博多に移住して人生をやり直す

yamajuu

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第十章 2年生 2学期

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9月からの2学期は俺にとって勝負の時期になる。
起業の準備と武内家との協議、土地探しなど問題は山積みになっている。

「毅君、話があるんだけど」
純喫茶加藤の常連客、ヨーコさんからの呼び出しだ。
放課後に真っ直ぐ店に行くと、ヨーコさんと同年齢の女性が一緒に座っていた。

「毅君、彼女が持っているテナントが半年間も空いてるの。
一度、見てくれないかしら」

「場所と条件次第では、こちらからお願いしたいくらいです」
直ぐに見に行く事になり、家主さんのベンツに乗って現場に向かった。
表通りにはマンションが立ち並び、裏側には賃貸マンションや個人宅が雑然と建っている場所に古い貸店舗が2軒並んでいた。

「人通りが無いところですね」

「昔は賑やかだったけど、今はこんな調子よ」

表通りには大手のファミリーレストランがあり、コンビニが2軒、ドラッグストアが1軒くらいしか店が無い。
居酒屋やレストランもこぢんまりとやっている程度だ。
最寄り駅から天神まで地下鉄で14分だから、みんな食事や買い物を済ませて帰ってくる。
交通の便利さが良すぎて、ビジネスがやりにくい場所だった。
空きテナントの隣で営業している古着屋さんで話を聞くと、居住者の所得水準は高い。
しかし、店の売り上げよりネット通販で食べていると笑って話してくれた。

「近所にベーカリーは無いから、どうかなって思った」
ヨーコさんが俺に紹介した理由を話している。

「悪くはないですね、条件次第でしょうか」

出された条件は4年契約で家賃総額600万円、契約開始は来年の1月1日から。
今から3か月間の家賃が免除される特典が付いて、敷金はアパート並みの3か月に抑えられている。
この場所の賃貸相場から見れば、安いのは間違いない。

「共同経営者と相談しますから、2週間ほど時間を下さい」

すぐに武内女史と連絡を取る。
明日、放課後に一緒に見に行くことにした。

「絵美里、俺の会社に来る気はあるのか?」

「もちろん、そのつもりです。誘われないから心配してました」

「今、店舗を借りる話が進んでいる。
お前と貴大に任せるつもりだが、一緒に見に行かないか?」

「絶対、行きます。いつですか?」

「授業が終わったら直行するよ」
結局、俺と武内女史、実習班の3人と貴大、涼介、健太まで付いてきた。

天神から地下鉄で14分、駅から歩いて8分という好立地だ。
だが相変わらず、静かな裏通りだった。

「表から一本入っただけで、随分と静かですね」

「表のビルが壁になってるんだろう。ここだ」
俺がテナントのシャッターを上げると、中はガランとした空間だった。
隣の店との壁がコンクリートで、上は鉄骨がむき出しのままだ。

「ああ、結構広い。店は自由に設計出来ますね」
武内女史には好印象のようだ。

「ここにベーカリーカフェを作りたい。
貴大が焼いたパンと絵美里がカフェを仕切る。どうだ?」

「いきなり経営なんて無理です」
二人共及び腰だ。

「もちろん、俺と武内女史で支えるさ。
第1号店は大きな店じゃなくて、小さくスタートさせる。
ここでみんなが経験を積んで、大きな店を作るんだ」

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