αの愛し子の黙示録(完結)

ビスケット

文字の大きさ
9 / 82

不可侵

しおりを挟む
一通り検査が終わると、クソ医者の研究室の応接室に通された。

美人秘書がお菓子とペットボトルの飲み物を俺の前に置いてくれる。
「慎吾君、お疲れさま」
優しい微笑みに、何もかもが報われる。

飲み物はカルピスソーダだった。
飲み物のチョイスに、子ども扱いされている感じがして面白くない。
しかし悔しいが、正直コーヒーとか緑茶よりこっちの方が嬉しかった。

ジュースを飲む俺の前にクソ医者が座った。

「さっき念のためにレントゲンを撮った足ね、骨に異常はなかったよ。
よかったね。でもこれからは気を付けてね。」

そういわれて、俺はフライング気味だとは思ったが、黙っているのも気が引けて口を開いた。

「・・・うっす。あの、でも多分検査に協力するのこれが最後だと思います。」

すると、クソ医者の顔から、優し気な微笑がごっそりと抜け落ちた。
残されたのは、恐ろしく怜悧な美貌だった。

「・・・それはどういうことかな?」

思わずごくりと唾を飲み込んだ。

「これから親に話すつもりですが、俺、あの学校辞めます。」

わずかな微笑みを取り戻した城田医師は穏やかに俺に聞いた。

「入学したばかりだろう?理由を聞いていいかい?なにか、あったのかな?」

「べつに、何もないです。理由は特にないです。なんとなく辞めたくなったっていうか・・・」

「・・・そうか、残念だ。このまま穏便に研究協力してもらいたかったんだけど。」

空気がひやりとする。くそ医者の口から、妙に低く響く声が出てくる。

「学校はやめてはだめだよ。検査もこれまで通り続けること。わかったね?」

「え、だからそれは無理です。」

「・・・あれ?」
キョトンとしたクソ医者。

「なんすか?」

「あれえ??」

なんだか馬鹿にされている気がしたので、俺は少々ぶっきらぼうに言った。
「・・・もう帰ってもいいっすか?」

すると、またくそ医師がふざけたことを言ってきた。
「・・・帰ってはいけない。」

逆にクソ医者が怖くなってきた。ほんとにもう帰りたい。
「まだなんかあるんすか…?」

「・・・なるほど?」

「なんなんすか!もう、帰ります!」

ついに爆発した俺をなだめるようにクソ医者は笑いかけてきた。

「いやいやいや。冗談冗談!
しかしまだ一週間もたってないのに、いくら何でも決断するのには早すぎると思わないかい?
これは医者としてではなく、年長者としての忠告だけど、困ったことがあったらまず誰かに相談することが大切だよ。
僕は君の尻の穴のしわの数まで知ってるんだ、今更隠し事なんてナンセンスさ。
さあ、僕になんでも話してごらん!」

「くそ医者め!!!おまえ最低!!デリカシー!!」

「ははは!うん、うん、その調子でどんどん話してごらん!」

そうして、なんだかんだと口を割らされ、洗いざらいしゃべらせられた。

結果、理数系と英語の時間は別室で別授業を受けることになった。
体育はさすがに無理だったが、エクストラなのだからそこは無理せず、出来る範囲で参加すれば良いと言われた。

だからそんなめんどくさいことしなくても、退学で良いと言っているのにと訴えたが、
くそ医者が母親になにか吹き込んだらしく、頼むから我慢して通ってくれと泣かれて、やむなく退学はしないことになったのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

αが離してくれない

雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。 Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。 でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。 これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

処理中です...