15 / 22
第14話 次元の壁を超えて(その愛は課金制)
しおりを挟む
【10:00:00】
葛城探偵事務所。
5億円の借金(実質4200円)が再スタートした翌日。
事務所には、異様な「音」が響いていた。
『パンパン!(柏手)』
『クルッ……(ターン)』
『ドシン!(土下座)』
「……何をしているんですか、所長」
御茶ノ水 聖(おちゃのみず ひじり)が出勤すると、そこには地獄絵図が広がっていた。
葛城 湊(かつらぎ みなと)が、デスクの上に祭壇(フィギュアとグッズの山)を作り、その前で奇妙な舞を踊っている。
服装は、なぜか「勝負パンツ(赤)」一丁だ。
「……静かにしろ聖。……今、宇宙と交信している」
「……は?」
「『物欲センサー』を切るための舞だ。……あと3分で、限定イベント『水着のルルちゃん』が終わる。……俺の全財産と魂を、この10連に賭ける!」
聖は、冷めた目で見下ろした。
昨日、炎の中で自分を抱きしめてくれた男と同一人物とは、脳が認識を拒否している。
「……服を着てください。汚らわしい」
「うるせぇ! 服を着ると摩擦係数が上がって運気が逃げるんだよ!」
「……二階堂さんは?」
見ると、二階堂アリスが部屋の隅で泣いていた。
「せ、聖さん……。先輩に……先輩に……」
「どうしました?」
「『今月の給料の前借り』をお願いされて……断ったら、『じゃあ筋肉を質に入れろ』って……」
「……最低ですね」
聖の軽蔑ゲージが限界突破した。
部下に金を無心する上司。
しかも理由は2次元の女。
「……おい聖。お前も貸せ」
湊がスマホを構えたまま、聖を睨む。
「……昨日、俺はお前の命を救ったよな? その対価が5億円なんだよな? ……なら、今すぐ5万貸せ。それでチャラにしてやる」
「……はぁ!?」
聖の手から鞄が落ちた。
命の恩人という切り札を、ガチャ代5万円で切ろうとしている。
この男の中では、「私の命 = ガチャ1天井分」なのか。
「……断ります。……死ねばいいのに」
聖が心からの呪詛を吐いた。
「チッ、使えねぇ女だ! ……いいさ! 今の俺には『神』がついている! いくぞ! 確定演出こい!!」
湊が「ターンッ!」と画面をタップした。
『パルル~ン♪ ……残念! ★1 ゴブリンの腰布!』
「ぎゃああああああああ!!」
湊が床を転げ回る。
爆死。
1ヶ月の食費と家賃を溶かした結果が、腰布1枚。
「……詐欺だ……。確率がおかしい……。3%なんて嘘だ……」
湊が泡を吹いている。
聖は、冷ややかに湊のスマホ(管理者権限でハッキング済み)を解析した。
「……解析完了しました。……所長、朗報ですよ」
「あ?」
「このゲームのプログラム……貴方のIDだけ、意図的に『SSR排出率0%』に設定されています」
「……は?」
「運営会社は『株式会社・悪徳(あくとく)ゲームズ』。……全残協のフロント企業です。……どうやら、貴方を破産させるために『個別狙い撃ち』しているようですね」
「……なっ……!?」
湊の顔から血の気が引く。
運が悪かったのではない。
最初から「引けない」運命だったのだ。
「……俺の……純愛を……」
湊が立ち上がった。
パンツ一丁で。
その背中から、昨日の焼却炉よりも熱い、修羅のオーラが立ち昇る。
「……利用しやがったなぁぁぁぁ!!」
「服を着なさい変態」
「行くぞ二階堂! 聖! カチ込みだ! ……俺のルルちゃんを人質に取りやがって! サーバーごと抱きしめてやる!」
「サーバーは精密機器です。抱きしめないでください」
【13:00:00】
秋葉原、雑居ビル地下。
『悪徳ゲームズ』本社サーバー室。
「オラァァァァ! 石を返せぇぇぇ!」
ドガァァァァン!!
湊とアリスが乱入した。
アリスがサーバーラックを引っこ抜き、湊が開発者の襟首を掴んで揺さぶる。
「ひぃぃぃ! やめてくれ! 上からの指示なんだ!」
「お前のような重課金兵がいるから、我々は潤うんだ!」
「うるせぇ! 消費者庁に通報されたくなければ、今すぐ俺のボックスに『水着ルルちゃん(完凸)』をねじ込め!」
「む、無理だ! データ更新はメンテナンス中しか……!」
その時。
聖が、サーバー室のモニターを見て呟いた。
「……あら?」
「どうした聖!」
「……このゲーム、試しに私の端末で引いてみましたが……」
聖が自分のスマホを見せる。
画面には、虹色の輝き。
『パルル~ン♪ SSR・水着ルルちゃん(プレミア加工)』
「……1回で出ましたけど?」
「ぶべらっ!!」
湊が吐血した。
ビギナーズラック。
物欲のない人間ほど引けるという、ガチャの真理。
「あ、私もやってみますぅ!」
アリスも自分のスマホを取り出す。
『パルル~ン♪ SSR・水着ルルちゃん!』
『パルル~ン♪ SSR・水着ルルちゃん!』
『パルル~ン♪ SSR・水着ルルちゃん!』
「……あれぇ? 先輩、これ壊れてますか? ルルちゃんしか出ませんよ?」
「ごふっ!! がはっ!!」
湊が膝から崩れ落ちた。
3枚抜き。
神引きどころではない。
世界が湊を拒絶している。
「……よこせ……。そのアカウントを俺によこせぇぇぇ!」
湊がゾンビのようにアリスに這い寄る。
その時。
「……そこまでだ、探偵」
奥から、CEOの側近である『重課金(じゅう かきん)専務』が現れた。
彼は、メインサーバーの電源コードを手に持っている。
「……動くな。動くと、このコンセントを抜くぞ」
「なっ……!?」
「ここには全ユーザーのデータがある。……抜けば、バックアップなしで全てのデータが飛ぶ。……つまり、貴様が愛する『ルルちゃん』も消滅する!」
「ひきょうだぞ!!」
湊が叫ぶ。
人質ならぬ、データ質。
「フフフ……。選べ、葛城湊。……大人しく捕まってカニ漁船に乗るか……ルルちゃんを永遠に失うか!」
専務がニヤリと笑う。
「ちなみに、このサーバー室には『自爆装置』も仕掛けてある。……私がスイッチを押せば、ここにいる全員……そこの眼鏡の女(聖)もろとも木っ端微塵だ!」
「!!」
聖が身構える。
命の危険。
しかし、昨日の湊なら、きっと助けてくれる。
彼は「命」の重さを知っている男だから。
専務がカウントダウンを始める。
「さあ選べ! ルルちゃん(データ)か! 聖(現実の女)か! 3、2……」
湊は、真剣な顔で聖を見た。
そして、サーバーを見た。
そして、また聖を見た。
湊の脳内で、天秤が揺れる。
『いつもガミガミうるさい経理担当(4200円)』
VS
『いつも優しく微笑んでくれる魔法少女(プライスレス)』
湊は、汗だくで叫んだ。
「……ま、待ってくれ! 話し合おう!」
「決めるのは今だ!」
「……くっ……! ……わ、分かった……!」
湊が、苦渋の決断を下す。
聖は信じていた。
彼が「ふざけるな! 人間の命とデータを比べるな!」と叫んでくれることを。
「……聖!!」
「はい!」
「……お前が……お前が盾になれ!!」
「は?」
「お前が爆発を受け止めている間に、俺がサーバーを持ち出す!! 頼む! ルルちゃんだけは守ってくれぇぇぇ!!」
「…………」
時が止まった。
アリスが口を開けた。
専務も引いていた。
聖の中で、何かが完全に冷え切った。
昨日感じた胸の高鳴り。
夕焼けの中での誓い。
全てが、急速冷凍されて粉々になった。
「……死ね」
聖は、無表情で呟いた。
そして、懐から『スタンガン』を取り出した。
「え?」
「全弾発射(フルバースト)!!」
バチバチバチバチィィィ!!!!!
聖は、敵ではなく、湊の背中にスタンガンを突き刺した。
「ぎゃああああああああああ!!」
湊が感電して吹っ飛んだ。
その勢いで専務に激突し、専務はサーバーラックに突っ込み、コンセントが抜けた。
プツン。
モニターの光が消える。
サーバーのファンが停止する。
静寂。
「あ……」
湊が、黒焦げになりながら手を伸ばす。
「……ルル……ちゃん……?」
反応はない。
データは消えた。
永遠に。
「……終わりですね」
聖は、眼鏡の位置を直し、冷徹に見下ろした。
「さあ、帰りますよ二階堂さん。……こんなゴミ捨て場にいたら、汚染されます」
「は、はい! ……先輩、ドンマイですぅ!」
聖とアリスが出て行く。
湊は、暗闇の中で一人、動かなくなったサーバーを抱きしめて泣いた。
「うわぁぁぁぁん! 聖のバカァァァ! 人殺しぃぃぃ! 俺の天使を返せぇぇぇ!」
その叫びは、秋葉原の地下に虚しく響いた。
【翌朝】
葛城探偵事務所。
湊は、抜け殻のようになっていた。
ルルちゃんを失ったショックで、真っ白に燃え尽きている。
「……おはようございます、ゴミ所長」
聖が、氷点下の声で挨拶する。
手には、新しい請求書。
「……昨日のサーバー破壊および、悪徳ゲームズへの不法侵入に関する示談金。……締めて『500万円』です」
「……」
「貴方の借金に上乗せしておきます。……文句はないですね?」
湊は反応しない。
死んでいる。
聖は、自分のスマホを取り出した。
画面には、『SSR・水着ルルちゃん』が微笑んでいる。
聖は、湊に見せつけるように、目の前で『アプリ削除(アンインストール)』ボタンを押した。
「……あ」
「2次元ごときに負ける私ではありません。……現実(リアル)を見なさい、クズ」
聖はフンと鼻を鳴らし、仕事に戻った。
その顔は、昨日までの「少しデレた聖」ではなく、完全なる「鬼軍曹」に戻っていた。
いや、前よりも当たりがキツイ。
これは、乙女心をルルちゃんに負けたことへの、壮絶な八つ当たりだった。
「……働け! 今日の依頼は『マンホールの裏の掃除』です! 日給3000円! 行ってらっしゃい!」
「……ハイ……」
湊はトボトボと出て行った。
推しを失い、信頼を失い、借金だけが増えた。
自業自得。
俺たちの定時は、永遠にこない。
~あとがき~
ここまで読んでいただきありがとうございます。 もし面白いと感じていただけたら、お気に入りや応援をいただけると嬉しいです。 執筆の励みにしています
葛城探偵事務所。
5億円の借金(実質4200円)が再スタートした翌日。
事務所には、異様な「音」が響いていた。
『パンパン!(柏手)』
『クルッ……(ターン)』
『ドシン!(土下座)』
「……何をしているんですか、所長」
御茶ノ水 聖(おちゃのみず ひじり)が出勤すると、そこには地獄絵図が広がっていた。
葛城 湊(かつらぎ みなと)が、デスクの上に祭壇(フィギュアとグッズの山)を作り、その前で奇妙な舞を踊っている。
服装は、なぜか「勝負パンツ(赤)」一丁だ。
「……静かにしろ聖。……今、宇宙と交信している」
「……は?」
「『物欲センサー』を切るための舞だ。……あと3分で、限定イベント『水着のルルちゃん』が終わる。……俺の全財産と魂を、この10連に賭ける!」
聖は、冷めた目で見下ろした。
昨日、炎の中で自分を抱きしめてくれた男と同一人物とは、脳が認識を拒否している。
「……服を着てください。汚らわしい」
「うるせぇ! 服を着ると摩擦係数が上がって運気が逃げるんだよ!」
「……二階堂さんは?」
見ると、二階堂アリスが部屋の隅で泣いていた。
「せ、聖さん……。先輩に……先輩に……」
「どうしました?」
「『今月の給料の前借り』をお願いされて……断ったら、『じゃあ筋肉を質に入れろ』って……」
「……最低ですね」
聖の軽蔑ゲージが限界突破した。
部下に金を無心する上司。
しかも理由は2次元の女。
「……おい聖。お前も貸せ」
湊がスマホを構えたまま、聖を睨む。
「……昨日、俺はお前の命を救ったよな? その対価が5億円なんだよな? ……なら、今すぐ5万貸せ。それでチャラにしてやる」
「……はぁ!?」
聖の手から鞄が落ちた。
命の恩人という切り札を、ガチャ代5万円で切ろうとしている。
この男の中では、「私の命 = ガチャ1天井分」なのか。
「……断ります。……死ねばいいのに」
聖が心からの呪詛を吐いた。
「チッ、使えねぇ女だ! ……いいさ! 今の俺には『神』がついている! いくぞ! 確定演出こい!!」
湊が「ターンッ!」と画面をタップした。
『パルル~ン♪ ……残念! ★1 ゴブリンの腰布!』
「ぎゃああああああああ!!」
湊が床を転げ回る。
爆死。
1ヶ月の食費と家賃を溶かした結果が、腰布1枚。
「……詐欺だ……。確率がおかしい……。3%なんて嘘だ……」
湊が泡を吹いている。
聖は、冷ややかに湊のスマホ(管理者権限でハッキング済み)を解析した。
「……解析完了しました。……所長、朗報ですよ」
「あ?」
「このゲームのプログラム……貴方のIDだけ、意図的に『SSR排出率0%』に設定されています」
「……は?」
「運営会社は『株式会社・悪徳(あくとく)ゲームズ』。……全残協のフロント企業です。……どうやら、貴方を破産させるために『個別狙い撃ち』しているようですね」
「……なっ……!?」
湊の顔から血の気が引く。
運が悪かったのではない。
最初から「引けない」運命だったのだ。
「……俺の……純愛を……」
湊が立ち上がった。
パンツ一丁で。
その背中から、昨日の焼却炉よりも熱い、修羅のオーラが立ち昇る。
「……利用しやがったなぁぁぁぁ!!」
「服を着なさい変態」
「行くぞ二階堂! 聖! カチ込みだ! ……俺のルルちゃんを人質に取りやがって! サーバーごと抱きしめてやる!」
「サーバーは精密機器です。抱きしめないでください」
【13:00:00】
秋葉原、雑居ビル地下。
『悪徳ゲームズ』本社サーバー室。
「オラァァァァ! 石を返せぇぇぇ!」
ドガァァァァン!!
湊とアリスが乱入した。
アリスがサーバーラックを引っこ抜き、湊が開発者の襟首を掴んで揺さぶる。
「ひぃぃぃ! やめてくれ! 上からの指示なんだ!」
「お前のような重課金兵がいるから、我々は潤うんだ!」
「うるせぇ! 消費者庁に通報されたくなければ、今すぐ俺のボックスに『水着ルルちゃん(完凸)』をねじ込め!」
「む、無理だ! データ更新はメンテナンス中しか……!」
その時。
聖が、サーバー室のモニターを見て呟いた。
「……あら?」
「どうした聖!」
「……このゲーム、試しに私の端末で引いてみましたが……」
聖が自分のスマホを見せる。
画面には、虹色の輝き。
『パルル~ン♪ SSR・水着ルルちゃん(プレミア加工)』
「……1回で出ましたけど?」
「ぶべらっ!!」
湊が吐血した。
ビギナーズラック。
物欲のない人間ほど引けるという、ガチャの真理。
「あ、私もやってみますぅ!」
アリスも自分のスマホを取り出す。
『パルル~ン♪ SSR・水着ルルちゃん!』
『パルル~ン♪ SSR・水着ルルちゃん!』
『パルル~ン♪ SSR・水着ルルちゃん!』
「……あれぇ? 先輩、これ壊れてますか? ルルちゃんしか出ませんよ?」
「ごふっ!! がはっ!!」
湊が膝から崩れ落ちた。
3枚抜き。
神引きどころではない。
世界が湊を拒絶している。
「……よこせ……。そのアカウントを俺によこせぇぇぇ!」
湊がゾンビのようにアリスに這い寄る。
その時。
「……そこまでだ、探偵」
奥から、CEOの側近である『重課金(じゅう かきん)専務』が現れた。
彼は、メインサーバーの電源コードを手に持っている。
「……動くな。動くと、このコンセントを抜くぞ」
「なっ……!?」
「ここには全ユーザーのデータがある。……抜けば、バックアップなしで全てのデータが飛ぶ。……つまり、貴様が愛する『ルルちゃん』も消滅する!」
「ひきょうだぞ!!」
湊が叫ぶ。
人質ならぬ、データ質。
「フフフ……。選べ、葛城湊。……大人しく捕まってカニ漁船に乗るか……ルルちゃんを永遠に失うか!」
専務がニヤリと笑う。
「ちなみに、このサーバー室には『自爆装置』も仕掛けてある。……私がスイッチを押せば、ここにいる全員……そこの眼鏡の女(聖)もろとも木っ端微塵だ!」
「!!」
聖が身構える。
命の危険。
しかし、昨日の湊なら、きっと助けてくれる。
彼は「命」の重さを知っている男だから。
専務がカウントダウンを始める。
「さあ選べ! ルルちゃん(データ)か! 聖(現実の女)か! 3、2……」
湊は、真剣な顔で聖を見た。
そして、サーバーを見た。
そして、また聖を見た。
湊の脳内で、天秤が揺れる。
『いつもガミガミうるさい経理担当(4200円)』
VS
『いつも優しく微笑んでくれる魔法少女(プライスレス)』
湊は、汗だくで叫んだ。
「……ま、待ってくれ! 話し合おう!」
「決めるのは今だ!」
「……くっ……! ……わ、分かった……!」
湊が、苦渋の決断を下す。
聖は信じていた。
彼が「ふざけるな! 人間の命とデータを比べるな!」と叫んでくれることを。
「……聖!!」
「はい!」
「……お前が……お前が盾になれ!!」
「は?」
「お前が爆発を受け止めている間に、俺がサーバーを持ち出す!! 頼む! ルルちゃんだけは守ってくれぇぇぇ!!」
「…………」
時が止まった。
アリスが口を開けた。
専務も引いていた。
聖の中で、何かが完全に冷え切った。
昨日感じた胸の高鳴り。
夕焼けの中での誓い。
全てが、急速冷凍されて粉々になった。
「……死ね」
聖は、無表情で呟いた。
そして、懐から『スタンガン』を取り出した。
「え?」
「全弾発射(フルバースト)!!」
バチバチバチバチィィィ!!!!!
聖は、敵ではなく、湊の背中にスタンガンを突き刺した。
「ぎゃああああああああああ!!」
湊が感電して吹っ飛んだ。
その勢いで専務に激突し、専務はサーバーラックに突っ込み、コンセントが抜けた。
プツン。
モニターの光が消える。
サーバーのファンが停止する。
静寂。
「あ……」
湊が、黒焦げになりながら手を伸ばす。
「……ルル……ちゃん……?」
反応はない。
データは消えた。
永遠に。
「……終わりですね」
聖は、眼鏡の位置を直し、冷徹に見下ろした。
「さあ、帰りますよ二階堂さん。……こんなゴミ捨て場にいたら、汚染されます」
「は、はい! ……先輩、ドンマイですぅ!」
聖とアリスが出て行く。
湊は、暗闇の中で一人、動かなくなったサーバーを抱きしめて泣いた。
「うわぁぁぁぁん! 聖のバカァァァ! 人殺しぃぃぃ! 俺の天使を返せぇぇぇ!」
その叫びは、秋葉原の地下に虚しく響いた。
【翌朝】
葛城探偵事務所。
湊は、抜け殻のようになっていた。
ルルちゃんを失ったショックで、真っ白に燃え尽きている。
「……おはようございます、ゴミ所長」
聖が、氷点下の声で挨拶する。
手には、新しい請求書。
「……昨日のサーバー破壊および、悪徳ゲームズへの不法侵入に関する示談金。……締めて『500万円』です」
「……」
「貴方の借金に上乗せしておきます。……文句はないですね?」
湊は反応しない。
死んでいる。
聖は、自分のスマホを取り出した。
画面には、『SSR・水着ルルちゃん』が微笑んでいる。
聖は、湊に見せつけるように、目の前で『アプリ削除(アンインストール)』ボタンを押した。
「……あ」
「2次元ごときに負ける私ではありません。……現実(リアル)を見なさい、クズ」
聖はフンと鼻を鳴らし、仕事に戻った。
その顔は、昨日までの「少しデレた聖」ではなく、完全なる「鬼軍曹」に戻っていた。
いや、前よりも当たりがキツイ。
これは、乙女心をルルちゃんに負けたことへの、壮絶な八つ当たりだった。
「……働け! 今日の依頼は『マンホールの裏の掃除』です! 日給3000円! 行ってらっしゃい!」
「……ハイ……」
湊はトボトボと出て行った。
推しを失い、信頼を失い、借金だけが増えた。
自業自得。
俺たちの定時は、永遠にこない。
~あとがき~
ここまで読んでいただきありがとうございます。 もし面白いと感じていただけたら、お気に入りや応援をいただけると嬉しいです。 執筆の励みにしています
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる