61 / 82
勝手に迷える小山田
しおりを挟む
桐生に渡された皿をつつきながら、改めて会場を見回す。
清楚なΩ。可憐なΩ。華麗なΩ。見渡す限り、麗しのΩだ。
そして、そんなΩのそばには、クラスメートや見知った顔の筑葉生たちがいる。
最近ではすっかり見慣れていたが、改めてこうして客観的に見てみると、やはり彼らは別世界の人間なのだと改めて思う。
小山田は、自分の傍らに佇む男をそっと見上げた。
庭園に集う高位α、そのなかでも際立った存在がそこにいた。
しかも俺の彼氏。
まさか自分が男と付き合うことになるとは思ってもみなかったなぁ…。
しみじみ思う小山田の視線を受けて、桐生が問いかけた。
「・・・どうした。」
「・・・」
小山田はなんと答えればいいのかわからなくて、代わりに、皿に盛られた軽食を食べはじめた。
一口食べたらものすごく美味しくて、つい夢中で食べてたら、あっという間に完食してしまった。
「うまかったか?」
桐生がそんなことを言うので、小山田が頷くと、桐生は腕を伸ばして小山田の口の横についていたらしいソースをハンカチで拭った。
「あ、悪ぃ・・・」
桐生はハンカチをしまいながら、小山田に微笑んで言った。
「小山田、生徒会役員のテントでゆっくりしよう。そこなら落ち着けると思うぞ?」
「お、おう・・・。」
小山田も、お茶会会場には 生徒会役員専用のテントが設置してあって、専任の給仕係からのサービスを受けられる事は知っていた。役員は、会場に見当たらないので、恐らく皆そっちにいるんだろうとは思っていた。
ただ、そこでは更に浮きまくるような気がして、なんとなく足が向かずにいたのだった。
桐生に言われてみて、確かにそこですこし落ち着きたいような気がしたが、その前にいま非常に気になっていることが小山田にはあった。
二人きりの今、それを桐生に聞いておかなければならないと決心して、小山田は口を開いた。
「桐生あのさ。俺なんかと付き合って、お前はその、ほんとに良かったのか・・・?」
「良いに決まっている。」
小山田のおずおずとした問いかけに対し、桐生は即答だった。
「むしろいまだにお前と婚約できていないことに納得がいかないくらいだ。
小山田は何が気になるんだ?」
「婚約ってお前・・・。
いや気になりまくりだろうよ。見てみろよ、目の前の光景を。
俺はじめてΩを生で見たんだ。お前らαもそうだけど、Ωも普通じゃないな。
この世で特別な存在だって嫌でもわかる。」
小山田は、まぶしそうに彼らを見やって、さらに言葉を続けた。
「けどαとΩが並ぶと、不思議と調和してる。
つり合いが取れて違和感がないっつーか。
それが自然なんだなって、なんとなくわかる気がする。」
すると桐生が、抑揚のない声で小山田に問いで答えた。
「・・・小山田は、桜花のΩと番いたくなったのか?」
「えっ!いや違う!そうじゃないぞ。そうじゃなくてだな・・・。
お前はその、かっこいいし優しいし、頼りがいがあるし・・・だからその。
俺みたいな元βのαモドキじゃなくて、ちゃんとしたαとか、桜花のΩが合うんじゃなんじゃないかってさ。
そう思ってよ・・・」
ごにょごにょと歯切れが悪い小山田に対し、桐生の返答には迷いはなかった。
「俺はお前がいい。」
「そっ、そう!?」
あまりのきっぱり具合に素っ頓狂な声をあげる小山田。
しかし桐生は自分のペースを崩さない。
「結婚するならお前しかいないと思っている。」
「結婚ってお前・・・。
本物のαの世界じゃ結婚ってもっと切実なものなんだろ?
早い者勝ちって言ってたじゃん。
俺は。」
そこで、小山田は珍しく言葉を出すことをためらって、やがて言った。
「・・・俺は、子供とか産めるか、わかんねぇよ?
妊娠確実なΩとは違うんだ。
マジでもう少し現実みろよな。」
諭すように語る小山田を、桐生は冷めた瞳でみつめながら思っていた。
小山田が珍しく気を使って話している、と。
同時に、馬鹿だなぁと思ってもいた。
そんなもっともらしいことを言って悩んでみたって、すでにお前は俺のものなのに、と・・・。
余計な心配をする小山田を前に、桐生はこれまでのことを考えていた。
桐生の焦りなどどこ吹く風のとぼけた男、そしてそんな男にどっぷりはまった自分のこれまでを――。
清楚なΩ。可憐なΩ。華麗なΩ。見渡す限り、麗しのΩだ。
そして、そんなΩのそばには、クラスメートや見知った顔の筑葉生たちがいる。
最近ではすっかり見慣れていたが、改めてこうして客観的に見てみると、やはり彼らは別世界の人間なのだと改めて思う。
小山田は、自分の傍らに佇む男をそっと見上げた。
庭園に集う高位α、そのなかでも際立った存在がそこにいた。
しかも俺の彼氏。
まさか自分が男と付き合うことになるとは思ってもみなかったなぁ…。
しみじみ思う小山田の視線を受けて、桐生が問いかけた。
「・・・どうした。」
「・・・」
小山田はなんと答えればいいのかわからなくて、代わりに、皿に盛られた軽食を食べはじめた。
一口食べたらものすごく美味しくて、つい夢中で食べてたら、あっという間に完食してしまった。
「うまかったか?」
桐生がそんなことを言うので、小山田が頷くと、桐生は腕を伸ばして小山田の口の横についていたらしいソースをハンカチで拭った。
「あ、悪ぃ・・・」
桐生はハンカチをしまいながら、小山田に微笑んで言った。
「小山田、生徒会役員のテントでゆっくりしよう。そこなら落ち着けると思うぞ?」
「お、おう・・・。」
小山田も、お茶会会場には 生徒会役員専用のテントが設置してあって、専任の給仕係からのサービスを受けられる事は知っていた。役員は、会場に見当たらないので、恐らく皆そっちにいるんだろうとは思っていた。
ただ、そこでは更に浮きまくるような気がして、なんとなく足が向かずにいたのだった。
桐生に言われてみて、確かにそこですこし落ち着きたいような気がしたが、その前にいま非常に気になっていることが小山田にはあった。
二人きりの今、それを桐生に聞いておかなければならないと決心して、小山田は口を開いた。
「桐生あのさ。俺なんかと付き合って、お前はその、ほんとに良かったのか・・・?」
「良いに決まっている。」
小山田のおずおずとした問いかけに対し、桐生は即答だった。
「むしろいまだにお前と婚約できていないことに納得がいかないくらいだ。
小山田は何が気になるんだ?」
「婚約ってお前・・・。
いや気になりまくりだろうよ。見てみろよ、目の前の光景を。
俺はじめてΩを生で見たんだ。お前らαもそうだけど、Ωも普通じゃないな。
この世で特別な存在だって嫌でもわかる。」
小山田は、まぶしそうに彼らを見やって、さらに言葉を続けた。
「けどαとΩが並ぶと、不思議と調和してる。
つり合いが取れて違和感がないっつーか。
それが自然なんだなって、なんとなくわかる気がする。」
すると桐生が、抑揚のない声で小山田に問いで答えた。
「・・・小山田は、桜花のΩと番いたくなったのか?」
「えっ!いや違う!そうじゃないぞ。そうじゃなくてだな・・・。
お前はその、かっこいいし優しいし、頼りがいがあるし・・・だからその。
俺みたいな元βのαモドキじゃなくて、ちゃんとしたαとか、桜花のΩが合うんじゃなんじゃないかってさ。
そう思ってよ・・・」
ごにょごにょと歯切れが悪い小山田に対し、桐生の返答には迷いはなかった。
「俺はお前がいい。」
「そっ、そう!?」
あまりのきっぱり具合に素っ頓狂な声をあげる小山田。
しかし桐生は自分のペースを崩さない。
「結婚するならお前しかいないと思っている。」
「結婚ってお前・・・。
本物のαの世界じゃ結婚ってもっと切実なものなんだろ?
早い者勝ちって言ってたじゃん。
俺は。」
そこで、小山田は珍しく言葉を出すことをためらって、やがて言った。
「・・・俺は、子供とか産めるか、わかんねぇよ?
妊娠確実なΩとは違うんだ。
マジでもう少し現実みろよな。」
諭すように語る小山田を、桐生は冷めた瞳でみつめながら思っていた。
小山田が珍しく気を使って話している、と。
同時に、馬鹿だなぁと思ってもいた。
そんなもっともらしいことを言って悩んでみたって、すでにお前は俺のものなのに、と・・・。
余計な心配をする小山田を前に、桐生はこれまでのことを考えていた。
桐生の焦りなどどこ吹く風のとぼけた男、そしてそんな男にどっぷりはまった自分のこれまでを――。
82
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
αが離してくれない
雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。
Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。
でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。
これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる