αの愛し子の黙示録(完結)

ビスケット

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わたしは特別な花だから

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洋館に向かう小山田とほどよい距離を保ちながら、川合愛奈は後ろをついていく。
彼女は 足取りも軽く、自分のこれまでについて思いを馳せていた。

やっとこの瞬間がやってきたわ。
本当に長かった・・・。

私は代々βの血筋の両親のもとに産まれた。
両親は、奇跡のように誕生した貴重なΩのわたしをとても可愛がって育ててくれた。
家は食品工場を経営していて、幸運なことにお金には困らないそれなりに裕福と言える家だった。
けれどそれでもしょせんは庶民。
私がいるのはβだらけの環境だった。
両親も含めた周りの人々は、美しいΩの私を誉めそやし、わたしの為にいろいろしてくれたが、わたしはそれを当然に享受した。
そういった幼いころからの経験から、《美はちから》というのが私の哲学となった。

そのまま気持ちよく流されるままに生きていても、わたしを取り巻く世界のうちの、一番見条件が良くて見栄えのいい金持ちを選んで結婚できたに違いない。
美しいΩの中でも、めったにないほどに美しい、そういわれるほどに私は美しかったのだ。

けれどわたしは、そんな普通の幸せになんの魅力も感じなかった。
いや、むしろそれを虫唾が走るほど嫌悪した。
なぜなら、こんなところ私がいていい場所じゃないと、ある時気が付いてしまったからだ。

小学生の時だった。
『葉桜の夜宴』がテレビニュースで風物詩として流されていたのだ。
そこは極上のαとΩたちだけの別世界だった。
それを見たとき、私がいるべき世界はここだと確信した。

画面に映ったα達は強く美しく、私の周りにいる人間たちとは別の種族にさえ感じた。
そして画像の中の華麗に着飾ったΩたちを見たときに、子供心に私のほうが美しいと素直に感じたのだった。

その時思った。私はきっと特別なΩだ。
そんな私がこんな普通の世界にいていいわけがない。
わたしよりも劣ったΩたちがあそこにいて、この私がこんなところでくすぶっていてるのはおかしいと。

こうして、自分の目指すべき場所、桜花学園を知ったのだった。

それからはわずかに募集がかかる桜花学園の中等部に入学するべく、必死で勉強して受験に臨み、なんとか合格した。桜花学園に入学してみたら、やはり私がいるべきはここだったのだと思った。

そこは上流階級に連なる別世界だった。
優雅な所作、品の良い言葉を話すΩたち。
幼稚舎からの生え抜きの令嬢、令息たちは、美しい立ち居振る舞いが既に血肉になっていた。
はじめはそんな彼らにとても太刀打ちできるようには思えなかった。
でも、付け焼刃でも、同じように振舞うと、十分私も上流の女になれることに気が付いた。
淑女なんてこんなに簡単に装えるのかと、楽勝だとそう思った。


桜花学園に入ってみると、すぐに次に目指すべき場所を見つけた。
桜花学園生徒会。

桜花生徒会役員になれれば、最上位αのさらにいただきにいるα達に手が届く。
けれど、すぐに現実を知った。
普通のΩはもちろん、能力や容姿が秀でている者でも、それだけでは入ることはできない、それが桜花の生徒会だったのだ。

桜花生徒会のわずかな席は、名門の間で繰り広げられる争奪戦の勝者のための物だった。
一般家庭出身ゆえにコネもなく、資産もたかが知れた家に生まれた私では、始めからそこに手が届くはずもなかったのだった。

けれど、わたしはあきらめるつもりはなかった。
最終的に、筑葉生徒会役員の番に選ばれればいいのだから。
その為に、手段を選ぶつもりは当然なかった。
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