殺人事件? 知ったことか、俺は定時で帰る。

白山 乃愛

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第7話 不在配達の悲劇(ピンポンを鳴らせ)

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【19:50:00】

葛城 湊(かつらぎ みなと)は、玄関ドアの「覗き穴(ドアスコープ)」に張り付いていた。

「……瞬きをするな……。奴は『音』もなくやってくる……」

場所は、湊の自宅アパート。
湊は、息を殺してドアの外を監視していた。

今日の18時~20時。
この2時間の間に、湊が半年待った『等身大・猫耳メイドちゃんフィギュア(限定生産・シリコン製)』が届く。

だが、この配送業者『全日本急便』の担当ドライバーには、悪評があった。

『在宅しているのに、チャイムを鳴らさずに不在票だけ入れて帰る』という、都市伝説級のステルス能力を持っているのだ。

「俺は騙されん……。トイレに行った隙に不在票を入れられたあの日を忘れない……。今日はオムツを履いて待機している。隙はない」

「先輩、人としての尊厳を捨ててまで荷物が欲しいんですか?」

後輩の二階堂(にかいどう)アリスが、こたつでミカンを食べながら呆れている。

「当たり前だ! 再配達は明日になる! 俺の娘(フィギュア)を一晩、冷たい倉庫に放置できるか!」

その時だった。

ピンポーン。

「来た!!」

湊は0.1秒でドアを開けた。
そこには、不在票を持ったドライバー……ではなく、
アロハシャツの上に防弾チョッキを着た、不破 労働(ふわ ろうどう)管理官が立っていた。

「……チッ。なんだ残業マニアか」

湊は音速でドアを閉めようとした。

「待てぇぇぇ! 閉めるなぁぁぁ!」

不破がドアの隙間に革靴をねじ込む。

「葛城! 貴様に重要参考人として同行を求める! 近所の公園で『滑り台が逆走する』という怪奇事件が起きた! 物理トリックの解明には貴様の頭脳が必要だ!」

「知るか! 帰れ! 今、俺は人生で一番重要な『娘』の帰りを待ってるんだ!」

「娘……!?」

不破の目がギラリと光った。
その瞬間、湊のスマホが震えた。
配送アプリの通知だ。

『お荷物のお届けに上がりましたが、ご不在でしたので持ち帰りました』

「は?」

湊はドアの外を見た。
誰もいない。チャイムも鳴っていない(不破以外)。
だが、郵便受けには、いつの間にか『不在連絡票』が入っていた。

「……き、貴様ぁぁぁぁ!!」

湊は絶叫し、裸足のままアパートの廊下へ飛び出した。
廊下の角を曲がる、配送業者の背中が見える。

「待てオラァァァ! 俺はいたぞ! ドアスコープで見てたぞ! いつ入れた! 貴様は忍者か!!」

   

現場は、アパートの前の路上だった。
配送トラックの前で、ドライバーがニヤニヤと笑っている。

「いやぁ、チャイム鳴らしましたよ? 聞こえなかったんですか? 耳鼻科行ったらどうです?」

「嘘をつけ! 俺はドアの前に張り付いていた! 貴様、最初から荷物を下ろす気がなかったな!? 『不在票を入れるだけ』のノルマ稼ぎだろ!」

湊が詰め寄るが、ドライバーは動じない。

「証拠はあるんですか? 言いがかりをつけるなら、警察呼びますよ?」

「警察ならここにいるぞ!」

不破管理官が追いついてきた。

「なんだ騒がしい! 葛城、この男は誰だ!」

「不破! こいつを逮捕しろ! 『在宅無視(スルー)罪』だ! 俺の娘を誘拐しようとしている!」

「娘……誘拐だと!?」

不破がドライバーを見た。
そして、トラックの荷台に積まれた『人間サイズの箱』を見た。

「……貴様! その箱の中に、葛城の娘が入っているのか!?」

ドライバーは、不敵な笑みを浮かべた。

「フン……バレては仕方がない。私は『全残協』のエージェント、コードネーム『再配達(リデリバリー)』だ」

「出たな全残協!!」

ドライバー(再配達)は、特殊警棒のようなものを構えた。

「我々の目的は、日本中の荷物を『再配達』させ、ドライバーと客の双方に残業を強いることにある! 一度で受け取れると思うな! 荷物は倉庫と家を10往復してこそ、ありがたみが出るんだよ!」

「狂ってやがる……!」

「この『娘(フィギュア)』は預かる! 返して欲しくば、明日の朝10時から12時の間に、全裸で待機してろ!」

ドライバーがトラックに乗り込もうとする。
湊は時計を見た。
19時58分。
あと2分で20時(配達終了時間)になる。
それを過ぎれば、システム上、荷物は持ち戻り確定だ。

「……起動(ブート)、受け取り拒否モード。」

カッ!

思考加速。
湊の脳内から「対話」という文字が消え失せる。
残るのは、このふざけたエージェントを「どこへ送るか」という宛先のみ。

「二階堂!!」

「はいっ!」

「その再配達野郎を、即日出荷(発送)しろ!」

「イエス・ボス!!」

アリスは、路地裏に放置されていた『業務用・ストレッチフィルム(梱包用ラップ)』と『台車』を構えた。

「梱包作業、開始しますぅぅぅぅ!」

シュババババババッ!!

アリスは目にも留まらぬ速さで、ドライバーの周囲を高速回転した。
フィルムがドライバーの体を何十重にも巻きつける。
まるで、ミノムシのように。

「な、なんだこれは! 動けん!」

「仕上げです! 壊れ物注意(フラジャイル)!」

アリスは、ぐるぐる巻きにされたドライバーを台車に乗せ、プロボウラーのようなフォームで助走をつけた。

「配送センターへ、お帰りくださぁぁぁい!!」

ドゴォォォォォォォン!!!!!

「ぎゃああああ! 俺が荷物になるのかぁぁぁ!」

ドライバー(梱包済み)を乗せた台車は、猛スピードで坂道を下り、偶然通りかかった『別の運送会社の大型トラック(行き先:ブラジル行き船便)』の荷台へと、美しいホールインワンを決めた。

「……ナイス・シッピング」

「えへへ、追跡番号なしで送っておきました!」

湊は、置き去りにされたトラックの荷台を開けた。

「おお……マイエンジェル……」

そこには、愛しのダンボール箱があった。
湊は箱を抱きしめ、頬ずりする。
間に合った。
これでもう、再配達の恐怖に怯える夜はない。

だが。

「……確保ぉぉぉぉ!!」

不破管理官が、湊に手錠をかけた。

「は?」

「現行犯逮捕だ葛城! 『人間(ドライバー)を梱包してブラジルへ密輸した』容疑だ!」

「ふざけんな! あいつは全残協だ!」

「問答無用! さらに、その箱の中身! 『娘』と言ったな? 児童誘拐の疑いもある! 箱ごと署へ連行する!」

「やめろぉぉぉ! 娘は関係ないだろぉぉぉ!」

不破は、部下の警察官たちに指示を出した。

「この箱は『重要証拠品』だ! 慎重に扱え! ……署に戻ったら、中身を取り出して、鑑識課全員で『撮影会』を行う!」

「殺す気かぁぁぁ! 俺の嫁をジロジロ見るな変態ぃぃぃ!」

【20:00:00】

湊の腕時計が、無情な時を告げる。

それは、配達完了時刻であり、
湊の愛するフィギュアが、警察のおじさんたちに囲まれて撮影会(辱め)を受けることが確定した時刻でもあった。

湊は、手錠をかけられたまま、アスファルトに突っ伏した。

「……ああ……俺の……猫耳メイドちゃんが……鑑識課のデータベースに……永遠に残る……」

「せ、先輩! ポジティブに考えましょう! 警察公認の嫁ですよ!」

湊の目から、光が消えた。
彼は、虚空を見つめながら呟いた。

「……二階堂」

「は、はいぃぃ!」

「……不破(あのバカ)の家の住所を特定しろ」

「へ?」

「あいつの家に……俺の『使用済みオムツ』を代引きで送りつける」

「ひぃぃぃ! バイオテロですよぉぉぉ!」

こうして、俺の『フィギュア受取計画』は、全残協と警察の妨害によって、『オムツを履いた探偵が連行される』という事案に変わった。

だが、俺は誓った。
いつか必ず、再配達のない世界(ユートピア)を作る。
そして、不破の家に毎日ピザを100枚送りつけてやるのだと。
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