博多に移住して人生をやり直す

yamajuu

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第三章 1年生 夏休み

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「香山さん、江口花蓮にブレッドナイフをプレゼントしたって本当ですか?」

「絵美里、誰に聞いた?」

「加藤君が言ってました」

「俺がプレゼントしたのは本当だ。
自習で世話になったし、これからも教えてもらうからお礼だよ」

8月後半のオープンキャンパスは、俺たちの実習班も参加する。
前日ミーティングに出た後、俺は3人から責められた。

「あれって、相当高額ですよね」
今度は紗彩が言ってきた。

「お前たちにも奢ったし、お土産もやっただろう」

「でも、羨ましいです」
彩音まで恨めしそうに話してる。

「じゃあ、班で同じ物を使おうとミルクピッチャーを買ってきたけど、いらないんだな?」

「えっ、ホント?」
「買ってきてくれたんですか?」
「欲しいです」
3人が一斉に声をあげる。
俺はバッグから3つの箱を出した。

「形は一緒だが、色が違う。
俺は黒を使うから、3人で好きなのを選べ」

話し合いでは決まらずに、結局はジャンケンで絵美里が赤、彩音が白、紗彩がピンクに決まった。
実習室でラテアートの練習をする。
さっそく新しいピッチャーを使ってみるが、まだ慣れない。
明日は参加者の前で披露するので、使い慣れたピッチャーを使うことにした。

エイジア製菓学校オープンキャンパスの当日、朝のランニングから猛烈に暑い。
朝6時なのに、もう30℃近くまで上がっている。
天気予報では最高気温38℃まで上がるので、ラテよりアイスコーヒーとかソフトドリンクが出そうだ。
少し早めに登校すると、先生たちが準備に大わらわだった。

「香山君、良いところに来た。手伝って」

「了解です」
製氷所から届いたばかりの純氷を台車に乗せて実習室まで運ぶ。
冷凍庫に純氷を収納したら、担任から声を掛けられた。

「今日は猛暑だから、保護者はアイスコーヒーが主役になると思う」

「そうですね」

「香山君の班は実習に参加しないでいいから、保護者のコーヒーを任せる」

「分かりました」

「忙しくて手が足りなかったら、応援を出すから」

「出来るところまで、頑張りますよ」

午前10時になり、今日の参加者と保護者が会場入りしてくる。
カフェ専科の参加者は20名ほどで、参加者2人に1人の学生がサポートにつく。
講師の指導でBLTサンドとラテアートを体験してもらう手筈になっていた。

講師の説明から、体験実習が始まる。
柔らかい食パンをサンドイッチ用に薄く切るのが意外に難しい。
サポートの学生と参加者が真剣に取り組んでいるのが微笑ましい。

その間に俺の班はコーヒースタンドで準備を進める。
保護者が少しずつ、コーヒーのチケットを持って来た。
絵美里がハンドドリップで1杯ずつ淹れて、氷を入れた容器で手渡す。
ラテアートを希望する保護者は俺が担当して、ハート、チューリップ、ロゼッタを描いて渡していた。

「どれくらい練習すれば、描けるようになるんですか?」
ラテを受け取った保護者が聞いてきた。

「私は全くの初心者で入学しましたが、4ヶ月で基本の形は出来るようになりました」

「貴方、先生じゃないんですか?」

「社会人から入学した1年生ですよ」

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