αの愛し子の黙示録(完結)

放物線を描く女

「せっ、説明!?その子に何をしたかって俺･･･むしろされたっていうか･･･いや、だからネクタイ返して･･･」

眉毛をへにゃりと下げてそんなことを言う小山田は本当に何もわかってない風で､そこからは後ろめたさも何も伝わってこなかった。また無害そうな外見も手伝って、周りに妙な違和感を感じさせた。

うずくまりながらそれを横目で認めた愛奈は､小山田に言葉を発する余裕を与えないため、ヒートを起こしたように振る舞う事にした。
少々フライング気味ではあるが、ヒートが起きるのは時間の問題だったからだ。
小山田から逃げるとき、愛奈は促進剤をきっちり服用していた。

「とぼけるなんてひどいです･･･愛奈は、あ、アァッ！急に体が！熱ぅい･･･あぁん！」

｢愛奈さん！大変、ヒートかしら！?
でもおかしいわ、そんなはず･･･とにかく早く隔離室に運んで差し上げないと！｣
｢そうね！それに その男を拘束して頂かなければ･･･！｣

｢筑葉生のどなたか、急いで隔離室の準備をお願いいたします!!!それから、小山田様を･･･！！｣


「「「「　小山田がどうした！？　」」」」

あちらこちらで声が上がり、それまで騒ぎに気が付いていなかった周囲の筑葉生の目がそちらに集まった。

それを横目で見た愛奈は、内心にんまり笑った。
ぽろぽろと涙が流れる顔をそちらに向けると、悲痛な声をあげた。

「わたくし、この方から何か薬のようなものを無理やり飲まされて・・・っ！」

しかし筑葉の男たちは､その発言を聞いたとたんに、
『ああ・・・うん。』
そんな心の声が聞こえてくるような白けた表情を浮かべて動きを止めた。

あら？ここは筑葉の殿方が救いの手を伸ばそうと集まってくるところでは？
肩透かしを食った愛奈だったが、かまわず続けた。

「よくわからない薬を飲まされたら、体が熱くなって・・・っ！
ああん、カラダが、疼うずきますの！だれかぁ、たすけてぇぇ～！
熱ぅい!!もうわたくし、わたし・・わた・・うぷっ。」

突然、愛奈は 大きく体を波打たせながらえずきだした。
うえっぷ。うええっぷ。

猛烈な吐き気に、混乱しつつもなんとか堪こらえていたが、ついにその時は来た。

「なに、なんで、げぼぉ―――っ!!!」

それはマーライオンのようだった。
愛奈の口から、大量の吐しゃ物が綺麗な放物線を描いて放はなたれた。