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第8話 筋肉村の掟(後編:牛丼への長い道)
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「動機は? 言わなくても分かる。……全残協だろ」
駐在員が、不敵な笑みを浮かべた。
「ククク……バレては仕方がない。そうだ、私は『全残協』のエージェント、コードネーム『健康診断(メタボリック)』だ!」
「出たな、生活習慣病の使者!」
エージェント(健康診断)は、隠し持っていた『メープルシロップ(業務用)』を取り出し、一気飲みした。
「我々の目的は、この村の『異常な健康体』を破壊することだ! 全員残業もせずにジムに行きやがって! 不健康になれ! 糖尿病になれ! そうすれば、治療費を稼ぐために残業せざるを得なくなる!」
「逆転の発想かよ……!」
「長老は邪魔だった! 『村に二郎系ラーメンを誘致しよう』という私の計画に反対したからな! ……この村を『脂と糖と塩の楽園』に変えてやる!」
エージェントがシロップの空き瓶を投げ捨てる。
その挑発的な態度に、村民たちが激怒して血管を浮き上がらせる。
しかし、湊は違った。
湊の目には、その『メープルシロップ』が、黄金の聖水に見えた。
「……美味そうだ」
「え?」
「シロップ直飲み……。悪くない。……だがな、貴様は一つ間違えた」
湊は時計を見た。
16時55分。
あと5分。
「俺の目の前で、糖質を無駄遣いしたことだ。……そのシロップがあれば、ホットケーキが100枚食えた。……万死に値する」
「うるさい! お前ら全員、痛風にしてやる!」
エージェントが、懐から『揚げバター(カロリー爆弾)』を取り出し、投げつけようとする。
しかし、湊は動かない。
「二階堂」
「はいっ!」
「その不健康野郎を、サウナで絞り出せ」
「イエス・ボス!!」
アリスは、サウナ室に設置されていた『巨大なロウリュ用ストーブ(熱した石・300キロ搭載)』に手をかけた。
灼熱の鉄塊。
「整(ととの)わせてくださいぃぃぃ!」
ジュワワワワワッ!!
「ぬおぉぉぉぉ! 熱いぃぃぃぃ!」
アリスはストーブを軽々と持ち上げ、ハンマー投げの要領で回転した。
「熱波(物理)ぁぁぁぁ!!」
ドゴォォォォォォォン!!!!!
「ぎゃああああ! 発汗作用が凄すぎるぅぅぅ!」
エージェントは美しい放物線を描き、ストーブと共にテンプルの壁を突き破り、裏山にある『極寒の滝壺』へと交互浴ダイブした。
「……ナイス・サウナ」
「えへへ、毛穴が開きました!」
湊は瓦礫の上で立ち上がった。
「よし、解決! 村長、あとは任せた! 俺は帰る! バスが来る!」
湊はアリスの手を引いて、バス停へ猛ダッシュした。
16時58分。
間に合う!
これで米が食える!
【17:00:00】
バス停。
時間通りに、村営バスがやってきた。
プシュー。
ドアが開く。
「乗ります! 乗ります!」
湊が飛び乗った。
しかし。
「……は?」
運転席には、運転手がいなかった。
いや、いたのだが、ハンドルを握っていなかった。
運転手は、ボディビルダーのようなタンクトップ姿で、こちらを振り返り、ニカッと笑った。
「ようこそ! 剛力バスへ!」
湊は足元を見た。
そこには、エンジンの代わりに、客席のすべてに設置された『発電用エアロバイク』があった。
「……これは?」
「当バスは、環境と筋肉に優しい『完全人力バス』だ! 乗客全員で漕がないと1ミリも動かんぞ! さあ、下界まで40キロ! 地獄のレッグ・デイの始まりだ!」
乗客たち(全員マッチョ)が、「イェェェェイ! 追い込むぞぉぉぉ!」と叫びながらペダルを漕ぎ始めた。
「嘘だろ……」
「さあ、君の席はここだ! 一番負荷が高い『発電リーダー席』だ! ハンドルを全力で引けぇぇぇ!」
「ひぃぃぃぃ! 俺は客だぞぉぉぉ!」
【20:00:00】
湊の腕時計が、無情な時を告げる。
それは、下界に到着した時刻であり、
湊の全身の筋肉が断裂し、エネルギー切れでゾンビと化した時刻でもあった。
湊は、駅前の牛丼屋のカウンター席に座っていた。
目の前には、夢にまで見た『特盛つゆだく牛丼』。
湯気が立っている。
完璧だ。
「……米だ……肉だ……」
湊は、割り箸を手に取ろうとした。
しかし。
ガクガクガクガクガクガク……!
「……あ、あれ?」
湊の手が、痙攣(けいれん)して動かない。
バスのハンドルを3時間引き続けたせいで、握力がマイナスになっている。
箸がつかめない。
スプーンすら持てない。
「くっ……! 目の前にあるのに……!」
湊は顔を牛丼に突っ込もうとしたが、首の筋肉も限界で、頭が持ち上がらなかった。
「……二階堂」
「は、はいぃぃ!」
アリスは隣で、特盛を3杯平らげていた。
「……俺に……食わせろ……」
「え? あーん、ですか?」
「違う。……俺の口をこじ開けて、牛丼を流し込め。……咀嚼(そしゃく)する力もないから、噛んでから入れろ」
「ひぃぃぃ! お母鳥とヒナ鳥ですかぁぁぁ!」
こうして、俺の『炭水化物摂取計画』は、筋肉村の洗礼によって、『介護食レベルの食事』へと変わった。
だが、俺は誓った。
全残協のエージェント『健康診断(メタボリック)』。
奴らは、俺たちの健康すらも支配しようとしている。
俺は必ず、箸を持てる筋肉を取り戻す。
そして、自分の力で米を食うのだ。
<第8話(後編)・終わり>
駐在員が、不敵な笑みを浮かべた。
「ククク……バレては仕方がない。そうだ、私は『全残協』のエージェント、コードネーム『健康診断(メタボリック)』だ!」
「出たな、生活習慣病の使者!」
エージェント(健康診断)は、隠し持っていた『メープルシロップ(業務用)』を取り出し、一気飲みした。
「我々の目的は、この村の『異常な健康体』を破壊することだ! 全員残業もせずにジムに行きやがって! 不健康になれ! 糖尿病になれ! そうすれば、治療費を稼ぐために残業せざるを得なくなる!」
「逆転の発想かよ……!」
「長老は邪魔だった! 『村に二郎系ラーメンを誘致しよう』という私の計画に反対したからな! ……この村を『脂と糖と塩の楽園』に変えてやる!」
エージェントがシロップの空き瓶を投げ捨てる。
その挑発的な態度に、村民たちが激怒して血管を浮き上がらせる。
しかし、湊は違った。
湊の目には、その『メープルシロップ』が、黄金の聖水に見えた。
「……美味そうだ」
「え?」
「シロップ直飲み……。悪くない。……だがな、貴様は一つ間違えた」
湊は時計を見た。
16時55分。
あと5分。
「俺の目の前で、糖質を無駄遣いしたことだ。……そのシロップがあれば、ホットケーキが100枚食えた。……万死に値する」
「うるさい! お前ら全員、痛風にしてやる!」
エージェントが、懐から『揚げバター(カロリー爆弾)』を取り出し、投げつけようとする。
しかし、湊は動かない。
「二階堂」
「はいっ!」
「その不健康野郎を、サウナで絞り出せ」
「イエス・ボス!!」
アリスは、サウナ室に設置されていた『巨大なロウリュ用ストーブ(熱した石・300キロ搭載)』に手をかけた。
灼熱の鉄塊。
「整(ととの)わせてくださいぃぃぃ!」
ジュワワワワワッ!!
「ぬおぉぉぉぉ! 熱いぃぃぃぃ!」
アリスはストーブを軽々と持ち上げ、ハンマー投げの要領で回転した。
「熱波(物理)ぁぁぁぁ!!」
ドゴォォォォォォォン!!!!!
「ぎゃああああ! 発汗作用が凄すぎるぅぅぅ!」
エージェントは美しい放物線を描き、ストーブと共にテンプルの壁を突き破り、裏山にある『極寒の滝壺』へと交互浴ダイブした。
「……ナイス・サウナ」
「えへへ、毛穴が開きました!」
湊は瓦礫の上で立ち上がった。
「よし、解決! 村長、あとは任せた! 俺は帰る! バスが来る!」
湊はアリスの手を引いて、バス停へ猛ダッシュした。
16時58分。
間に合う!
これで米が食える!
【17:00:00】
バス停。
時間通りに、村営バスがやってきた。
プシュー。
ドアが開く。
「乗ります! 乗ります!」
湊が飛び乗った。
しかし。
「……は?」
運転席には、運転手がいなかった。
いや、いたのだが、ハンドルを握っていなかった。
運転手は、ボディビルダーのようなタンクトップ姿で、こちらを振り返り、ニカッと笑った。
「ようこそ! 剛力バスへ!」
湊は足元を見た。
そこには、エンジンの代わりに、客席のすべてに設置された『発電用エアロバイク』があった。
「……これは?」
「当バスは、環境と筋肉に優しい『完全人力バス』だ! 乗客全員で漕がないと1ミリも動かんぞ! さあ、下界まで40キロ! 地獄のレッグ・デイの始まりだ!」
乗客たち(全員マッチョ)が、「イェェェェイ! 追い込むぞぉぉぉ!」と叫びながらペダルを漕ぎ始めた。
「嘘だろ……」
「さあ、君の席はここだ! 一番負荷が高い『発電リーダー席』だ! ハンドルを全力で引けぇぇぇ!」
「ひぃぃぃぃ! 俺は客だぞぉぉぉ!」
【20:00:00】
湊の腕時計が、無情な時を告げる。
それは、下界に到着した時刻であり、
湊の全身の筋肉が断裂し、エネルギー切れでゾンビと化した時刻でもあった。
湊は、駅前の牛丼屋のカウンター席に座っていた。
目の前には、夢にまで見た『特盛つゆだく牛丼』。
湯気が立っている。
完璧だ。
「……米だ……肉だ……」
湊は、割り箸を手に取ろうとした。
しかし。
ガクガクガクガクガクガク……!
「……あ、あれ?」
湊の手が、痙攣(けいれん)して動かない。
バスのハンドルを3時間引き続けたせいで、握力がマイナスになっている。
箸がつかめない。
スプーンすら持てない。
「くっ……! 目の前にあるのに……!」
湊は顔を牛丼に突っ込もうとしたが、首の筋肉も限界で、頭が持ち上がらなかった。
「……二階堂」
「は、はいぃぃ!」
アリスは隣で、特盛を3杯平らげていた。
「……俺に……食わせろ……」
「え? あーん、ですか?」
「違う。……俺の口をこじ開けて、牛丼を流し込め。……咀嚼(そしゃく)する力もないから、噛んでから入れろ」
「ひぃぃぃ! お母鳥とヒナ鳥ですかぁぁぁ!」
こうして、俺の『炭水化物摂取計画』は、筋肉村の洗礼によって、『介護食レベルの食事』へと変わった。
だが、俺は誓った。
全残協のエージェント『健康診断(メタボリック)』。
奴らは、俺たちの健康すらも支配しようとしている。
俺は必ず、箸を持てる筋肉を取り戻す。
そして、自分の力で米を食うのだ。
<第8話(後編)・終わり>
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