12 / 22
第11話 黒い訪問者(その承認印を捺せ)
しおりを挟む
【14:00:00】
葛城探偵事務所。
真夏。
事務所内は、灼熱地獄と化していた。
「……あぢぃ……。脳が……沸く……」
葛城 湊(かつらぎ みなと)は、パンツ一丁で、冷凍マグロのように床に横たわっていた。
室温38度。
湿度80%。
もはやサウナだ。
「……おい、聖(ひじり)。……頼む。エアコンを……慈悲をくれ……」
「却下です」
デスクで涼しい顔をして(卓上扇風機を独占して)仕事をする御茶ノ水 聖(おちゃのみず ひじり)。
彼女は、氷を口に含みながら言った。
「電気代が先月より『500円』上がっています。……よって、今月は『エアコン禁止令』を発動します」
「たかが500円で人が死ぬぞ!! 熱中症で労災降りる方が高いだろ!」
「労災? ……貴方は『個人事業主』なので降りませんよ」
「鬼か!!」
そこに、二階堂(にかいどう)アリスが帰ってきた。
汗だくだ。
「ただいま戻りましたぁ! ……ひぃぃ! 先輩、外でスズメが干からびてました!」
「おかえり二階堂。……氷だ。聖のデスクから氷を奪え」
「あ、聖さん! これ、クライアントから貰った『お中元』です!」
アリスが差し出したのは、桐箱に入った高級菓子。
『ロシア製・ウイスキーボンボン(アルコール度数99%・火気厳禁)』。
「……ほう。賄賂(わいろ)ですか」
聖は成分表を見た。
「……糖分補給は必要ですね。一つだけ許可します」
聖はチョコを口に放り込んだ。
カリッ。
とろ~り。
「……ん。……悪くありません」
聖は再び、帳簿の数字と睨めっこを始めた。
湊は、聖の背中に向かって中指を立てた。
「……くそっ……。いつかあの女の眼鏡をカチ割って、冷房18度の世界へ行ってやる……」
その時だった。
カサカサ……。
「ん?」
微かな、しかし絶望的な音がした。
聖のデスクの下。
黒い影が、高速で横切った。
それは、人類の敵。
太古より蘇りし黒い悪魔。
通称『G』。
「……出たな」
湊はティッシュ箱を構えた。
このボロ事務所には日常茶飯事だ。
さっさと潰して……。
「……ヒュッ」
聖の喉から、空気が漏れるような音がした。
「おい、どうした?」
見ると、聖が椅子の上で、銅像のように硬直していた。
顔面蒼白。
眼鏡がズレ、白目を剥きかけている。
「……あ……あ……」
聖の指が、床を指差して震えている。
そこには、体長5センチの特大Gが、触覚をゆらゆらと動かしていた。
「……聖?」
「……み、未確認……生命体……せ、接近……」
聖がバグった。
恐怖のあまり、言語中枢がおかしくなっている。
「……排除……排除シテクダサイ……直チニ……」
湊は、状況を理解するのに0.5秒かかった。
そして、悪魔のような笑みを浮かべた。
(……勝った。……コイツの弱点、見つけたり!!)
湊はゆっくりと立ち上がった。
パンツ一丁のまま、Gと聖の間に立ちはだかる。
「……おやおや、監査官殿。どうしました? たかが『虫』ですよ?」
「……い、いやぁぁぁ! こっち見てる! 触覚が動いてるぅぅぅ!」
聖がキャラ崩壊した。
椅子の上に体育座りし、ガタガタと震えている。
「駆除して! 早く! 1秒以内に殺して!」
「お断りします」
「はぁ!?」
「俺は今、暑くて指一本動かせないんです。……ああ、エアコンさえ効いていればなぁ。勇気が湧くんだけどなぁ」
聖は、リモコンを湊の顔面に投げつけた。
「つ、つけなさいよ! 18度でも南極でも好きにしなさい! だから早く!」
「交渉成立」
ピッ!
湊はエアコンを『最強・16度』に設定した。
冷気が吹き出す。
文明の勝利だ。
「……ふぅ、極楽。……さて、やるか」
湊が丸めた新聞紙を構える。
しかし、Gが動いた。
カサカサッ!
聖のデスクの『重要書類(裏帳簿)』の上に乗った。
「ひぃぃぃ! 帳簿が汚れるぅぅぅ!」
「おっと、聖さん。……まだ『駆除費用』の話をしてませんでしたね」
「はぁ!? エアコンつけたでしょ!」
「それは『着手金』です。……これは『特別危険手当』ですよ」
湊は、引き出しから大量の書類を取り出した。
これまで聖に却下された『寿司の領収書』『ゲーム代』『フィギュア代』、そして『借金減額の嘆願書』だ。
「……Gを殺して欲しければ、これら全ての書類に、今すぐ『承認印』を押してください」
「なっ……! 横領よ! そんなの認められるわけ……」
ブォォォォン!!
Gが飛んだ。
黒い弾丸となって、聖の顔面へ特攻する。
「いやぁぁぁぁぁぁ!! 押す! 押すわよぉぉぉ!!」
聖が半狂乱になった。
彼女は『承認印』を両手に持ち、ドラマーのように高速連打を始めた。
ドンドンドンドンドンドンドン!!!!!
「承認! 承認! 承認! 承認んんん!!」
「よっしゃぁぁぁ! 寿司が経費で落ちたぁぁぁ!」
湊がガッツポーズをする。
借金減額、経費承認、エアコン獲得。
完全勝利だ。
しかし。
聖の様子がおかしい。
「……うふふ」
「え?」
「……うふふふふふ! 承認んんん!!」
聖が、湊の出した書類だけでなく、机の上のティッシュ、アリスの顔、そして自分の太ももにまでハンコを押し始めた。
「……おい、聖?」
「……ふぃ~っ……」
聖が顔を上げた。
真っ赤だ。
目が据わっている。
「……虫さぁん……どこですかぁ~? 監査の時間ですよぉ~?」
「……酔ってる?」
アリスが叫ぶ。
「先輩! さっきのウイスキーボンボン! 空きっ腹に食べたから回ったんです!」
聖は椅子から立ち上がった。
千鳥足で。
手には『承認印』と、護身用の『スタンガン』。
「……おい、貴様(G)」
聖がGを睨みつける。
「……貴様、納税は? ……住民票は? ……不法滞在ですね?」
「Gに話しかけてる!?」
「全残協・監査官の名において……貴様を『強制送還』する!!」
バチバチバチバチ!!
聖がスタンガンを起動した。
放電の火花が散る。
「やめろバカ! 引火する!」
「逃がすかぁぁぁ!!」
聖はGを追いかけて、事務所内を走り回った。
「そこか! 脱税者め!」
ドカッ!(デスクを蹴り飛ばす)
「帳簿を見せろぉぉぉ!」
バリーン!(窓ガラスを割る)
「二階堂! 止めろ!」
「無理ですぅ! 聖さん、酔拳(すいけん)の使い手ですぅ!」
アリスが取り押さえようとするが、聖はフラフラと攻撃をかわし、逆にアリスの額に『承認印』を押した。
「……合格(承認)!」
「わーい! 合格したぁ!」
「喜んでる場合か!」
Gは、天井の蛍光灯に止まった。
「……見ぃ~つけたぁ~……」
聖は、フラフラと湊に近づいた。
「……所長ぉ~……」
「な、なんだ」
「……肩車(かたぐるま)……してください……」
「はぁ!?」
「あそこに……届かないんですぅ……。……早くしないと、監査が終わりませんよぉ……?」
聖が、上目遣いで、涙目で、スタンガンを湊の股間に押し当てた。
「……イエス・マム!!」
湊は聖を肩車した。
人生最悪の騎馬戦だ。
「いっけぇぇぇ! サンダー・ブレイクぅぅぅ!!」
聖がスタンガンを蛍光灯に突き刺した。
バチィッ!!
「ギャァァァァァァ!!」
Gが感電した。
同時に、蛍光灯が爆発した。
さらに、過電流が事務所の配線を駆け巡り、エアコンが火を吹いた。
ドゴォォォォォォォン!!!!!
【16:00:00】
爆煙が晴れた後。
葛城探偵事務所は、再び半壊していた。
エアコンは溶解し、壁は焦げ、Gは……炭になって床に落ちていた。
「……勝った……」
聖は、湊の背中の上で、スヤスヤと眠っていた。
湊の髪はアフロになり、顔は煤だらけ。
「……勝ってねぇよ……」
湊は泣いた。
エアコンが死んだ。
事務所も壊れた。
「……でも、これがある!」
湊は、懐から『承認済みの書類』を取り出した。
これさえあれば、寿司が食える! 借金も減る!
「……あれ?」
書類を見た湊が固まった。
聖が押したハンコ。
よく見ると、『承認』ではない。
【却下】
【却下】
【死刑】
聖はパニックの中でも、無意識にハンコを持ち替えていたのだ。
全ての領収書に、真っ赤な【死刑】の文字が踊っている。
「……嘘だろ……」
湊は膝から崩れ落ちた。
聖(の重み)と共に。
【翌朝 09:00:00】
葛城探偵事務所(廃墟)。
「……うぅ……頭が割れるように痛い……」
聖が目を覚ました。
瓦礫の上で。
記憶はGが出たところまでしかない。
「……おはようございます、聖さん」
湊が、死んだ魚のような目で、電卓を叩いていた。
「……所長? 何ですか、この有様は……」
「昨日の『G駆除作戦』の被害総額です。……エアコン代、内装工事費、配線修理費。……締めて『3000万円』」
「さ、3000万!?」
「これは、暴れたアンタの個人的な借金だ。……俺の借金から差し引いておいたぞ」
「なっ……! 証拠は!?」
「二階堂」
「はいっ!」
アリスが、聖の額に鏡を突きつけた。
そこには、昨夜の泥酔中に自分で押したハンコが残っていた。
【私がやりました(実印)】
「……!!」
聖は絶句した。
完璧な監査官人生、最大の汚点。
「……分かりました。……払います」
聖は震える声で言った。
しかし、すぐに眼鏡を光らせた。
「……ですが、貴方の『却下された領収書(死刑)』は無効です。……さらに、エアコンは壊れたので、今日からは『ウチワ』で凌いでください」
「悪魔ァァァァ!! せめて扇風機をくれぇぇぇ!」
こうして、事務所には新しいエアコン(聖の自腹)が入ることになったが、納品まで2週間待つことになった。
湊は、ウチワを仰ぎながら誓った。
(……覚えてろよ。……次は『Gのコスプレ』をして、寝ているお前の枕元に立ってやる……!)
奇妙な同居生活に、新たな火種(トラウマ)が生まれた。
俺たちの夏は、まだまだ暑い。
葛城探偵事務所。
真夏。
事務所内は、灼熱地獄と化していた。
「……あぢぃ……。脳が……沸く……」
葛城 湊(かつらぎ みなと)は、パンツ一丁で、冷凍マグロのように床に横たわっていた。
室温38度。
湿度80%。
もはやサウナだ。
「……おい、聖(ひじり)。……頼む。エアコンを……慈悲をくれ……」
「却下です」
デスクで涼しい顔をして(卓上扇風機を独占して)仕事をする御茶ノ水 聖(おちゃのみず ひじり)。
彼女は、氷を口に含みながら言った。
「電気代が先月より『500円』上がっています。……よって、今月は『エアコン禁止令』を発動します」
「たかが500円で人が死ぬぞ!! 熱中症で労災降りる方が高いだろ!」
「労災? ……貴方は『個人事業主』なので降りませんよ」
「鬼か!!」
そこに、二階堂(にかいどう)アリスが帰ってきた。
汗だくだ。
「ただいま戻りましたぁ! ……ひぃぃ! 先輩、外でスズメが干からびてました!」
「おかえり二階堂。……氷だ。聖のデスクから氷を奪え」
「あ、聖さん! これ、クライアントから貰った『お中元』です!」
アリスが差し出したのは、桐箱に入った高級菓子。
『ロシア製・ウイスキーボンボン(アルコール度数99%・火気厳禁)』。
「……ほう。賄賂(わいろ)ですか」
聖は成分表を見た。
「……糖分補給は必要ですね。一つだけ許可します」
聖はチョコを口に放り込んだ。
カリッ。
とろ~り。
「……ん。……悪くありません」
聖は再び、帳簿の数字と睨めっこを始めた。
湊は、聖の背中に向かって中指を立てた。
「……くそっ……。いつかあの女の眼鏡をカチ割って、冷房18度の世界へ行ってやる……」
その時だった。
カサカサ……。
「ん?」
微かな、しかし絶望的な音がした。
聖のデスクの下。
黒い影が、高速で横切った。
それは、人類の敵。
太古より蘇りし黒い悪魔。
通称『G』。
「……出たな」
湊はティッシュ箱を構えた。
このボロ事務所には日常茶飯事だ。
さっさと潰して……。
「……ヒュッ」
聖の喉から、空気が漏れるような音がした。
「おい、どうした?」
見ると、聖が椅子の上で、銅像のように硬直していた。
顔面蒼白。
眼鏡がズレ、白目を剥きかけている。
「……あ……あ……」
聖の指が、床を指差して震えている。
そこには、体長5センチの特大Gが、触覚をゆらゆらと動かしていた。
「……聖?」
「……み、未確認……生命体……せ、接近……」
聖がバグった。
恐怖のあまり、言語中枢がおかしくなっている。
「……排除……排除シテクダサイ……直チニ……」
湊は、状況を理解するのに0.5秒かかった。
そして、悪魔のような笑みを浮かべた。
(……勝った。……コイツの弱点、見つけたり!!)
湊はゆっくりと立ち上がった。
パンツ一丁のまま、Gと聖の間に立ちはだかる。
「……おやおや、監査官殿。どうしました? たかが『虫』ですよ?」
「……い、いやぁぁぁ! こっち見てる! 触覚が動いてるぅぅぅ!」
聖がキャラ崩壊した。
椅子の上に体育座りし、ガタガタと震えている。
「駆除して! 早く! 1秒以内に殺して!」
「お断りします」
「はぁ!?」
「俺は今、暑くて指一本動かせないんです。……ああ、エアコンさえ効いていればなぁ。勇気が湧くんだけどなぁ」
聖は、リモコンを湊の顔面に投げつけた。
「つ、つけなさいよ! 18度でも南極でも好きにしなさい! だから早く!」
「交渉成立」
ピッ!
湊はエアコンを『最強・16度』に設定した。
冷気が吹き出す。
文明の勝利だ。
「……ふぅ、極楽。……さて、やるか」
湊が丸めた新聞紙を構える。
しかし、Gが動いた。
カサカサッ!
聖のデスクの『重要書類(裏帳簿)』の上に乗った。
「ひぃぃぃ! 帳簿が汚れるぅぅぅ!」
「おっと、聖さん。……まだ『駆除費用』の話をしてませんでしたね」
「はぁ!? エアコンつけたでしょ!」
「それは『着手金』です。……これは『特別危険手当』ですよ」
湊は、引き出しから大量の書類を取り出した。
これまで聖に却下された『寿司の領収書』『ゲーム代』『フィギュア代』、そして『借金減額の嘆願書』だ。
「……Gを殺して欲しければ、これら全ての書類に、今すぐ『承認印』を押してください」
「なっ……! 横領よ! そんなの認められるわけ……」
ブォォォォン!!
Gが飛んだ。
黒い弾丸となって、聖の顔面へ特攻する。
「いやぁぁぁぁぁぁ!! 押す! 押すわよぉぉぉ!!」
聖が半狂乱になった。
彼女は『承認印』を両手に持ち、ドラマーのように高速連打を始めた。
ドンドンドンドンドンドンドン!!!!!
「承認! 承認! 承認! 承認んんん!!」
「よっしゃぁぁぁ! 寿司が経費で落ちたぁぁぁ!」
湊がガッツポーズをする。
借金減額、経費承認、エアコン獲得。
完全勝利だ。
しかし。
聖の様子がおかしい。
「……うふふ」
「え?」
「……うふふふふふ! 承認んんん!!」
聖が、湊の出した書類だけでなく、机の上のティッシュ、アリスの顔、そして自分の太ももにまでハンコを押し始めた。
「……おい、聖?」
「……ふぃ~っ……」
聖が顔を上げた。
真っ赤だ。
目が据わっている。
「……虫さぁん……どこですかぁ~? 監査の時間ですよぉ~?」
「……酔ってる?」
アリスが叫ぶ。
「先輩! さっきのウイスキーボンボン! 空きっ腹に食べたから回ったんです!」
聖は椅子から立ち上がった。
千鳥足で。
手には『承認印』と、護身用の『スタンガン』。
「……おい、貴様(G)」
聖がGを睨みつける。
「……貴様、納税は? ……住民票は? ……不法滞在ですね?」
「Gに話しかけてる!?」
「全残協・監査官の名において……貴様を『強制送還』する!!」
バチバチバチバチ!!
聖がスタンガンを起動した。
放電の火花が散る。
「やめろバカ! 引火する!」
「逃がすかぁぁぁ!!」
聖はGを追いかけて、事務所内を走り回った。
「そこか! 脱税者め!」
ドカッ!(デスクを蹴り飛ばす)
「帳簿を見せろぉぉぉ!」
バリーン!(窓ガラスを割る)
「二階堂! 止めろ!」
「無理ですぅ! 聖さん、酔拳(すいけん)の使い手ですぅ!」
アリスが取り押さえようとするが、聖はフラフラと攻撃をかわし、逆にアリスの額に『承認印』を押した。
「……合格(承認)!」
「わーい! 合格したぁ!」
「喜んでる場合か!」
Gは、天井の蛍光灯に止まった。
「……見ぃ~つけたぁ~……」
聖は、フラフラと湊に近づいた。
「……所長ぉ~……」
「な、なんだ」
「……肩車(かたぐるま)……してください……」
「はぁ!?」
「あそこに……届かないんですぅ……。……早くしないと、監査が終わりませんよぉ……?」
聖が、上目遣いで、涙目で、スタンガンを湊の股間に押し当てた。
「……イエス・マム!!」
湊は聖を肩車した。
人生最悪の騎馬戦だ。
「いっけぇぇぇ! サンダー・ブレイクぅぅぅ!!」
聖がスタンガンを蛍光灯に突き刺した。
バチィッ!!
「ギャァァァァァァ!!」
Gが感電した。
同時に、蛍光灯が爆発した。
さらに、過電流が事務所の配線を駆け巡り、エアコンが火を吹いた。
ドゴォォォォォォォン!!!!!
【16:00:00】
爆煙が晴れた後。
葛城探偵事務所は、再び半壊していた。
エアコンは溶解し、壁は焦げ、Gは……炭になって床に落ちていた。
「……勝った……」
聖は、湊の背中の上で、スヤスヤと眠っていた。
湊の髪はアフロになり、顔は煤だらけ。
「……勝ってねぇよ……」
湊は泣いた。
エアコンが死んだ。
事務所も壊れた。
「……でも、これがある!」
湊は、懐から『承認済みの書類』を取り出した。
これさえあれば、寿司が食える! 借金も減る!
「……あれ?」
書類を見た湊が固まった。
聖が押したハンコ。
よく見ると、『承認』ではない。
【却下】
【却下】
【死刑】
聖はパニックの中でも、無意識にハンコを持ち替えていたのだ。
全ての領収書に、真っ赤な【死刑】の文字が踊っている。
「……嘘だろ……」
湊は膝から崩れ落ちた。
聖(の重み)と共に。
【翌朝 09:00:00】
葛城探偵事務所(廃墟)。
「……うぅ……頭が割れるように痛い……」
聖が目を覚ました。
瓦礫の上で。
記憶はGが出たところまでしかない。
「……おはようございます、聖さん」
湊が、死んだ魚のような目で、電卓を叩いていた。
「……所長? 何ですか、この有様は……」
「昨日の『G駆除作戦』の被害総額です。……エアコン代、内装工事費、配線修理費。……締めて『3000万円』」
「さ、3000万!?」
「これは、暴れたアンタの個人的な借金だ。……俺の借金から差し引いておいたぞ」
「なっ……! 証拠は!?」
「二階堂」
「はいっ!」
アリスが、聖の額に鏡を突きつけた。
そこには、昨夜の泥酔中に自分で押したハンコが残っていた。
【私がやりました(実印)】
「……!!」
聖は絶句した。
完璧な監査官人生、最大の汚点。
「……分かりました。……払います」
聖は震える声で言った。
しかし、すぐに眼鏡を光らせた。
「……ですが、貴方の『却下された領収書(死刑)』は無効です。……さらに、エアコンは壊れたので、今日からは『ウチワ』で凌いでください」
「悪魔ァァァァ!! せめて扇風機をくれぇぇぇ!」
こうして、事務所には新しいエアコン(聖の自腹)が入ることになったが、納品まで2週間待つことになった。
湊は、ウチワを仰ぎながら誓った。
(……覚えてろよ。……次は『Gのコスプレ』をして、寝ているお前の枕元に立ってやる……!)
奇妙な同居生活に、新たな火種(トラウマ)が生まれた。
俺たちの夏は、まだまだ暑い。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる