕は洗面所へ駆け込んだ。

嘔吐した。

胃の中には何もない。出るのは酸っぱい胃液だけだ。

それは、自分自身の醜さに対する拒絶反応だった。

親を裏切った過去を、衆人環視の中で見世物にし、あまつさえそれで勝利を得てしまった。

そして何より、アイリから口移しされたあの「薬」。

あれが血管を巡り、僕の思考を麻痺させている感覚がたまらなく気持ち悪かった。

大丈夫? タクヤくん。

背中をさする手が、優しく、そして冷たい。

鏡越しにアイリを見る。

彼女は少しも疲れていない。むしろ、頬を紅潮させ、生き生きとして見えた。

出しちゃえば楽になるよ。悪いもの、全部。

彼女の声は、まるで母親が子供をあやすようだ。

僕が「悪いもの(良心や罪悪感)」を吐き出せば吐き出すほど、彼女は嬉しそうにする。

うがいをして、ふらつく足でリビングに戻る。

アイリがミネラルウォーターを差し出してくれた。

ありがとう。

礼を言いながら、僕は彼女の顔を直視できなかった。

彼女は僕の罪を知り、僕は彼女の疑惑(ジョーカー)を知っている。

そして今、薬によって精神的な主従関係まで結ばれてしまった。

この関係は、もう「恋人」なんて呼べるものじゃない。

共犯者ですらない。

「共依存者」だ。

その時、部屋のモニターが明るく点滅した。

『これより、ナイト・フェーズを開始します。獲得したチップを使用して、ショッピングをお楽しみください』

画面が切り替わり、通販サイトのようなリストが表示される。

商品名と、必要なチップの枚数。

それを見た瞬間、僕は息を呑んだ。

・ミネラルウォーター(500ml):チップ1枚
・追加の食料セット:チップ5枚
・ふかふかの枕:チップ3枚

ここまではいい。

問題は、その下に続く「スペシャルアイテム」の欄だった。

・盗聴器:チップ50枚
・万能鍵(一度だけ他人の部屋に入れる):チップ100枚
・サバイバルナイフ:チップ150枚
・拳銃(弾丸一発付き):チップ300枚

武器。

このゲームは、心理戦だけではなかったのか。

物理的な殺し合いを誘発しようとしているのか。

さらに、リストの最下部には、桁違いの価格がついた商品が並んでいた。

・『予言の書』(明日のゲーム内容を知る):チップ500枚
・『真実の瞳』(指名した一人の正体を知る):チップ1000枚
・『脱出権』(ゲームを降りて帰宅する):チップ5000枚

5000枚。

僕たちが命がけで、魂を切り売りして稼いだのが280枚だ。

脱出するには、あと何十回、他人を蹴落とし、自分を汚せばいいんだ?

途方もない数字にめまいがする。

ねえ、タクヤくん。

アイリが画面を指差して、無邪気に言った。

私、あれが欲しいな。

彼女が指差したのは、武器でも情報でもなかった。

・ショートケーキ(ホール):チップ10枚

え?

ケーキ?

うん。今日、何の日か覚えてる?

僕は呆然とする。

今日は……僕たちが付き合って、ちょうど三年の記念日だ。

こんな状況で、それを覚えているのか。

いや、こんな状況だからこそ、彼女のその「日常への執着」が異様に映る。

いいだろう? 10枚くらい。

僕は乾いた笑いを浮かべた。

僕たちはチップを使って、ナイフを買うことも、盗聴器を買うこともできる。

だが、彼女が選んだのはケーキだった。

購入ボタンを押すと、すぐに壁のデリバリー口から箱に入ったケーキが出てきた。

甘い匂い。

ナイフはないから、フォークで直接つつくしかない。

おめでとう、タクヤくん。

アイリがクリームを僕の口に運んでくる。

甘い。

脳が溶けるほど甘い。

僕たちは、狂っている。

殺人ゲームの真っ只中で、武器を買わずに記念日を祝っている。

でも、不思議と恐怖は消えていた。

薬のせいか、それとも彼女の笑顔のせいか。

ねえ、タクヤくん。

アイリがフォークを舐めながら、とんでもないことを口走った。

私ね、計算してみたの。

何を?

あの『脱出権』を買うための枚数。

5000枚だろ? 無理だよ。全員を蹴落としても足りない。

ううん、足りるよ。

彼女は瞳を輝かせた。

もし「ジョーカー」を告発して追放できれば、ボーナスが入るでしょ?

ああ、一億円とか言ってたな。

それをチップに換算すると、今のレートならちょうど5000枚になるの。

彼女は僕を見つめる。

その瞳の奥には、冷徹な計算式(アルゴリズム)が走っていた。

つまりね、私たちがここから生きて出るには、ジョーカーを見つけ出して、殺すしかないってこと。

彼女の声は、ケーキよりも甘く、ナイフよりも鋭かった。

でも、もし。

もしも、君がジョーカーだったら?

僕はその言葉を飲み込み、ただ黙って頷いた。

僕たちはケーキを食べる。

共食いのように。

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