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第15話 リアルとバーチャルの境界線(劣化コピーの逆襲)
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【10:00:00】
葛城探偵事務所。
お通夜のような空気が流れていた。
「…………」
葛城 湊(かつらぎ みなと)は、デスクに突っ伏したままピクリとも動かない。
彼の周囲には、昨日データが消滅した『マジカル・ルルちゃん』の遺影(カラーコピー)が飾られ、線香の代わりにタバコの煙が揺蕩(たゆた)っている。
「……いつまで死んでいるんですか、粗大ゴミ」
御茶ノ水 聖(おちゃのみず ひじり)が、氷点下の視線を送る。
彼女は平常運転だ。いや、昨日の一件(湊がルルちゃんのデータを選ぼうとした件)で軽蔑度がカンストし、以前よりも当たりがキツくなっている。
「……うるせぇ。……俺は喪中だ。話しかけんな」
「喪中だろうが何だろうが、借金の利子は秒単位で発生します。……今日の依頼は『公園のハトの数を数える仕事』です。日給2000円。さっさと行ってきなさい」
聖が依頼書を湊の後頭部に叩きつける。
しかし、湊は反応しない。
推しを失ったオタクは、魂の抜けた肉塊と化していた。
その時。
二階堂(にかいどう)アリスが、湊の祭壇(遺影)をじーっと見つめていた。
「……ん~?」
アリスは首を傾げ、次に、電卓を叩いている聖の横顔をじーっと見た。
そして、無邪気な声で爆弾を投下した。
「やっぱり! ……聖さんって、『ルルちゃん』に似てますよね!」
「……は?」
時が止まった。
聖の眼鏡がズレた。
死んでいたはずの湊が、ガバッと跳ね起きた。
「……なんだと!?」
湊が血走った目でアリスに詰め寄る。
「二階堂! 貴様、何たる冒涜を! ルルちゃんは『清純』で『無償の愛』を持つ天使だぞ! あんな『金の亡者』で『冷血』で『3次元の劣化コピー』と一緒にすんな!」
「えー、でもぉ」
アリスが遺影と聖を交互に指差す。
「見てくださいよ。この『吊り目』なところとか、『気の強そうな眉毛』とか、『貧にゅ……スレンダーな体型』とか、瓜二つですよ?」
「…………」
聖のこめかみに青筋が浮かぶ。
誰が劣化コピーだ。誰が貧乳だ。
湊は、改めて聖の顔をまじまじと見た。
鑑定士のような目で。
上から下まで、無遠慮に舐め回すように。
「……む」
湊が唸る。
確かに、似ている。
悔しいが、顔の造形だけなら、作画崩壊のない『実写版ルルちゃん』と言えなくもない。
「……素材(ベース)は悪くない、だと……?」
湊の目に、狂気の光が戻った。
推しを失った絶望が、歪んだ希望へと変わる。
「……そうだ。……ルルちゃんは死んでいない。……3次元(ここ)に転生していたんだ!」
「はぁ!? 何言ってるんですか気持ち悪い!」
聖が身の危険を感じて椅子を引く。
湊が立ち上がった。
その姿は、探偵ではない。
推しのためなら法も倫理も踏みにじる、狂信者(バーサーカー)の姿だった。
「二階堂!!」
「はいっ!」
「『アレ』を持ってこい! 先週の浮気調査で押収した『証拠品』だ!」
「イエス・ボス! ……これですね!」
アリスが段ボール箱から取り出したのは、ヒラヒラの布切れだった。
『極小ビキニ(フリル付き・魔法少女風)』。
浮気相手がコスプレ用に使っていた、きわどい代物だ。
「なっ……!?」
聖が絶句する。
湊がニヤリと笑う。
「……聖。いや、ルルちゃん(仮)。……早速だが『転生』の時間だ」
「ふざけるな! 誰がそんな恥ずかしい……セクハラで訴えますよ!」
「これは『業務命令』だ! 所長命令だ! ……俺のモチベーションを回復させるための『必要経費』だ!」
「意味不明な理屈を! 断固拒否します!」
聖が懐からスタンガンを抜く。
しかし、湊の指示は早かった。
「二階堂! ……『介護用・高速着せ替え術』だ!」
「了解ですぅ! 聖さん、じっとしててくださぁ~い!」
アリスが聖に飛びかかる。
その動きは、目にも留まらぬ速さだった。
「きゃぁぁぁ! 何これ! 早っ! ボタンが! スーツが!」
シュバババババババ!!
アリスの指先が残像を生む。
物理最強のゴリラは、手先も器用だった(ただし力加減はバカ)。
「……整いましたぁ!」
一瞬の砂煙が晴れた後。
そこには、変わり果てた姿の聖が立っていた。
「……っ!」
湊が息を飲む。
極小のフリルビキニ。
サイズが合っていないため、谷間が強調され、肌の白さが眩しい。
髪は乱れ、頬は屈辱で真っ赤に染まり、目は涙で潤んでいる。
手には、なぜか『魔法のステッキ(100均)』を持たされている。
その姿は、まさに。
ゲームの中で見た『水着イベント・大破バージョン』のルルちゃんそのものだった。
しかも、3次元の高解像度(8K画質)で。
「……おぉ……! ルルちゃん……! そこにいたのか……!」
湊が感動で打ち震えながら、聖の前にひざまずく。
「……さ、最っ低……」
聖が震えている。
羞恥心で全身が沸騰しそうだ。
「さあ、言ってくれ! いつもの決め台詞を! 『あなたのハートに、課金(マジック)注入♪』って!」
湊が期待に満ちた目で懇願する。
聖は、ステッキを握りしめ、ギリギリと歯ぎしりした。
そして、冷徹な目で湊を見下ろした。
「……私の口座に、現金(キャッシュ)注入」
「……は?」
「今の『着替え』に対する特別手当、および『精神的苦痛』への慰謝料。……締めて『1000万円』です。今すぐ払いなさい」
聖が、ビキニ姿のまま、もう片方の手で電卓を叩いた。
「…………」
湊の顔から、感動の色が消え失せた。
スーッと、冷たい目が戻る。
「……違う」
「は?」
「違う! こんなのルルちゃんじゃない!」
湊が床を叩いて激昂した。
「ルルちゃんは金なんて請求しない! 『ありがとう』って笑ってくれるんだ! こんな……こんなガメつい女は、ルルちゃんじゃない!」
湊は、聖を指差して吐き捨てた。
「……0点だ。……やっぱり3次元はゴミだ。……ただの『劣化コピー』だな」
プツン。
聖の中で、何かが切れた。
恥ずかしさが、怒りに変わった。
ビキニ姿のまま、聖が湊の胸ぐらを掴み上げた。
「……誰が劣化コピーですって?」
「ひっ」
「いい加減にしなさいよクズ! こっちは生身よ! あんな電子データごときと一緒にしないで!」
聖がブチ切れた。
プライドが高い彼女にとって、「2次元キャラより劣る」という評価だけは許せなかった。
「解像度も! 質感も! そして『維持費』も! 私の方が遥かに『高級(ハイエンド)』なのよ! 分かったらさっさと課金(返済)しなさい!」
「ひぃぃぃ! ルルちゃんがヤクザになったぁぁぁ!」
聖は、手に持っていた魔法のステッキ(物理)を振り上げた。
「お仕置き(物理)よぉぉぉ!!」
ドゴォッ!!
「ぐべらっ!!」
ステッキが湊の脳天に直撃した。
湊が吹っ飛び、壁に激突して気絶する。
「……はぁ……はぁ……」
聖は乱れた息を整えた。
ビキニ姿で。
事務所の真ん中で。
「……二階堂さん」
「は、はいっ!」
「……上着を。……あと、今の所長への制裁は『正当防衛』として処理します」
「了解ですぅ! 聖さん、めっちゃ強かったですぅ!」
聖はアリスから上着を借りて羽織った。
顔は真っ赤だが、その表情はどこか晴れやかだった(1発殴れたから)。
湊はピクリとも動かない。
だが、その顔には微かな後悔が滲んでいた。
「3次元のルルちゃん」は、課金ではデレない、最強のラスボスだったのだ。
(……覚えてなさいよ、クズ所長……)
聖は、恥ずかしさで震える手で眼鏡を直した。
(……来月の小遣い、5000円どころか『300円』にしてやるから……!)
こうして、湊は推しの幻影に罵倒され、殴られ、さらなる借金を背負った。
リアル(現実)は、ゲームよりも遥かに難易度が高い。
俺たちの定時は、まだまだ来ない。
葛城探偵事務所。
お通夜のような空気が流れていた。
「…………」
葛城 湊(かつらぎ みなと)は、デスクに突っ伏したままピクリとも動かない。
彼の周囲には、昨日データが消滅した『マジカル・ルルちゃん』の遺影(カラーコピー)が飾られ、線香の代わりにタバコの煙が揺蕩(たゆた)っている。
「……いつまで死んでいるんですか、粗大ゴミ」
御茶ノ水 聖(おちゃのみず ひじり)が、氷点下の視線を送る。
彼女は平常運転だ。いや、昨日の一件(湊がルルちゃんのデータを選ぼうとした件)で軽蔑度がカンストし、以前よりも当たりがキツくなっている。
「……うるせぇ。……俺は喪中だ。話しかけんな」
「喪中だろうが何だろうが、借金の利子は秒単位で発生します。……今日の依頼は『公園のハトの数を数える仕事』です。日給2000円。さっさと行ってきなさい」
聖が依頼書を湊の後頭部に叩きつける。
しかし、湊は反応しない。
推しを失ったオタクは、魂の抜けた肉塊と化していた。
その時。
二階堂(にかいどう)アリスが、湊の祭壇(遺影)をじーっと見つめていた。
「……ん~?」
アリスは首を傾げ、次に、電卓を叩いている聖の横顔をじーっと見た。
そして、無邪気な声で爆弾を投下した。
「やっぱり! ……聖さんって、『ルルちゃん』に似てますよね!」
「……は?」
時が止まった。
聖の眼鏡がズレた。
死んでいたはずの湊が、ガバッと跳ね起きた。
「……なんだと!?」
湊が血走った目でアリスに詰め寄る。
「二階堂! 貴様、何たる冒涜を! ルルちゃんは『清純』で『無償の愛』を持つ天使だぞ! あんな『金の亡者』で『冷血』で『3次元の劣化コピー』と一緒にすんな!」
「えー、でもぉ」
アリスが遺影と聖を交互に指差す。
「見てくださいよ。この『吊り目』なところとか、『気の強そうな眉毛』とか、『貧にゅ……スレンダーな体型』とか、瓜二つですよ?」
「…………」
聖のこめかみに青筋が浮かぶ。
誰が劣化コピーだ。誰が貧乳だ。
湊は、改めて聖の顔をまじまじと見た。
鑑定士のような目で。
上から下まで、無遠慮に舐め回すように。
「……む」
湊が唸る。
確かに、似ている。
悔しいが、顔の造形だけなら、作画崩壊のない『実写版ルルちゃん』と言えなくもない。
「……素材(ベース)は悪くない、だと……?」
湊の目に、狂気の光が戻った。
推しを失った絶望が、歪んだ希望へと変わる。
「……そうだ。……ルルちゃんは死んでいない。……3次元(ここ)に転生していたんだ!」
「はぁ!? 何言ってるんですか気持ち悪い!」
聖が身の危険を感じて椅子を引く。
湊が立ち上がった。
その姿は、探偵ではない。
推しのためなら法も倫理も踏みにじる、狂信者(バーサーカー)の姿だった。
「二階堂!!」
「はいっ!」
「『アレ』を持ってこい! 先週の浮気調査で押収した『証拠品』だ!」
「イエス・ボス! ……これですね!」
アリスが段ボール箱から取り出したのは、ヒラヒラの布切れだった。
『極小ビキニ(フリル付き・魔法少女風)』。
浮気相手がコスプレ用に使っていた、きわどい代物だ。
「なっ……!?」
聖が絶句する。
湊がニヤリと笑う。
「……聖。いや、ルルちゃん(仮)。……早速だが『転生』の時間だ」
「ふざけるな! 誰がそんな恥ずかしい……セクハラで訴えますよ!」
「これは『業務命令』だ! 所長命令だ! ……俺のモチベーションを回復させるための『必要経費』だ!」
「意味不明な理屈を! 断固拒否します!」
聖が懐からスタンガンを抜く。
しかし、湊の指示は早かった。
「二階堂! ……『介護用・高速着せ替え術』だ!」
「了解ですぅ! 聖さん、じっとしててくださぁ~い!」
アリスが聖に飛びかかる。
その動きは、目にも留まらぬ速さだった。
「きゃぁぁぁ! 何これ! 早っ! ボタンが! スーツが!」
シュバババババババ!!
アリスの指先が残像を生む。
物理最強のゴリラは、手先も器用だった(ただし力加減はバカ)。
「……整いましたぁ!」
一瞬の砂煙が晴れた後。
そこには、変わり果てた姿の聖が立っていた。
「……っ!」
湊が息を飲む。
極小のフリルビキニ。
サイズが合っていないため、谷間が強調され、肌の白さが眩しい。
髪は乱れ、頬は屈辱で真っ赤に染まり、目は涙で潤んでいる。
手には、なぜか『魔法のステッキ(100均)』を持たされている。
その姿は、まさに。
ゲームの中で見た『水着イベント・大破バージョン』のルルちゃんそのものだった。
しかも、3次元の高解像度(8K画質)で。
「……おぉ……! ルルちゃん……! そこにいたのか……!」
湊が感動で打ち震えながら、聖の前にひざまずく。
「……さ、最っ低……」
聖が震えている。
羞恥心で全身が沸騰しそうだ。
「さあ、言ってくれ! いつもの決め台詞を! 『あなたのハートに、課金(マジック)注入♪』って!」
湊が期待に満ちた目で懇願する。
聖は、ステッキを握りしめ、ギリギリと歯ぎしりした。
そして、冷徹な目で湊を見下ろした。
「……私の口座に、現金(キャッシュ)注入」
「……は?」
「今の『着替え』に対する特別手当、および『精神的苦痛』への慰謝料。……締めて『1000万円』です。今すぐ払いなさい」
聖が、ビキニ姿のまま、もう片方の手で電卓を叩いた。
「…………」
湊の顔から、感動の色が消え失せた。
スーッと、冷たい目が戻る。
「……違う」
「は?」
「違う! こんなのルルちゃんじゃない!」
湊が床を叩いて激昂した。
「ルルちゃんは金なんて請求しない! 『ありがとう』って笑ってくれるんだ! こんな……こんなガメつい女は、ルルちゃんじゃない!」
湊は、聖を指差して吐き捨てた。
「……0点だ。……やっぱり3次元はゴミだ。……ただの『劣化コピー』だな」
プツン。
聖の中で、何かが切れた。
恥ずかしさが、怒りに変わった。
ビキニ姿のまま、聖が湊の胸ぐらを掴み上げた。
「……誰が劣化コピーですって?」
「ひっ」
「いい加減にしなさいよクズ! こっちは生身よ! あんな電子データごときと一緒にしないで!」
聖がブチ切れた。
プライドが高い彼女にとって、「2次元キャラより劣る」という評価だけは許せなかった。
「解像度も! 質感も! そして『維持費』も! 私の方が遥かに『高級(ハイエンド)』なのよ! 分かったらさっさと課金(返済)しなさい!」
「ひぃぃぃ! ルルちゃんがヤクザになったぁぁぁ!」
聖は、手に持っていた魔法のステッキ(物理)を振り上げた。
「お仕置き(物理)よぉぉぉ!!」
ドゴォッ!!
「ぐべらっ!!」
ステッキが湊の脳天に直撃した。
湊が吹っ飛び、壁に激突して気絶する。
「……はぁ……はぁ……」
聖は乱れた息を整えた。
ビキニ姿で。
事務所の真ん中で。
「……二階堂さん」
「は、はいっ!」
「……上着を。……あと、今の所長への制裁は『正当防衛』として処理します」
「了解ですぅ! 聖さん、めっちゃ強かったですぅ!」
聖はアリスから上着を借りて羽織った。
顔は真っ赤だが、その表情はどこか晴れやかだった(1発殴れたから)。
湊はピクリとも動かない。
だが、その顔には微かな後悔が滲んでいた。
「3次元のルルちゃん」は、課金ではデレない、最強のラスボスだったのだ。
(……覚えてなさいよ、クズ所長……)
聖は、恥ずかしさで震える手で眼鏡を直した。
(……来月の小遣い、5000円どころか『300円』にしてやるから……!)
こうして、湊は推しの幻影に罵倒され、殴られ、さらなる借金を背負った。
リアル(現実)は、ゲームよりも遥かに難易度が高い。
俺たちの定時は、まだまだ来ない。
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